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十一章 特別な人
閑話休題1 幼馴染
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(主にラルシュによる説明)
「ミチルは黒寄りだよね」
ナラフィスが腕組みしながら呟いた。
「珍しいタイプだよね。リバーシだけど白寄りじゃない‥のは異世界人だからしょうがないって思うけど、異世界人だけど、真ん中寄りじゃない。それって珍しいよね」
って机に用意してあったクラッカーをつまむ。
研究大好きなナラフィスは、食事もせずに研究に没頭する。一度ぶっ倒れたときに「懲りた」らしく、今は「時間をセットしておいて」ポーションを飲んでいる、らしい。
ホントの事はわからない。
だけど、
「倒れたら時間が無駄だから飲むよ」
理由がナラフィス「らしい」から、ホントなんだろう。
クラッカーはヒジリがこの前異世界から持ってきた。
「研究しながらでもつまめるから」
「固形物を食べろ。歯が退化するぞ」
って「オカンみたい(笑)」(← ミチル談)なおせっかいで、だ。
手軽さと日持ちを考慮したヒジリのセレクトは他に、飴だとか、チョコレートバーだとか、高カロリークッキーだとか、異世界製ポーション(栄養ドリンク)だとか。
婚約者からのプレゼント。しかも、異世界からの興味深い品々(今までの研究者はそういうものを持ち込んだことはなかった)。ナラフィスはヒジリからのプレゼントをすべて自分のスペースに終いこみ
「ラルシュは食べるなよ。王子様に変なもの食べさせた、とか怒られたら困る」
ってくどい程釘を刺した。
別にヒジリからのプレゼントを他人にあげたくないから、とかじゃない。普通に、私が王子だからって理由だ。
何かあったら、(たとえヒジリからのプレゼントに関係が無かったとしても)一番に疑われるのは、城の外から持ち込まれたものだ。そういうことがあるかもしれない。
そうなると、自分もヒジリも困る。
ただそれだけ。
ナラフィスは(私が言うのもなんだけど)恋愛に興味がない男なんだ。
ヒジリのこと「美人」って言ってるのは嘘じゃないんだろうけど、多分「美人だけど、それが何」ってとこか。女が恋愛対象じゃない、どっちかというと男が好き‥とかじゃない。
女も男も興味がないんだ。それこそ、研究以外なにも。
そこまで他人に無関心だと心配になってくる。
‥私も恋愛に淡泊だけど、あそこまでじゃない。(多分)
ヒジリのこと「可愛い」って思ったりすることも‥(ヒジリへの好意を自覚した)これからはあるだろうし、ヒジリに近づく男に嫉妬位するだろう。(‥多分。これからはきっと! )
現に今もヒジリからプレゼントをもらったナラフィスに嫉妬‥はしてないな‥。
アレだ、プレゼントの種類にもよるんだ!
ナラフィスに好意を伝える為のプレゼントではなく、「ただ単に」健康を気にかけてのプレゼントだから!
