70 / 248
八章 未来と過去と
4.皆の聖に対する認識。
しおりを挟む
(side ヒジリ)
この頃、分かってきたことがある。
なんで、今の俺(ヒジリ)と今までの俺(聖)の違いが分かってくれないんだって不満に思っていたけど、それは違っていて、なんと、聖を知っている人が見たら、『ヒジリでも聖にみえる』ようなのだ。
異世界のなんか‥特別な補正かもしれないし、‥俺自身魔力が桁違い‥なんせ、世界の災厄って呼ばれる程(失礼な話だな! )‥だから、そういう何か不思議な力が働いているんだろう。
よくわからないけど、俺は「先入観の上位互換」だと理解している。
‥なんにせよ良かった。「(そんなに全く違うのに)気付かないとか‥そこまで俺に興味ないのか‥」ってガチで落ち込んでたぞ‥。
そう考えると、総てのことがすんなりと納得できる。
あの時、‥ミチルの家で会った彼女は、それまでの俺(聖)のことを知らなかったから、俺のことがヒジリ(女)にしか見えなくて、でも、会社の皆は聖を知っていたから、聖にしか見えなかった。
聖にしか見えないにしても、この頃の俺は「今までの俺」とは全く違うことをしている。急にキャッチボールを始めたり‥そんなこと、今までしてきたことなかった。
‥あえて触れるならそこだ「この頃児嶋変じゃない? 」って言われてもおかしくない。
だけど、それすら誰も触れようとしない。全くのスルーだ。
まあ‥つまり皆にとって俺は‥それ程のものだったんだ。
‥まあ、丁度良かった。その無関心さ、ホント、今は丁度良かった。
無関心って思うと悲しいけど、俺に対して寛容で、俺がすることを一々いろいろ言わないでそっとしておいてくれる心の広さが皆にはある‥って思えばいい。
所詮、他人‥それもたかが同じ会社で働いてるだけって人間に、俺は何を期待しているんだ。
寧ろ、ミチルが特殊なんだ。
会ったばかりだっていうのに、体調を心配して怒ってくれたり、励ましてくれたり、‥一緒にご飯を食べてくれたり、慰めてくれたり‥そんな人間を普通だって考えちゃいけない。
で、
俺は自分に対する人の認識をタイプ別に整理してみることにした。
① 家族やミチル(ヒジリである俺を知っている人)
→ 俺のことはヒジリに見えている。
② 国見や吉川、同じ会社に勤めていて、俺と特に親しい人(ヒジリである俺を知らない人)
→ 俺のことは聖にしか見えていない。
③ 俺のことを知っているが、特に親しくもない人(ヒジリである俺を知らない人)
→ 現状維持。俺のことを「女っぽい」と思っていた佐藤さんは依然として「女っぽい」ように見えていたようだ。
④ 俺のことを全く知らない人(ヒジリである俺を知らない人)
→ 俺のことはヒジリ(女)に見えている。
だけど、②の人にしたって、全く同じ様に‥変わらず見えているわけでもない様なんだ。
あれだ。「眼鏡を普段かけてる人が、眼鏡なしで何かを見る的な感じ」。
「なんか、よく顔が見えない気がするんだけど、聖だよな」「ん? てか、聖じゃないわけないじゃん。なんか声、おかしい気もするが‥。‥風邪かな? 」って奴だ。
だけど、触ると流石に違うと思うんだ。(そういえば、今までは実体がなかったわけだけど‥触れたんだろうか‥相手の脳に「触った」って錯覚させてた‥とか?? ‥凄すぎない?? )
まあ‥、これからは今までみたいに無防備でいられないな。(自分の身体が女だって)知っちゃったそのあと、って話だ。
まあ、そんな感じでヒジリである俺が聖として会社や家庭という特定の場所で暮らしていることに問題はないんだけど、偶に会社に「初めまして」なお客さんなんかが来たら、ちょっとややこしい。
「え、あの人男性ですか? 女性‥ですよね? 」
すごく、困惑した顔になる。
男物でしかない背広着た女がいる不思議。しかも、皆当たり前の様に男として扱っている。だって、皆にとってはそれが当たり前だから。
だけど、来客は違う。そんな先入観がない。
だから、困惑させちゃう。
‥そういうのが困るから、知らない人に会っちゃう恐れのある「通勤ラッシュ時」の電車とか乗らないし(この頃は、2本くらい早い電車出来ている)帰りもなるべく帰宅ラッシュ時を避ける。そして、来客時は席をなるべく外すようにはしてるんだけど‥。
どうしようもない時も、やっぱりあるわけで。
今日は、他事務所の新入社員の子が初めてここに来たってので、皆で挨拶をすることになった。新入社員っていっても、中途採用で年齢は俺よりちょっと若いかな‥って位のものだろうか。そうだな、国見と俺のちょうど間位の年って感じじゃないかな?
