リバーシ!

文月

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十六章 ミチル争奪戦!

3.違法な勧誘および、契約お断りします。

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「不特定多数の人間に愛されたくて必死で、でも「自分は女じゃない」って言い張る面倒で不思議ちゃんな女と、君だけに一途で、だけど、面倒で煩わしい恋愛とは無縁なビジネスライクな関係を約束するスマートな僕‥どちらを選びますか? 」

 突然近距離で、超美形が決断を迫って来る。
 何を藪から棒に‥

 って‥
 やられた! 夜の国に移動中を狙われたのか! この頃はヒジリと別々に来ることも多い。
 今回も

「ヨシカワと軽く一杯やってから行く~」
 ってヒジリから連絡が来てたから、俺一人で来た。
 ヒジリまで巻き込まれなかったのが‥不幸中の幸いだった。

 ‥もしくは、「面倒な」ヒジリがいないときを狙った‥のか? 
 ヒジリには、ラルシュの「お守り」がついているから‥。

 俺はふう、とひとつため息をついて、‥息を整えた。

「俺は、寂しがりで不器用で、だけどいつも一生懸命なヒジリが好きだ。
 ヒジリとの恋愛だったら、煩わしいとも面倒だとも思わない。
 ビジネスライクで‥例え、俺に危害を加えないって約束されようとも、男と個人的に何らかの重要な契約を結ぶ趣味は無い」
 
 にやり、と余裕な表情を心掛けて
 カタルに言い切る。

「契約とか‥そんなに難しく考えなくていいんです。
 そうですね、アルバイトっていうんですかね。ちょっとしたおこずかいかせぎ? あんな感覚です。
 時々、僕とちょっと手をつなぐだけ。
 それだけで、僕は魔力が補充できて‥貴方にはそれに見合う報酬をお渡しします。
 ね、簡単でしょ? 」

 ‥女子高生なんかがする‥社会的に推奨されない、いかがわしいバイトみたいな言い方するな‥。
 おじさんとちょっと手をつないでお話しするだけでイイんだよ? みたいな‥。
 まあ、相手はおじさんじゃなくって、凄い美形だから男だって思わなかったら‥いいかも‥?

 いやいやいやいや! ぜんぜん良くないし!
 別に俺、お小遣いに困ってませんし! たとえ凄い美形でも、筋張った手とか全然繋ぎたくありませんし! 
 俺が繋ぎたいのは、可愛い女の子の手! 
 ぜんっぜん恋愛対象として見てもらってなかったとしても、繋ぎたいのは、白くってつるつる~でちっちゃなヒジリのおてて!! 
 筋張ったおっきな手じゃないの!
 
「断る! それから、俺を元の場所に返せ。
 これは誘拐だよ!? そんなこと俺にしたら‥ただじゃすまないぞ! 」
 キッとカタルを睨みつけるが、勿論奴は応えていない。ラルシュ顔負けの花が咲く様な笑顔を浮かべて‥俺を嬉しそうに見ている。
 色仕掛けだったら効かないよ! こちとら10年以上あの! ラルシュの顔見てきてるんだ! 美形に対する耐性つきまくってるんだからな! 更に! あの時ヒジリの顔見たでしょ?! 勝てるわけないってわかるよね?! (‥そりゃ、まあタイプは全然違うけど‥)
 そもそも、

 俺は男だってだけで、対象外ですから!!

