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十五章 メレディアと桔梗とヒジリとミチル
12.嫌い、だけど気になる。
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‥俺はつまり、カタルの「特別な相手」だったわけだ。
ラルシュが「特別な相手」って話をしている時に、ふと‥ホントに急に‥あいつのことを思い出し‥そして、「思い当たった」。
ぞっとする。
俺の魔力を使って自分の母親を殺した男。
俺は‥そんな奴の「特別な相手」。
俺は、あいつに望むことなんて何も無いけど、あいつは俺の魔力がきっと‥喉から手が出るくらい欲しい。
「なあ‥カタルってどういう男なの? 」
あの後、湖に行くことをやめた俺が飛ばされた先が、「おばあさんが常駐している村はずれのスポット」だったわけ。そこで、ラルシュと出会って‥その後の話は前にもした通りなんだけど‥ラルシュと親しくなった俺は、ラルシュに「リバーシが出没しやすいスポットの管理」をしたいって申し出た。
それは、文字通り国内に何か所かある「リバーシが出没しやすいスポット」を管理する仕事だ。
地球みたいに24時間見張るタイプの監視カメラがあるわけでは無い。ただ、24時間誰かが見張ってる‥って原始的な方法。見張ってるけど、発見後直ぐに「あ、リバーシだ! 保護しよう! 」って風にはならない。あくまでも、「見張り」だ。見張りというか‥見守りかな。
というのも、スポットに現れるのは、まだ自分の力を自覚していない幼い子供が多いからだ。夜寝ないから、時間を持て余して‥ふらりと現れる。そして、ぼーと‥それこそ「夢を見ているような」時間を過ごして、朝が来たら帰っていく。その間に、「魔法使いから」危害を与えられたりしないように、見守る。
なぜ、「魔法使いから」限定なのか‥って、単純に実体がない仮の姿だから魔獣や人から物理的な攻撃を加えらえる心配はない‥ってこと。でも、魔力の塊だから、魔法使いなら魔力を奪ったりできる。‥逆に魔力を奪えない魔法使い以外は実質的な害はない‥ってこと。
リバーシは「綺麗な子」が多いから、「リバーシが現れることがあるらしい」って聞いて捕まえようとする悪人はいたらしいけど、仮の身体だから捕まえられない。‥そういう心配はない。
だけど、「朝になったらここにおいで」って言葉巧みに勧誘されることはある。俺みたいに、リバーシだって事で誹謗中傷を受けたり‥ってこともある。(これらは魔法使いに限らず、だな)
(当時の)人による見張りだったら、魔法使いによる魔力の強奪ぐらいしか取り締まれなかった。勧誘を受けたり、誹謗中傷を受けたり‥そういうのまでは見張り切れなかった。俺はそれを改良して‥、人ではなく魔力に反応する監視カメラならぬ記録石を設置することにした‥ってわけ。だけど、プライバシーに考慮して音声はOFFにしてある。OFFにしてあるけど、入ってない訳じゃないからリバーシ本人の希望があれば音声を公開することもできる。
それはどういうことかというと、リバーシやリバーシの家族が被害を訴える際の証拠になるからだ。「実はこの時、コイツにこんなこと言われていました」って訴えた時の証拠。‥今のところそういう依頼はまだ受けてないけど、あるってことだけは知らせてある。それが犯罪の抑制になればいいなって思っている。
そもそも、カタルが行ってたみたいにスポットには「魔獣多数出現」とかいう危険場所が多いから、わざわざいつ出現するともしれないリバーシに会うためにそこを訪れる者なんてカタルみたいな切羽詰まった変人以外そうはいないんだけどね。
「おばあちゃん常駐スポット」は、相変わらずおばあちゃんまかせ。おばあちゃんはおばあちゃんで実は戦いのプロ‥とかはない。そういうことが起きないように、騎士がコッソリ控えてる。‥良かった。実はあのふんわりした服の下が筋肉隆々‥とか嫌だ。ふんわりばあちゃんのいるふんわりスポット。
‥全部のスポットがあそこみたいな平和な場所だったら‥って思う。
俺がその仕事を希望したのは「ただ何もすることがないと暇」「何か役に立ちたい」のと、アイツを見張る目的だった。
アイツを‥というか、アイツみたいなのも含むって感じだな。
アイツは‥、もう目的を果たしたからあそこを訪れることはもうない‥という「確信」は‥実はあった。特別な相手だから‥かもしれないけど、アイツのことは「何となくわかる」んだ。(嬉しくないね! )
そしてその確信通り‥あれ以降、あいつがあの湖に現れることは無かった。
だけど、別の時に、何となくラルシュが整理していた書類の中‥反政府組織(当時は特殊孤児院だった)の組合員名簿にアイツの名前があることを見てしまった。
偶然なんだけど、多分「それだけ気にして見てる」んだろうね。気にしてなかったらきっと気付かなかった。
アイツはリーダーの養子ってことになってた。他にも子供がいたけど、リーダーの養子になってるのはアイツと「ネル」って名前の男の子だけだった。
リーダーってのが‥アイツのあの時の話がホントだったら‥アイツを引き取ってくれた男ってことになるだろう。あの時あいつは「人のよさそうなおじさん」って言ってた。
「人のよさそうなおじさん」だから、「可哀そうな子供」を引き取って他の子供たちと一緒に育ててる‥ってことなのかな?
純粋に好意で? 将来利用する為? (性的にも含め)虐待してない?
なんにせよ実態をいちど立ち入り調査しないと‥とラルシュが話していたのを覚えている。
結果、元々はどういう目的で集まったのかよくわからない大人の集団が、同じように居場所がない子供たちを保護して育ててる‥ってだけの集団だった。子供を保護するから孤児院の申請をした‥とのこと。
何ら怪しいところはないが、‥逆に存在自体が怪しい団体だったって当時ラルシュは言っていた。
特に目的もないのになんで集まってきたんだ? とか確かに謎だし怪しいよね。
「カタル‥」
名簿の中に俺と同じくらいの年齢のその名前をみた時、俺は当時のことを思い出したんだ。
正直思い出したくもない‥思い出。
で、さっきの台詞だ。
事情を(カタルが母親を殺したって部分と俺の特別な相手かもってのは伏せて)会ったことがあるってことだけ説明すると、ラルシュはきちんと整理された書類を俺に渡してくれた。
カタル・マイセル(旧姓 ジェファーソン)
母親:ミラー・ジェファーソン 職業:娼婦 死亡
父親:不明
ただ、カタルの銀髪は庶民には珍しい為、父親は貴族であることも考えられる。
無戸籍。産みの母が届け出をしなかったのか、もしくは父親に本妻がいて、妨害されたか?
魔法特性とリバーシ診断はいずれも受けていない。
初等学校その他に通った履歴なし。
以上。「分かってること」があまりにも少ない。だけど、この国の調査票はこの程度が普通らしい。
ふ~ん、って呟いて書類をラルシュに返す。
気になったのは‥一行目。母親死亡 ってとこ。
「母親死亡って‥殺されたの? 」
恐る恐る聞くと、ラルシュが驚いた顔をした。
「病気って記録にはある(※ 母親自身の調査票にしか本人の死因は書かれない)けど‥。殺人って‥カタルが「そういうこと」を話したの? 例えば誰かに殺された‥とか」
俺は思いっきり頭を振る。
「何となく‥そう思っただけ。アイツが「母親は急に死んだ」‥みたいに言ってたから。
カタルは俺に、父親は誰だか分からないけど貴族らしい、それで本妻がカタルのこと煙たがって、本妻が、カタルの母親の仕業に見せかけてカタルを‥売り払った‥みたいなこと言ってた気がする。だから、‥本妻に殺されたのかな~って」
口から出まかせだったけど、‥そっちの方がカタルが殺した‥っていうより「ある」気がした。
売られた経緯については‥ちょっと話を盛ってみた。でも、「きっとそうだろう」って思ってる。なんか「分かる」んだ。
俺が言うと、ラルシュは考え込むような表情をして
「‥当時の奴隷市の記録を探ってみよう。何か「本妻」のことがわかるかもしれない。‥母親の名前を使って出品してるってことは‥名前すら出てこないだろうけど、地域は特定できるかも。そこの貴族で銀髪の男を探れば‥なにか分かるかも」
独り言のようにつぶやいた。
‥またラルシュの仕事を増やしてしまった‥。
俺は苦笑いした。
で、結局地域と銀髪の貴族って特徴からカタルの父親が特定された。それだけで‥って思うかもしれないけど‥、カタルの父親の顔は明らかにカタルに似ていた。
カタルの父親には、カタルがまだ生きていることは伝えなかった。
何の苦労も知らず育ってきた‥お嬢様然とした本妻との娘たちはカタルの存在を知りもしないのだろう。
本妻はその名前を告げた時、激しく動揺して、その時のことをラルシュと‥夫にわびた。
夫は驚いたものの「もう‥終わったことだ」と彼女を責めることは(少なくともその場では)しなかった。
彼らは、幸せそうな「ごく普通の家族」に見えた。
それを見たときは、ちょっとだけ‥ムカッとした。
あんたらがカタルを認知してさえいたら‥、カタルにほんのちょっとでも愛情を与えていたら‥カタルはあんな風にならなかったんだろ! って‥思った。