「よろしくお願いします」
って挨拶をする様子も、緊張してないわけではないけど、そこそこ慣れてる。
「こちらこそよろしくな! 」
先輩たちも結構フランクな感じで接している。中には、「よ! お久しぶりですね! 」って言ってる先輩もいるから元同業者なんだろう。まあ、他業種の中途採用はこんな時期にいれないわな。
にしても、‥避けられない来客‥。
他事務所だ、この場を乗り切ればなんとか‥。
でも、無理だったらしく、さっきのセリフを食らった。
まあねぇ‥、男物のスーツも着てて、晒しで胸をつぶしているとはいえ、‥あのスーパー美少女だ。
偽れるもんでもないだろう。(自分でいうのもなんだけど)あれは、どう言い張ってもスーパー女顔だ。スーツとか着ても、宝塚の男役っぽくすらならない。女顔の美少年とかとも違うんだよなあ。未だに鏡見ても、自分って実感すらないもん。男もんのスーツとか、自分でも「ちょっとあれだよな~」って思うよ?
だけどそれが、会社の中ではあら不思議、俺は「今まで通り」平凡なサラリーマンだ。(※ミチルが言ったように、実は顔自体そう変わらない。聖は普段も女顔寄りだ)
社内の皆にとって俺は以前の俺。
俺ってば、実は今はスーパー美少女なのに、見えないなんてホント残念だよな!
(ヒジリは「聖」の時の自己評価がやけに低く、「ヒジリ」の時の自己評価がやけに高い。自分の中で「ヒジリ」は自分でありながら、他人的な扱いなんだ)
皆と「初めましてさん」の視覚ギャップが凄い。
‥だけど、(実は)日頃から‥吉川が言ったように、皆は聖の扱いに困っていることを、聖は知らない。知らないのは本人ばかり、なんだ。
男だって言い張ってるし、男なんだろうけど‥ホントに男なんだろうか。‥男なんだろうな。
そんな‥なんとも、モヤモヤする存在なんだ。
佐藤なんかは、モヤモヤせずに「あいつは、女っぽい男。男のくせに、女っぽい」って目で見てるから、‥かえって、ヒジリだろうが聖だろうが、扱いが変わらない。
まあ、佐藤なんかは例外として、気をつかって聖を「自分が男だって言ってるんだから。男なんだろう‥。ホントはよくわからないけど」って思ってる人たちは
「ホントに男性ですか? 」
って一言で、あっさり「聖は男」って先入観はちょっと綻びを見せる。
「え? 確かに児嶋さんはすっごい女顔だけど(あれ、そういえばあんなに女顔だっけ? )男性よ? 」
男性よ、と言いながらも、‥不安になって「ヒジリ」を見る。そして違和感を感じる。
感覚で言ったら
「あれ? 本当にそう? 」
って聞かれて、
「どれどれ」
って眼鏡をかけて見直す。って感じ。
眼鏡を掛けたら、「ん? 聖ってこんな顔だっけ? 」って気付く。いままで、当たり前の様に「そう」思い込んでたけど、じっくり見たら、違わない? って思って‥。
変な顔をして首を傾げている事務員の三島に
‥何を変な顔をしてるんだ。
って半ばあきれ顔したヒジリの先輩山本が、
「ああ。橋本君は児嶋の事見るの初めてなんだね。確かに初対面の人は、一度は聞くんだ。その質問。で、答えなんだけど。児嶋は男で間違いないよ。だって、昔社員全員で一緒に泳ぎに行ったことあったしね! 確かに、すっごい女顔(え? なんか昔より女顔になった? )だけど、男だったよ。細マッチョって感じだった」
得意顔で言った。しかし言いながら、ちらっとヒジリを見て、「え? あれ。ホントにそうだっけ? 」って自分の言ったことに自信が持てなくなるような錯覚を覚え、最後の方は首を傾げた。
「へえ‥。細マッチョ‥(想像つかないな)。じゃあ本当に、男性なんですね。それにしても、女の人みたいに凄い綺麗な方ですね。肌とかもつるつるで‥髭とか生えなさそう」