「変なもの‥確かに地球製品って相対的に身体に悪そうな感じするよな。添加物とか入ってるし」
(ナラフィスの先ほどの「変なもの」発言のに)くすくすと笑ったのはヒジリだ。
ヒジリの笑い方はこの頃女の子っぽくなってきた。
話し方は今まで通り男っぽいままなのに、ふと見せる仕草やなんかが女の子っぽい。
女らしくなったとかではなく、「女だったって思いだした」から‥だろうか。理由はわからないし、ヒジリにもいう気はない。ヒジリは今までの男の記憶が邪魔をしているのか、自分を女だと素直に認めたくない‥らしい。そんなことを言おうものならきっと「今まで以上に気をつけて」男らしくしようって思ってしまうだろう。
それは避けたい。
ナラフィスにも釘を刺しておこうか‥と思ったけど、ナラフィスはあの通り朴念仁だからヒジリの小さな変化になんて気付いてもいないだろう。
まあ‥私も王族って立場柄他人の小さな変化を見落とさないって癖がついてるだけなんだろうけど‥。
「ヒジリからの贈り物をそんな風にいうやつはいないだろうけどね。ま、ラルシュとしては自分宛のプレゼントではない‥って方が問題なんじゃないか? 婚約者なのに私にはプレゼントが無い! って」
はは、
ってナラフィスが意地の悪い笑いをする。
勿論本心ではなく、揶揄ってるだけだ。
「何言ってるんだ‥」
私は口の悪い幼馴染‥ナラフィスに今日もため息をつくのだった。
(side ヒジリ)
「ヒジリからの贈り物をそんな風にいうやつはいないだろうけどね。ま、ラルシュとしては自分宛のプレゼントではない‥って方が問題なんじゃないか? 婚約者なのに私にはプレゼントが無い! って」
頭はいいが、口と態度が悪い天才研究者ナラフィスさんは今日もラルシュを揶揄っている。
‥揶揄っている‥が、全然ラルシュ様には相手されてないって感じ。
はは、ってつい笑ってしまった。
「俺からのプレゼントにそんな価値はないですよ。しかも、こんな安いものにね」
‥まあ確かに、どんなにつまらないものだとしても、一方にはプレゼントがあって、自分にはないって嫌だよね。‥今度はちゃんと持ってこよう‥って心に誓う。
それはそうとして‥
ホントにこの二人は仲がいい。
そして、サラージに実験されるほど‥ナラフィスはサラージとも仲がいいんだ。(この前、そんな話してたよね)(八章参照)
一体ナラフィスさんって何者なんだろ。幼馴染とか‥なのかな? ってことは、ナラフィスさんってもしかして高位の貴族?? ‥そんな感じしないけど。高位貴族の三男とか四男とかなのかな?? ‥そういう立場の人間じゃ王子様のご学友にはならないのかな。‥そういうの分からないけど‥お貴族様とかって大変だな。
出身地こそは同じだけど、俺は平民だからそういうの分からない。
地球は‥俺が住んでた日本はそういうのなかった。
王様が国を治めてたわけじゃないのに、国が混沌として「国盗り合戦でずっと国中の猛者が戦に明け暮れてた」とか戦国時代みたいなことにもなってなかった。
‥ここは、王様が国を治めてるけど、反対勢力がその政権を虎視眈々と狙ってる‥。(国盗り合戦とはちょっと違うみたいだけど)「
まあ、日本でも党による争いみたいなのはあった‥かな。真面目に勉強してこなかったからよくわかんないけど。
つまり、どこでも争いはある、って話だ。
「ラルシュ。ナラフィスさんのこと紹介してくれないか? 俺は‥良く知らないんだけど」
って言ったのは、夜になってこっちに戻ってきたミチルだ。(あ、俺昨日無断欠勤しちゃった! 明日‥ヤバいな~)
(それにしても)え? 「昔からラルシュと友達な」ミチルも良く知らないんだ‥ナラフィスさんのこと‥
「ああ、そうでしたね。彼は、研究オタクの変わり者で、私とサラージの勉学の師匠みたいなものです。彼はリバーシで、今回ヒジリを迎えに行く際に力を貸してもらいました。異世界渡りは魔法使いの力も要りますがリバーシの力なくしては出来ないんです」
ラルシュが今回の事を手短にミチルに説明する。
「へえ‥。ナラフィスさんはラルシュと昔からの知り合いなんですか? 」
ちらっと俺に非難の目を向けたあと、ミチルがナラフィスさんを見た。
‥ミチル、お前、しつこいな。まだ俺に説教し足りないのか‥
