リバーシ!

文月

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八章 未来と過去と

10.身をもって実感

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(side ヒジリ)


 寝ているミチルをぼんやり見た。

 ‥寝てるミチル、起きている俺。以前は何度か、一緒にこの部屋から夜の国に行った。
 以前はそれが普通だって思ってた。
 だけど、今は‥。
 そういえば。
 ‥こんなにじっくり「眠るミチル」を見たのは初めてだ。 
 いつも、別のことをしたりして、見ていない。
 見ないようにしている。
 だって、寝てるの見られるの、嫌だろ?

 ‥俺の身体は、あっちにいるときずっと、「寝てるの見られて」たんだけどね‥。

 今思えばちょっと、‥嫌かな。
 でも、涎かいてなかった? 寝相悪くない? って心配は皆無だ。
 だって、器だけなんだから。
 それは今のミチルを見てても分かる。辛うじて息をしてる‥ってだけで、「寝てる」感はゼロ。
 そうだな‥意識不明の重体だって‥初めて見た人だったら焦るレベル。
 寝てるわけじゃないから寝息もたてない。
 本当にピクリとも動かない。

 本当に、人形みたいなんだ。

 リバーシは皆顔が整ってるからそんな風に見えるんだって思う。
 (知らない人が見たら)ホントに生きてる‥? って、多分不安になるだろう。だって、これ、つついても起きないんだ。

 怖いよね。

 交際相手の事、信用できない云々の前に、もし何も知らない彼女が「この姿」見たら‥ってやっぱり考える。
 心配するだろうし、怖いって思うだろうし、
 ‥やっぱり、気味悪いって思う。
 そんなこと考えたらやっぱり慎重にも、臆病にもなる。
 同じリバーシだから俺にもそういう気持ち‥分かる。
 同じリバーシだからわかりあえる気持ち、孤独。

 ‥同じリバーシにしか分からない気持ち。

 俺のことミチルが気にしてくれるのは、同じリバーシ同士だから‥って理由が大きいって思う。
 きっと友達のラルシュより、サラージ様の方がそういう意味ではきっと話が合う。だけど、ま、サラージ様は性格があれだから(いや、悪いとかいってないよ? 悪いように見えるな~って。‥そもそも、それほどは知らない、かな~)
 でも、ま。同じリバーシ同士通じるところもきっとあるだろう。
 
 何故、地球人のミチルの「霊体」があっちの世界に行ったんだろうって思ってたけど、‥案外そういうことなのかも。
 地球にはリバーシなんて他にいないだろうから。(会ったことないけど、‥もしかしたミチルの他にも「地球人リバーシ」いるかもしれないけどね)

 だから、夜の国のリバーシはそう地球に行かないのかな。って思ったり。
 別の世界に「興味がある」「行きたい」って思う者はいるだろうけど、「行かなきゃ‥」ってレベルで切望する程じゃない‥って感じかな。

 実はリバーシにとって、地球より夜の国にいる方が住みよいんだ。

 単純に環境面でって話だ。(文化面っていったら、地球にすっかり慣れた俺は、あっちに帰って暮らしていく自信はない。あっちに帰ったとしたら‥きっと「地球の方が便利だった‥」って頻繁に思うだろう)

 地球と夜の国の違い。それは、空気中の魔素の量だ。
 夜の国には当たり前の様に潤沢にあるそれが、地球ではうんと少ないんだ。
 それはリバーシ、魔法使いに関わらず「魔力を持っているもの」に共通して言える。

 魔素が多い夜の国の方が、過ごしやすいって。

 地球産まれ地球育ちのミチルの場合は地球の魔素の量(濃度、かな)に慣れてたから、夜の国の人間が感じるであろう「あれ、ここ‥なんか身体が重い」感が無かった。それに、日常で魔力を使わないから、魔素が減ることもなく、結果「暮らしにくい」って感覚が分からなかった。

 ‥ところで、最近学んだんだけど、リバーシ(の身体)にとって魔力量が減るのって、割と気になるもんみたいなんだ。こういうのは、無自覚だから本人は分からないんだけど、研究者がそんな論文を出してたのを読んだ。

 常に同じ量を持っていたいって感覚が無意識で働くんだって。だから、(リバーシ以外の人間からしたら)あんまり減ってなくても身体が無意識に魔素を吸収して、魔力を作ろうとする。
 勿論魔素を魔力に変えるのにはエネルギーが必要となる。
 だから、普通の魔法使いやなんかは、寝ているときに魔力を回復させる。
 魔法使いたちにとって、それっ位集中しないといけない大作業だからだ。
 だけど、リバーシたちは、使ったその場で回復作業を始める(無意識に)。だから、夜に集中して回復作業をする必要がない‥。
 今では常識ってされてるんだけど、実はこの理論が立証されたのって結構最近だ。
 ナラフィスさんっていう学生が自身の身体で実験したんだ。
 
