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十一章 特別な人
5.価値観を変えるような出会い
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(side ラルシュ)
ミチルに会った‥ってのは正しい表現じゃない。
正確には、「珍しい異世界からのリバーシが現れたからラルシュローレ、見に行っておいで」って兄に言われた‥って言うのが正しい。
見に行くって言っても、言葉通り「見て終わり」じゃ、勿論ない。
国にとって有益だか無益だか。
‥それ以前に、有害ではないかを調べるためだ。
何も王子自らがいかなくても‥って大臣は反対したが、そこは兄が押し切った。
いつも通り穏やかな顔で「じゃあ、そういうことだから」ってあっさり大臣を無視したんだ。
僕らには遠慮がなく‥いっそ無礼って感じの大臣は、兄の言葉にだけは逆らえない。大臣たちの事だ、立場上とかじゃない。多分兄の事も「悪友の息子」と位にしか思っていない。だけど、兄は穏やかな表情と口調ながら「逆らえない何か」を持っている。
王族はみんな威圧のスキルを持っているから‥ってのはあるんだけど、スキルの「強さ」でいったら、私が一番強いらしいから‥多分、そういうことではないんだろう。
そういったわけで「なるべく自然に」出会いの場はセッティングされた。
保護された家で、ココアを飲んでいたミチルと王子が出会う。
‥ミチルは不思議に思っていなかったようだが、普通に考えれば(この国の常識的には)ありえない。
王や王子と会うのは、城の謁見の間って決まってる。周りには護衛や騎士が並び、万が一の間違いも許されない。謁見には「それにふさわしい恰好」やら「礼儀作法」もある。スケジュールの調整もある。
‥そんな、真夜中に王子が一人ふらふら民家を訪れて、異世界人の少年と出会って意気投合する‥わけがない。
全部、そういう風にセッティングされているんだ。
勿論、周りは護衛だらけだった。
昼のうちからいつも以上に周辺の調査も済ましているし。厳重な警戒態勢もしかれている。
そして、私自身も帯刀していた。周りがすぐ対処するといっても、(護衛たちは隠れているから)最初の一手はやっぱり遅れる。そうなった場合困るから‥だ。(ちなみに、おばあさんもかなりの手練れなんだ。リバーシを保護する以上、危険も多いわけだしね)
そういう諸々の事にミチルは気付いていなかっただろう。
今になっても言うつもりはない。
それでミチルとの友情? ‥信頼関係に何か影響があるとも思わないが、「言わなくていいこと」は言う必要は無い。
ただ、
私はあの「出会い」に感謝しては‥いる。
知らない知識、知らない技術。
知らない「遊び」や歌。そして、「何気ない会話」。
くるくると変わる表情。
ミチルとの時間は思いのほか楽しくて、私は辛い(← 子供だったから)徹夜をしてもミチルに会いたいって思ったほどだった。
出会いこそは「作られたもの」だったけど、一緒にすごした時間は「本当」だった。
多分、ミチルといる時の私は「ただの子供」だった。
国にとって有益だか無益だか。
‥それ以前に、有害ではないか
が全てだった私の価値観が変わった‥っていうのは言い過ぎかもしれないけど、「自分にもこういう感情もあるんだな」って発見したんだ。
兄は、表情が豊かになった(← らしい、自分では分からない)私を見て満足そうに
「私の試みは間違いじゃなかったね」
って言った。
兄にそういう「狙い」があったかどうかは分からない。
でも、‥あったのかもしれないな、とも思う。
「真ん中の人」である王には、「そういうものを自然と引き当てる」能力が生まれつき備わっていたから。
兄に任せておけば間違いが無い。
兄の言う通りにしたら上手くいく。
っていうのは、サラージと私の共通認識だった。
兄は、引きが良いだけじゃなくって、私たち兄弟を凄く愛してくれていた。
私たち兄弟の為になるから、厳しい家庭教師をつけてくれたし、厳しい剣術指南をつけてくれた。
物を与えたり、単純に「なんでも肯定してくれるイエスマン」をつけたり、単純に「最高の護衛」をつけるんじゃなくて、私たちに「最高の学びの機会」と「最高の先生」をつけてくれた。
だから、今回の事だって、きっと兄には分かっていたんだ。
ミチルと接することによって私が大きなものを得られるだろうっていう事を。
私が「いい風に」変わるだろう‥ってことを。
ただ、それが「兄としての愛情」からか、「王族としての勉強の為」なのかは分からない。
次期王として兄の愛情は、ただ単純に「愛している」っていうのとは違っていたんだ。(それは仕方ないね)
でも、「王族として以前に人として足りない感情・人に対する垣根なしの感情」を教えるっていうなら、それはサラージに対してもいえた。
それならこの任務はサラージの方が適していたのではないか? そう疑問に思った。
だって、単純に異世界のリバーシを監視するなら同じリバーシのサラージの方がいい。生活スタイルも共通しているし(← 徹夜しても辛くない)「リバーシあるある」で話もあう‥かもしれない(これについては‥「ない」って今なら言える。ホントに、サラージじゃなくてよかった‥。でも、案外「喧嘩する程仲がいい」コンビになったかも‥いや、そこまで親しくなることがそもそもないな。サラージが「表面だけ仲良くしてそれでもういいや」ってなりそうだ)
なぜ、サラージじゃなくて、自分だったのか。
サラージが言うように「会ったことない婚約者がリバーシだから」リバーシを知る為? だけど、それなら「普通のリバーシ」との交流で事足りたのではないか?