「ええ、そうですよ」
にっこりとナラフィスさんがミチルに笑いかけ、自分たちの出会いみたいなのを説明し始めた。
曰く
昔から学会誌に論文を発表していたナラフィスさんの論文にサラージが興味を持って、平民の振りしてサラージの方から接触を計った‥らしい。
で、会ってみたら自分よりちょっと年上なだけの子供だってのにサラージは驚き、王子だって名乗られたナラフィスさんも驚き‥ってことらしい。(そりゃな! )
で、なんだかんだあって、兄弟共々仲良くするようになった‥らしい。(きっと、色々「なんやかんや」あったんだろう)
‥この王子たち、ちょっとおかしい。
そもそも、ナラフィスさんもおかしいし。
「師匠‥って感じの扱いじゃないように見えるけどな! 」
はは! ってミチルが笑った。「それな! 」ってナラフィスさんも笑う。それは‥俺も思うけど、俺はそんなにこの大先生に軽口きけないな~。流石ミチルって感じ。
にしても、ナラフィスさんが論文を掲載してて、それをサラージが読んだってことは‥
「それは最近のことですか? 」
ちょっと気になって俺が聞くと、ナラフィスさんは
「いや、ずっと昔のことだよ。適性検査前位かな~」
って答えてくれた。
‥そんな小さいころからナラフィスさんは学者だったんだ。
凄いな‥。
「最初はアカデミーで会ったんだけど、城から「頼むから城で会ってくれ」って頼まれて‥城で家庭教師みたいなこともするようになったりしてね。勉強を教える以外でも遊ぶ様になったりして‥気が付けば「ご学友」ってポジションになってた。言うならば幼馴染だね。
ヒジリにとってのナツミちゃんみたいな関係かな」
ナツミ。
つきり、こころにまた小さな棘が刺さった。
ナツミは俺のこと‥どう思ってたんだろう。‥今、どう思ってるんだろう。
「ナツミ‥」
思わず呟いてしまいはっとした。
‥ミチルはナツミの事を良く思っていない。
「‥いや、なんでもない」
と、胡麻化そうとしたら、ミチルがいつになく真面目な顔をして、俺に頭を下げた。一瞬躊躇してなんか言いたそうな顔をちょっとして、そのあと(ちょっと「あきらめたように」)がばっと勢いよく。
驚いて目を見開いている俺の前で、俯いて表情の見えないミチルは珍しくぼそぼそと‥
「‥幼馴染の事、「敵」とか悪く言ってゴメン。あの時の俺はホントに何も考えてなかった。‥考えずに、ヒジリの幼馴染の事悪く言った。
‥俺はナツミちゃんのこと知らないから、そりゃ今でもナツミちゃんの事良くは思えない。‥今のヒジリの状況から言えば、関わらないでほしいって思う。
だけど‥それは「今の」話だ。
今がそうだからって‥昔のことまで‥悪く言うのは間違ってるよな‥。ホント、悪かった」
言い、そのあと、そっと顔を上げた。
ちょっとやめてよ、その捨て犬みたいな顔。
上目遣いで「許して」アピールとか‥! ホント、あざとすぎない!?
「‥いや、‥俺は‥別に気にしてないから。
‥そりゃナツミからもらった魔道具で俺が眠らされてたんだから、誰でも「ナツミのせいで」って思う。それは仕方が無い‥。なのに‥あの時は、‥怒っちゃって‥こっちこそゴメン。
ミチルは俺のこと心配してくれてたのにな。‥ありがとな」
へへ、って照れ笑いしてしまった。
(俺の方こそ)真剣に謝らなきゃいけないのに、‥なかなか難しいね。なんか「照れ隠し」って感じに‥なっちゃった。
しかも、なんかいっぱい喋っちゃった。‥なんか余計なこと喋ってないかな。
俺って焦ったり、隠したいことがある時ほど饒舌になっちゃうんだよな~。
ーだけど、それは今の話だ。今がそうだからって、昔のことまで悪く言うのは間違ってるよな‥ー
俺は‥今の事実だけで‥あの時のナツミのことまで否定されてるのホントに嫌だった。‥それを、ミチルは分かってくれた。‥俺の気持ちを考えてくれた‥。思ったことを全部口に出して、その場だけで忘れてる‥って思ってたけど、違った。ミチルは‥確かにあの時は思ったことを口に出したのかもしれないけど、俺の表情も‥見てて‥気にしてくれてたんだ。ずっと‥
キラキラ輝くガラス玉のようだった幼い日の思い出。
あの日々まで否定しなくていいって‥言ってくれた‥んだよね?
