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十六章 ミチル争奪戦!
月夜のボタン
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「意図‥意図ねえ‥」
「糸? 裁縫でもするのか? ボタンがとれたなら自分でつけようなんて馬鹿なこと考えずにおふくろさんにお願いしろよ」
国見が眉を寄せて言った。
口に出してたか‥
「いや‥、友人がね、「この世で起きる総てには理由があって、それに隠された意図に気付かないと人は成長しない」みたいなこと言っててさ」
ふう、とヒジリがため息をつくと
「うん」
存外真面目な顔で、国見がヒジリの横に座った。
休み時間、今日もグローブとボールを持ち出して国見を相手に修行してたんだけど‥
(国見曰く)雑念が多すぎて、失敗続きだった。金属の耐久性の実験だから‥まあぶっちゃけ、ヒジリの雑念が多かろうと少なかろうと関係ないんだけど、相手をしている国見にしてみればぼ~としたヒジリがボールを取りこぼして顔に直撃なんてしてると‥「たるんでる!! まじめにやれ!! (俺が苛めてるみたいじゃないか!! )」ってなるだろう。
「コーヒーでも飲んで気合い入れなおせ、俺が買ってきてやるよ。勿論お前のおごりでな! 」
って怒り心頭って顔で、今まで事務所の横に設置してある自動販売機に買いに行っていたのだ。
「で? 」
「え? 」
先を促す国見に「え? 何? 聞くの? 」って顔のヒジリだ。
‥きっとヒジリのことだからしょうもない話だろうけど、最後まで聞かないと気持ちが悪いじゃないか‥って国見は思ったんだろう。
あと、恋バナかな? って(0.01%の確率で)思ったり。
恋煩いとか‥ヒジリがするか?? とも思ったり。
(そういうの、聞きたいじゃない!? 絶対面白いじゃない?! )
「何があったんだ? 」
何が?
‥何だろ。
説明しにくいなあ‥
タイムスリップしてメレディア王っていう人に会った。
その人はどうやら、凄く悩んでいる人らしい。
俺は「その出会いに何かしら‥誰かしらの意図を感じる」って考えた‥って話。
‥ってどうやってマズい部分はぐらかして説明するんだろ。
「う‥」
って思わずヒジリは固まってしまう。
そうして、もごもごしてたら‥
「話したくないなら無理に話さなくていいけど」
そういう空気を察した(割とそういうの気を遣うタイプな)国見に、「ゴメン」って謝られた。
‥いや、国見に気を遣わせた俺が元々は‥悪いんです。話せもしない事情なら、顔に出さないようにするべきでした‥。
「いや‥そんな‥大したことじゃなくてさ‥。
くだらないこと‥って思うと思うよ。
人の悩みを偶然立ち聞きしちゃったんだ‥それだけのことだったんだけど、何かそれが頭から離れなかった」
お、なんか肝心なことはごまかせたっぽい。
しかも、あながち間違えてないっぽい。
‥口にすることによって「整理されること」ってのも‥あるな。
とも思ったり。
「それでさ、「この出会い」は俺にとって何か意味があるんじゃないかな‥って思ってしまったんだ。
この知らない人を通じて「何者か」が俺に何かを伝えてるんじゃないか‥って、じゃなかったらこんなに気になることは‥ないかなって。
勿論そうじゃないかもしれない。でも‥気になって仕方が無い。
な、変な悩みだろ? 」
「‥うん」
国見は眉を寄せて難しい顔をして‥頷いた。
でも、「くだらない」とは言わなかった。
「なぜ気になったのか‥。ヒジリの悩みはそこか? 中原中也の『月夜の浜辺』じゃないか? 」
しばらく黙ったあと、ポツリ‥と真面目な顔した国見が言った。
「月夜の浜辺? 」
ヒジリが首を傾げると、国見が頷いた。
「「それを拾って、役立てようと 僕は思ったわけでもないが なぜだかそれを捨てるに忍びず 僕はそれを、袂に入れた」
中学校だっけ小学校の時だっけ‥詩集を読んで、それがずっと頭から離れなかった。
