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十七章 お試し「乙女ゲーム」
3.「ヒロイン」お休み
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(side ヒジリ)
マリアンちゃんと生活して‥
何かが変わるかもって思ってたけど
‥思った以上に何も変わらなかった。
マリアンちゃんは、(少しの間だけど)共同生活をする上で、お互いに気を使ったりしないでおこうって最初に俺にお願いして‥俺も頷いたものの「って言っても、他人と生活するんだから‥気を遣わないって方が無理だろう」って思ったのに、‥思ってたのに、俺は‥多分マリアンちゃんも‥お互いびっくりするほど気を遣わなかったって思う。
驚くほど自然で穏やかな日々を過ごしてるって思う。
でも、別に何も話さない‥とかじゃない。
寧ろいつもより話している‥様な気がする。といって、無理に話そうとかはしてない。
マリアンちゃんは俺に何も聞かないし、俺もマリアンちゃんに何も聞かない。
だけど、気が付いたら話してて‥俺たちはお互いのことを驚くほど話していることに気が付いた。
たとえば、ナラフィス先生(マリアンちゃんはナラフィス先生のことを「タツキ様」って呼ぶんだ。初めて聞いた時は「誰だ? 」って思ったけど‥考えたらナラフィス先生もリバーシだから「リバーシとしての名前」があるのは当たり前だよね)とは「乙女ゲームの話」ばかりしている‥とか、婚約した‥と言っても全然ラブラブな関係じゃない‥とか(これは、そうなんだ~って思った。なんか「ナラフィス先生らしい」って感じもするし、実は好みとかリアルで案外俗物なナラフィス先生にしては「らしくない」って感じもするし‥。複雑な思いだよね)
顔がそっくりな姉がいることや伯爵家の出身だってこと‥。
城には「タツキ様の話し相手」って要請で来たこと。
選ばれた基準は家柄と、「タツキ様が好きそうな顔」ってこと(なにそれ! って言ったら「でしょ? 」って笑われた)
どうやら、まだナラフィス先生が王子様の従兄弟だってことは知らない様だ。‥もしかしたら、ナラフィス先生は一生言わない気なのかもしれない。(両親には話すかもしれないけど)
趣味はお菓子作りと読書(恋愛小説)。女らしいな~って思ってたら「でも、貴族子女の嗜みである刺繍は苦手なんです」って笑ってた。「姉さんは刺繍も上手だし、所作や作法も完璧な淑女なんですよ」って‥姉さん自慢。マリアンちゃんはホントにお姉さんの事大好きなんだろうなって思った。(あと、普通の貴族子女は自分でお菓子なんか作らないらしい)‥まあ、火傷とかしたら危ないしね。
マリアンちゃんはホントに素直で可愛くって‥優しくって‥。話してて楽だし、なんだかほんわかする。
思えば、ナツミと話してるときは「こんなこと言ったらナツミに馬鹿にされる」って思うこともあったし、ミチルと話が合うって言っても、何の話でもできるわけでもない。‥ミチルって知らない奴の事(← 男限定。焼き餅焼いてるだけ)話すと嫌がるんだ。疎外感感じるんだろうな。俺も、知らない人の話を目の前で楽しそうにされたら面白くないし、その気持ちも分かる。
そんな感じで、「この話はしない」って話があったり‥とかしてね。でも、マリアンちゃんにとっては誰もかれもが「知らない奴」だから、問題ない‥ってかんじ。
あとさ、やっぱりミチルたちには出来ない話ってあるよね。‥やっぱり性別が違うから。
