リバーシ!

文月

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十四章 デュカとリゼリア

4.デュカとリゼリア ①

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(side ラルシュ)


「デュカとリゼリア? 」
 ナラフィスは私の言葉を反芻して、「そういえばあの二人はそんな名前だったな」って妙に納得したように頷いた。
 私は今、最大の防音魔法を張って、ナラフィスと向き合っている。
 周りには今、誰もいない。
 護衛やナツカ達さえいない。
 つまり、ここでの話が他に漏れることはないし、禁忌の話をしている私たちを咎める者もいないってことだ。
 だから、ここで私たちが何を話そうが、ナラフィスが今から話す内容が、王家以外知る由もないこと‥「王家持ち出し禁止の禁書」からの情報だったとしても‥私が黙っていれば誰も分からないってことだ。
 別に私はナラフィスが私たちを利用して禁書を読もうが何も言う気はないし、ナラフィスなら何とでも言い逃れが出来る。だって、彼は国で最高の学者だから‥なんとか見逃してもらえるだろう。だけど、うっかり内容をヒジリに話してしまうのは‥ちょっとやめてもらいたい。
 ヒジリの立場が微妙だってこと、ナラフィスにはもっと自覚してほしい。
 ‥ナラフィスはヒジリにお后教育するって言いながら(この国の人間として扱うって言いながら)も‥「異世界人だから国内の秘密をばらしても大丈夫でしょ」みたいなところがある。
 それってアブナイ。ヒジリには「この情報は「ここだけの話だから」他の人に言っちゃダメな奴」「これは大丈夫。皆知ってること」って線引きが出来ない。一つ一つ言わなきゃ分からない。それは当たり前だと思う。だって、ヒジリはこの国の記憶がまだあまり戻っていないし‥そもそも、ここの記憶っていっても、幼い頃の記憶しかない。‥そんな人間に、この国の人間だって知らないような事実もさらっとナラフィスが話しちゃってるんだもの。混乱しないわけないよね。
 それにね
 ヒジリって好奇心が旺盛すぎるし、ちょっと「鋭い」ところあるでしょ。それも、頭がキレるんじゃなくて、たまたま「引き当てちゃった結果」って感じで‥。この前の赤と青の一族と白と黒のインフルエンサーとの絡みも‥そもそもナラフィスが白と黒のインフルエンサーの話をヒジリにしてなかったら出てこなかった発想だ。
 知ってたから浮かんだ発想。そして、「この国の常識」がないから出た発想。‥そして、たまたま口にしたそれが「なぜか核心をついているっぽい」ってこと‥。
 誰かにそういうところを不審に思われたり、
「こいつは何か「知っちゃいけないこと」を知っているかも」
 って変に勘ぐられても困る。
 (そういう事実がなくても)ヒジリが王家に私の結婚相手として入ることに反対している古参貴族には攻撃の絶好のチャンスを与えることになる。
 ヒジリを危険な目に合わせたくない。
 だから
 ‥ヒジリには、今はまだ余計なことは知らせたくないってのが本心。

 そんな私の懸念なんてまるでお構いなしで、ナラフィスは呑気なもんだ。
「ちょうど、最近ヒジリとその話をしたばかりだったんだ」
 って楽しそうに言った。
 まるで「偶然だね! 僕らも最近その話をしたんだよ」みたいな軽いノリ。

 ‥忘れちゃいないか?
 ナツカがヒジリの監視だってことはナラフィスも知っているはずなのに‥。私が、「ヒジリの監視であるナツカから」事前に、ナラフィスがヒジリに「デュカとリゼリア」の話をしていた、という話を聞いていたってことは分かっているはずなのに‥。
 
 ナラフィスは思いの外、(監視、教育対象としてではなく)ヒジリと友達の様に親しくなってきている。本心の読めないナラフィスには、珍しいなって思う。

 まあ、今はそんな話している場合ではない。
 魔法の限界もあるし、時間の限界もある。

「ナツカから聞いた。それで、私も「はっとした」んだ」

 そうだ。
 デュカとリゼリアだ!
 って「はっとした」。
 あの御伽噺の主人公の二人の名前を思い出した時、私は今までずっと「引っかかっていた」ことが形になったのを感じた。

 ヒジリが産まれて来たのは‥
 歴史が繰り返されようとしているのではないかって「気付いた」んだ。

 ナラフィスが頷く。
「確かに、ヒジリが今この世界に生まれて来た意味は考える必要がある。そして、その‥「歴史が繰り返されようとしているのではないか」って考えには僕も同感だ」
 ナラフィスが頷いた。
 やっぱりナラフィスもそう感じたんだ。
「それで、私は‥」
 私がナツミの話をしようとした時、ナラフィスが私の言葉を遮って
「それより‥早急に僕が知った「ヤバい事実」の話をしよう」
 ‥怖い程真剣な表情で私を見たんだ。
「話はその後で聞くよ」

「ヤバい事実? 」
 これから起こるかもしれない戦いの再来よりも「ヤバい」事実があるだろうか? 私は反感を持ったが、まずはナラフィスの話を聞くことにした。
 ここのところ、ナラフィスはヒジリの教育の時間以外ずっと書庫にこもっているから‥何か新たなことが分かったのかもしれない。
 素直に話を聞く姿勢をとった私にナラフィスは重々しく頷いた。
「まず、僕はね、デュカとリゼリアは大魔法使いだったんじゃないかって推測したんだ。そしてヒジリが言うように、多分デュカが黒のインフルエンサーで、リゼリアもしくは、リゼリアの陣営に白のインフルエンサーがいたんじゃないって思ったんだ」 
 それは普通に納得できることで、私も「そうだろうね」って同意の意味で大きく頷いた。
「だけど、違った。‥まるで違ったんだ」
 首を‥否定するように小さく振りながら、ナラフィスが言った。

「まったく、事実は違ったんだ」
「‥? 全く違う? 」
 
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