いまでも、この詩は暗記している」
すらすらと詩を諳んじて国見が言った。
「捨てるに忍びず‥」
ポツリ‥とヒジリが反芻する。再び国見が頷く。
「ホントになんで? って思うようなことが「捨てられない」ってことは‥ある」
と、横に座るヒジリを振り向く。
「この先絶対役に立たなくても‥」
国見がこちらを向いたことにすら気付かないヒジリは、
ボタンなんて‥役に立たないわな‥
そんなこと思いながら、独り言のようにつぶやく。
国見がそっと前に向きなおす。
「役に立てる気にもならないだろうしな。「そういえばこれがあった。これをつけよう」なんてこと、絶対思わないだろう‥。中原も自分でも言ってるしな」
口元に持っていったコーヒーは結局飲まれることもなく、また地面に置かれた。
「手元にあるから、使おう。無いなら使おうとすら思わないけど‥
ではなく、
手元にあっても、絶対この先使うことはないってわかってる‥」
う~ん、何か‥分かりそうな気がする‥
ってヒジリが体操すわりの形で座った脚を抱き込む。
(その姿はもう、まんま「可愛い」女子だったんだって。後日事務員・中川談)
「分かってるけど「捨てるに忍びないから」取っておく。
人間‥ときには、不可解なことするんだけど、それは別に変なことではない。俺もこれを読んだとき「あるな、そういうこと」って思ったもんだ。
思って、
「あ、それでいいんだ」
って‥凄く嬉しくなった」
国見の話を聞きながら、ヒジリは
それでいい‥のかもしれない。
それを役立てるのが重要なんじゃなくて‥拾って袂に入れる‥「気に留める」ことこそが大事だったのかもしれない。
その「誰か」は俺を試していたのかもしれない。
俺が
そのボタンを、袂に入れるか‥そのまま放っておくか。
もし、俺が「バグだ。久し振りだな」って放っておいて、ナラフィス先生に相談しなかったら、彼がメレディア王で「どういう人」だったかわからなかった。
あ、俺がさっき言ったバグって言うのは‥、「リバーシが夜急に知らない場所(多くはスポット)に飛ばされること」なんだ。俺も子供の頃は時々あった。
‥そういえば、ああいうのにも意味があったのかもな。(それでいうと、ミチルとカタルの出会いは「そういうめぐり合わせ」の運命だったのか‥)
月夜のボタン‥。
俺の袂に入れていた「ボタン」が一際存在感を増した様な気がしたのだった。
「糸? 裁縫でもするのか? ボタンがとれたなら自分でつけようなんて馬鹿なこと考えずにおふくろさんにお願いしろよ」
国見が眉を寄せて言った。
口に出してたか‥
「いや‥、友人がね、「この世で起きる総てには理由があって、それに隠された意図に気付かないと人は成長しない」みたいなこと言っててさ」
ふう、とヒジリがため息をつくと
「うん」
存外真面目な顔で、国見がヒジリの横に座った。
休み時間、今日もグローブとボールを持ち出して国見を相手に修行してたんだけど‥
(国見曰く)雑念が多すぎて、失敗続きだった。金属の耐久性の実験だから‥まあぶっちゃけ、ヒジリの雑念が多かろうと少なかろうと関係ないんだけど、相手をしている国見にしてみればぼ~としたヒジリがボールを取りこぼして顔に直撃なんてしてると‥「たるんでる!! まじめにやれ!! (俺が苛めてるみたいじゃないか!! )」ってなるだろう。
「コーヒーでも飲んで気合い入れなおせ、俺が買ってきてやるよ。勿論お前のおごりでな! 」
って怒り心頭って顔で、今まで事務所の横に設置してある自動販売機に買いに行っていたのだ。
「で? 」
「え? 」
先を促す国見に「え? 何? 聞くの? 」って顔のヒジリだ。
‥きっとヒジリのことだからしょうもない話だろうけど、最後まで聞かないと気持ちが悪いじゃないか‥って国見は思ったんだろう。
あと、恋バナかな? って(0.01%の確率で)思ったり。
恋煩いとか‥ヒジリがするか?? とも思ったり。
(そういうの、聞きたいじゃない!? 絶対面白いじゃない?! )
「何があったんだ? 」
何が?