‥今と昔は‥ナツミにとってはつながっていないのかもしれないけど、‥俺にとってはまだつながってる。
‥そう信じたいんだ。
「ミチルは黒寄りだよね」
ナラフィスが腕組みしながら呟いた。
「珍しいタイプだよね。リバーシだけど白寄りじゃない‥のは異世界人だからしょうがないって思うけど、異世界人だけど、真ん中寄りじゃない。それって珍しいよね」
って机に用意してあったクラッカーをつまむ。
研究大好きなナラフィスは、食事もせずに研究に没頭する。一度ぶっ倒れたときに「懲りた」らしく、今は「時間をセットしておいて」ポーションを飲んでいる、らしい。
ホントの事はわからない。
だけど、
「倒れたら時間が無駄だから飲むよ」
理由がナラフィス「らしい」から、ホントなんだろう。
クラッカーはヒジリがこの前異世界から持ってきた。
「研究しながらでもつまめるから」
「固形物を食べろ。歯が退化するぞ」
って「オカンみたい(笑)」(← ミチル談)なおせっかいで、だ。
手軽さと日持ちを考慮したヒジリのセレクトは他に、飴だとか、チョコレートバーだとか、高カロリークッキーだとか、異世界製ポーション(栄養ドリンク)だとか。
婚約者からのプレゼント。しかも、異世界からの興味深い品々(今までの研究者はそういうものを持ち込んだことはなかった)。ナラフィスはヒジリからのプレゼントをすべて自分のスペースに終いこみ
「ラルシュは食べるなよ。王子様に変なもの食べさせた、とか怒られたら困る」
ってくどい程釘を刺した。
別にヒジリからのプレゼントを他人にあげたくないから、とかじゃない。普通に、私が王子だからって理由だ。
何かあったら、(たとえヒジリからのプレゼントに関係が無かったとしても)一番に疑われるのは、城の外から持ち込まれたものだ。そういうことがあるかもしれない。
そうなると、自分もヒジリも困る。
ただそれだけ。
ナラフィスは(私が言うのもなんだけど)恋愛に興味がない男なんだ。
ヒジリのこと「美人」って言ってるのは嘘じゃないんだろうけど、多分「美人だけど、それが何」ってとこか。女が恋愛対象じゃない、どっちかというと男が好き‥とかじゃない。
女も男も興味がないんだ。それこそ、研究以外なにも。
そこまで他人に無関心だと心配になってくる。
‥私も恋愛に淡泊だけど、あそこまでじゃない。(多分)
ヒジリのこと「可愛い」って思ったりすることも‥(ヒジリへの好意を自覚した)これからはあるだろうし、ヒジリに近づく男に嫉妬位するだろう。(‥多分。これからはきっと! )
現に今もヒジリからプレゼントをもらったナラフィスに嫉妬‥はしてないな‥。
アレだ、プレゼントの種類にもよるんだ!
ナラフィスに好意を伝える為のプレゼントではなく、「ただ単に」健康を気にかけてのプレゼントだから!
「変なもの‥確かに地球製品って相対的に身体に悪そうな感じするよな。添加物とか入ってるし」
(ナラフィスの先ほどの「変なもの」発言のに)くすくすと笑ったのはヒジリだ。
ヒジリの笑い方はこの頃女の子っぽくなってきた。
話し方は今まで通り男っぽいままなのに、ふと見せる仕草やなんかが女の子っぽい。
女らしくなったとかではなく、「女だったって思いだした」から‥だろうか。理由はわからないし、ヒジリにもいう気はない。ヒジリは今までの男の記憶が邪魔をしているのか、自分を女だと素直に認めたくない‥らしい。そんなことを言おうものならきっと「今まで以上に気をつけて」男らしくしようって思ってしまうだろう。
それは避けたい。
ナラフィスにも釘を刺しておこうか‥と思ったけど、ナラフィスはあの通り朴念仁だからヒジリの小さな変化になんて気付いてもいないだろう。
まあ‥私も王族って立場柄他人の小さな変化を見落とさないって癖がついてるだけなんだろうけど‥。
「ヒジリからの贈り物をそんな風にいうやつはいないだろうけどね。ま、ラルシュとしては自分宛のプレゼントではない‥って方が問題なんじゃないか? 婚約者なのに私にはプレゼントが無い! って」
はは、
ってナラフィスが意地の悪い笑いをする。
勿論本心ではなく、揶揄ってるだけだ。
「何言ってるんだ‥」
私は口の悪い幼馴染‥ナラフィスに今日もため息をつくのだった。
(side ヒジリ)
「ヒジリからの贈り物をそんな風にいうやつはいないだろうけどね。ま、ラルシュとしては自分宛のプレゼントではない‥って方が問題なんじゃないか? 婚約者なのに私にはプレゼントが無い! って」
頭はいいが、口と態度が悪い天才研究者ナラフィスさんは今日もラルシュを揶揄っている。
‥揶揄っている‥が、全然ラルシュ様には相手されてないって感じ。
はは、ってつい笑ってしまった。
「俺からのプレゼントにそんな価値はないですよ。しかも、こんな安いものにね」
‥まあ確かに、どんなにつまらないものだとしても、一方にはプレゼントがあって、自分にはないって嫌だよね。‥今度はちゃんと持ってこよう‥って心に誓う。
それはそうとして‥
ホントにこの二人は仲がいい。
そして、サラージに実験されるほど‥ナラフィスはサラージとも仲がいいんだ。(この前、そんな話してたよね)(八章参照)
一体ナラフィスさんって何者なんだろ。幼馴染とか‥なのかな? ってことは、ナラフィスさんってもしかして高位の貴族?? ‥そんな感じしないけど。高位貴族の三男とか四男とかなのかな?? ‥そういう立場の人間じゃ王子様のご学友にはならないのかな。‥そういうの分からないけど‥お貴族様とかって大変だな。
出身地こそは同じだけど、俺は平民だからそういうの分からない。
地球は‥俺が住んでた日本はそういうのなかった。
王様が国を治めてたわけじゃないのに、国が混沌として「国盗り合戦でずっと国中の猛者が戦に明け暮れてた」とか戦国時代みたいなことにもなってなかった。
‥ここは、王様が国を治めてるけど、反対勢力がその政権を虎視眈々と狙ってる‥。(国盗り合戦とはちょっと違うみたいだけど)「
まあ、日本でも党による争いみたいなのはあった‥かな。真面目に勉強してこなかったからよくわかんないけど。
つまり、どこでも争いはある、って話だ。
「ラルシュ。ナラフィスさんのこと紹介してくれないか? 俺は‥良く知らないんだけど」
って言ったのは、夜になってこっちに戻ってきたミチルだ。(あ、俺昨日無断欠勤しちゃった! 明日‥ヤバいな~)
(それにしても)え? 「昔からラルシュと友達な」ミチルも良く知らないんだ‥ナラフィスさんのこと‥
「ああ、そうでしたね。彼は、研究オタクの変わり者で、私とサラージの勉学の師匠みたいなものです。彼はリバーシで、今回ヒジリを迎えに行く際に力を貸してもらいました。異世界渡りは魔法使いの力も要りますがリバーシの力なくしては出来ないんです」
ラルシュが今回の事を手短にミチルに説明する。
「へえ‥。ナラフィスさんはラルシュと昔からの知り合いなんですか? 」
ちらっと俺に非難の目を向けたあと、ミチルがナラフィスさんを見た。
‥ミチル、お前、しつこいな。まだ俺に説教し足りないのか‥
「ええ、そうですよ」
にっこりとナラフィスさんがミチルに笑いかけ、自分たちの出会いみたいなのを説明し始めた。