なぜ、「異世界からのリバーシ」であるミチルとの交流が重要だったのか‥。
その答えを、兄から聞いたとき、私の頭に浮かんだのは、そのときは、困惑、ただ一文字だった。
ミチルに会った‥ってのは正しい表現じゃない。
正確には、「珍しい異世界からのリバーシが現れたからラルシュローレ、見に行っておいで」って兄に言われた‥って言うのが正しい。
見に行くって言っても、言葉通り「見て終わり」じゃ、勿論ない。
国にとって有益だか無益だか。
‥それ以前に、有害ではないかを調べるためだ。
何も王子自らがいかなくても‥って大臣は反対したが、そこは兄が押し切った。
いつも通り穏やかな顔で「じゃあ、そういうことだから」ってあっさり大臣を無視したんだ。
僕らには遠慮がなく‥いっそ無礼って感じの大臣は、兄の言葉にだけは逆らえない。大臣たちの事だ、立場上とかじゃない。多分兄の事も「悪友の息子」と位にしか思っていない。だけど、兄は穏やかな表情と口調ながら「逆らえない何か」を持っている。
王族はみんな威圧のスキルを持っているから‥ってのはあるんだけど、スキルの「強さ」でいったら、私が一番強いらしいから‥多分、そういうことではないんだろう。
そういったわけで「なるべく自然に」出会いの場はセッティングされた。
保護された家で、ココアを飲んでいたミチルと王子が出会う。
‥ミチルは不思議に思っていなかったようだが、普通に考えれば(この国の常識的には)ありえない。
王や王子と会うのは、城の謁見の間って決まってる。周りには護衛や騎士が並び、万が一の間違いも許されない。謁見には「それにふさわしい恰好」やら「礼儀作法」もある。スケジュールの調整もある。
‥そんな、真夜中に王子が一人ふらふら民家を訪れて、異世界人の少年と出会って意気投合する‥わけがない。
全部、そういう風にセッティングされているんだ。
勿論、周りは護衛だらけだった。
昼のうちからいつも以上に周辺の調査も済ましているし。厳重な警戒態勢もしかれている。
そして、私自身も帯刀していた。周りがすぐ対処するといっても、(護衛たちは隠れているから)最初の一手はやっぱり遅れる。そうなった場合困るから‥だ。(ちなみに、おばあさんもかなりの手練れなんだ。リバーシを保護する以上、危険も多いわけだしね)
そういう諸々の事にミチルは気付いていなかっただろう。
今になっても言うつもりはない。
それでミチルとの友情? ‥信頼関係に何か影響があるとも思わないが、「言わなくていいこと」は言う必要は無い。
ただ、
私はあの「出会い」に感謝しては‥いる。
知らない知識、知らない技術。
知らない「遊び」や歌。そして、「何気ない会話」。
くるくると変わる表情。
ミチルとの時間は思いのほか楽しくて、私は辛い(← 子供だったから)徹夜をしてもミチルに会いたいって思ったほどだった。
出会いこそは「作られたもの」だったけど、一緒にすごした時間は「本当」だった。
多分、ミチルといる時の私は「ただの子供」だった。
国にとって有益だか無益だか。
‥それ以前に、有害ではないか
が全てだった私の価値観が変わった‥っていうのは言い過ぎかもしれないけど、「自分にもこういう感情もあるんだな」って発見したんだ。
兄は、表情が豊かになった(← らしい、自分では分からない)私を見て満足そうに
「私の試みは間違いじゃなかったね」
って言った。
兄にそういう「狙い」があったかどうかは分からない。
でも、‥あったのかもしれないな、とも思う。
「真ん中の人」である王には、「そういうものを自然と引き当てる」能力が生まれつき備わっていたから。
兄に任せておけば間違いが無い。
兄の言う通りにしたら上手くいく。
っていうのは、サラージと私の共通認識だった。
兄は、引きが良いだけじゃなくって、私たち兄弟を凄く愛してくれていた。
私たち兄弟の為になるから、厳しい家庭教師をつけてくれたし、厳しい剣術指南をつけてくれた。
物を与えたり、単純に「なんでも肯定してくれるイエスマン」をつけたり、単純に「最高の護衛」をつけるんじゃなくて、私たちに「最高の学びの機会」と「最高の先生」をつけてくれた。
だから、今回の事だって、きっと兄には分かっていたんだ。
ミチルと接することによって私が大きなものを得られるだろうっていう事を。
私が「いい風に」変わるだろう‥ってことを。
ただ、それが「兄としての愛情」からか、「王族としての勉強の為」なのかは分からない。
次期王として兄の愛情は、ただ単純に「愛している」っていうのとは違っていたんだ。(それは仕方ないね)
でも、「王族として以前に人として足りない感情・人に対する垣根なしの感情」を教えるっていうなら、それはサラージに対してもいえた。
それならこの任務はサラージの方が適していたのではないか? そう疑問に思った。
だって、単純に異世界のリバーシを監視するなら同じリバーシのサラージの方がいい。生活スタイルも共通しているし(← 徹夜しても辛くない)「リバーシあるある」で話もあう‥かもしれない(これについては‥「ない」って今なら言える。ホントに、サラージじゃなくてよかった‥。でも、案外「喧嘩する程仲がいい」コンビになったかも‥いや、そこまで親しくなることがそもそもないな。サラージが「表面だけ仲良くしてそれでもういいや」ってなりそうだ)
なぜ、サラージじゃなくて、自分だったのか。
サラージが言うように「会ったことない婚約者がリバーシだから」リバーシを知る為? だけど、それなら「普通のリバーシ」との交流で事足りたのではないか?
なぜ、「異世界からのリバーシ」であるミチルとの交流が重要だったのか‥。
その答えを、兄から聞いたとき、私の頭に浮かんだのは、そのときは、困惑、ただ一文字だった。
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