橋本も、「へえ」って驚いたとも、疑ってるともつかない様な妙な顔をして頷いた。
山本も三島も、それに対しては微妙な顔で頷いたが
「髭は‥生えてるの見たことないね! 」
「ないですね」
と、これは自信満々に断言だ。
ここら辺の記憶は、今の容姿ともイコールだから、すんなりと納得できるんだろう。
だけど、
あの、聖の『男性な水着姿』。あの記憶ってホントに、今目の前にいる聖のものか?? あの顔で、細マッチョって、変じゃないか? 骨格も、‥細マッチョって感じではないな。‥太ったのか? 違うな‥細い‥よな。寧ろ‥筋肉なくなった? っていうか‥、顔も、あんなに‥あそこまで女顔だったか??
何度も首を傾げる。
ヒジリが聖として生活してから、‥実はこんなことはよくあった。だけど、ヒジリはまだこの空気に慣れずにいた。
だから、今回も
‥うわ~、居ずらい‥。
なんて、ヒジリは苦笑いをすることしかできなかった。
そんな微妙な場を崩したのは、
「‥なんすか、橋本サン、なんか興味あるっすか? 俺なんか、顔がどうだろうと、男だっていう地点でどうでもいいっすけどね」
国見だった。
「何聖の‥ってか、男の顔とか体とかしみじみ見てるんすか、気持ち悪い‥」
心底呆れた‥って顔で、三島と山本と橋本を見ている。
「国見君は、いっそすがすがしいほど徹底してるわね」
事務員の中川がくすくすと笑いながら国見を見る。この二人は、この頃随分と(ヒジリがらみで)仲がいい。別に友達ってわけでもないんだけど、結構ヒジリも含めた三人で一緒にいることが多い。
「そりゃそうっしょ! 」
中川にいい笑顔を見せ、三島には、
「でも、あいつ女顔なの気にしてるから、言わないであげて下さいっす」
と、愛想のいい後輩の顔をした。
三島も
「ああ、そうだったわね」
とヒジリに謝る。
中川は、ちょっと不思議そうな顔で国見を見る。
「国見君、橋本さんに会うの初めてよね? なんか親し気‥って気がするんだけど」
首を傾げると、国見は
「親しいっていうか‥」
‥言いにくそうに言って、へへって首をすくめる。
今度はそこにいた橋本を除くメンバーが首を傾げた。
「だって、国見さんは前の会社の先輩だし」
何でもないって顔で答えた橋本に、橋本を見知っていた年輩の先輩だけが「そうそう、そうだったね」って顔をしている。どうやら、前の会社が倒産後、国見はすぐにこの会社に来て、橋本は「いい機会だから、ちょっと研修してこい」と本社から研修に行かされていたらしい。‥それでこの時期か。
「そうだったんですか! 」
国見は橋本さんより年下だけど、先輩。それは、高卒で入った国見は大卒で入った橋本さんより職歴が長いから。
国見は、聖が大学に通いながら(バイトなんてしながら)「何の仕事しよう‥」って迷ってる間、もうすでに働いてたってわけだ。
‥そう思うと、国見がなんか大人に見えて来るヒジリだった。
この頃、分かってきたことがある。
なんで、今の俺(ヒジリ)と今までの俺(聖)の違いが分かってくれないんだって不満に思っていたけど、それは違っていて、なんと、聖を知っている人が見たら、『ヒジリでも聖にみえる』ようなのだ。
異世界のなんか‥特別な補正かもしれないし、‥俺自身魔力が桁違い‥なんせ、世界の災厄って呼ばれる程(失礼な話だな! )‥だから、そういう何か不思議な力が働いているんだろう。
よくわからないけど、俺は「先入観の上位互換」だと理解している。
‥なんにせよ良かった。「(そんなに全く違うのに)気付かないとか‥そこまで俺に興味ないのか‥」ってガチで落ち込んでたぞ‥。
そう考えると、総てのことがすんなりと納得できる。