 身体は夜の国において、意識だけを地球に送る。
 実験地を地球に選んだのは、地球が「空気中の魔素が少なくて、魔素を魔力に変えることが難しい状態という条件に合致したから」だ。
 この間、彼は生存活動以外のこと‥例えば地球の文明を学ぶなどの‥研究の類は一切していない。

 意識体で魔法をほんの少し使う。
 これが、彼の研究のすべてだ。
 その際、自分の意識体は魔素を吸収するのか‥。
 
 結果。
 普通なら、それこそ神経質な程素早く魔力回復を行うはずだが、意識体はそれをしなかった。
 無意識に取り込むにしても、地球上では量が知れている。‥そして、彼はかなり意識して(地球のわずかな)魔素の動きを見ていたが、自分の体内にそれが取り込まれることはなかった。
 そして、夜の国に置いている彼の身体にも変化はなかった。

 意識体でも魔法は使えるが、魔力の回復はしない。そして、本体も(意識体が使用した分の)魔力の回復をしない。ただ前日と同量程度の魔力が回復されただけだった。(魔力量を測定する機械で夜の国にいる共同研究者が記録していたらしい)
 あと、意識体では、本体で魔法を使うような正確さや規模が出せない。

 実験は以上だ。
 
 そういうのを踏まえて論文は

 ● リバーシはもともと魔力が多くて、何時も大量の貯金をもっている状態で、減った分の魔力を生成しながら生活している。
 ● それは大きなコップに、常に水を一杯にしている状態だ。(リバーシは魔力の生成速度が速いから、大概は一日で全回復が可能だ)
 ● だけど、魔力を作る指令は、身体に意識が入っている状態でないと細かく作用しない。意識体で魔力を使用しても、入れ物である身体は、魔力のオーバーフロー防止の為、ここ5日程平均的に使用した魔力量しか自動で補わない。(なんか、給湯システムみたいだな(ヒジリの感想))

 つまり、
「意識体で魔法を使った場合、普通なら正確に(それこそ神経質な程素早く)魔力回復を行うはずだが、それが行われず、本体の方でもそれに反応して魔力回復を行っている様子は見られない」
 と締めくくっている。

 因みに、彼が使った「ほんの少しの魔法」というのは、「地球に移動して、地球で使用する「仮の身体」を作り生活する」だという。

「そして、彼は本体に戻ることなく実験を継続した」

 これは、別の研究だ

「本体に戻らないでどのくらい過ごすことが出来るか」

 結果は、一週間で魔力切れを起こしてかけて‥命からがら夜の国の本体に戻ってきたという。
 あの時は本気で‥死を覚悟したらしい。(怖い! )
 あれを読んだ時は、正直
「バッテリー的なものを持ってけよ‥」
 って思ったし、
「魔力切れ起こす前に、一度充電しに夜の国に帰れよ」
 って思った。

 しかし、自らの醜聞を後世の者の為に書き記した彼の勇気とそして慈愛のこころを褒め讃えたい‥!

 俺はそんなことにはならないだろう。
 俺の‥魔力量は普通一般のリバーシとは違う。
 だから、俺には「魔力切れで」なんて心配はないだろう。

 そう思ったんだけどね~。

 って‥さっきから何をぶつぶつ言っているのかというと‥
 来たのである。
 自分にも「身をもって体感する」時がとうとう‥。
 それも、急に‥!
 ‥自分の身に降りかかって初めて、彼の状況が分かった。
 前兆なんて、全然ない。
 ほんっと急なんだ‥。
 彼の場合、‥たしか、共同研究者が気付いて迎えに来てくれたんだっけ‥。
 それも、彼が助けを呼んだわけではない。
 (何だか嫌な予感がした)共同研究者が心配して見に来たら倒れてたっていうんだ。
 ‥ナラフィスさんは運がいい。
 『残している身体の顔色がなんとなくおかしい』なんて、‥普通は気が付いてもらえないよ‥。
 通常時でも、抜け殻ってのは若干青白いもんだからね。

 彼の「あのこと」があってから、留学生は本体を伴う、もしくは短期間が原則になった。
 本体を伴っての移動は大がかりだから、あまりやらないらしい。

「昔の人の教えは聞いておくものだよなあ‥」
 自分が信じられない程気弱になっているのが分かる。
 さっきから、だるくて仕方が無いし、寒気もする‥。
 それに、‥眠い。
 きっとこれ、寝ちゃダメな奴だ。「寝るな! 寝たら死ぬぞ」って奴だ。
 しかも
 なんか

 幻覚が見えて来た。
 もしかして、‥願望って奴なのかな。最後に会いたい‥見たいものが浮かぶって奴。
 そっか、‥最後に見たかったのは、ラルシュ様だったんだ。 
 ‥俺ってば、ラルシュ様のことが好きだったんだ‥?。
 ‥お世話になった両親や同僚とかじゃないって‥俺って薄情なんだな‥。
 
 ナツミ‥。‥ナツミに逃げたって思われるのは‥嫌だな‥。
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