リバーシ!

文月

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十三章 乙女ゲームじゃなくって‥

3.ヒジリは‥

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(side サラージ)


 でも‥案外すぐに我に返った。
 だけど、「悪い、つい」って突飛ばそうとは‥思わない。
 寧ろ、なおも力を入れて抱きしめた。

 もしかして、これは現実じゃなくて、俺の願望が見せた夢なのかもしれないって‥。

 だけど、抱きしめて‥ヒジリが腕の中にいるって改めて実感すると‥かえって、冷静になった。

 これは、俺の夢じゃなくて、現実だ。
 
 ‥あ~、やっちまった。
 ラル兄の婚約者抱きしめてしまうとか‥ない。
 ここには、勿論だけど護衛も、俺の侍従も(気配を消して潜んでるから、ぱっとめには見えないだけで)いるのに‥。
 ああ‥もしかしたら、ラル兄の密偵とかいるかもな。
 なのに‥
 俺は‥

 俺は、「間違った選択をしてしまった」
 ヒロイン・ヒジリを「ラルシュローレ王子」とハッピーエンドにさせるのを邪魔する俺‥。
 乙女ゲームなら、これは俺のミスじゃない。
 「プレーヤー」の選択ミスだ。
 ヒジリをラルシュローレ王子攻略の妨げにしかならない俺と二人きりで会わせたりしたらダメだったんだ。
 だって‥ヒロインは「皆を魅了する」魅力あふれる「キャラ」だから。
 きっと一緒に居たら、雑魚な俺なんか魅了されてしまう。
 だから‥

 じゃあ‥俺のルートだったら?
 ヒジリはラル兄を捨てて、俺を選んでくれる? 

 でも「このヒジリ」は、乙女ゲームのヒロインなんかじゃない。
 誰にも操作されてない「素のヒジリ」だ。
 ヒジリは‥

 俺の頭の中に、「ヒジリを端的に表した言葉」が、あの時の記憶と共に浮かんできた。(← 更に現実逃避)

 
 あの後‥ナラフィスとマリアンの報告を受けて、密偵を帰して、ラル兄とちょっと話してから、ナラフィスを呼んで仕事の話をした。
 それはいつもと何も変わりはなかった。
 仕事の「キリ」がいい時にお茶にしようって言って、‥どんな話の流れだったかは忘れたが、俺が

「ナラフィス。
 ヒロイン・ヒジリの乙女ゲームの攻略対象は
「キングオブプリンス(プリンスなんだかキングなんだか)ラルシュローレ」「完璧王子 サラージ」「天才変人リバーシ ナラフィス」だけじゃないんだぞ。
「スマイル王子 ミチル」と「謎の地球人 ヨシカワ」がいるんだぞ」
 そんな話をした。
 ナラフィスがはは! って大笑いして
「うわ~こわ~、もうその情報来ちゃってる? 壁にミミアリー障子にメアリーってやつだね。
 ‥ってか誰だよ、ミミアリーとメアリーって」
 おどけたような口調で言った。
 王子に対して‥なのに、敬語とか遠慮とか一切ない。だけどそんなの今更、だ。ナラフィスと俺たち兄弟は、仕事のとき以外はいつもこんな感じだ。
 ‥ちなみに、ナラフィスは「こわ~」なんて言ったけど、勿論本心じゃない。
 ナラフィスは、いつも絶対に「なんでそんなこと知ってるんだよ! 」とか言わない。「聞かれてて当たり前」って思ってる。
 ナラフィスが「聞かれて困るような話」を城ですることなんか、ない。

 見られるのにも、聞かれるのにも、俺たち兄弟もナラフィスも慣れすぎてるんだ。

「絶対わざとだろ。(その諺)お前が知らないわけないだろ。『壁に耳あり障子に目あり』だろ」
 はあ、って俺がわざとらしくため息をつくと
「はは、バレたか」
 ってナラフィスは笑う。
 一見仲がいい仲間の会話だが、俺はナラフィスが見かけよりずっと腹黒くって計算高いことを知ってるし、俺はこの通り‥だし(← 黒寄りコンビ)ラル兄は‥多分俺たち三人の中で一番「狸」だ。

 ‥時々、三人で笑って話ても何か「芝居」をしているような気持になる。

「っていうかさ~。マリアンもだけど、何さらっと僕も登場人物にしちゃってるのさ。僕は攻略対象じゃないってばさ。攻略対象はもっとイケメンで、ハイスペックでキラキラしてるって相場が決まってるの! それに、ヒロインを好きっていうのも共通点ね。僕はそうじゃない。いっしょにいれないでよね~。
 ‥あと、ヨシカワってなに? 」
 さも興味なさそうにマドレーヌをつまみながら言ってたナラフィスは、「ヨシカワ」の言葉には反応したらしい。そこが好奇心も、探求心も旺盛なナラフィスらしくてちょっと笑ってしまう。
 俺は、
「ヒジリの同僚の男。ヒジリと入社以来親しくしているらしい。時々飲みにも一緒に行く仲らしい」
 報告にあった「ヨシカワ」情報を披露する。
 ナラフィスはふふっと人の悪い笑顔を浮かべると
「それはなかなか親しいね」
 俺に視線を向けて言った。
 なんだよ‥。