あの時、‥ミチルの家で会った彼女は、それまでの俺(聖)のことを知らなかったから、俺のことがヒジリ(女)にしか見えなくて、でも、会社の皆は聖を知っていたから、聖にしか見えなかった。
聖にしか見えないにしても、この頃の俺は「今までの俺」とは全く違うことをしている。急にキャッチボールを始めたり‥そんなこと、今までしてきたことなかった。
‥あえて触れるならそこだ「この頃児嶋変じゃない? 」って言われてもおかしくない。
だけど、それすら誰も触れようとしない。全くのスルーだ。
まあ‥つまり皆にとって俺は‥それ程のものだったんだ。
‥まあ、丁度良かった。その無関心さ、ホント、今は丁度良かった。
無関心って思うと悲しいけど、俺に対して寛容で、俺がすることを一々いろいろ言わないでそっとしておいてくれる心の広さが皆にはある‥って思えばいい。
所詮、他人‥それもたかが同じ会社で働いてるだけって人間に、俺は何を期待しているんだ。
寧ろ、ミチルが特殊なんだ。
会ったばかりだっていうのに、体調を心配して怒ってくれたり、励ましてくれたり、‥一緒にご飯を食べてくれたり、慰めてくれたり‥そんな人間を普通だって考えちゃいけない。
で、
俺は自分に対する人の認識をタイプ別に整理してみることにした。
① 家族やミチル(ヒジリである俺を知っている人)
→ 俺のことはヒジリに見えている。
② 国見や吉川、同じ会社に勤めていて、俺と特に親しい人(ヒジリである俺を知らない人)
→ 俺のことは聖にしか見えていない。
③ 俺のことを知っているが、特に親しくもない人(ヒジリである俺を知らない人)
→ 現状維持。俺のことを「女っぽい」と思っていた佐藤さんは依然として「女っぽい」ように見えていたようだ。
④ 俺のことを全く知らない人(ヒジリである俺を知らない人)
→ 俺のことはヒジリ(女)に見えている。
だけど、②の人にしたって、全く同じ様に‥変わらず見えているわけでもない様なんだ。
あれだ。「眼鏡を普段かけてる人が、眼鏡なしで何かを見る的な感じ」。
「なんか、よく顔が見えない気がするんだけど、聖だよな」「ん? てか、聖じゃないわけないじゃん。なんか声、おかしい気もするが‥。‥風邪かな? 」って奴だ。
だけど、触ると流石に違うと思うんだ。(そういえば、今までは実体がなかったわけだけど‥触れたんだろうか‥相手の脳に「触った」って錯覚させてた‥とか?? ‥凄すぎない?? )
まあ‥、これからは今までみたいに無防備でいられないな。(自分の身体が女だって)知っちゃったそのあと、って話だ。
まあ、そんな感じでヒジリである俺が聖として会社や家庭という特定の場所で暮らしていることに問題はないんだけど、偶に会社に「初めまして」なお客さんなんかが来たら、ちょっとややこしい。
「え、あの人男性ですか? 女性‥ですよね? 」
すごく、困惑した顔になる。
男物でしかない背広着た女がいる不思議。しかも、皆当たり前の様に男として扱っている。だって、皆にとってはそれが当たり前だから。
だけど、来客は違う。そんな先入観がない。
だから、困惑させちゃう。
‥そういうのが困るから、知らない人に会っちゃう恐れのある「通勤ラッシュ時」の電車とか乗らないし(この頃は、2本くらい早い電車出来ている)帰りもなるべく帰宅ラッシュ時を避ける。そして、来客時は席をなるべく外すようにはしてるんだけど‥。
どうしようもない時も、やっぱりあるわけで。
今日は、他事務所の新入社員の子が初めてここに来たってので、皆で挨拶をすることになった。新入社員っていっても、中途採用で年齢は俺よりちょっと若いかな‥って位のものだろうか。そうだな、国見と俺のちょうど間位の年って感じじゃないかな?
