リバーシ!

文月

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九章 ナツミというただの女の子

13.親切になんてしなれてないから、どう反応していいのか分からないんんだ。

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 いつもこうだ。

 カタル様が
「どうしました? 」
 ってあたしを気にかけてくれて‥

 あたしは‥

 考えるんだ。
 どうしたんだっけ? ‥どうしたんだろ。 
 って、
 ‥どう答えるのが正しいんだろ? 
 って。

 だって、そうでしょう?

 カタル様があたしのこと「いつもとは違う」って思って声を掛けてくださったんだから‥
 いつもと違う話をしないとね?
 どうしました?
 って聞かれて
 いつも通りです。
 って答えるの、おかしいよね? きっと、自分では気づいていないけどあたしは「いつもと違う」んだから。
 あたし、いつもとどう違うんだろ。‥どう違うように見えてるんだろ。
 (そもそも、いつもってどうなんだろう)

 いつもと違うとしても‥

 あたしはどう答えていいのかわからない。だって、今までそんなこと聞かれたことが無かったから。
「顔色がわるいけど、熱があるの? 」
 ってきいてくれる親もいなかったし、
「元気ないじゃん」
 って声を掛けてくれるような友達もいない。
 心配されたり話しかけられたり「し慣れて」いない。(いや、親はいたけどね。食事も毎日用意してあったし。だけど、それだけだった)
 ヒジリは大層優しかったけど、あたしはヒジリには弱いところなんて見せたくなかったから。

 気を抜いた顔なんてみせてない。

 ため息なんてヒジリの前でつこうもんならきっと大騒ぎだ。
「大丈夫? しんどいの? どうしたの? 」
 って大騒ぎして‥きっとあたしの意見なんて聞かずに、あたしを医務室の布団に寝かし付けるだろう。
「どうしたの? 話聞くよ」
 とかじゃない。
「具合が悪いんだから、寝てなきゃ」
 なんだ。
 ヒジリはあたしが悩んだりするなんて思ってない。
「ナツミは偉いね、迷いとかないし、自分で何でもできる。あたしはいつかナツミを「あ! 」って言わせられる様になりたいな~」
 ってキラキラした目で見るんだ。
 そんな「偉い」あたしがため息を着いている。それは(ヒジリには)「病気なんだ! 寝とかないと! 」ってことになる‥らしい。
 そして、それを世話することは「なんか、ナツミのお姉さんになったみたい! 」で、大層嬉しいらしい。
 ‥盛大な勘違いだ。
 
 ‥(そんな残念な妹分に)弱みなんて見せられないよ。

 友達じゃなかったんだ。‥あたしにとってはヒジリは「弱みを見せたくない」妹分で、ヒジリにとってあたしは「いつか超えたい壁」‥姉的な立場? 
 ‥なんでも話せて、泣きながら悩みを打ち明け合える親友とか憧れてたんだけどな~。

 これから先も出来る気がしない。

 でも、それならそれで仕方が無いかな~って思う。
 あたしもちょっとはここで変わった。「人付き合い」ってのも‥してきた。4人以上の人間と‥ヒジリは話したことあった? あたしもここに来るまではそんなことしたことなかった。だけど、今ではもう日常茶飯事だ。
 あたしは変わった。ヒジリはどう?
 ‥ああそうか、ヒジリは「記憶を失わされた」とはいえ、地球で学校に行ってたんだっけ。
 ヒジリもきっと変わったんだろう。‥でも、前に会ったヒジリは相変わらず甘ちゃんなままだったっけ‥。

 きっと、この先もずっとヒジリとあたしの関係は変わらない。

 ヒジリのことを考えてたら、カタル様に「ヒジリのこと考えてるの? 」って笑われた。
 ‥カタル様には隠し事もできないね。
 ぎこちなく笑って頷くと、
「ナツミはどうしたい? ‥どうするのが正しいって思ってる? 」
 いつもと同じ優しい声で聞かれた。

 どうする? ‥どうするかなぁ~。もう、どうでもいいけど、でも妹分だしな~。姉だから‥頼りない妹の面倒を見なきゃいけないのは‥仕方が無いかあ。

「‥ヒジリを助けに行く。ヒジリを城に閉じ込めたりなんてしない。
 閉じ込めたりしないでも、ヒジリは国の災厄にはならない。
 ここには‥あたしが‥ネル様がいる」

 ああ! そうだ‥ネル様がいるんだ。

 なんであたしは今までそのことを忘れていたんだろう。
 ここには‥ヒジリの影星のネル様がいるんじゃないか。
「そうだね。ネルがいるね」
 カタル様がにっこり微笑まれた。
 そう、ネル様がいる。
 そして‥なによりここにはカタル様がいる。


