リバーシ!

文月

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九章 ナツミというただの女の子

12.おさらいという名前の「書き換え」作業

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「な‥っ! 何もないです! 」
 慌てて言い返したら、カタル様はふふ、と微笑んだ。
「無理してるんじゃないかって心配した。‥幼馴染が目覚めたんだよね。会いに行って‥どうだった? 」
 ヒジリと聞いた瞬間はっとした。

 ‥そうだ、あたしはヒジリのこと許せないって思ったんだ。

「どうもこうもないです。‥すっかり平和ボケして‥あたしが気に掛けるまでもないって思った‥」
 ふつり、と怒りが湧き上がってきた。
 ああ、そうだった。
 ヒジリは‥
 あたしの知っているヒジリとは変わってしまっていた。
 昔のヒジリはもっとギラギラしてた。
 周りの偏見に押しつぶされないように、‥負けないようにあたしと一緒に毎日鍛錬してた。
 ヒジリにとっては、ナツミが一方的に攻撃をしてきてた思いでしかなかったんだけど、ナツミにとっては「一緒に鍛錬してた」って気だったらしい。
 ‥ヒジリが「そうなのかな? 」ってナツミの目的に気付いたのは、最近だ。気付いた‥というか憶測したって感じかな。憶測の最有力候補は「丈夫なヒジリをサンドバック代わりに魔法の練習をしていた」なんだけど。
 つまり、あの頃は(少なくともヒジリにとっては)「一緒の目的の為に日々鍛錬」って感じじゃなかったってこと。
「ふふ、手厳しいね。
 ‥それ程変えられちゃったってことなんだよね。城に‥
 記憶を消されて、今までの事‥なかったことにして、その上で衣食住の世話をして恩を売って‥
 ナツミの話を聞いてたらヒジリは「悪い子」じゃないから、そういうのに恩を感じちゃう方じゃない? 
 ‥そうやって、城に対する意識を良くしていった‥ってことなんだよね。
 わざわざ地球に送ってまで‥」
 ナツミははっとした。
 ‥確かに、ヒジリはそういうところがある。
 ヒジリは確かに甘ちゃんだけど‥悪い奴じゃない。
 魔石のことにしたってそうだ。
 ヒジリはいつもあたしと一緒にいてくれたし、あたしの言う事を反対なんてしなかった。
 ‥優しい子だった。
 そんなヒジリだから、恩をうけた城をないがしろにすることなんて出来ないってこと‥あたしは考えてなかった。
 それに、‥城が「城にとって都合の悪い記憶」を消しているのかもしれない。
 あたしたちのことを反政府組織って呼んでるみたいに、あたしたちの情報を「悪いように」伝えているのかもしれない。
 じゃなきゃ、あのヒジリがあたしのことあんな目で見るなんて‥
 あの時は‥ヒジリの平和ボケした顔にかっとなって‥ついあんなこと言っちゃったけど‥考えてみたら、今までのあたしがヒジリに優しい言葉をかけて来たかっていうと‥そうじゃない。
 だけど、それでもヒジリはただただ優しかった。
 あたしと一緒にいてくれた。
 あんな目であたしを見ることなんてしなかった。

 ‥城のせいだ‥。

 それに「気付く」と怒りで顔が熱くなったのが分かった。
「ナツミ。城の策略に引っかかっちゃダメだよ。
 城は、ヒジリを騙して幼馴染のナツミからヒジリを取り上げようとしているんだ‥。
 ナツミっていう「枷」があったら、ヒジリは思い通りにならないから‥ナツミとの繋がりを断ち切ろうとしているんだ。
 ‥酷いよね」
 ‥本当に酷い。
「城はそこまでしても、ヒジリという「魔力の塊」が欲しいんだ。
 ヒジリには「自分が暴走したら国家に災いが‥」って信じ込ませて、たった一人の友達のナツミさえも取り上げて孤立させて‥相談すら出来ないような状況に追いやって‥城に「自主的に」閉じ込めようとしてるんだ。
 ナツミまでそれに巻き込まれちゃダメだ」
 そうだった。
 ヒジリが国民の為に、自主的に城に行くように城は仕組んでるんだ。

 自分を狙う敵がいる。
 敵は反政府組織で、自分の利益の為にしか動かない主に魔法使いの集まりだ。
 魔法使いといえば、魔力不足って相場が決まっている。
 ヒジリを狙っているのは、ヒジリを無限魔力供給装置だって考えているから。

 ‥きっと、そう教えられてる。
 ヒジリはそうやって城に洗脳されているんだ。

 許せない。

 頭の中が真っ赤に染まった気がした。
 頭の中が真っ白になる‥と同じ様に‥きっと今、あたしの頭の中は怒りで真っ赤に染まっている。
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