「よろしくお願いします」
って挨拶をする様子も、緊張してないわけではないけど、そこそこ慣れてる。
「こちらこそよろしくな! 」
先輩たちも結構フランクな感じで接している。中には、「よ! お久しぶりですね! 」って言ってる先輩もいるから元同業者なんだろう。まあ、他業種の中途採用はこんな時期にいれないわな。
にしても、‥避けられない来客‥。
他事務所だ、この場を乗り切ればなんとか‥。
でも、無理だったらしく、さっきのセリフを食らった。
まあねぇ‥、男物のスーツも着てて、晒しで胸をつぶしているとはいえ、‥あのスーパー美少女だ。
偽れるもんでもないだろう。(自分でいうのもなんだけど)あれは、どう言い張ってもスーパー女顔だ。スーツとか着ても、宝塚の男役っぽくすらならない。女顔の美少年とかとも違うんだよなあ。未だに鏡見ても、自分って実感すらないもん。男もんのスーツとか、自分でも「ちょっとあれだよな~」って思うよ?
だけどそれが、会社の中ではあら不思議、俺は「今まで通り」平凡なサラリーマンだ。(※ミチルが言ったように、実は顔自体そう変わらない。聖は普段も女顔寄りだ)
社内の皆にとって俺は以前の俺。
俺ってば、実は今はスーパー美少女なのに、見えないなんてホント残念だよな!
(ヒジリは「聖」の時の自己評価がやけに低く、「ヒジリ」の時の自己評価がやけに高い。自分の中で「ヒジリ」は自分でありながら、他人的な扱いなんだ)
皆と「初めましてさん」の視覚ギャップが凄い。
‥だけど、(実は)日頃から‥吉川が言ったように、皆は聖の扱いに困っていることを、聖は知らない。知らないのは本人ばかり、なんだ。
男だって言い張ってるし、男なんだろうけど‥ホントに男なんだろうか。‥男なんだろうな。
そんな‥なんとも、モヤモヤする存在なんだ。
佐藤なんかは、モヤモヤせずに「あいつは、女っぽい男。男のくせに、女っぽい」って目で見てるから、‥かえって、ヒジリだろうが聖だろうが、扱いが変わらない。
まあ、佐藤なんかは例外として、気をつかって聖を「自分が男だって言ってるんだから。男なんだろう‥。ホントはよくわからないけど」って思ってる人たちは
「ホントに男性ですか? 」
って一言で、あっさり「聖は男」って先入観はちょっと綻びを見せる。
「え? 確かに児嶋さんはすっごい女顔だけど(あれ、そういえばあんなに女顔だっけ? )男性よ? 」
男性よ、と言いながらも、‥不安になって「ヒジリ」を見る。そして違和感を感じる。
感覚で言ったら
「あれ? 本当にそう? 」
って聞かれて、
「どれどれ」
って眼鏡をかけて見直す。って感じ。
眼鏡を掛けたら、「ん? 聖ってこんな顔だっけ? 」って気付く。いままで、当たり前の様に「そう」思い込んでたけど、じっくり見たら、違わない? って思って‥。
変な顔をして首を傾げている事務員の三島に
‥何を変な顔をしてるんだ。
って半ばあきれ顔したヒジリの先輩山本が、
「ああ。橋本君は児嶋の事見るの初めてなんだね。確かに初対面の人は、一度は聞くんだ。その質問。で、答えなんだけど。児嶋は男で間違いないよ。だって、昔社員全員で一緒に泳ぎに行ったことあったしね! 確かに、すっごい女顔(え? なんか昔より女顔になった? )だけど、男だったよ。細マッチョって感じだった」
