リバーシ!

文月

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九章 ナツミというただの女の子

9.集団心理

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 反政府組織はそう少ない構成員でもない。

 その中の多くは「インフルエンサーに触発された」だけの、多少『意識』が高いインテリ層だろう。
 現状に不便しているわけでは無いが、なんとなく変化を求める‥とか、自分はもっと「上を目指せるはずだ」って思う向上心高めなタイプだとか。
 つまり、そういう活動に参加することに意味がある。‥自分の「何か足りない」「何かするべき」「変わるべき」って意識を発散させる場として、まるでサークル活動の様に参加しているってタイプ。
 インフルエンサー(カタル)や組織の旗印であるリーダー(ネル)に近く、その境遇に共感しその理論に憔悴している「熱狂的な信者」ってのはそう多くはない。
 だから、彼らには辛うじて団結力はあるかもしれないが、「責任感」っていうのは薄い。
 集団に属している限り、その集団が持続されていなければいけないから団結する‥って意識は強いんだけど、「俺は責任者ってわけじゃないし‥」って他に丸投げな気持ちがあるのは否めない‥ってところかな。

「‥集団ってのは、怖いね。赤信号皆で渡れば怖くない的な怖さがあるね」
 ふう、ってミチルが今日何度目かのため息を着く。
 ホントに‥頭が痛くなる。
「赤信号皆で渡れば怖くない。‥なにそれ、地球のスローガンか何か? っていうか‥赤信号って「止まれ」を意味する地球の交通標識だよね。集団で来られたら「止まれ」も効力を失いますよ~。通ってオッケーですよ~。数の勝利的な意味かな? 大多数の意見っていうのは、得てして通りやすいよね」
 ナラフィスが肩をすくめて「やれやれ」みたいなポーズをする。

 ‥なんだそりゃ、そんなわけあるかい!

 ぷ、とヒジリが噴き出す。ミチルは眉を寄せて、‥ちょっと微妙な表情をし
「全然違う。‥集団になると一人でやるより罪の意識が薄れるから怖いよねって感じの言葉遊び‥? なんて言えばいいかわからんが、有名な言葉だ」
 有名だし、皆が変に納得するいいまわしだけど‥ことわざとかじゃないぞ。
 ‥社会的に認知されてないぞ。
 言って、ついでとばかりに一言二言独り言のような口調で付け加える。

「悪いことだって分かってても、これだけ同じことをする人間がいれば何でもできる! って気持ちになる‥ってこと?
 こんだけいれば、捕まっても一人じゃないから怖くない。
 自分という個人ではなく、自分たちっていう集団になることで気持ちが大きくなる‥」
 ぼそり、とラルシュが呟いた。
「集団心理って奴だな」
 ミチルが頷く。
「自分の意見や自分の「好き」に共感して行動を同じくする集団は「仲間」って言える。友達とは違う「仲間」。
 学校の様に決められた年齢になったら行かなければいけない場所ではなく、自分で選んだ特別な場所。
 自分が選んだ場所で、高尚な話をする仲間。
 他とは違うっていう優越感。
 偉くなって、特別な存在であると感じる。
 自分が‥自分たちは集団になることによって‥「自分たちはこの平凡な社会に一石を投じる存在だ」って考えるようにる。集団だからこそ、の心理だ」

 仲間‥集団‥
 だけど、その実中身はかすかすで、構成員同士の繋がりもそう強くない。

「烏合の衆って程でもないけど、狂信的信者の集まりってわけでもない。それ程の結びつきはない。‥だけど、催眠と違って各自、自分の意思で動いて‥集まっている。それがこの集団の怖さだろうね」
 だけど、社会ってのは得てしてそういうものかもしれない。
 ふう、とヒジリはため息を着いた。

 ナツミは‥どんな気持ちでそこにいるんだろう。
 一人じゃないってことに安心したいから?
 それとも、反政府組織の考えにどっぷり浸かってるの? もしかして、洗脳までとはいかなくても孤独に付け込まれて‥離れられなくなってるの?
 そもそも、‥ナツミは孤独だったの?
 
 俺は、‥ナツミのことが何も分からない。
 今まで分かっているつもりだったのに‥
 今となっては、何もかもが分からない。
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