リバーシ!

文月

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十一章 特別な人

1.誰かの特別じゃなくて

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(side ヒジリ)


「まあ、それはそうと。‥間に合ってよかったよ。でも、君僕の失敗談読んでたんだったら、魔力切れ起こす前にちゃんと帰らないと」
 って、ナラフィスさんに怒られた。
 ‥もっともです。
 そうだよな。‥注意喚起の為に論文を発表したのに、その論文を読んだ奴がそれを守らず同じ轍を踏んでるんだもんな。
 読んだんだろ! 意味無いだろう!!
 ってなるよな。
 怒られたのには凹んだ(大人になって怒られるとダメージ大きいよね。プライドとかの問題かな)けど、その後の
「ラルシュが毎日凄く心配していたよ」
 って言葉の方がこたえた。
 城の人たちには迷惑かけたくなかったのに‥。(ラルシュ様限定じゃなくて、だ)
 (だのに)一人で突っ走って、結果、凄く心配かけて、‥ナラフィスさんまで巻き込んで‥迷惑かけた。
 もし二人が来てくれてなくて‥あのまま倒れて‥帰って来たミチルがそれを発見したら‥どんな気持ちになっただろう。
 先ずびっくりするよね、それから、あっちに連れて帰らなきゃって思うだろう。
 でも、
 きっと、ミチルは直ぐには動けない。だって、ミチルは「こっち」に本体があって、その肉体(本体)にい「充電OK戻ってきていいよ~」って「呼び返された」ばっかりなんだ。そこらへんどうかよくわからないけど、直ぐには帰れない気がする。(それに会社もあるしね)で、ミチルは目が覚めない俺のことを気にしながら夜まで過ごすことになるんだ。
 ミチルの事だからきっと自分の事を責めたりもするだろう。
 自分が俺のことを気にしてこなかったから‥って、(ホントはそんなことないのに)責めるだろう。
 ‥最悪だ。
 今まさにその状況なんだけど‥
 ナラフィスさんたちがいてよかった。ミチルが「こんな時どうしたらいいんだ!? 」って思わないで済んだ。
「‥すみません。‥それに、ありがとうございました」
 しゅーんとなる。
 改めて、二人に謝って、お礼を言う。
 勿論、ミチルにももう一度謝った。
 ナラフィスさんは、怒った顔のまま(怒ってるわけではないのだろう。「怒った顔」をしているだけなんだろう)ガシガシって俺の頭を少し乱暴に撫ぜて、ラルシュ様は「とにかく無事でよかったです」っていつも通り優しい微笑みで許してくれた。
 結局、これだ。
 役に立たないから、せめて‥邪魔になったりしたくないって思うのに、俺は‥
 俺は! 
 ただ‥守られる者のままではいたくなかっただけなんだ。
 特別扱いで、守られてるだけの「お姫様」じゃ、嫌だったんだ。
 今まで夜の国で「寝てた」本体とは違う。俺の「精神(聖のことね)」は、ちゃんと地球で生きて今までそれなりに苦労してきた。ナツミが思ってるようなお姫様なんかじゃない!
 って思って‥
 ‥それを証明したかったんだ。
 意地になってたのは認めるけど、皆だって悪いって思う。
 だって、始めっから
「お前なら出来る、やってみろ」
 じゃなくって、「好きにやらせて、ダメだったら助けてあげる準備をしておこう」っていう空気が皆から駄々洩れだったから。
 そりゃ、俺じゃなくても

 ‥保護者か。はじめっからできない事前提か! 馬鹿にするなよ!

 って‥なるよね?
 でも
 結局何にも出来なかった。
 それならまだ、大人しく人の意見聞いて対策練った方が賢かった。
 サラージの言う通り、早々に監禁されてる方がましだった。
 (まだ、ましってだけだ。逃げても解決しないからね! )
 ‥だけど、その最悪なサラージ案ですら、俺の行き当たりばったりに比べたらまだ現実的な案だったって訳で‥。
 聞く前から、「俺の意見以外、聞く気もない」じゃ、‥駄目なんだ。
 素直に相談すれば、‥一人より周りの皆に相談すれば、きっともっといい考えも浮かんだんだろう。
 こんなことにはならなかったんだろう。

「かっこ悪い‥俺は‥」「俺は‥みんなと対等に‥友達になりたかったんだ」

 一方的に守ってもらう「お姫様」じゃなくって、だ。 

 ぼろっと大きな涙の粒が‥盛り上がって
 ぼたぼた‥って感じで落ちた。
「ヒジリ‥」
 ラルシュとミチルが「は」としたような表情で俺を見たのが、うつむいた俺にも、気配で分かった。

 友達になるのって、‥思ったよりも難しい。
 一緒に、騒いで、楽しい時間が過ごせるだけが友達なんじゃない。それも大事だけど、それだけじゃない。
 同じピンチに立ち向かうときフレンドシップが芽生える‥って言うけど、‥思えばそんな機会そうない。
 バレーやバスケで仲間と切磋琢磨って経験もしてきたことない。‥してたとしても、俺は「俺が出来ることを精一杯」ってタイプで「仲間とパスをつないで! 」ってタイプじゃない(つまり、全然向いてないんだな)
 「共通の敵に向かって一緒に」だってラルシュ様は言ってくれてるけど‥どう考えても「俺の問題」でしかないわけで‥そんなことに皆を巻き込んでいいのかな、皆っていうか‥王子様を巻き込んじゃダメでしょ、って思ったんだよ。