得意顔で言った。しかし言いながら、ちらっとヒジリを見て、「え? あれ。ホントにそうだっけ? 」って自分の言ったことに自信が持てなくなるような錯覚を覚え、最後の方は首を傾げた。
「へえ‥。細マッチョ‥(想像つかないな)。じゃあ本当に、男性なんですね。それにしても、女の人みたいに凄い綺麗な方ですね。肌とかもつるつるで‥髭とか生えなさそう」
橋本も、「へえ」って驚いたとも、疑ってるともつかない様な妙な顔をして頷いた。
山本も三島も、それに対しては微妙な顔で頷いたが
「髭は‥生えてるの見たことないね! 」
「ないですね」
と、これは自信満々に断言だ。
ここら辺の記憶は、今の容姿ともイコールだから、すんなりと納得できるんだろう。
だけど、
あの、聖の『男性な水着姿』。あの記憶ってホントに、今目の前にいる聖のものか?? あの顔で、細マッチョって、変じゃないか? 骨格も、‥細マッチョって感じではないな。‥太ったのか? 違うな‥細い‥よな。寧ろ‥筋肉なくなった? っていうか‥、顔も、あんなに‥あそこまで女顔だったか??
何度も首を傾げる。
ヒジリが聖として生活してから、‥実はこんなことはよくあった。だけど、ヒジリはまだこの空気に慣れずにいた。
だから、今回も
‥うわ~、居ずらい‥。
なんて、ヒジリは苦笑いをすることしかできなかった。
そんな微妙な場を崩したのは、
「‥なんすか、橋本サン、なんか興味あるっすか? 俺なんか、顔がどうだろうと、男だっていう地点でどうでもいいっすけどね」
国見だった。
「何聖の‥ってか、男の顔とか体とかしみじみ見てるんすか、気持ち悪い‥」
心底呆れた‥って顔で、三島と山本と橋本を見ている。
「国見君は、いっそすがすがしいほど徹底してるわね」
事務員の中川がくすくすと笑いながら国見を見る。この二人は、この頃随分と(ヒジリがらみで)仲がいい。別に友達ってわけでもないんだけど、結構ヒジリも含めた三人で一緒にいることが多い。
「そりゃそうっしょ! 」
中川にいい笑顔を見せ、三島には、
「でも、あいつ女顔なの気にしてるから、言わないであげて下さいっす」
と、愛想のいい後輩の顔をした。
三島も
「ああ、そうだったわね」
とヒジリに謝る。
中川は、ちょっと不思議そうな顔で国見を見る。
「国見君、橋本さんに会うの初めてよね? なんか親し気‥って気がするんだけど」
首を傾げると、国見は
「親しいっていうか‥」
‥言いにくそうに言って、へへって首をすくめる。
今度はそこにいた橋本を除くメンバーが首を傾げた。
「だって、国見さんは前の会社の先輩だし」
何でもないって顔で答えた橋本に、橋本を見知っていた年輩の先輩だけが「そうそう、そうだったね」って顔をしている。どうやら、前の会社が倒産後、国見はすぐにこの会社に来て、橋本は「いい機会だから、ちょっと研修してこい」と本社から研修に行かされていたらしい。‥それでこの時期か。
「そうだったんですか! 」
国見は橋本さんより年下だけど、先輩。それは、高卒で入った国見は大卒で入った橋本さんより職歴が長いから。
国見は、聖が大学に通いながら(バイトなんてしながら)「何の仕事しよう‥」って迷ってる間、もうすでに働いてたってわけだ。
‥そう思うと、国見がなんか大人に見えて来るヒジリだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる