リバーシ!

文月

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十六章 ミチル争奪戦!

12.ヒジリの願い

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(side ミチル)


 一度ならず二度までも。
 
 おい、ナラフィスよ! あんた、結界強化したよ~って言ってたんじゃないんかい?!
 またカタルの襲撃受けてるじゃん!
 だけど、今回は俺だけ‥無力な俺だけじゃない。
 この場には、剣の天才って呼ばれてるラルシュも、ナラフィスも‥愛するヒジリもいる!
 勝てる! 負ける未来なんか見当たらない!

 カタルが一歩俺に近づき、
「ミチル。
 僕には君が必要なんです。
 君がいれば僕の理想は実現できるんです」
 安定のヤンデレな台詞。
 愛の告白‥はヒジリからしかお断りですから! 

 カタルの‥
 相変わらずな陶酔したような表情。
 ホント‥怖いんだって!
 俺の引きつった顔を見て、ふ、と微笑み、今度はラルシュを見て、

「ラルシュローレ王子。
 貴方も魔法使いなら僕の気持ち‥お分かりになるでしょう? 
 魔力が足りないせいでやりたいことが出来ないもどかしさ‥。
 ‥それが解消されるんです。
 
 貴方だって、僕の気持ち‥分かりますよね? 」
 って言った。

 ‥王子に対してその言い方は不敬だと思うぞ!?
 敬語だからいいってもんじゃない。
 なんかわからんが‥なんか腹立つ。
 俺がコイツの事嫌いだから、全部が嫌! ってだけじゃなく‥なんか言い方がおかしいと思うぞ?!
 ああそうか、
 王子に対して「決めつけ」とか‥良くないよね!!
 ここにナツカとかいたら、問答無用で成敗されてるぞ!? 剣でぶっしゃーだ。あの人、何気に血の気多いよね。平和そうな顔してるけど‥平和そうな顔してバッサリやるよね!

 俺たち地球人は殺傷沙汰になれてないんだぞ!
 
 ラルシュは黙ってる。
 怒ってるようには見えない。呆れた顔でもない。
 ただ、聞いてるだけって顔。
 王子だから、自分の感情を全部顔に出したりしないってことなのかな? 

 でも、こんなときは怒ってほしいかも。

「ミチルはモノじゃない! 」
 って言って欲しいかも‥

 って、願望が声になった。
 ‥勿論、俺の声じゃない。
 この声は‥
 ヒジリだ。

「我儘だぞ! 
 さっきの言い草はアレだ。
 
 金が無いと何も出来ないですよね~。
 彼は僕にとって無限財布なんですよ~。そんな財源があったら、利用するしかないって思いますよね~。
 
 って言ったのと同じだぞ!
 金がないなら金が無いなりにやりようがある‥すりゃいいんだよ。
 ああ、金じゃないな‥魔力だったな。魔力が無いって気持ち、‥無くて不便って気持ち、俺たち地球育ちには分からない。昔は分かってたかもしれないけど、今は分からん。
 だから、俺たちにとって分かりやすい金で考えた。
 分かりやすい! 
 俺天才か! 」
 って、‥凄いドヤ顔だね。
 ‥ヒジリは今日はいつにもまして馬鹿っぽいね。
 可愛いけど‥。

 魔力を金に置き換えて考える‥とか、俺たち「一般的な」地球人にとって分かりやすいかもしれないけど、‥まわり全員金持ちしかいなさそうなこの空間で「金が無い」って感覚は共感を得られる様には思わんぞ。
 すげぇ俗っぽさMAXだし。
 そもそも‥ここって貨幣制度あったっけ。‥あるよね。普通に。でも、‥そういえば見たことない。

 色々言いたいことはある。だけど‥
 俺のこと思って言ってくれてる、その気持ちが嬉しい。

 ‥相手には全然伝わってないみたいだけど。俺が嬉しいから良しとしよう。

 ぽかんとしてるカタルに、ずいっとヒジリが近づいた。ゼロ㎝距離(つまり、キスできちゃう距離! )‥とまではいかないけど、手を伸ばせば抱きしめられちゃう‥って距離まで。
 その距離で絶世の美女・ヒジリに見つめられて、カタルが‥
 固まってる。(わかる。その気持ち、わかるぞ)顔色は変わってない‥ように見えるけど、耳が真っ赤。(わかる、生理現象だよね! )

「カタルは自分でなんでもかんでもしょい込み過ぎなんだよ。
 やってみたい目標があって、その目標に賛同してくれる仲間がいて、でも、仲間は「期待してます! 流石っス! 」って見てるだけ。
 それって、仲間か? って思うぞ。俺なんかからしたら。仲間なら、一緒に手伝ってくれるだろう? って思う。リーダー一人に任せっきりって‥どうかと思うぞ。
 でもそれって‥カタルが、周りに何も期待してないからだと思うよ。
 俺がやるから、皆はそこで見てろ。
 じゃ、‥周りだって何したらいいかわかんないよ。神みたいに思って‥信仰しているカタルに‥「自分はこれが出来ます。手伝いましょうか? 」なんて言ったら失礼になるかも‥。って思っちゃうよね。
 結果、カタルだけ苦しくって、結局力足らずで目標が達成できなかったらせめらるのもカタルだけ‥って最悪じゃない?! 」