女だって分かって、本体で生活するようになってから、生理とか始まって(始まった‥というか、実感してかな。お城で寝てた本体は普通に毎月あったんだろうな。‥お世話してくれたメイドさんたちすみません‥)「あれって辛いよね~」って話‥そういえば他人に初めてした。母さんにも‥なんか恥ずかしくってこんな話出来なかったからな~。
そういうの、全部含めて‥ホントに楽しい。
「女らしいとか‥男らしいとか‥こうなりたいとか‥こうならなくちゃならないとか‥。
こうなりたいじゃなくて、こうならなきゃならない、って思うってことは、「なりたくないけど」ってことなんですよね。
私の家族は、私たちを驚くほど自由にさせてくれたんです。
母様は淑女の作法や嗜みについて、「こうするんですよ」って教えてくれたけど、「こうしなさい」って言ったことはなかった。‥でも、私もそれについて「そんなの嫌だ」って思ったことはなかった。
母様がそうしてるのを見て、「そういうのいいな」って思ったし、「なぜそんなことするんだ? 」ってことは何一つなかったから。
でも、初めて社交界に出た時、「こんなのは嫌だ」ってことは私に言わないでいてくれたんだなって気付いた。
例えば、家の為の婚約者や、家の為の交友、「可愛く見える女の子とは」っていう‥秘訣。男の子を「いい気にさせる方法」だとか、ライバルを蹴散らす方法だとか、誰についた方が得だとか‥。そんなこと‥習って来たことなかったし、‥きっとそんな話されてたら、反発してた。
私たち姉妹はホントに自由に過ごさせてもらっていたんです」
ふんふんと相槌を打ちながら聞く。
まあ‥政治っていうか‥会社でも上司に取り入る方法‥とか「処世術」に長けてる人間はいるよな~なんて思った。でも、‥俺もそういうタイプじゃなかったな、と。
それで最後は結局
「でも、姉様は凄いんです! 全然人に媚びたりしないんです。だけど、いつも周りに人が集まってて、社交界の華って呼ばれてて」
ってまた姉さん自慢が始まるんだ(ほっこり‥)
「私にも優しい、自慢の姉なんです! 」
それを聞いてたら、俺には兄弟姉妹なんていないからなんか羨ましいな~って思ったり。
‥俺のことが大変で、それどころじゃなかったのかな。両親に悪いなって思ったり。
「貴族って、兄弟姉妹が仲が悪い家が少なくない気がします。
長男だから、次男だから‥後継の問題だとかで、両親や使用人、周りの人たちの対応が違ったりするし、能力の有無でいがみ合ったり‥
だから、兄弟姉妹がいるのがいい‥とは一概には言えないんですが、‥私は姉様が居てくれてよかったなあって思うんです」
う~ん、なるほどねえ。
まあ‥地球でもそういうのは、あるな。兄弟や姉妹‥近い関係だからこそ、他人から見たら「団栗の背比べ」でも気になったり、嫉妬したり‥。そればっかりは、貴族だから、とか以前に「人間だから」って感じもする。
「あ、私ばかり話してしまってすみません。ヒジリ様とお話ししていると楽しくて! ヒジリ様って、お話しやすい方ですね。初めてお目にかかった時は、あんまり綺麗で緊張してしまったのですが」
‥未だに誰のこと言われてるのかな? って気分になるね。
でも、でもね。「お世辞言われてる」って気はしないんだ。マリアンちゃんはそう思ってくれてるんだろうな、って嬉しい気持ちになるだけ。
‥それが凄く嬉しいんだ。
「ナラフィスさんいいな~。俺も‥マリアンちゃんと一緒に住みたいなあ。一生‥」
あ、タツキ様だっけ? 慣れないわ~。ナラフィスさんはナラフィスさんだもんな。‥同じ人間だのに、「自分はナラフィスだ」って思ってるのに、別の名前とか‥なんか間違ってるよな~。俺の名前を「これからはヒジリって呼ぶように」って言われた時、母さんはどう思ったのかな。
「仕方が無いな」
って思った?
「‥嫌だな」
って思った?