「ただじゃすまないって‥どうなるの? 」
 じり、って笑顔のカタルが一歩俺に迫ってきた。
 俺は尻餅をついたままの格好で‥じりっと一歩下がる。
「来る! 助けが! 今頃、俺が攫われたって気が付いて城は大騒ぎだ! 」
「へえ‥? 」
 カタルはちょっと肩をすくめて‥にこにこ微笑んだまま。
 ‥信じてないな。
 まあ‥そりゃね‥大騒ぎには‥ならないわな‥。ラルシュなら兎も角俺だから‥。でも、「あれ!? 」って位には‥なるはず。だって十数年ほぼ皆勤だったから‥それに、ほらラルシュの親友だし? ラルシュも心配して‥。‥ラルシュこの頃忙しいからあそこに来ないこと多いな‥マズい‥マズいぞそれは‥だけど、5時まで逃げ切れば、強制的に‥ってこの結界なんだろう。すっごいやな感じ‥。
「あ、その結界ね。ナツミが張ってくれたんだ。君との話し合いを誰にも邪魔されたくないからね。
 大丈夫。話し合いが終わったらすぐに帰してあげるよ。
 君には、時々来てもらったらいいだけだから。
 一回に、ちょっといっぱい魔力を貰えたら、そう頻繁に来てもらう必要もないし。‥ああ、でもラルシュローレ王子と対決! なんてことになったら君にはこっちについていてもらわないといけないけどね。
 攻撃魔法は魔力がたくさんいるからね」
 ダメだ‥何言ってるか全然頭に入ってこない。
 頭が‥変になりそうだ。
 コイツが言ってること全てがむかつくし、コイツの顔も喋り方も表情も全て、腹が立つ。
 顔が「絵画の女神様」みたいに優し気で綺麗なのが‥余計に腹が立つ。
 そんな綺麗なのに、眉を寄せて‥軽蔑されたような顔されたら‥立ち直れないって感じになる。
 俺は罵倒されて喜ぶ変態じゃない。
 ってか‥コイツの笑い方、上品なんだけど‥なんか鼻につくんだよね!! ヒジリは全然上品とかじゃなくって、こう‥ニカ! って感じの気持ちいい笑い方するんだ。ラルシュも、そう親しくない奴らは何時もの上品な「営業用スマイル」しか知らないだろうけど(その上品さもカタルとは全然違うぞ! 嫌味がないんだ。なんか安心する感じなんだ! )、俺ほど親しい人間相手だったら、照れた様な微笑み浮かべたりするんだぞ! あの笑顔見たら「お~しおしおし、いい子だな~! 」って思わず頭ぐしゃぐしゃにして撫ぜたくなるんだぞ! それくらいの可愛さなんだぞ! で、直ぐに「は! 」って気付いて、慌てて表情を戻すの! 
 可愛くない?! 
 ‥つまらんこと考えたらちょっと落ち着いてきた。
 
 で、なんだっけ?!

 やっと俺の耳に届いた
「僕の力になってくれない? 」
 カタルの言葉に

「「断る!! 」」
 答えたのは、
 俺じゃなかった。

「ヒジリ! ラルシュ! 」

「黒のインフルエンサーである貴方を攻撃するのは次期王である兄から禁止されているので、攻撃しません。それに、白のインフルエンサーと黒のインフルエンサーが直接対決すれば‥被害は国家単位になりますから。
 どうか、このままお引きください」 
 ヒジリが俺を引っ張って立たせる。二人ともを背に庇い、ラルシュがカタルに対峙する。
 ラルシュの静かな声。怒っている‥というより、凛とした表情‥。
 こんな時なのに、ついドキッとしそう‥。
 これよ、これ。
 男が惚れる男の色気は、蠱惑的な神秘性じゃないの。こういう、凛とした表情! 惚れるわ~。
 く~! 俺の親友最高!! 
 と、
 俺の横には、怪我してないか気にしながら俺を心配そうに覗き込む可愛いヒジリ。
 これよ、これ。
 ほんっと、可愛いの!! 
 八方美人だろうが、不思議ちゃんだろうが! ヒジリとアンタを比べるとか、有り得ないから!
 カタルよ! お前は「完敗です~! 」って尻尾をまいて逃げ帰れ! あ、ナツミによろしくね! あんたの結界じゃラルシュに勝てないぞ! ってね!
 ってか‥

 ラルシュが気付いてくれたよかった~!

「ふ、では、またお返事聞かせてくださいね。では、いい返事おまちしてますよ」
 
 捨て台詞残して、カタルが優雅に退出した。
 俺は
 その場に座り込む。
 ‥怖かった~‥。

 ふわりと
 俺を包み込むヒジリの香りと‥柔らかさ。
「ヒジリ? 」
 俺もヒジリを抱き返す。
 ヒジリ‥怖かったのかな? ‥ごめんな。謝ろうとした俺より先に
 ヒジリが俺の顔を真っすぐ見て

「俺が‥これからは俺がミチルを守るからな! 」
 言った。

 いや~!! このセリフ、俺の台詞だったはずだのに~!!
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