カタルの実の父親の家から帰ってきたラルシュはカタルの父親、ラントン・シュバルツの記録を出してきて、端から端まで目を通した
「ラントンには魔力があるな。魔法は使えないようだが‥。
子供であるカタルが‥ミチルに言ったみたいに‥魔法使いであってもおかしくはない。
カタルはミチルに自身は魔法使いだって言ったらしいけど‥ただの虚言じゃなかった‥かもしれないってわけだ」
カタルは本当に魔法使いなのだろうか?
ミチルから話を聞いた時、ラルシュはその疑問をすぐ抱いた。だから、父親を調べさせた‥ってわけ。
国に未登録の魔法使いは危険だからね。
本来なら、産まれた地点で調べられていた。
だけど、無戸籍児のカタルは神殿にその存在すら知られていなかった。
「見直さなければいけないのは、貴族の道徳概念から‥かもしれないね」
ラルシュがため息をついた。
平民だから貴族より命の価値が低い‥そういう考え方をしている貴族は多い。今回も根底にはそういう考え方があった。
一時の戯れで平民であるカタルの母親と関係を持ったラントン、そしてその子供のことをうっすらと知っていながらも何の対処もしてこなかった。
平民で、娼婦だから‥カタルの母親とカタルの人権・人格を無視したラントンの妻‥。
何ともやりきれない気持ちになったラルシュとミチルだった。
ラルシュが「特別な相手」って話をしている時に、ふと‥ホントに急に‥あいつのことを思い出し‥そして、「思い当たった」。
ぞっとする。
俺の魔力を使って自分の母親を殺した男。
俺は‥そんな奴の「特別な相手」。
俺は、あいつに望むことなんて何も無いけど、あいつは俺の魔力がきっと‥喉から手が出るくらい欲しい。
「なあ‥カタルってどういう男なの? 」
あの後、湖に行くことをやめた俺が飛ばされた先が、「おばあさんが常駐している村はずれのスポット」だったわけ。そこで、ラルシュと出会って‥その後の話は前にもした通りなんだけど‥ラルシュと親しくなった俺は、ラルシュに「リバーシが出没しやすいスポットの管理」をしたいって申し出た。
それは、文字通り国内に何か所かある「リバーシが出没しやすいスポット」を管理する仕事だ。
地球みたいに24時間見張るタイプの監視カメラがあるわけでは無い。ただ、24時間誰かが見張ってる‥って原始的な方法。見張ってるけど、発見後直ぐに「あ、リバーシだ! 保護しよう! 」って風にはならない。あくまでも、「見張り」だ。見張りというか‥見守りかな。
というのも、スポットに現れるのは、まだ自分の力を自覚していない幼い子供が多いからだ。夜寝ないから、時間を持て余して‥ふらりと現れる。そして、ぼーと‥それこそ「夢を見ているような」時間を過ごして、朝が来たら帰っていく。その間に、「魔法使いから」危害を与えられたりしないように、見守る。
なぜ、「魔法使いから」限定なのか‥って、単純に実体がない仮の姿だから魔獣や人から物理的な攻撃を加えらえる心配はない‥ってこと。でも、魔力の塊だから、魔法使いなら魔力を奪ったりできる。‥逆に魔力を奪えない魔法使い以外は実質的な害はない‥ってこと。
リバーシは「綺麗な子」が多いから、「リバーシが現れることがあるらしい」って聞いて捕まえようとする悪人はいたらしいけど、仮の身体だから捕まえられない。‥そういう心配はない。
だけど、「朝になったらここにおいで」って言葉巧みに勧誘されることはある。俺みたいに、リバーシだって事で誹謗中傷を受けたり‥ってこともある。(これらは魔法使いに限らず、だな)
(当時の)人による見張りだったら、魔法使いによる魔力の強奪ぐらいしか取り締まれなかった。勧誘を受けたり、誹謗中傷を受けたり‥そういうのまでは見張り切れなかった。俺はそれを改良して‥、人ではなく魔力に反応する監視カメラならぬ記録石を設置することにした‥ってわけ。だけど、プライバシーに考慮して音声はOFFにしてある。OFFにしてあるけど、入ってない訳じゃないからリバーシ本人の希望があれば音声を公開することもできる。