‥俺はどう思ったんだろう。
自分の気持ちなのに、覚えてない。
「マリアンちゃんはやらんぞ。‥ヒジリ、その顔でじーとマリアンちゃんを見るんじゃない。マリアンちゃんが減り‥はしないが、マリアンちゃんが溶ける。ヒジリと話してたら忘れちゃうけど、(← ナラフィスはあんまり人の顔を見て話さない)ヒジリは凄い美人だからな~」
いつの間に来たのか、ナラフィス先生がマリアンちゃんを背中に隠しながらため息をついた。
「あら、私もヒジリ様と一生一緒に居たいわ? 毎日この顔を見られるなんて、幸せですわ~! 」
「三日で飽きるかもしれないぞ? 美人は三日で飽きるって地球では言われてるらしい」
「今日でまだ二日目ですが、まだまだ飽きる気はしませんわよ? 明日になって急に飽きる‥とかあるものなのかしら? 」
‥夫婦漫才始まったよ。
この二人、なんかいいな~。
「ヒジリ見てて、乙女ゲームの新しいインスピレーションわいてきた? 」
「‥幸せ過ぎて、美しすぎて‥今までそんな考えすら浮かんでいませんでしたわ。‥そうですよね。ヒジリ様が目の前におられるんですよね。私たちの「ヒロイン・ヒジリ」様が‥」
‥何それ。乙女ゲームのインスピレーション? 俺で遊んでるの? 俺を観察して何か書こうとしてるの??
怖いよ?
「ヒジリ様は素敵な方です。
ヒロインにありがちな「攻略対象の愛に気付かない鈍感さ」も、気付かない振りしてる狡さ、とか、かわい子ぶりっ子してるとかじゃなくて、「一生懸命過ぎてそれどころじゃない」って分かったし、
皆を振り回して、結局誰に決めるか決めかねてる‥って葛藤なんて、微塵も感じさせない‥むしろ、そんなこと普通に気付きもしてない「男気溢れる性格」も素敵。
きっと、皆そんなことどうでもいいんでしょうね。
寧ろ、ヒジリ様と一緒に居られたらそれでいいんでしょうね。
だけど‥
ラルシュ様にとって、ヒジリ様と結婚することは、「特別な相手」を手にする‥って意味があり、ミチル様にとって、ヒジリ様をあきらめるってことは、「住む世界(文字通り世界が違う)が違ってしまう」ってことを意味する。
サラージ様にとっては‥「兄の為、ヒジリをこの世界に留めておかないといけない。ミチルに奪われるくらいなら俺が‥」って感じかしら。‥はじめはそう思ってたけれども、今は「兄にも渡したくない」‥
ああ!
愛と葛藤の大スペクタル巨編‥っ!
素敵すぎる‥! 」
‥もしもし? マリアンちゃん?? どうしちゃったの??
ナラフィス先生はくすくす笑ってる。
そっか~。ありのままを愛する‥
素敵だね。
俺は、誰かをありのまま愛せるんだろうか。‥愛されるんだろうか。
それ以前に、‥誰かにありのままを見せられるんだろうか‥。
好きになった人の「ありのまま」を見ることが出来るんだろうか?
恋は盲目で、変に美化しちゃったり、好きだから自分の嫌いなところ見せたくなかったり‥人は演技したり「見ない振り」したり‥
三人での夕食後、ナラフィス先生が研究室に戻ってから女二人でお茶を飲みながらポツリ、と漏らすと、マリアンちゃんがふふ、と笑った。
「大丈夫ですよ。考えすぎなくって。人と人の付き合いですもの。
ヒジリ様が出来ないことは、きっとお相手の方にもできませんよ。
ヒジリ様が「見ない振り」するのと同じように、お相手の方も、ヒジリ様のこと美化して、嫌なところを「見ない振り」します。それでも、ヒジリ様が隠されてる「隠したいところ」に気付いて「可愛いな」って思われたりする‥そういうものでは無いですか?