‥何だろ。
説明しにくいなあ‥
タイムスリップしてメレディア王っていう人に会った。
その人はどうやら、凄く悩んでいる人らしい。
俺は「その出会いに何かしら‥誰かしらの意図を感じる」って考えた‥って話。
‥ってどうやってマズい部分はぐらかして説明するんだろ。
「う‥」
って思わずヒジリは固まってしまう。
そうして、もごもごしてたら‥
「話したくないなら無理に話さなくていいけど」
そういう空気を察した(割とそういうの気を遣うタイプな)国見に、「ゴメン」って謝られた。
‥いや、国見に気を遣わせた俺が元々は‥悪いんです。話せもしない事情なら、顔に出さないようにするべきでした‥。
「いや‥そんな‥大したことじゃなくてさ‥。
くだらないこと‥って思うと思うよ。
人の悩みを偶然立ち聞きしちゃったんだ‥それだけのことだったんだけど、何かそれが頭から離れなかった」
お、なんか肝心なことはごまかせたっぽい。
しかも、あながち間違えてないっぽい。
‥口にすることによって「整理されること」ってのも‥あるな。
とも思ったり。
「それでさ、「この出会い」は俺にとって何か意味があるんじゃないかな‥って思ってしまったんだ。
この知らない人を通じて「何者か」が俺に何かを伝えてるんじゃないか‥って、じゃなかったらこんなに気になることは‥ないかなって。
勿論そうじゃないかもしれない。でも‥気になって仕方が無い。
な、変な悩みだろ? 」
「‥うん」
国見は眉を寄せて難しい顔をして‥頷いた。
でも、「くだらない」とは言わなかった。
「なぜ気になったのか‥。ヒジリの悩みはそこか? 中原中也の『月夜の浜辺』じゃないか? 」
しばらく黙ったあと、ポツリ‥と真面目な顔した国見が言った。
「月夜の浜辺? 」
ヒジリが首を傾げると、国見が頷いた。
「「それを拾って、役立てようと 僕は思ったわけでもないが なぜだかそれを捨てるに忍びず 僕はそれを、袂に入れた」
中学校だっけ小学校の時だっけ‥詩集を読んで、それがずっと頭から離れなかった。
いまでも、この詩は暗記している」
すらすらと詩を諳んじて国見が言った。
「捨てるに忍びず‥」
ポツリ‥とヒジリが反芻する。再び国見が頷く。
「ホントになんで? って思うようなことが「捨てられない」ってことは‥ある」
と、横に座るヒジリを振り向く。
「この先絶対役に立たなくても‥」
国見がこちらを向いたことにすら気付かないヒジリは、
ボタンなんて‥役に立たないわな‥
そんなこと思いながら、独り言のようにつぶやく。
国見がそっと前に向きなおす。
「役に立てる気にもならないだろうしな。「そういえばこれがあった。これをつけよう」なんてこと、絶対思わないだろう‥。中原も自分でも言ってるしな」
口元に持っていったコーヒーは結局飲まれることもなく、また地面に置かれた。
「手元にあるから、使おう。無いなら使おうとすら思わないけど‥
ではなく、
手元にあっても、絶対この先使うことはないってわかってる‥」
う~ん、何か‥分かりそうな気がする‥
ってヒジリが体操すわりの形で座った脚を抱き込む。
(その姿はもう、まんま「可愛い」女子だったんだって。後日事務員・中川談)
「分かってるけど「捨てるに忍びないから」取っておく。
人間‥ときには、不可解なことするんだけど、それは別に変なことではない。俺もこれを読んだとき「あるな、そういうこと」って思ったもんだ。
思って、
「あ、それでいいんだ」
って‥凄く嬉しくなった」
国見の話を聞きながら、ヒジリは
それでいい‥のかもしれない。
それを役立てるのが重要なんじゃなくて‥拾って袂に入れる‥「気に留める」ことこそが大事だったのかもしれない。
その「誰か」は俺を試していたのかもしれない。
俺が
そのボタンを、袂に入れるか‥そのまま放っておくか。
もし、俺が「バグだ。久し振りだな」って放っておいて、ナラフィス先生に相談しなかったら、彼がメレディア王で「どういう人」だったかわからなかった。
あ、俺がさっき言ったバグって言うのは‥、「リバーシが夜急に知らない場所(多くはスポット)に飛ばされること」なんだ。俺も子供の頃は時々あった。
‥そういえば、ああいうのにも意味があったのかもな。(それでいうと、ミチルとカタルの出会いは「そういうめぐり合わせ」の運命だったのか‥)
月夜のボタン‥。
俺の袂に入れていた「ボタン」が一際存在感を増した様な気がしたのだった。
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