リバーシ!

文月

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十二章 ヒジリと地球の仲間たち

0(閑話).ナラフィス「ツボる」① ~乙女ゲーム ヒロイン「ヒジリ」~

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(side ナラフィス)


 ‥乙女ゲームの「ぬるいハーレム」みたい‥。
 みんな「ヒロインちゃん大好き♡」で、ヒロインちゃんは凄く性格良くって可愛くって、でもって、やたらチートで皆に好かれてる‥。だけど、ウルトラ鈍感で彼らのloveには気付いてない。そして「皆の幸せを祈ってます! 」っていう、嘘みたいな話‥。

「無いわ~」

 って、「ウルトラ鈍感」な「可愛くて」「やたらチート」なヒロイン・ヒジリが笑った。
 僕は、つい‥突っ込んでしまいそうになるのも、大笑いしそうになるのもぐっと我慢して、もう一度お茶を淹れるため席を立った。

 数分後、また捨てた。

「あ‥俺淹れますよ。っていっても、俺も上手じゃないですけど‥お茶捨てるとか、良くないですよね」
 ヒジリが苦笑いして席を立ち、「ココにあるの使っていいですか? 」って確認を取って、お茶の用意を始めた。
 こうやってると、ヒジリは女の子にしか見えない。
 日に透けて輝くハチミツみたいな髪。肩を超えて背中の中ほどまであった軽いウエーブのかかった髪は、今は短く切ってしまっているけど(もったいない! )サラサラして、いかにも柔らかそう。短く切ったせいで首元の日焼けが心配になってくるほど‥真っ白で滑らかな肌。
 細い首、華奢な肩。ラフなカッターとスラックスを穿いているだけだのに漂うノーベルさ。
 細い腰。
 機嫌よさげに口元を微かにほころばせてお茶の用意をしている横顔の美しさ!
 
 ‥凄いね! ラルシュとかサラージを見慣れてる僕でも見惚れる美しさだね!

 ‥ってこれほど僕がガン見してるのに視線に気付かないのは、僕の視線に殺意がないからスルーしているのか、僕の視線に殺意がないから「乙女ゲームのヒロイン補正」により「攻略対象のloveに気付かない! 」ようになっているのか‥。
 いや、別に僕は「ヒジリlove」とかじゃない。この前も言ったけど僕は(僕より)身長が小さくて髪が長くて、癒し系のかわい~子がいい。
 贅沢言うなら、趣味が合って、僕が研究に没頭してても「わたしもそんなことあるわ~。だから仕方ないよね~」って‥文句言わないような「ほんわりした子」がいい!
 で、食事とかは別に僕がゆっくり取るタイプじゃないから、別に料理上手じゃなくてもいいけど、お茶を淹れるのがうまい子はいいな。
 美味しいお茶って気分がリフレッシュするよね。
 研究に行き詰ってるとき、美味しいお茶飲んだら「まあ、いいか」ってなるし、「これならどうかな」ってなるし。
 美味しいお茶はいいよね。
 あとは‥
 掃除とかうるさく言わない子がいい。
 僕はこんな感じだから、いつでも書類や本に囲まれて暮らしたいんだけど、時々いるじゃん? 「つかったらすぐ片付けろ! 」ってがみがみいう‥サラージみたいなタイプ。
 そりゃね、分かるよ。
 片付けてる方がきれいだよね。だけどね。見たいときにすぐ見たいじゃない。僕はサラージみたいに「一回読んだら覚える! 」タイプでも、ラルシュみたいに「その都度取りに行けばいいよね? 」タイプでもない。
 その、その都度本棚に取りに行く時間が嫌。
 その場にあったら、その時間短縮できるんだよ? 「その時間で気分転換になるじゃない? 」って、リバーシに気分転換要らない。
 淀みない川を流れ続ける小舟みたいな感じ。
 普通の人みたいに、「時々岸に上がらなきゃ疲れる」、とかない。
 僕にとって「本棚に本を取りに行く」っていう行為は、その「やらなくていい行為」をさせられるっていう苦痛な作業。
 順調に進んでるのに、わざわざ岸に上がって、用事をする、っていうね。
 それなら小舟に先に必要な物をなんでも積んでおきたい。
 重くなって沈みやすくなる? 
 ないな~。リバーシの船は普通の船よりちょっと大きいから。
 身体疲れない? 
 それが、ないんだよな~。