どうしたい、こうしたい、こうなりたい‥
悩んだり、悶絶したり、泣いたり、笑ったり‥
人は‥恋愛は自由でしょ? 」
恋愛なんて難しい。
俺には無理、って思ってたけど‥
悩んだり、笑ったり、泣いたり‥恥ずかしかったり、カッコ悪かったり‥
あれら全部が既に恋愛だった‥ってわけか~。
でも‥
はっきり答えを出せなくて、迷ってばかりいる俺をマリアンちゃんは抱きしめて、「無理しなくても大丈夫ですよ」って言ってくれた。
そして‥言ってくれたんだ。
「ヒジリ様が自分の立場や能力のことで「自分はどうするべきか」ってお考えになってる。
タツキ様は、それはヒジリ様の意思を尊重すべきだっておっしゃってる。
‥そんなこと言われても、いえ、寧ろ‥そんなことを言われたら余計に「でも‥」って思っちゃいますよね。
だから、今はそのことを考えるのは少し止めてみましょ? 」
って。
黙ってうなずいた俺は‥ズルい。
分かってるけど‥今は、少し疲れたんだ。
マリアンちゃんと生活して‥
何かが変わるかもって思ってたけど
‥思った以上に何も変わらなかった。
マリアンちゃんは、(少しの間だけど)共同生活をする上で、お互いに気を使ったりしないでおこうって最初に俺にお願いして‥俺も頷いたものの「って言っても、他人と生活するんだから‥気を遣わないって方が無理だろう」って思ったのに、‥思ってたのに、俺は‥多分マリアンちゃんも‥お互いびっくりするほど気を遣わなかったって思う。
驚くほど自然で穏やかな日々を過ごしてるって思う。
でも、別に何も話さない‥とかじゃない。
寧ろいつもより話している‥様な気がする。といって、無理に話そうとかはしてない。
マリアンちゃんは俺に何も聞かないし、俺もマリアンちゃんに何も聞かない。
だけど、気が付いたら話してて‥俺たちはお互いのことを驚くほど話していることに気が付いた。
たとえば、ナラフィス先生(マリアンちゃんはナラフィス先生のことを「タツキ様」って呼ぶんだ。初めて聞いた時は「誰だ? 」って思ったけど‥考えたらナラフィス先生もリバーシだから「リバーシとしての名前」があるのは当たり前だよね)とは「乙女ゲームの話」ばかりしている‥とか、婚約した‥と言っても全然ラブラブな関係じゃない‥とか(これは、そうなんだ~って思った。なんか「ナラフィス先生らしい」って感じもするし、実は好みとかリアルで案外俗物なナラフィス先生にしては「らしくない」って感じもするし‥。複雑な思いだよね)
顔がそっくりな姉がいることや伯爵家の出身だってこと‥。
城には「タツキ様の話し相手」って要請で来たこと。
選ばれた基準は家柄と、「タツキ様が好きそうな顔」ってこと(なにそれ! って言ったら「でしょ? 」って笑われた)
どうやら、まだナラフィス先生が王子様の従兄弟だってことは知らない様だ。‥もしかしたら、ナラフィス先生は一生言わない気なのかもしれない。(両親には話すかもしれないけど)
趣味はお菓子作りと読書(恋愛小説)。女らしいな~って思ってたら「でも、貴族子女の嗜みである刺繍は苦手なんです」って笑ってた。「姉さんは刺繍も上手だし、所作や作法も完璧な淑女なんですよ」って‥姉さん自慢。マリアンちゃんはホントにお姉さんの事大好きなんだろうなって思った。(あと、普通の貴族子女は自分でお菓子なんか作らないらしい)‥まあ、火傷とかしたら危ないしね。
マリアンちゃんはホントに素直で可愛くって‥優しくって‥。話してて楽だし、なんだかほんわかする。
思えば、ナツミと話してるときは「こんなこと言ったらナツミに馬鹿にされる」って思うこともあったし、ミチルと話が合うって言っても、何の話でもできるわけでもない。‥ミチルって知らない奴の事(← 男限定。焼き餅焼いてるだけ)話すと嫌がるんだ。疎外感感じるんだろうな。俺も、知らない人の話を目の前で楽しそうにされたら面白くないし、その気持ちも分かる。