 その距離で、ヒジリがカタル相手に熱弁をふるっている。
 
「相変わらず綺麗ごとばかりですね。白の聖女・ヒジリ。
 結局は結果なんですよ。
 誰かに自分の考えを100理解してもらうって、不可能ですよ。だから、結果で示すしかないんです。
 それが出来ない人間に、誰がついてきてくれるんですか!? 」

 カタルは‥でも、固まってばかりじゃなかった。
 すっとヒジリから距離を取ると、その人形みたいな綺麗な顔で真っ直ぐヒジリを睨みつけて、ヒジリに言い返した。
 ‥綺麗な顔に睨まれると、怖い。
 カタルの美貌はヒジリのそれと違って、宝石のように硬質で、氷の様な冷たさがある。
 ヒジリも一瞬、ぐって固まったけど‥でも、直ぐに小さくため息をつくと、小さく微笑んだ。
 聖女のスマイルって感じじゃない。「生意気な後輩にヤレヤレって顔する先輩」って感じの‥優しく‥ありがたい微笑だ。(後で絶対お仕置きされる(← 鞭)前触れの微笑(← 飴)ってやつ! )

「‥ついて来なくていいじゃん。
 結果だけしか求めてこない相手になんて、ついて来てもらわなくたっていい。
 会社では‥確かに結果が一番大事だけど、結果を出すために「この方法で間違ってないか」「これをするためにはどうすればいいか」って企画書を作るんだ。それを上司‥責任がある立場の人が「これは無理だ」とか「面白くない」とかそりゃあぼろくそ言って‥ボツを食らうことなんてそれこそ日常茶飯だ。
 仕事ってさ、一人でできることは限られてるし、俺の仕事なんか特に「人間相手」の仕事だからさ‥俺一人が頑張ったって仕方が無いんだよ。頑張ってアピールしても相手が「NO」って言ったら、それで終わりだ。
 きっと、「この国を良くしたい」って‥カタルだけが頑張ったって何ともできないことだと思う。
 カタルの意見を支持して、人が集まって‥応援する‥んじゃなくて、同じ方向を向いて、それぞれ各自で考えて実行する。
 人に仕事をわり振ったりするのは大変だよ? そりゃね。「自分でやった方が早い」ってことも多いと思うよ。だけど、自分一人ではどんなに「うまくいった! 」でも、自分の目標地点までなんだ。一緒にやる人が増えて‥一緒に考えたら、その目標地点はさらに先になるかもしれない。
 勿論それだけじゃだめで、間違ってたら「間違ってる」って言ってくれる人だっている。

 神様でいちゃダメなんだよ。
 神様には誰もダメ出しなんてしないし、「手伝います」も言えないからね」
 ‥ああ、言いたいことが上手く伝わらないな。ってヒジリは笑った。

「あと‥相変わらず綺麗ごとばかり‥って何だよ。俺は綺麗なことなんて一つも言ってないぞ。俺は、俺がしたいようにしかしてない。
 昔も、今もね。
 物語の聖女様みたいに「皆に幸せを! 」なんて‥できるわけないだろ? それに‥
 カタルの方が、よっぽど聖女様って顔してる。
 カタルなんて‥好きくないし、絶対ミチルに近づくな! だし、ナツミ‥ちょっと趣味悪いぞ‥って思うけど、顔は、間違いなく‥カタルの方がよっぽど聖女様みたい」
 はは、って笑ってヒジリがカタルから顔一つ分離れる。

「出来ないこと‥あっても仕方が無いんじゃない。‥俺はそう思うことにしてる。
 俺なんて、魔法どころか‥今では状態異常ですら自由に使えてない。昔は状態異常の帝王って呼ばれてたのに。
 ‥そもそも、魔法っぽくって昔は分かったのに‥今では全然‥想像もつかないんだ。
 後輩の国見に毎日冷たい顔されながら練習に付き合ってもらってるのに、全然だ。マンガみたいに「急に覚醒! 」とかもない」
 まあ‥俺のいいわけだけどね。
 そう言って、カタルに背を向けて‥カタルから完全に離れたところで、ラルシュがぐいっとヒジリの腕をつかんで‥カタルに向けて風の魔法を放った。

 ラルシュに腕をつかまれたままのヒジリは、ちょっと振り向き、(物理的に? )遠ざかっていくカタルを見た。
 カタルの綺麗な顔は、ぽかんとしているような‥なんとも間抜けた‥でも今までで一番人間っぽい表情に見えて‥
 ヒジリはふ、と微笑み「‥カタルのあの顔は誰にも言わないでいてあげよ」って心の中で思うのだった。
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