リバーシ!

文月

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十七章 お試し「乙女ゲーム」

1.ズルい

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(side ナラフィス)


「‥それは‥流石に‥酷いぞ‥」
 驚きというか、呆れというか、‥いや、一番近いのは、怒りって感じ。
 ヒジリに腹を立てた‥っていうより、なんか分からないけど腹が立ったって感じかな。
 いや‥ヒジリに怒ってるってのは‥間違いはないんだけど、ヒジリってなんか「憎めない」よね。
 憎めないヒジリだけど‥、これは流石にちょっとね‥って感じ。

 ラルシュやミチルの今までのアプローチ‥モーションっての? そういうの、全然ヒジリには「届いてなかった」わけでしょ? ‥なんかかわいそうじゃん。
 鈍いって、その子の性格とかじゃない。
 ‥見てないんだ。
 鈍いって言葉で片付けて、誰のことも見てないだけじゃないか。
 そういうのって、‥酷いと思う。
 興味ない、とか、好きじゃない‥は仕方が無い。
 だけど、自分の為に誰かがしてる行為を見ないって、それはダメだと思う。
 自分の為に他人が時間やら‥もしかしたら、お金をかけたりして努力してるんだ。‥勇気を振り絞ってるかもしれない。(ラルシュとかヘタレだから、そういう可能性もあるよね。サラージも今まで女の子相手に気を使ったりしたの、みたことない。ああ見えてそういうのには‥奥手なんだ)

 結構分かりやすくモーションかけてたよ?

 周りにいる俺たちに分かって‥ヒジリ本人に分からないはずがないって思わない? 。
 絶対気付いてるのに、気付かない‥なかった振りしてるんだって思うよね。

 ズルいよね?
 
「‥ゴメン。
 でも‥
 そうだよね。見てないとか‥酷いよね。
 本当に‥ゴメン」
 ヒジリは‥眉を寄せて‥唇を軽くかんでいる。
 その顔がホントに苦しそうで、
 僕が一方的に苛めてるみたいで‥気が悪かった。
 でも、
 ‥それすら腹が立った。
 今度は僕を悪者扱いするのか? って‥被害妄想入りそう。ダメだ。ホント‥ダメだ。

 こころがどろどろになりそう。

「‥ナラフィス。もうやめてやれ。
 ヒジリも‥無駄なことで悩むな。
 ナラフィス‥ヒジリをお前の基準で非難するのは良くないぞ。
 ヒジリは‥お前と‥ここに居る誰とも‥全く違うんだから」
 はあ、とため息をついたサラージが、僕を呆れたような目で見る。
 ‥こいつは昔っから年下だのに、僕のこと敬ったことがない。
 自分から「先生になってくれ」って頼んだのに、だ。
「まったく違うって何さ。人間であることには違いないだろ。人間と人間が円滑に過ごそうって思ったら、人の事知るってのは、基本中の基本だと思うけど」
 僕が珍しく不機嫌な声を出したことに、一瞬目を(ほんのちょっと)見開いて、直ぐにまた小さくため息をついた。
「例えば、リバーシや魔法使い、普通の人間が考え方や暮らし方‥それが全く同じだって思うのか? 王族と庶民は? 持って生まれた能力や育ってきた環境、そういうのは、人間の性格や行動‥表情や顔つきまで決める。
 周りが求める「もの」がちがう。
 周りが許す「もの」がちがう。
 貧しくても優しい心‥は可能でも、貴族のように高貴な心は不可能だ。周りがそれを求めないし、‥許さない。
 貴婦人に求められる美しい手は、貴族にとっては必要でも、職人にとっては「修行不足」の「情けない手」でしかない‥かもしれない。
 ヒジリは、今まで男として暮らして来たんだ。記憶をすり替えられ、周り‥両親も当たり前に自分を男として扱い、自分の事を男だと思って暮らして来たんだ。
 生まれた時も、今も、疑いようもなく男だった俺たちとは‥その地点で、全然違うんだ。
 それで、
 今は「実は女でした」「第二王子の婚約者です」「世界の災厄です」って急に言われて‥
 混乱しない訳ないと思うけど? 逃げ出したい、現実逃避したい‥って思わないだけでも偉いって思うけど? 
 急にさ‥
 それ以上の事を求めるのは酷だと思うぜ」
 リバーシって言うなら、ヒジリもミチルも‥僕も同じだ。
 だけど、ミチルは異世界人でそもそもリバーシってもののことをそんなに知らない。
 ヒジリは‥今まで自分がリバーシだって事を忘れて暮らしていた。
 ‥僕とは違う。
 ヒジリは‥どういう状態なんだろう。
「‥ゴメン」
 僕が小声で謝ると、ヒジリが小さく首を振った。

「ヒジリは‥どうしたい? これから‥どうやって暮らしていきたい?
 出来るか出来ないか‥は別として、選択肢をあげていこうか‥。

 聖として、男として暮らしていく? それだったら、生活サイクルを変えて、昼間「寝て」意識を形にした「聖」で会社に通えばいい。‥今まで通り、ヒジリは「見掛け」のことで悩むことはない。
 俺と会う時は、ヒジリの姿でもいいし、聖のままでも構わない。
 そうやって暮らしていくことだって‥出来ると思う。

 それとも、ヒジリとして‥ラルシュと結婚してこっちで暮らす? 
 ラルシュなら、ヒジリの事情だって知ってるわけだし、ヒジリの意思を尊重してくれると思う。王族だけど‥子孫を残す行為とかが‥もし絶対‥気持ち的に無理とかだっても‥ラルシュならヒジリに強制しないって思うし。

 ラルシュと結婚がどうしてもいやなら‥
 同じリバーシのサラージと結婚して、「族の義務」として義兄であるラルシュの「特別な相手」となる‥。
 その選択肢もある。

 ‥俺と一緒に居たいって言ってくれるなら、俺は全力でヒジリを守る。
 ヒジリの安全を脅かす奴全員殺してでも、‥俺はヒジリを守る。だから、ヒジリは何も心配しなくていい」

 さりげなくヒジリを後ろから抱きしめながら言ったのは‥
 ミチルだった。
 
 ‥こいつ、さらっと「良いポジション」攫っていったな‥。ったく、恋愛上級者はこういう状況にもすぐに対応できるのね。やだわ~。
 睨みつけた僕の視線を、ミチルはにこっと微笑んでかわした。
 ‥こういう状況にも慣れてるってわけだ。
 修羅場も、嫉妬も、羨望も
 ‥モテる男ってのは、どんな状況でも、さらっとかわしちゃう能力を身に着けてなくちゃいけないってことなんだろう。
 不利な状況だって、‥不測の事態だって、‥ライバルの好機だってまるッと無視して、自分のモノにしちゃいそう‥。

 ラルシュやサラージが生まれながらにして王族で、「そういう育ち」をしてきたのと同じように‥
 僕が、生まれながらにして研究設備が整ってたのと同じように‥
 こいつは生まれながらにして「モテる奴の人生」を生きて来たんだ。

 親にそういうふうに育てられたわけでわけではなく、‥育ってきたんだ。

 これも、「生まれつき」の環境だよな。身分、財産、親の愛情や良識‥容姿。自分じゃ何ともできない四大「産まれついたもの」。

 にしても‥
 選択肢だなんて‥
 「乙女ゲーム」みたいだな。
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