それはどういうことかというと、リバーシやリバーシの家族が被害を訴える際の証拠になるからだ。「実はこの時、コイツにこんなこと言われていました」って訴えた時の証拠。‥今のところそういう依頼はまだ受けてないけど、あるってことだけは知らせてある。それが犯罪の抑制になればいいなって思っている。
そもそも、カタルが行ってたみたいにスポットには「魔獣多数出現」とかいう危険場所が多いから、わざわざいつ出現するともしれないリバーシに会うためにそこを訪れる者なんてカタルみたいな切羽詰まった変人以外そうはいないんだけどね。
「おばあちゃん常駐スポット」は、相変わらずおばあちゃんまかせ。おばあちゃんはおばあちゃんで実は戦いのプロ‥とかはない。そういうことが起きないように、騎士がコッソリ控えてる。‥良かった。実はあのふんわりした服の下が筋肉隆々‥とか嫌だ。ふんわりばあちゃんのいるふんわりスポット。
‥全部のスポットがあそこみたいな平和な場所だったら‥って思う。
俺がその仕事を希望したのは「ただ何もすることがないと暇」「何か役に立ちたい」のと、アイツを見張る目的だった。
アイツを‥というか、アイツみたいなのも含むって感じだな。
アイツは‥、もう目的を果たしたからあそこを訪れることはもうない‥という「確信」は‥実はあった。特別な相手だから‥かもしれないけど、アイツのことは「何となくわかる」んだ。(嬉しくないね! )
そしてその確信通り‥あれ以降、あいつがあの湖に現れることは無かった。
だけど、別の時に、何となくラルシュが整理していた書類の中‥反政府組織(当時は特殊孤児院だった)の組合員名簿にアイツの名前があることを見てしまった。
偶然なんだけど、多分「それだけ気にして見てる」んだろうね。気にしてなかったらきっと気付かなかった。
アイツはリーダーの養子ってことになってた。他にも子供がいたけど、リーダーの養子になってるのはアイツと「ネル」って名前の男の子だけだった。
リーダーってのが‥アイツのあの時の話がホントだったら‥アイツを引き取ってくれた男ってことになるだろう。あの時あいつは「人のよさそうなおじさん」って言ってた。
「人のよさそうなおじさん」だから、「可哀そうな子供」を引き取って他の子供たちと一緒に育ててる‥ってことなのかな?
純粋に好意で? 将来利用する為? (性的にも含め)虐待してない?
なんにせよ実態をいちど立ち入り調査しないと‥とラルシュが話していたのを覚えている。
結果、元々はどういう目的で集まったのかよくわからない大人の集団が、同じように居場所がない子供たちを保護して育ててる‥ってだけの集団だった。子供を保護するから孤児院の申請をした‥とのこと。
何ら怪しいところはないが、‥逆に存在自体が怪しい団体だったって当時ラルシュは言っていた。
特に目的もないのになんで集まってきたんだ? とか確かに謎だし怪しいよね。
「カタル‥」
名簿の中に俺と同じくらいの年齢のその名前をみた時、俺は当時のことを思い出したんだ。
正直思い出したくもない‥思い出。
で、さっきの台詞だ。
事情を(カタルが母親を殺したって部分と俺の特別な相手かもってのは伏せて)会ったことがあるってことだけ説明すると、ラルシュはきちんと整理された書類を俺に渡してくれた。
カタル・マイセル(旧姓 ジェファーソン)
母親:ミラー・ジェファーソン 職業:娼婦 死亡
父親:不明
ただ、カタルの銀髪は庶民には珍しい為、父親は貴族であることも考えられる。
無戸籍。産みの母が届け出をしなかったのか、もしくは父親に本妻がいて、妨害されたか?