 あの時は、なぜか‥ちょっとイラっと来た。

「あともう一人‥「スマイル王子」のミチルはヒジリと半同棲してるけど、夜の間は二人ともこっちに来てるし、昼間はお互いの会社に行っているから接点はない」
 俺はナラフィスから視線をそらし(挑発にはのらないぞ! )説明を続けた。
 と、これも密偵情報。
 地球にも密偵はいるんだ。
 なんせ、王弟妃候補(ヒジリ)と王弟(ラルシュ)の側近候補(ミチル)がいるわけだから。
 それを聞くと、
「それは安心だね! だけど、夕飯は一緒に食べてるって言ってたね。夕飯食べながらイチャイチャ‥も出来ないことはないよね~。深夜12時以前のことも、早朝5時以降のことも‥彼らが室内にいる間のことは‥密偵には分からないわけだし」
 ナラフィスはふふ、と笑って、俺を生ぬるい目で見て揶揄ってきた。
 むっと来た俺は
「そうだな部屋の中のことは分からないわな。じゃあ、時々ナラフィスが室外でご飯を食べてるのは「彼ら(密偵)」に見せるためなのか? 仕事中の可哀そうな彼らに見せつけてやろ~って。‥趣味悪いねえ。
 あと‥夕食中にイチャイチャできるか‥だったね、そうそう「タツキさんご飯ちゃんと食べてますか? 」「仕事してたら忘れちゃって‥マリアンちゃんが食べさせてくれたら忘れず食べられるかも」「もう~。じゃあ‥はい、あーん」「あーん♡」‥ナラフィス先生が実験済みだったね」
 反撃だ。
 今まで微笑んで俺たちの会話を聞いていたラル兄がちょっと紅茶を吹いてせき込んだ。
 で、ちょっと俺を睨む。「なんだそれは聞いてないぞ」って顔。そうそう、そういう「どうでもいい情報」はラル兄の密偵はラル兄に知らせないもんね。こういう「どうでもいい情報」バッカリ集める奴が、俺の密偵にはいるんだ。
 大概が「要らない情報」だけど、時々‥ホントに時々「使える情報」が混じるんだよな~。
「聞いてんじゃねえよ、ミミアリー! 」
 ナラフィスが真っ赤になって叫んだ。
 はは、流石のナラフィスもそれまで見られてるとは思ってなかったようですね! 動揺して言葉遣いが乱れてますよ~?
 俺はにやり、と笑う。
 もうちょっと追撃いくよ!
「「タツキさん、手が冷たくなってますよ? 」「冷たいのは手だけだよ? 」ちゅ「ね、唇はあったかいでしょ? 」「も~タツキさんたら! 」」
 もう‥ラル兄の顔は真っ赤だ。
 顔を上げてられなくて俯いてるんだけど、首も真っ赤だ。
 ナラフィスの顔色は‥
 青白い。
「見てるんじゃね~よ、メアリー! 」
 俺のこと睨めつけながら叫んでるんだけど、負け犬の遠吠えにしか聞こえない! もう、可笑しくって可笑しくって! 
 俺はにやにやと笑ってナラフィスを見た。
 俺を揶揄うなんて、十万年早い! 
「‥‥‥」
 ナラフィスは黙って俺を睨みつけている。睨んでるっていってもあれだ、「恨みがましい目で見てる」ってやつ。
 哀れだけど、追撃の手は止めない。揶揄われたら揶揄い返す! 10倍にして! これって、地球の新常識なんだよね?
「マリアンちゃん可愛いよね。ちっさくって、髪の毛が長くって、肌もふわっふわしてそうだし。おっぱいも大きいし」
「おっぱいとか! ‥知らないし。‥関係ね~し」
 ナラフィスはさっきまで真っ白だったのに、今度は真っ赤だ。
 ラル兄は、‥俯いたまま‥固まってる。
 ‥面白い。
 ってか、知らないよ? マリアンちゃんのおっぱいが大きいかなんか。(報告を受けるだけで)見たことないし。興味もないし。‥だけど、ナラフィスのあの様子だと、‥見たことあるのか? いや、見たことは無いけど興味はあるって感じだな、あの様子だと。
 ナラフィスもムッツリ決定。
「関係ないの? 」
 俺が首を傾げると
「‥あるけど‥」
 赤面したナラフィスが顔を背けながらボソッと呟く。
 うん、まあ、もう勘弁してあげよっと。飽きたし、マリアンちゃんとかどうでもいいし。
「あるのかよ。‥まあ、いいや。まあ、そんな可愛いマリアンちゃんも意外とやることはやってるってことで‥ヒジリもわかんないよね~って話だ。ミチルとイチャイチャ夕飯デートしてるやもしれない」
 ついでとばかりにラル兄を揶揄ってやる。
 瞬間、ガバッと顔を上げたラル兄が
「ヒジリはそんなことしない! 」
 反撃した。真っ赤になったまま。
 ラル兄が叫ぶとか珍し~! うん、悪くない傾向だ。面白い
「‥いや、多分あの二人「そんな関係」じゃないよ。ミチルはそんな関係になってもいいって思ってるっぽいけど、ヒジリが」
 う~ん、ってナラフィスが分析する。
 もう顔は赤くない。白くもない。
 寧ろ、楽しそう。
 自分の事から話が離れると楽しそうだね‥。
 それはそれとして‥
「‥ヒジリが? 何? 」
 俺が首を傾げる。
 ミチルには興味ないってこと? 
 なんか、嬉しくなった自分に‥自分自身に首を傾げた。
「ヒジリは‥」
「ヒジリは? 」

「超絶ウルトラ鈍感だ」

「‥そうね」
 あの時、そこにいる三人が大いに納得して頷いたじゃないか‥。

 そう、ヒジリは‥超絶ウルトラ鈍感なんだ。(満場一致で納得したじゃないか! )


「‥? どうしたんですか? サラージ様」
 俺の腕に抱きしめられたまま、ヒジリが俺の耳に口を近づけ‥こそ、っと聞いてくる。
 護衛の人に聞かれちゃいけないような、内緒話ですか? 
 って

 ‥そうだった、ヒジリは超絶ウルトラ鈍感なんだ!
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