リバーシ!

文月

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十二章 ヒジリと地球の仲間たち

6.愛すべき不器用さんの血縁。

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(side ヒジリ)


 ‥とはいえ、自分の危険性はちゃんと知っておかないといけないな、と思う。
 取り扱いを誤って、ドカンって爆発して‥周りを巻き込むとか‥あってはならない。
 ‥時の暴走ってことになるのかな。
 巻き戻し? 早送り?
 今まで意識して「そういう風に」使って来たことはない。
 父さんと違って、だ。
 そういう風な使い方を父さんに聞いて知っておかないと‥。
 対ナツミ戦に使えるかもしれないし。
 案外ナツミは「新しいスキル」に興味津々になって、俺のこと殺そうと思ってたことなんか忘れちゃうかもよ。
 ‥そういえば、ナツミってそういうとこあった。
 しっかりしてるけど、単純で‥ホントに純粋に魔法が好きだった。
 なんか研究大好きなナラフィスさんと似てる。
 学者とかそういう「何かを極める程になれる者」ってのは、‥普通の人とちょっと違うんだろうな~。

 ‥なんて、いつもの様に無理に違うことを考えて現実逃避してみたけど、胸のドキドキ‥というかざわざわは一向にどこかに行ってくれなかった。

「なんで‥」
 なんで俺だけなんだろう。
 俺が何をしたって言うんだろう。
「なんで俺が‥っ! 」
 思わず座り込んで頭を抱えて‥血を吐くみたいに叫んだ俺を父さんと母さんが必死で抱きしめた。
「ヒジリ‥」
「ヒジリ‥! 」
 
「大丈夫だよ‥ヒジリは、きっと神様に、信用されてるんだよ」

 って、涙を滝の様に流しながらも‥無理に笑顔を作った母さんが言った。
 母さん‥酷い顔してるよ。
 化粧してなくてよかったね。化粧してたらきっと酷いことになってたよ。

「そうだ、大丈夫だ。神はその人に出来ないような試練はお出しにならない。‥ヒジリなら大丈夫だ」

 って‥無理に真面目な顔をしたのは父さんだ。
 父さん、目が真っ赤だよ。
 父さんが泣くの初めて見たよ。
 ‥大丈夫? あんまり怒ったり泣いたり‥表情筋普段使わないのに‥明日筋肉痛にならない? ‥それより、泣いたことによってまたこの庭水浸しとかにならない?

 この場で、一番「無理して」笑おうとしてるのは俺で、一番空回りしてるのも俺だっていうのは間違いはないけど、‥これはどうやら遺伝みたい。
 俺は間違いなくこの「愛すべき不器用さんたち」の血を引いているみたい。
  
 世界で俺だけじゃない気がして、少しほっとした。

 ‥朝起きて、「夢か‥」って汗で濡れた額を拭う。汗だくの自分に自嘲笑いを浮かべ、夢だったことにほっとして、心からの微笑を浮かべる。
 そして、現実が夢程悪くないことに感謝する。

「悪い夢なら覚めてくれ」
 普通の人は良く言うけど、俺は夢なんて見たことすらない。
 夢を見ることは、人間にとって意味があることだっていう。
 ストレスを解消したり、‥何かを整理したり。
 そう書いてあった。
 そういう、頭の中を整理する時間を与えないで、時間に対する「特別な権限」与えるなんて、どうかしてるんじゃないか?
 俺は、ストレスを解消しないでいいのか。

 頭爆発して周りをぐちゃぐちゃにしちゃうかもよ?

「ああ、でも俺は今までそんなに後悔するようなことも、ストレスが溜まるようなことも‥なかった」 
 (概ね)能天気で、楽観的で、ポジティブ。あと‥結構「自分に優しい」。俺が‥気が付いたら別なことを考えて現実逃避しちゃうのも、リバーシ故なのかもしれない。
 あと‥恵まれてるよね。
 時間が無くって焦ることも、睡魔に負けて寝落ちしてしまった後悔もなかった。
 「焦らなくても時間はたっぷりある」っていつも誰よりも余裕な顔をしてた。
 昔からある程度器用で特別出来るってわけでもなかったが、人並みに何でも出来た。(ついたあだ名が「器用貧乏」とか「All normal」だった)
 悔しくって泣いたことも、自分よりできる子を恨んだこともなかった。
 自分より出来る子もいたけど「すごいね」って思うだけだ。
 別に、‥一番じゃなくたって構わない。
 唯一の悩みは「魔法に憧れているけど」「魔法が使えない」ってことだろうけど、‥これだって、魔法に変わる「状態異常」と「スキル」で代用が効く。
 そんな風に、結構満足して「幸せに」暮らして来たんだ。

 これ以上、「無い物ねだり」はしちゃだめだよってね。

 でもね。
 All normal ってね。
 なんでも出来る、んじゃないんだよ。
 何にも突出したものがない、ってことなんだよ。
 それならね、ある一つのこと以外何にも出来ない方がよっぽど上だよね。
 ‥学生時代、何故か絵だけが凄く好きなやつがいたよ。背が小さくて、分厚い眼鏡をかけてて、口数も少なくって口下手で、‥別に勉強もできなかったし、運動も苦手だった男の子。
 勿論モテなかったし、友達も少なかった。誰かと談笑してるのも見たことはない。
 休み時間もずっと一人で絵をかいてた彼に皆は「あいつ、なにが楽しいんだろ」って言ってたけど、‥俺はなにか羨ましかった。
 あの「羨ましい」は、「それ程好きになれるものがある」ことに対する「羨ましい」だったんだって今ならわかる。
 誰よりも上手になりたいって思える「何か」がある彼が羨ましかったんだ。
 思えば俺は‥何にも執着を持てない質だったから。
 執着って、努力の原動力だよ。執着しなかったら「あいつに勝てなくて悔しい」も「これを極めて、世界とっちゃる! 」もない。
 だけど、それは俺だけじゃなく、リバーシに多い特徴だっていう。
 あんまり恵まれてるから「平和ボケ」しちゃうんだろう。

