リバーシ!

文月

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十六章 ミチル争奪戦!

5.ヒジリの恋愛観

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(side ミチル)


「‥ってホントはね。そんなこと‥ミチルを利用しようなんて思ってない。だって、危険じゃないか。もう、カタルには一生会いたくない‥会わせたくない。
 それに‥俺も会いたくない」
 ぽつり、とヒジリが言った。
 さっきはごめんね‥って俺に小さく謝った後に、だ。
 表情が沈んでいる。
「‥何か話していないと落ち着かなくて‥なんか‥さ」
 って小さくため息をついて‥
「自分でもこんな気持ちになるって思わなかった。正直、失恋したって感じではない。‥そういう感じじゃないけど、‥悔しいし‥憎い」
 ボソッと小声で呟く。
 失恋?
 ヒジリの口から出た、意外な言葉に、‥ついヒジリをガン見する。
 失恋ってなんだ? そもそも、誰に失恋するんだ?
 ‥カタル? 俺? いや、俺はヒジリのこと振ったりなんてしないよ?? 勝手に振られたとか思った? ‥なんでそうだと思った? 

 俺がヒジリを振って、カタルを選ぶとでも!? 

 俺が口をはくはくさせていると‥
「失恋って? 誰に対して? 」
 俺をチラ見して、呆れた顔をして(俺の百面相に呆れたのだろうか)ナラフィスが代わりに聞いてくれた。
「ナツミ」
 ポツリ、とヒジリが呟く。
 恥ずかしそうに、言いにくそうにそう呟く様子はもうホント「思春期の男子中学生」って感じ。友達に「お前アイツの事好きなのかよ? 」って冷やかされて「‥悪いかよ」って呟く‥あの口調。
 惜しい! 恋バナだけど、女子の恋バナじゃない。ここで女子の恋バナの及第点は「ヒジリ、アイツの事好きなんじゃないの~? 」って揶揄う友人に対し、「! ‥そんなんじゃ‥ないし」で赤面(ツンデレタイプ)か「‥もう‥いわないでよ‥」(マジ照れ)か、だ (← 女の子に夢見がち)
 ‥まあ、分かってる。ヒジリにはそういうの、まだ無理。
 寧ろ、そういうところも可愛いかな~って思う。うん。
 てか‥ナツミなんだ。幼馴染だったよね。ヒジリにあの魔道具渡した子だよね。そんなことあったけど、好きなんだよね。不思議だよね。‥それとも、幼馴染って皆そういうもんなのかな。俺‥そういうのいないからわかんないけど‥もし、ラルシュにそういうことされたら‥許せるのかな。
 親しいから余計に許せない! ってなりそう‥。
 微妙な顔をしている俺をどういうふうに見たのか‥ヒジリは苦笑いして「‥ごめんな」って俺に謝った。
 
 ‥もしかして、ヒジリ俺が以前言った「俺はナツミを許さない」ってのをまだ気にしてるのかも‥。

「‥俺が‥こっちのこと思い出して‥一番に思い出したのはナツミだったんだ。
 初等学校時代のたわいもない思い出。一緒に教室で‥教師と三人だけで‥勉強してる思い出‥。
 ‥楽しかった思い出だった。だけど、徐々に楽しいだけじゃなかったこと‥子供の頃学校の皆に恐れられてたこととか‥ぶっちゃけ嫌われてたこととか‥思い出した。
 ‥そんなときかばってくれたのはいつでもナツミだったんだ。
 ナツミはヒーローだった。俺にとってね。
 ちっちゃいナツミと一緒にいるのは‥男なのか女なのか区別がつかない平凡な子供‥俺で、髪色や目の色なんかでそれが俺だってわかるんだけど‥今と全く違う「地味な顔した子供」だった。
 ホントはね。
 子供の俺の記憶には‥ナツミに関する恋愛感情は無かった。それは間違いない。
 あれはね、記憶をもとに分析した結果そう思ったんだ。
 あんなことされても許せる‥つまり、それって恋じゃね? て‥」
 ヒジリは一言一言‥自分の心と対話するように‥言葉を紡いでいく。

 ん? 恋じゃね? って分析結果になる? それ‥。

「‥普通に、幼馴染だからあんなことがあっても憎めなかった‥でいいんでないの? 」
 ナラフィスが首を傾げる。‥そうですよね。‥俺もそう思います‥。
 首を傾げるナラフィス、頷く俺。
 どうやら俺たちに同意を得られてないのを感じ取ったヒジリが苦笑いする。
「‥そんな単純なことじゃない。
 一番嫉妬したのもナツミ、一番いいとこ見せたかったのもナツミ、一番怖かったのも‥ナツミ
 こんな‥特別な感情がただの幼馴染で片付けられるかな」
 ‥られると思うけど。幼馴染で、かつ親友ならそういうこともあるんじゃない? そう思うよ? 俺は。
 だけど、ヒジリにとってははそうじゃなかったんだろう。
 ヒジリにとっては、特別な思い‥淡い恋心みたいなもんだったんだろう。
「あ、でも、あくまでも子供の頃の恋心だから、キスしたいとかじゃないよ? 
 だけど、将来は一緒に住みたい‥ってのはいいかな。たまに喧嘩とかしながら、共同生活するの。つまりね。家族になるの。
 ‥そういうふうに思ってた」
 恋愛=キスなんだ。ヒジリにとって。ふうん‥? 
 そんなことを考えてたら、
「今は? 大人になったヒジリ「少年」はナツミとキスしたいって思う? 」
 真面目そうな見た目と違って「きちんと生身な男」なナラフィスがヒジリに聞いた。
 ぎょっとする様な質問を、さらっとだ。
 その口調にいやらしさはゼロだ。どっちかというと、調査対象に質問するって感じの口調だ。
 俺がぎょっとしてナラフィスを振り向くと、
「思わない」
 ヒジリが即答した。
 ヒジリにも照れる様子はゼロだ。
 ‥なんなのこの二人。
 つい二人を交互に見比べてしまった。
 二人は、怖いくらい真顔だった。

「‥だけど、ナツミが誰かとキスしてるのを想像するのも嫌だ」
 真顔のままヒジリが、すっと視線を落として言った。
 んん?
「これって‥嫉妬だと思う。今まで自覚しなかったけど‥改めて考えてみると‥気付いた。
 俺は、誰か俺以外の別の人に‥多分カタルに‥恋しているナツミに対して失恋したって思った。
 そして‥カタルに嫉妬した。
 つまり、俺は‥」
 やっぱり、ナツミの事好きなんだ。キスはしたいと思わないけど好きなんだ。寧ろ、「恋愛=キス」って法則が間違いだったんだ。 
 って言おうとしてる? 違うよ。
 姉妹みたいな感じじゃない? お姉さんが誰かとキスしてるって想像するの嫌でしょ? あれと同じだと思うよ?
 俺がそれを口にしようとするのを、
 ナラフィスが片手で制して、俺をチラッと見て‥ちょっと笑った。
 
「じゃあ、ミチルが‥
 ミチルがカタルとキスしてるの想像したら‥どう? 
 ナツミがカタルとキスしてるのと想像するのと、どっちが嫌? 」

「え‥? 」
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