「ナラ‥ ナラフィスさん? 」
 ‥ヒジリ。
 呼んでたのか。気付かなかった。
 よくある、転寝を起こされる‥ってシュチュエーションみたいだけど、僕たちの場合は、勿論起こされたわけじゃない。(何度も言うけど、寝ないからね)
 ただ、自分の世界から引き戻されただけのことだ。

「考え事‥お邪魔しましたか? 」
 くすくすって笑う、
 相変わらず見目麗しい同類(リバーシ)
 ‥そういう笑い方とかも、可愛らしい「女の子」そのものだ。
 お前もう「俺は男だ! 」っていうの諦めたらいいのに。
 紅茶のカップを僕に差し出してくる。
 貴族としての作法は‥僕も習ったことがないから分からないけど、ヒジリの所作は丁寧で、好感が持てる。
 ‥指長い。細い。‥綺麗。
 ヒジリは僕の好きな「可愛い系」とはちょっと違うけど、‥流石(この世界)最高レベルのリバーシ。最高レベルの美形。
 今まで見た来た「綺麗」を集めたような美しさだ‥。
 
 ふんわりとした白いパンみたいな‥柔らかそうな頬。みずみずしい果物みたいな唇。通った鼻筋。光り輝くはちみつ色の細くサラサラした髪は‥いつか見た「収穫を待つ麦畑」みたいだ。同じ色の長い睫毛に縁どられた日の光りをうけて輝く若葉のような瞳は、宝石みたいに透き通っている‥。
 
 ああ、また見てた。‥変に思われる。
 (だが、ヒジリはやっぱり気付いていない様だ!! ‥ここまでくると、「寧ろ見慣れてるから気にならないってこと?? 」って思っちゃうね)

「え‥いや」
 僕は目をそっとヒジリからそらしながら、紅茶を受け取った。

「たいしたことじゃないよ。‥今日の晩御飯何しようかな~って考えてただけ」
 ‥言い訳にしても、ひどすぎる。もう少しましなものなかったかな‥。
「はは、なんですかそれは! 」
 ‥そこは「あはは」って肩をすくめて笑った方が可愛いぞ‥。腕を組んで肩をそらすんじゃない。

 う~ん。危ない。危うく「ヒロインちゃん大好きメンバー」に入るところだった。
 ヒジリ、十分「乙女ゲームのヒロイン」の素質あるんじゃない?

「あ‥うまい、紅茶‥」
「ホント! よかった! ミチルに教わったんだ。俺よりずっと上手いんだ、ミチル」
 ミチル‥。
 ああ、この前会ったリバーシ。
 あのイケメン、紅茶とか淹れるんだ。モテる要素満載って感じ。
「料理までは出来ないみたいだけど。あ、この前、一緒に鍋したよ」
 ‥鍋って調理道具でしょう。いくら僕でも知ってますよ。
 「鍋する」ってなんだ。
 ‥ホントに何なんだ?? いかん‥気になって止まらない‥
「鍋するって‥何? 」
「ああ! 鍋料理。ええと‥大きな土鍋で具材を煮て、その鍋を囲むんです」
 ‥鍋で煮る。それは分かる。普通だ。それを、囲む??
「鍋から直接具材を食べるのか? 」
 とりわけ無しで? ‥あまりにもダイナミック過ぎない? 
「あ~。気配りで取り分けてあげてる人とかいるけど、‥自分で好きなのを選べる方が楽しくないですか? あ~。そうですね~。こっちにはそういう調理法ないですよね。今度一緒にしませんか? 」
「ヒジリの手料理を一緒に食べるってこと? 」
 ‥ラルシュに殺される‥。
「ラ‥ラルシュも一緒なら‥」
 僕を殺す気かヒジリ‥。
 苦笑いすると、ヒジリは自分の料理が下手だからって勘違いしたんだろう。
「手料理って程じゃないですよ。きっと誰が作ってもおいしいです。大丈夫です」
 って笑った。
「でも、人数がいた方が楽しいですから、今度皆でやりましょう」

 ‥乙女ゲーム展開!

 ヒロインを取り囲む攻略対象。
 ラルシュ 穏やか王子様 優しい。ヒロインちゃんへの恋心につい最近気づいた。将来ヤンデレ度 ☆☆
 サラージ 俺様系王子様 実は優しいツンデレ。天才肌で仕事が出来る。ちょっと腹黒。ヒロインちゃんへの恋心は気付いていない。 将来ヤンデレ度 ☆
 ミチル さわやかイケメン。モテモテ。ヒロインちゃんへのプッシュが凄い。将来ヤンデレ度 ☆☆☆ 
 
 うわあ!! おもしろい、しかない! 
 僕?? 僕は関係ないよ!?
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