 あたしがカタル様をこれほど信用し、ヒジリのことを話しているわけは、
 それこそあたしがカタル様にヒジリの話をする前から‥それどころかあたしがまだ幼い子供の頃にはすでにここにいたカタル様が「災厄の星」について予言していたからだ。
 カタル様は、ヒジリが災厄の星だってこと知ってた。
 そして、災厄の星は「影星」と「光の星」の二つで、それがヒジリとネル様だってことも。
 そして、
 二つがそろえば、この国も滅びないし、ヒジリも魔力暴走しないよ。
 って教えてくれたんだ。


 「災厄の星」

 あれは‥
 いつだったか‥
 あたしがヒジリと友達になったばかりの頃だった。
 あの時のあたしは「自分は魔法使いになれるかもしれない特別な子供」って思い込んでた‥思い上がってた「痛い」子供だった。たいして努力もしないで周りのみんなを自分より下って見下し、‥一人ぼっちになって‥でも(自分のせいでそうなったのに)孤独が嫌な‥そういうひねくれた子供だった。
 そんなあたしと付き合いがあったのは、学校の先生(ヒジリのいうところのインテリ眼鏡)とヒジリ、そして、魔石商人だけだった。
 そんな狭い世界だった。
 ある日、魔石商人にヒジリが「特別な」リバーシだってバレちゃった。
 あたしがあんまり「同じ」「高純度の」補充魔石(空の魔石に魔力をつめた魔石)を持っていったからだ。
 いろんなことを学んだ今だったら「当たり前」に分かることなんだけど、当時のあたしは分からなかった。リバーシの事ってそんなに一般的に知れ渡っていないから。
 魔石商人は
 この補充魔石に入っている魔力は無色の魔力だからリバーシのものだ。
 しかも、持ち込まれている補充魔石は同じ者の魔力が使われている‥つまり、頻度から考えて補充した者はかなり魔力が多い。
 って説明した上で
「この子に会いたいって」
 って言ったんだ。
 勿論断った。‥もうこの魔石商人とは関わらない方がいいかもしれないってその場を離れようってした時
「その子は、普通の子じゃないね。これだけの魔力‥今に国の最厄って呼ばれて、殺されちゃうよ」
 背中から魔石商人の声があたしの足を止めた。
 その口調からか‥その場の雰囲気からだったか‥あたしはそれが嘘だとは思えなかった。
 思わず足を止め魔石商人を振り返った
 「その子はそして、まだ覚醒していないね? その子が覚醒するまで、その子を隠しておいた方がいい。そうしないと(その子が覚醒する)その前にその子はきっと殺されてしまうよ」
 あたしは完全に固まって‥その場に立ち尽くした。
 魔石商人はふ、と口元だけに笑いを浮かべ
「覚醒しないようにすればいい。そしたら、その子は苦しむこともないし、誰も不幸になんてならない」
 言ったんだ。

 ‥この後の話はこの前話した通りだ。

 
 あの「計画」(ヒジリの魔力を減らすっていうあれね)が失敗に終わった後も、ずっとそのことを考えてた。
 ヒジリはどうなるんだろうって。

「その男の顔は覚えている? 」
 カタル様があたしの目をじっと見てそう尋ねられた。
「‥覚えてないです」
 あたしは‥その綺麗な瞳から目を離せなかった。質問の答えは、「思わず」でたって感じ。条件反射で何となく返事しちゃうことってあるよね。あんな感じ。ほんと、ぽろってでた。
 そんなあたしの(多分馬鹿面してただろう)を見て、ふふ、ってカタル様は笑った。
 
 恥ずかしい‥。

 魔石商人は、‥そういえば、どんな顔をしていただろうか? 魔石商人は裏稼業だったから、顔を出さないのが普通だから黒いローブで顔を隠していることに疑問は感じない。
 だけど、背丈や姿勢、声の様子からどんな背格好でどんな年齢か位は分かる。‥だのに‥。
 全然覚えていない。
 唯一見えてた口元すら、表情が読み取れたって程度の記憶しかない。
「あれ? ‥ホントに覚えてない‥あたしって駄目だな‥」
 ホント、ダメだ‥
「そっか、いいんだよ。ごめんね。思い出したくないことじゃなかった? 」
 (顔を覚えていないことに落ち込む)あたしを慰めるようにカタル様が優しい口調で言った。
 変なこと言ってゴメンね
 って困り顔をなさるカタル様にあたしは慌てて首を振って全身で否定した。

 ‥魔石商人‥そういえばあのあとどうしたんだろう。
 城からの追跡に逃げ切れた‥んだとしたら、大したもんだよね。変装でもして潜んでるんだろうか。‥今でも。

 そう考えると怖いね。
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