リバーシ!

文月

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十六章 ミチル争奪戦!

13.ミチルの願い

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「さっきの風魔法、凄かったな~」
 ナラフィスが興奮した声を出して、ラルシュに駆け寄った。

 いつもより、数段パワーアップした風魔法。
 国で最高位の魔法使いであるラルシュが、国の災厄と呼ばれているヒジリの膨大な魔力を使った魔法だ。
 正直、屋内(城の中)で使っていい威力の魔法ではない。しかも、練習ナシ‥ぶっつけ本番で、だ。
 成功したからよかったものの‥ってちょっと考えるのがヤバい。
 まあ、ぶっつけ本番であれだったから、もっと改良の余地アリなのかも。パワーアップも見込める? って考えたらワクワクするね! 
 ‥は黙っておこう。
 一緒になって、「違反者」を正当化したり、まして称賛したりとか‥ダメ、絶対。僕がこの先取らなきゃならない態度は‥「仕方が無かったんです」「ラルシュも無我夢中で‥、正当防衛だったんです」とかラルシュの立場を擁護することだ。
 あとで反省文どころではない「処分」が言い渡されるかもしれないから‥。
 でも、
 それ程の力が無かったら、ナツミとネルに手助けされてここに来たカタルを追い出すことは出来なかった。
 それは‥本当だ。
 ‥まあ‥その辺りは考慮してもらえるだろう‥。

 手ごわい敵だった‥。

 ラルシュはナラフィスの声に答えず(多分聞こえてもいなかっただろう)大きく息を吐きながら、ソファーに崩れ落ちた。
 ラルシュに腕をつかまれたままだったヒジリも、ラルシュに引っ張られ‥バランスを崩しラルシュの膝の上に倒れこんだ。

「‥お疲れ様で、今言うべきじゃないということは分かるが‥、ラルシュ、ヒジリを離してもらおうか」
 ばり、とヒジリを引きはがし、ミチルが苦笑いで‥ラルシュを睨む。
 口元は笑っているが、‥目が笑ってない。
 こいつはホントに狭量だな~って思う。
 ‥が、ヒジリはラルシュの婚約者で、ヒジリとラルシュがいなかったら今回カタルから逃げ切れてなかっただろうから‥お前にラルシュからヒジリを奪い取る権利はないぞ? 
 って思ったり。
 ヒジリはというと‥無反応だ。
 魔力を一気に抜かれ若干ぼ~としているヒジリは抵抗することもなく、ミチルに持ち上げられている。
 まるで、綿の少ない「抱き枕」かなんかの様で‥生もの感はゼロだ。

 ‥軽いな。

 ミチルは、女の子そのもののヒジリの軽さに、驚いた。
 膝からヒジリを剥がされ、‥条件反射でラルシュがミチルを睨む。
 そこに、ラルシュの意識なんかちっとも働いていない。
 これは、
 特別な相手を奪われた魔法使いとしての本能がさせた‥全く無意識の行動だ。

 初めてラルシュに睨まれてミチルは目を見開いて、信じられないものを見る様にラルシュの‥親友の目を見た。
 ‥今だ自分を睨んでいるラルシュの目に自分の姿は映っていない。
「‥‥‥」
 ぽすん、とヒジリをその膝に戻すと、ラルシュは安心したようにヒジリを両腕に抱き込み、その瞳を閉じ眠ってしまった。
「は! 」
 ヒジリが「正気に戻り」自分の状況‥ラルシュにバックハグ(? そんな色気のあるものでは無い。子供が大きなぬいぐるみを抱っこしているような‥ちょうどそんな感じだ)に驚き、慌てて腕から抜け出そうとしたが、ラルシュの力が強くて動けない。
「‥捕獲されてる‥俺が何かしたって言うのか‥」
 抜け出すのをあきらめたヒジリがため息交じりに呟いて、‥改めて大きく長く息を吐いた。
 ラルシュの力も強いが‥何より力が出ない。これはこの前体験した「魔力切れ」の状態に似ている。

 ‥似ているけど、そこまで辛くない。

 何より、ラルシュの体温が背中から伝わってきて思わず眠ってしまいそうなくらい‥心地いい。

 ‥あったかい。体温だけじゃない、なんか違うものが体に染み込んでいくみたいだ‥。
  
 ヒジリは力を抜いて、ラルシュの腕にもたれかかって、疲れに身を任せ軽く目を伏せた。
 そんなヒジリの顎をつかんでぐいっと上を向かせたのはナラフィスだった。
「かなり魔力を抜かれた様だけど、ヒジリは大丈夫なのか? 」
 ナラフィスは右手でヒジリの顎をつかんで上を向かせ、左手でヒジリの瞼をひっくり返したり、眼球をルーペでのぞき込んだりしながら心配そうに声を掛ける。
 ヒジリはされるがままだ。ナラフィスの問いかけにも答えない。‥多分、聞こえていないのだろう。
「ナラフィス、ヒジリは‥? 」
 ミチルが心配そうにナラフィスの横に立つと、ナラフィスが頷いて、ヒジリの瞼の裏をミチルに見せる。
「大丈夫そうだ」
 魔力切れを起こすと、瞼の裏が白くなったり目が充血したりするらしい。ヒジリの瞼の色は白くはなっていなかった。目がぼんやり‥どこを向いているのか分からないのは、眠いからだろう、とナラフィスが言った。
 ナラフィスは医学の心得は無いものの、自身が魔力切れで倒れて以来、簡単な検査位できるように医者に弟子入りしたのだという。

「‥それにしても‥まさか、あそこまでの力とはな。僕の結界は‥そう簡単に破れるものじゃないはずだ。
 しかも、この前よりずっと強度を挙げて来た‥正直僕の限界のレベルだ。
 僕は魔法は使えないが‥風の状態異常では国内最高クラスだ。
 その僕の風の状態異常ー万物遮断ーを破ってきたんだ‥。
 あっちの魔法使いの力がラルシュに勝るとは思わないが、少なくとも、結界を破るレベルで言ったら、ラルシュをも上回るかもしれない。
 ナツミはそんな凄い魔法使いなのか? 」
 ナラフィスが聞いたところで、それにこたえてくれる者はいない。
 ラルシュは熟睡しているし、
 ヒジリは眠りかけだ。それに、起きていたところでその答えは「知らない」だっただろう。
 ヒジリの幼馴染だとはいえ、ヒジリが知っているのは彼女の幼少期だけだ。
 あれから何があって、彼女がどんな気持ちで、どんな修行を積んできたかまでヒジリは知らないだろう。

「凄い魔力量があるリバーシと組んでるってことかな」
 ヒジリとラルシュのパターンと同じで‥
 ミチルが小さくため息をつくと、ナラフィスが頷いた。
「そういうことだろうな。
 あそこにいたのは‥結界内に入ってきたのはカタルだけだったが、結界の外でカタルを結界内に送った人間が二人いた。計三人あそこにいたってことだな。
 カタルと‥結界の外にいたのは‥ネル、ナツミだったな。あの三人の内魔法使いはカタルとナツミ。カタルの特別な相手はミチルだから‥ネルがナツミの特別な相手って可能性があるな」
 ミチルは、「カタルの特別な相手はミチル」のところであからさまに嫌そうな顔をする。
「俺とカタルは契約していないんだからネルがカタルに魔力供給したかもしれないだろ。
 出来るんだろ? 」
「特別な相手以外であそこまでの力出されたんだとしたら‥もう、この国は滅びるしかないレベルだよ‥
 しかも、あの魔力はカタルのものじゃなかったよ。
 ヒジリにつけられていた「ナツミ手作りの魔道具」に使われていた魔力と同じものを感じた」
 ナラフィスの言葉にミチルは唾をのむ。
「‥ネルはナツミの特別な相手で、ナツミは国内最高級の結界を破れるほどの魔法使い‥」

 そんな凄いナツミに、ヒジリが勝てるとは到底思えない。

 だけど‥ヒジリは諦めたりなんてしないだろう。
「ヒジリ‥」
 
 俺は、ヒジリをここから連れ去って‥監禁してでも‥守りたい‥。
 もう‥二度とここに連れて帰りたくなんてない。
 住所も変えて、誰も知らないところでただひっそりと安全に暮らしたいだけなんだ。
 
 ヒジリと一緒に‥。
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