148 / 248
十四章 デュカとリゼリア
4.デュカとリゼリア ①
しおりを挟む
(side ラルシュ)
「デュカとリゼリア? 」
ナラフィスは私の言葉を反芻して、「そういえばあの二人はそんな名前だったな」って妙に納得したように頷いた。
私は今、最大の防音魔法を張って、ナラフィスと向き合っている。
周りには今、誰もいない。
護衛やナツカ達さえいない。
つまり、ここでの話が他に漏れることはないし、禁忌の話をしている私たちを咎める者もいないってことだ。
だから、ここで私たちが何を話そうが、ナラフィスが今から話す内容が、王家以外知る由もないこと‥「王家持ち出し禁止の禁書」からの情報だったとしても‥私が黙っていれば誰も分からないってことだ。
別に私はナラフィスが私たちを利用して禁書を読もうが何も言う気はないし、ナラフィスなら何とでも言い逃れが出来る。だって、彼は国で最高の学者だから‥なんとか見逃してもらえるだろう。だけど、うっかり内容をヒジリに話してしまうのは‥ちょっとやめてもらいたい。
ヒジリの立場が微妙だってこと、ナラフィスにはもっと自覚してほしい。
‥ナラフィスはヒジリにお后教育するって言いながら(この国の人間として扱うって言いながら)も‥「異世界人だから国内の秘密をばらしても大丈夫でしょ」みたいなところがある。
それってアブナイ。ヒジリには「この情報は「ここだけの話だから」他の人に言っちゃダメな奴」「これは大丈夫。皆知ってること」って線引きが出来ない。一つ一つ言わなきゃ分からない。それは当たり前だと思う。だって、ヒジリはこの国の記憶がまだあまり戻っていないし‥そもそも、ここの記憶っていっても、幼い頃の記憶しかない。‥そんな人間に、この国の人間だって知らないような事実もさらっとナラフィスが話しちゃってるんだもの。混乱しないわけないよね。
それにね
ヒジリって好奇心が旺盛すぎるし、ちょっと「鋭い」ところあるでしょ。それも、頭がキレるんじゃなくて、たまたま「引き当てちゃった結果」って感じで‥。この前の赤と青の一族と白と黒のインフルエンサーとの絡みも‥そもそもナラフィスが白と黒のインフルエンサーの話をヒジリにしてなかったら出てこなかった発想だ。
知ってたから浮かんだ発想。そして、「この国の常識」がないから出た発想。‥そして、たまたま口にしたそれが「なぜか核心をついているっぽい」ってこと‥。
誰かにそういうところを不審に思われたり、
「こいつは何か「知っちゃいけないこと」を知っているかも」
って変に勘ぐられても困る。
(そういう事実がなくても)ヒジリが王家に私の結婚相手として入ることに反対している古参貴族には攻撃の絶好のチャンスを与えることになる。
ヒジリを危険な目に合わせたくない。
だから
‥ヒジリには、今はまだ余計なことは知らせたくないってのが本心。
そんな私の懸念なんてまるでお構いなしで、ナラフィスは呑気なもんだ。
「ちょうど、最近ヒジリとその話をしたばかりだったんだ」
って楽しそうに言った。
まるで「偶然だね! 僕らも最近その話をしたんだよ」みたいな軽いノリ。
‥忘れちゃいないか?
ナツカがヒジリの監視だってことはナラフィスも知っているはずなのに‥。私が、「ヒジリの監視であるナツカから」事前に、ナラフィスがヒジリに「デュカとリゼリア」の話をしていた、という話を聞いていたってことは分かっているはずなのに‥。
ナラフィスは思いの外、(監視、教育対象としてではなく)ヒジリと友達の様に親しくなってきている。本心の読めないナラフィスには、珍しいなって思う。
まあ、今はそんな話している場合ではない。
魔法の限界もあるし、時間の限界もある。
「ナツカから聞いた。それで、私も「はっとした」んだ」
そうだ。
デュカとリゼリアだ!
って「はっとした」。
あの御伽噺の主人公の二人の名前を思い出した時、私は今までずっと「引っかかっていた」ことが形になったのを感じた。
ヒジリが産まれて来たのは‥
歴史が繰り返されようとしているのではないかって「気付いた」んだ。
ナラフィスが頷く。
「確かに、ヒジリが今この世界に生まれて来た意味は考える必要がある。そして、その‥「歴史が繰り返されようとしているのではないか」って考えには僕も同感だ」
ナラフィスが頷いた。
やっぱりナラフィスもそう感じたんだ。
「それで、私は‥」
私がナツミの話をしようとした時、ナラフィスが私の言葉を遮って
「それより‥早急に僕が知った「ヤバい事実」の話をしよう」
‥怖い程真剣な表情で私を見たんだ。
「話はその後で聞くよ」
「ヤバい事実? 」
これから起こるかもしれない戦いの再来よりも「ヤバい」事実があるだろうか? 私は反感を持ったが、まずはナラフィスの話を聞くことにした。
ここのところ、ナラフィスはヒジリの教育の時間以外ずっと書庫にこもっているから‥何か新たなことが分かったのかもしれない。
素直に話を聞く姿勢をとった私にナラフィスは重々しく頷いた。
「まず、僕はね、デュカとリゼリアは大魔法使いだったんじゃないかって推測したんだ。そしてヒジリが言うように、多分デュカが黒のインフルエンサーで、リゼリアもしくは、リゼリアの陣営に白のインフルエンサーがいたんじゃないって思ったんだ」
それは普通に納得できることで、私も「そうだろうね」って同意の意味で大きく頷いた。
「だけど、違った。‥まるで違ったんだ」
首を‥否定するように小さく振りながら、ナラフィスが言った。
「まったく、事実は違ったんだ」
「‥? 全く違う? 」