 でも、
 リバーシだから、だけじゃない。

 俺の場合は‥世界の災厄だから、だ。
 ‥俺なんかが特別大事なものを持ったら、その為に世界を壊しかねない。

 皆平和が一番だって思う。


「児嶋、情報システムの‥小山ゼミのマドンナに告白された? 」
 大学の友人に聞かれたことをふと、思い出した。
 ‥あれは誰だっけ。同じゼミの子だった。顔は覚えてるけど、そういえば名前は覚えてないな。大学の友達は全員そんな感じ。(大学だけでなく、小中高まとめてそんな感じ)
 大学時代は、ちょっと親元離れて下宿したんだよね。田舎だったから、通学圏内に大学が無かったから。(電車で帰ってて、途中で12時とかになったらまずいから)
 今まで住んでたとこよりちょっと都会で、「こんなに沢山の人がいるんだ」って驚いたっけ。
 情報系の大学で男子の方が多く、女子は全学生数の一割に満たない位しかいなかったけれど、それでも今まで見たことがないくらいいた。
 ドキドキした‥とかいうより、戸惑った。
 化粧もしたこともないような「純朴な田舎の子」や「男勝りな子」もいたけど、都会っぽいお洒落な子もいて、そういう子は(多分他の学校よりも)男子に囲まれる傾向にあった。(女子が少ないからね)
 モテる子は、マドンナって呼ばれてたっけ(今考えると、ガキっぽいね)
 まあ‥そんな注目されてるマドンナだから、マドンナがすることも結構皆知ってる‥ってわけ。
 ‥だろうけど‥ね。
「‥なんで知ってるんだよ」
 学生時代の俺が嫌そうに‥ため息交じりにその何とかって男子学生に返事する。(面倒だから、男子Aとでもしておこうか)
 男子Aは俺が不機嫌そうなのを「照れてる」とでも思ったらしく、揶揄うみたいに
「いや、小山ゼミに知り合いいるからさ~。彼女、ゼミ内で「絶対児嶋君を落としてみせる! 」って言ってたみたいでさ~」
 って言ってきた。
 俺はげんなりした。
 ‥そういうこと、普通皆に言う事かね‥。断られないって(落とすって表現は嫌だな! )自信があったんだろうね。凄い美人だし、人気もあるからそう思ったんだろうけど‥。
 もう一度ため息を着く俺に男子Aがしつこく
「で、どうなの。付き合うんでしょ? 」
 って聞いてくる。
「俺ね。付き合うとかそういうの興味ないの。‥ってか、誰かを特別に好き、って気持ちがわかんない。皆で一緒、の方が楽しいって思うわけ」
 俺はうんざりしてるって顔を表情に出さないように、努めてにこやかに言った。
 男子Aは、苦笑い
「‥プレーボーイな発言だね。流石イケメン。ガツガツしてないわ~」
 ‥なんて、言う。
 ‥なんだそりゃ!
「プレーボーイって、特定の人を持たずに皆とそういう‥恋愛をしようっていう人でしょ? 俺は‥そういうのじゃない。特定の人を持つ気はないのはそうだけど‥不特定多数の子とそういうことしたいわけではない」
 俺は男子Aにそう説明した。多分「間違ってはいない」返答だと思う。
 誰にも角が立たない「間違ってない」返答。
 が
「誰にも興味がないってこと? 」
 男子Aは不服そうだ。
 なにかおかしかったかな? なんか、「何様? 」発言しちゃったかな?? 
「興味がない‥って言ったら、皆に失礼じゃない? 興味は皆に対してあるけど、恋愛感情はない‥って感じかな~。俺、そういうのに疎くって。‥ガキっぽいのかなあ」
 俺は慌ててフォローする。
 男子Aは尚も‥というか更に不服そう。

「ふうん‥? なんか、優等生の発言だなあ‥優等生っていうか‥血が通ってないっていうか‥、お前の言葉で語れよって感じする」

 俺の言葉って。
 ‥俺の言葉で、俺が発言してるのに「俺の言葉で語れ」とはそれ如何に。
「俺の好みじゃない、って言えばいいんだよ。あれこれ言い訳されたら、余計に傷つく」
 好み。
 あ~、好みは確かに「俺の言葉」だよな。「俺の好み」は俺自身のもんでしかないもんな。
 なんか‥妙に納得した俺に、男子Aは言ったんだ。

「皆に気を遣うお前は偉いとは思うけど、窮屈そうだ。‥もっと、自由に我儘にふるまっても、誰も文句いわない。人は、言うほど人のこと見てない。
 まあね、確かにいないこともないよ。人の言う事にいちいちなんか言うやつ。だけど、別に深く考えて言ってるわけじゃない。揚げ足取ってるだけだ。そういうのは聞き流しておけばいい。
 でも、どうしても気になって‥許せないなら、そんな奴とは付き合わなかったらそれでいい。
 人の言う事、やることにいちいち振り回されなくてもいい。
 みんなにとっていい人なんかになろうと思わなくてもいい。
 八方美人は誰もの友達じゃなくって、誰の友達でもない」

 なんか、カッコイイな、って思った。(勿論、恋愛感情ではなく、だ)
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