曰く
昔から学会誌に論文を発表していたナラフィスさんの論文にサラージが興味を持って、平民の振りしてサラージの方から接触を計った‥らしい。
で、会ってみたら自分よりちょっと年上なだけの子供だってのにサラージは驚き、王子だって名乗られたナラフィスさんも驚き‥ってことらしい。(そりゃな! )
で、なんだかんだあって、兄弟共々仲良くするようになった‥らしい。(きっと、色々「なんやかんや」あったんだろう)
‥この王子たち、ちょっとおかしい。
そもそも、ナラフィスさんもおかしいし。
「師匠‥って感じの扱いじゃないように見えるけどな! 」
はは! ってミチルが笑った。「それな! 」ってナラフィスさんも笑う。それは‥俺も思うけど、俺はそんなにこの大先生に軽口きけないな~。流石ミチルって感じ。
にしても、ナラフィスさんが論文を掲載してて、それをサラージが読んだってことは‥
「それは最近のことですか? 」
ちょっと気になって俺が聞くと、ナラフィスさんは
「いや、ずっと昔のことだよ。適性検査前位かな~」
って答えてくれた。
‥そんな小さいころからナラフィスさんは学者だったんだ。
凄いな‥。
「最初はアカデミーで会ったんだけど、城から「頼むから城で会ってくれ」って頼まれて‥城で家庭教師みたいなこともするようになったりしてね。勉強を教える以外でも遊ぶ様になったりして‥気が付けば「ご学友」ってポジションになってた。言うならば幼馴染だね。
ヒジリにとってのナツミちゃんみたいな関係かな」
ナツミ。
つきり、こころにまた小さな棘が刺さった。
ナツミは俺のこと‥どう思ってたんだろう。‥今、どう思ってるんだろう。
「ナツミ‥」
思わず呟いてしまいはっとした。
‥ミチルはナツミの事を良く思っていない。
「‥いや、なんでもない」
と、胡麻化そうとしたら、ミチルがいつになく真面目な顔をして、俺に頭を下げた。一瞬躊躇してなんか言いたそうな顔をちょっとして、そのあと(ちょっと「あきらめたように」)がばっと勢いよく。
驚いて目を見開いている俺の前で、俯いて表情の見えないミチルは珍しくぼそぼそと‥
「‥幼馴染の事、「敵」とか悪く言ってゴメン。あの時の俺はホントに何も考えてなかった。‥考えずに、ヒジリの幼馴染の事悪く言った。
‥俺はナツミちゃんのこと知らないから、そりゃ今でもナツミちゃんの事良くは思えない。‥今のヒジリの状況から言えば、関わらないでほしいって思う。
だけど‥それは「今の」話だ。
今がそうだからって‥昔のことまで‥悪く言うのは間違ってるよな‥。ホント、悪かった」
言い、そのあと、そっと顔を上げた。
ちょっとやめてよ、その捨て犬みたいな顔。
上目遣いで「許して」アピールとか‥! ホント、あざとすぎない!?
「‥いや、‥俺は‥別に気にしてないから。
‥そりゃナツミからもらった魔道具で俺が眠らされてたんだから、誰でも「ナツミのせいで」って思う。それは仕方が無い‥。なのに‥あの時は、‥怒っちゃって‥こっちこそゴメン。
ミチルは俺のこと心配してくれてたのにな。‥ありがとな」
へへ、って照れ笑いしてしまった。
(俺の方こそ)真剣に謝らなきゃいけないのに、‥なかなか難しいね。なんか「照れ隠し」って感じに‥なっちゃった。
しかも、なんかいっぱい喋っちゃった。‥なんか余計なこと喋ってないかな。
俺って焦ったり、隠したいことがある時ほど饒舌になっちゃうんだよな~。
ーだけど、それは今の話だ。今がそうだからって、昔のことまで悪く言うのは間違ってるよな‥ー
俺は‥今の事実だけで‥あの時のナツミのことまで否定されてるのホントに嫌だった。‥それを、ミチルは分かってくれた。‥俺の気持ちを考えてくれた‥。思ったことを全部口に出して、その場だけで忘れてる‥って思ってたけど、違った。ミチルは‥確かにあの時は思ったことを口に出したのかもしれないけど、俺の表情も‥見てて‥気にしてくれてたんだ。ずっと‥
キラキラ輝くガラス玉のようだった幼い日の思い出。
あの日々まで否定しなくていいって‥言ってくれた‥んだよね?
‥今と昔は‥ナツミにとってはつながっていないのかもしれないけど、‥俺にとってはまだつながってる。
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