魔法特性とリバーシ診断はいずれも受けていない。
初等学校その他に通った履歴なし。
以上。「分かってること」があまりにも少ない。だけど、この国の調査票はこの程度が普通らしい。
ふ~ん、って呟いて書類をラルシュに返す。
気になったのは‥一行目。母親死亡 ってとこ。
「母親死亡って‥殺されたの? 」
恐る恐る聞くと、ラルシュが驚いた顔をした。
「病気って記録にはある(※ 母親自身の調査票にしか本人の死因は書かれない)けど‥。殺人って‥カタルが「そういうこと」を話したの? 例えば誰かに殺された‥とか」
俺は思いっきり頭を振る。
「何となく‥そう思っただけ。アイツが「母親は急に死んだ」‥みたいに言ってたから。
カタルは俺に、父親は誰だか分からないけど貴族らしい、それで本妻がカタルのこと煙たがって、本妻が、カタルの母親の仕業に見せかけてカタルを‥売り払った‥みたいなこと言ってた気がする。だから、‥本妻に殺されたのかな~って」
口から出まかせだったけど、‥そっちの方がカタルが殺した‥っていうより「ある」気がした。
売られた経緯については‥ちょっと話を盛ってみた。でも、「きっとそうだろう」って思ってる。なんか「分かる」んだ。
俺が言うと、ラルシュは考え込むような表情をして
「‥当時の奴隷市の記録を探ってみよう。何か「本妻」のことがわかるかもしれない。‥母親の名前を使って出品してるってことは‥名前すら出てこないだろうけど、地域は特定できるかも。そこの貴族で銀髪の男を探れば‥なにか分かるかも」
独り言のようにつぶやいた。
‥またラルシュの仕事を増やしてしまった‥。
俺は苦笑いした。
で、結局地域と銀髪の貴族って特徴からカタルの父親が特定された。それだけで‥って思うかもしれないけど‥、カタルの父親の顔は明らかにカタルに似ていた。
カタルの父親には、カタルがまだ生きていることは伝えなかった。
何の苦労も知らず育ってきた‥お嬢様然とした本妻との娘たちはカタルの存在を知りもしないのだろう。
本妻はその名前を告げた時、激しく動揺して、その時のことをラルシュと‥夫にわびた。
夫は驚いたものの「もう‥終わったことだ」と彼女を責めることは(少なくともその場では)しなかった。
彼らは、幸せそうな「ごく普通の家族」に見えた。
それを見たときは、ちょっとだけ‥ムカッとした。
あんたらがカタルを認知してさえいたら‥、カタルにほんのちょっとでも愛情を与えていたら‥カタルはあんな風にならなかったんだろ! って‥思った。
カタルの実の父親の家から帰ってきたラルシュはカタルの父親、ラントン・シュバルツの記録を出してきて、端から端まで目を通した
「ラントンには魔力があるな。魔法は使えないようだが‥。
子供であるカタルが‥ミチルに言ったみたいに‥魔法使いであってもおかしくはない。
カタルはミチルに自身は魔法使いだって言ったらしいけど‥ただの虚言じゃなかった‥かもしれないってわけだ」
カタルは本当に魔法使いなのだろうか?
ミチルから話を聞いた時、ラルシュはその疑問をすぐ抱いた。だから、父親を調べさせた‥ってわけ。
国に未登録の魔法使いは危険だからね。
本来なら、産まれた地点で調べられていた。
だけど、無戸籍児のカタルは神殿にその存在すら知られていなかった。
「見直さなければいけないのは、貴族の道徳概念から‥かもしれないね」
ラルシュがため息をついた。
平民だから貴族より命の価値が低い‥そういう考え方をしている貴族は多い。今回も根底にはそういう考え方があった。
一時の戯れで平民であるカタルの母親と関係を持ったラントン、そしてその子供のことをうっすらと知っていながらも何の対処もしてこなかった。
平民で、娼婦だから‥カタルの母親とカタルの人権・人格を無視したラントンの妻‥。
何ともやりきれない気持ちになったラルシュとミチルだった。
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