「デュカとリゼリア? 」
ナラフィスは私の言葉を反芻して、「そういえばあの二人はそんな名前だったな」って妙に納得したように頷いた。
私は今、最大の防音魔法を張って、ナラフィスと向き合っている。
周りには今、誰もいない。
護衛やナツカ達さえいない。
つまり、ここでの話が他に漏れることはないし、禁忌の話をしている私たちを咎める者もいないってことだ。
だから、ここで私たちが何を話そうが、ナラフィスが今から話す内容が、王家以外知る由もないこと‥「王家持ち出し禁止の禁書」からの情報だったとしても‥私が黙っていれば誰も分からないってことだ。
別に私はナラフィスが私たちを利用して禁書を読もうが何も言う気はないし、ナラフィスなら何とでも言い逃れが出来る。だって、彼は国で最高の学者だから‥なんとか見逃してもらえるだろう。だけど、うっかり内容をヒジリに話してしまうのは‥ちょっとやめてもらいたい。
ヒジリの立場が微妙だってこと、ナラフィスにはもっと自覚してほしい。
‥ナラフィスはヒジリにお后教育するって言いながら(この国の人間として扱うって言いながら)も‥「異世界人だから国内の秘密をばらしても大丈夫でしょ」みたいなところがある。
それってアブナイ。ヒジリには「この情報は「ここだけの話だから」他の人に言っちゃダメな奴」「これは大丈夫。皆知ってること」って線引きが出来ない。一つ一つ言わなきゃ分からない。それは当たり前だと思う。だって、ヒジリはこの国の記憶がまだあまり戻っていないし‥そもそも、ここの記憶っていっても、幼い頃の記憶しかない。‥そんな人間に、この国の人間だって知らないような事実もさらっとナラフィスが話しちゃってるんだもの。混乱しないわけないよね。
それにね
ヒジリって好奇心が旺盛すぎるし、ちょっと「鋭い」ところあるでしょ。それも、頭がキレるんじゃなくて、たまたま「引き当てちゃった結果」って感じで‥。この前の赤と青の一族と白と黒のインフルエンサーとの絡みも‥そもそもナラフィスが白と黒のインフルエンサーの話をヒジリにしてなかったら出てこなかった発想だ。
知ってたから浮かんだ発想。そして、「この国の常識」がないから出た発想。‥そして、たまたま口にしたそれが「なぜか核心をついているっぽい」ってこと‥。
誰かにそういうところを不審に思われたり、
「こいつは何か「知っちゃいけないこと」を知っているかも」
って変に勘ぐられても困る。
(そういう事実がなくても)ヒジリが王家に私の結婚相手として入ることに反対している古参貴族には攻撃の絶好のチャンスを与えることになる。
ヒジリを危険な目に合わせたくない。
だから
‥ヒジリには、今はまだ余計なことは知らせたくないってのが本心。
そんな私の懸念なんてまるでお構いなしで、ナラフィスは呑気なもんだ。
「ちょうど、最近ヒジリとその話をしたばかりだったんだ」
って楽しそうに言った。
まるで「偶然だね! 僕らも最近その話をしたんだよ」みたいな軽いノリ。
‥忘れちゃいないか?
ナツカがヒジリの監視だってことはナラフィスも知っているはずなのに‥。私が、「ヒジリの監視であるナツカから」事前に、ナラフィスがヒジリに「デュカとリゼリア」の話をしていた、という話を聞いていたってことは分かっているはずなのに‥。
ナラフィスは思いの外、(監視、教育対象としてではなく)ヒジリと友達の様に親しくなってきている。本心の読めないナラフィスには、珍しいなって思う。
まあ、今はそんな話している場合ではない。
魔法の限界もあるし、時間の限界もある。
「ナツカから聞いた。それで、私も「はっとした」んだ」
そうだ。
デュカとリゼリアだ!
って「はっとした」。
あの御伽噺の主人公の二人の名前を思い出した時、私は今までずっと「引っかかっていた」ことが形になったのを感じた。
ヒジリが産まれて来たのは‥
歴史が繰り返されようとしているのではないかって「気付いた」んだ。
ナラフィスが頷く。
「確かに、ヒジリが今この世界に生まれて来た意味は考える必要がある。そして、その‥「歴史が繰り返されようとしているのではないか」って考えには僕も同感だ」
ナラフィスが頷いた。
やっぱりナラフィスもそう感じたんだ。
「それで、私は‥」
私がナツミの話をしようとした時、ナラフィスが私の言葉を遮って
「それより‥早急に僕が知った「ヤバい事実」の話をしよう」
‥怖い程真剣な表情で私を見たんだ。
「話はその後で聞くよ」
「ヤバい事実? 」
これから起こるかもしれない戦いの再来よりも「ヤバい」事実があるだろうか? 私は反感を持ったが、まずはナラフィスの話を聞くことにした。
ここのところ、ナラフィスはヒジリの教育の時間以外ずっと書庫にこもっているから‥何か新たなことが分かったのかもしれない。
素直に話を聞く姿勢をとった私にナラフィスは重々しく頷いた。
「まず、僕はね、デュカとリゼリアは大魔法使いだったんじゃないかって推測したんだ。そしてヒジリが言うように、多分デュカが黒のインフルエンサーで、リゼリアもしくは、リゼリアの陣営に白のインフルエンサーがいたんじゃないって思ったんだ」
それは普通に納得できることで、私も「そうだろうね」って同意の意味で大きく頷いた。
「だけど、違った。‥まるで違ったんだ」
首を‥否定するように小さく振りながら、ナラフィスが言った。
「まったく、事実は違ったんだ」
「‥? 全く違う? 」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる