リバーシ!

文月

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八章 未来と過去と

2.もうしばらく過去の事を思い出してみようと思う。

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(side ヒジリママ)


 ヒジリが学校に行っているときのことは、正直よく知らない。
 ただ、同級生との関係がうまくいっていないらしいということは、分かった。だけど、そういうことは学校からも知らされなかったし、ヒジリから話されることもなかった。
 ヒジリが私に黙ってるってことは、‥でもそう珍しいことでもない。
 かっこ悪い、とか心配かけたくない‥とか思っているんだろう。
 だけど、学校が隠ぺいするって‥地球じゃ考えられないよね? だけど、あっちでは普通だった。
 普通の人たちにとって、リバーシなんて‥厄介者でしかなかった。
 国の支援金は入るが、「入らないでもいいから‥厄介者は正直‥」って位の額だった。
 だけど、逆にそれくらいじゃないとリバーシが特別視されたりして‥ろくな人間に育たない、とか、厳しい環境になれる必要性が‥とか言われていた。

 他人は、好きなこと言ってるだけだ。
 他人なんてあてにならない。ヒジリを守るのはヒジリ自身と家族‥それから、私の幼馴染やら‥親切な隣人だけなんだ。

 そう思って、歯を食いしばってきた。

 そんなころ、ヒジリは学校に行くと家を出て、夕方遅くまで帰ってこないようになった。それは、流石に辺りが暗闇に包まれる‥なんてことはないものの、初等部が下校する時間にしては、遅すぎるような時間だった。そして、決まって小さな怪我をたくさんしていた。

 いじめられているんだ‥

 って思ったけれど、どんなに問いただしても、ヒジリは
「遊んでるだけ」
 としか言わなかった。
 そんなわけない!
 って思ったけど、これ以上聞いても無駄だ。
 ‥私はこっそりヒジリをつけることにした。
 初等部の下校時間にヒジリはナツミちゃんと学校から出てきて、その後二人で家から‥住宅街からかなり離れた広場に行っている様だ。
 通称「修行場」。スキルを覚えたばかりの学生や魔法学校の学生やなんかが、練習のために使っている場所だ。
 そこで二人は
 ‥なにやら「それは遊びの域を超えているんじゃ‥」って感じのアクロバティックな遊びをしていた。

「ヒジリ! 本気を出して! 私たちの身を守れるのは私たちだけなんだよ! 」

 ってナツミちゃんの大声が聞こえたとき、ぶわって涙があふれた。

 ‥子供にこんなこと思わせているなんて‥っ!

 って。
 だけど、‥確かにそれは「その通り」だった。魔力は少々はあるものの、凡人にしかすぎない私たち‥ヒジリの両親に、出来ることなんてそうない。

 ヒジリや(魔法使いの卵らしい)ナツミちゃんは‥っ!

 強くならないと生きていけないんだ。
 そして、ヒジリが卒業間近って時にあの事件が起きた。ヒジリ傷害事件及び、誘拐未遂事件だ。
 ヒジリは誘拐されずに済んだものの、このままにしておくのは危険、と判断された。
 リバーシは
 精神と肉体が全くのイコールという存在ではない、とおっしゃったのは同じくリバーシでいらっしゃる(ラルシュローレ様の弟君であらせられる)サラージ様だった。
 曰く
 肉体は、魔力を貯める入れ物で、精神はその魔力を動力に動いている。(それは普通の人も同じ)
 普通の人間や魔法使いであれば、周りの大気やその他媒体(例えば魔石)から魔力を吸収したりしないと魔力を補充することは出来ないが、リバーシなら自分で魔力を作り出すことが出来る。
 らしい。
「だから、リバーシなら大気中の魔力が薄い地球でも生きていける。
 ここに置いておくのは心配だから、一時的に地球にでも避難させた方がいい」
 そうヒジリの身を案じてくださったサラージ様に、大臣は首を振り(幼い時からの教育係らしく王子様に対しても遠慮がないようだ)
「下手に隠せば、敵は国中を探すでしょう。そうすれば、国民すべてに迷惑がかかる。それなら寧ろここに置いておいて、「お前たちのターゲットはここにいる」って分からせておいた方がいい。勿論警備は万全にします。それで問題はないでしょう? 」
 ってサラージ様の提案を却下した。

 おい! あんた今、うちの娘をはっきりと国民と分けたわよね! うちの娘のせいで国民に迷惑をかけるのは‥って言ったわよね!? ヒジリも国民の一人なんですけど!? ‥分かってるわよ! ヒジリ一人の為に多くの国民に迷惑をかけるわけにはいかないってことでしょ?! でも、言い方ってあるわよね!?

 私は、その時国におけるヒジリの扱いを目の当たりにしたんだ。
 
 ヒジリは結局どこに行っても「厄介者」なんだ‥。

 って。
 サラージ様は「‥否定は出来ない」ってぼそりと呟いた。「国民を守る王家として」それは正しい‥仕方が無い態度だと思った。
 だけど、ラルシュ様だけは大臣を叱ってくれた。「ひどいことをいうな! 」って。嬉しかった。普段、穏やかな王子様が厳しい顔をして、叫んだんだ。
 ‥ホントに嬉しかった。
 私がラルシュ様とヒジリの婚約を(ヒジリに意見を聞かず勝手に)承諾したのは、そのことがあったからだ。

 その後、サラージ様案の「ヒジリを本体毎地球に避難させる」という計画を実行しようとしたが、例の魔道具(ブレスレット)のせいでヒジリの精神と肉体が分裂して「精神が肉体に戻れなくなった」ことが分かった。
 肉体と分離された状態のリバーシの精神は、昼の間充電しておいたバッテリで動く状態だ。
 バッテリがキレれば、電源が落ちる(つまり、死ぬ)
 そして、その本体の方は絶えず魔石によって「魔力を吸引されている」。

 絶対絶命。

 誰もが最悪の事態しか想定できなかったが、‥流石ヒジリは規格外だった。
 魔石が吸引の限界を迎えたらしく、吸引を終えたんだ。
 あとは、ヒジリが自分で魔力を回復できる。だけど、‥依然として体に精神が戻れない。それならば、精神だけ地球に避難させよう‥。その間に何か方法が見つかるだろう。そんな話になった。
 多分、動かない肉体を保護するだけの方が城にとっても負担が少なかったから‥だろう。精神を害する者が城にいないとは言い切れないんだ(←現に大臣も「厄介者扱い」してたわけだし)
 その後
 ヒジリのこの国に関する記憶を封印する。(まだ子供であるヒジリに色々言い聞かせるより忘れさせた方が確実って感じなんだろう)
 他人に見せるため、性別を変える。
 等の魔法をこの国一番の魔法使いが使い、私たちは地球に「引っ越し」したってわけだ。
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