 だって、カッコ悪いじゃないか。自分のこと位自分で何とかしなきゃ。

 そんなことすら出来ない「ダメな自分」がラルシュ様やミチルの対等な友達になれるわけないって。
 でもね、
 友達だって思ってなかったんだ。‥結局自分自身がね。
 (それどころか)俺は皆の事試してたのかな~。
 無意識に‥「困らせてやれ」って‥思っちゃってたのかも。
 最悪だな。
 
 ‥拗ねて試して
 こんな結果になった俺をミチルは怒ってくれた。でも、ラルシュ様は怒らなかったどころか
「心配するって感情は、私が勝手に抱く感情だから、あなたは何も気にしなくていいんですよ」
 これだ。
 俺のプライドを傷付けない様に、気を遣って‥、ラルシュ様は俺の為に謝るんだ。
 そういう「特別扱い」は嫌だ。
 大事にされてるんだろうけど‥、それだけだ。
 ラルシュ様は、俺と友達になろうなんて、思ってくれていない。(‥まあ、思えないよな)
 でも、
 友達のフリをしてくれてる。
 ラルシュ様と俺の距離は、‥俺が思うより遠い。
 近くに見えるんだけど、‥手なんか絶対届かない位遠い。
 まるで、お月様みたいだな、って思う。

 同じリバーシっていっても、それぞれ魔力差、能力差がある。取り扱い説明書があるわけでもないし、「平均値」があるわけでもない。まして、‥リバーシのことはリバーシしか分からない。
 ナラフィスさんの論文を読んでいたラルシュ様は、「そろそろ(俺が)危ないんじゃないかなあ」ってなんとなく判断して、俺を見に来てくれたようだ。大丈夫そうなら、様子を見るだけで帰るつもりだったらしい。(まさか、倒れてるとは思っていなかったらしい)
 たまたま偶然このタイミングだっただけで、別に、俺の魔力の残量を正確に把握してたとかいうわけではないらしい。
 リバーシじゃないと異界に渡ることはできないから、「リバーシであるナラフィスについて来てもらった」って言ってた。

「とにかく一度帰ろう。‥これは提案ではなく命令です」
 いつもより若干厳しい口調でラルシュ様が言った。
「ミチル」
 ラルシュ様からミチルに事情を説明する‥って思ったら、一言「今から連れて帰る」って言っただけ。
 ‥二人の間で事前にそんな話をしていたんだろう。
 知らされてなかったのは当事者である俺だけだったってわけだ。
 やっぱり「好きにやらせて、ダメだったら助けてあげる準備をしておこう」ってことだったってわけだ。

 ‥恥ずかしくって、発狂しそうだ。

「悪かったな、‥頼む」
「わかった」
 口数少なく、二人の間で話がどんどん進められている。

 ‥俺は‥っ。

 悔しくて歯を食いしばって俯いていたら、
「反省したなら、次に生かすだけですよ。
 足踏みして、地団駄踏んで‥踏み過ぎて地面に穴を掘ってそこに埋まるつもりですか? 前進あるのみです。斜めに行っても、後ろに行っても、動けば何かがついてきます。
 仲間が出来るかもしれないし‥、少なくとも体力がつきます。
 間違ってたって気付けばめっけものです。
 反省して、それを次に生かそう‥もう同じことをしないでおこうって意識が変えられたら、‥人はいくらでも成長できます」
 ラルシュ様の声が聞こえた。
 何時もみたいに優しく俺に言い聞かせる風じゃなくって、
 ‥独り言みたいに。
 ぐ‥と、悔し涙が目に浮かんだのが分かって、俺はそれを乱暴に払った。
 そして、一度大きく頷いて顔を上げた。

 ‥カッコつけるのは、
 少なくともやめる。
 どうせ、カッコなんかつかない。
 人に迷惑かけて、人に気を使ってもらって保ってられる「カッコ」なんて、だっさいモノ、ない。

 出来ないなら出来ないで仕方が無い。
 無理して出来る振りしたって、仕方が無い。
 だって中身が伴わないんだから。
 ‥嫉妬してたのかもな~。
 ミチルとラルシュ様の友情って奴に。
 友達作りに‥
 チートはない。
 恋にはある、チート‥「一目惚れ」「運命」は、
 友達作りにはない。

 その方がいい。
 誰かの特別って、‥特別じゃなかったら、取りつく島もないじゃないか。
 (特別じゃないんだから)「どうせ」やるだけ無駄、じゃなくって、努力不足だっただけ。

 俺はついてる。

 選ばれなかった「特別」に悔しがって‥足踏みして、地団駄踏まないで済んだ。踏み過ぎて穴開けて、道行く人にご迷惑かけずに済んでよかった。

「帰って反省するから‥。ラルシュ様、ミチル。相談に‥乗ってもらえませんか? 」
 上目遣いでつい‥みちゃった。
 「かわい子ぶりっ子」とかじゃ勿論ない。‥あれだ。‥俺も人並みに羞恥心位持ち合わせてるわけで‥「恥ずかしくてまともに面と向かって言えません」ってやつだ。
 ‥結果、余計に間抜けな顔を晒す羽目になった‥わけなんだけどね。

「「勿論」」
 笑顔で頷いてくれる友達(予定)。
 (現金な俺が)つい笑顔になって、ぎゅっと、二人の手を握った瞬間

 俺の頭の中は真っ白に塗りつぶされた。

 その後の俺の記憶はない。


「あ!! ヒジリ!! 」
「「マズイ!! 完全枯渇だ!! 」」
「は?? 完全枯渇、なにそれ? 」
「「話はあとだ、ヒジリをあっちに一刻も早く連れ帰ろう!! 」」
 そんな三人の声は‥勿論俺に聞こえてこなかったんだ。
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