そんな感じで、「この話はしない」って話があったり‥とかしてね。でも、マリアンちゃんにとっては誰もかれもが「知らない奴」だから、問題ない‥ってかんじ。
あとさ、やっぱりミチルたちには出来ない話ってあるよね。‥やっぱり性別が違うから。
女だって分かって、本体で生活するようになってから、生理とか始まって(始まった‥というか、実感してかな。お城で寝てた本体は普通に毎月あったんだろうな。‥お世話してくれたメイドさんたちすみません‥)「あれって辛いよね~」って話‥そういえば他人に初めてした。母さんにも‥なんか恥ずかしくってこんな話出来なかったからな~。
そういうの、全部含めて‥ホントに楽しい。
「女らしいとか‥男らしいとか‥こうなりたいとか‥こうならなくちゃならないとか‥。
こうなりたいじゃなくて、こうならなきゃならない、って思うってことは、「なりたくないけど」ってことなんですよね。
私の家族は、私たちを驚くほど自由にさせてくれたんです。
母様は淑女の作法や嗜みについて、「こうするんですよ」って教えてくれたけど、「こうしなさい」って言ったことはなかった。‥でも、私もそれについて「そんなの嫌だ」って思ったことはなかった。
母様がそうしてるのを見て、「そういうのいいな」って思ったし、「なぜそんなことするんだ? 」ってことは何一つなかったから。
でも、初めて社交界に出た時、「こんなのは嫌だ」ってことは私に言わないでいてくれたんだなって気付いた。
例えば、家の為の婚約者や、家の為の交友、「可愛く見える女の子とは」っていう‥秘訣。男の子を「いい気にさせる方法」だとか、ライバルを蹴散らす方法だとか、誰についた方が得だとか‥。そんなこと‥習って来たことなかったし、‥きっとそんな話されてたら、反発してた。
私たち姉妹はホントに自由に過ごさせてもらっていたんです」
ふんふんと相槌を打ちながら聞く。
まあ‥政治っていうか‥会社でも上司に取り入る方法‥とか「処世術」に長けてる人間はいるよな~なんて思った。でも、‥俺もそういうタイプじゃなかったな、と。
それで最後は結局
「でも、姉様は凄いんです! 全然人に媚びたりしないんです。だけど、いつも周りに人が集まってて、社交界の華って呼ばれてて」
ってまた姉さん自慢が始まるんだ(ほっこり‥)
「私にも優しい、自慢の姉なんです! 」
それを聞いてたら、俺には兄弟姉妹なんていないからなんか羨ましいな~って思ったり。
‥俺のことが大変で、それどころじゃなかったのかな。両親に悪いなって思ったり。
「貴族って、兄弟姉妹が仲が悪い家が少なくない気がします。
長男だから、次男だから‥後継の問題だとかで、両親や使用人、周りの人たちの対応が違ったりするし、能力の有無でいがみ合ったり‥
だから、兄弟姉妹がいるのがいい‥とは一概には言えないんですが、‥私は姉様が居てくれてよかったなあって思うんです」
う~ん、なるほどねえ。
まあ‥地球でもそういうのは、あるな。兄弟や姉妹‥近い関係だからこそ、他人から見たら「団栗の背比べ」でも気になったり、嫉妬したり‥。そればっかりは、貴族だから、とか以前に「人間だから」って感じもする。
「あ、私ばかり話してしまってすみません。ヒジリ様とお話ししていると楽しくて! ヒジリ様って、お話しやすい方ですね。初めてお目にかかった時は、あんまり綺麗で緊張してしまったのですが」
‥未だに誰のこと言われてるのかな? って気分になるね。
でも、でもね。「お世辞言われてる」って気はしないんだ。マリアンちゃんはそう思ってくれてるんだろうな、って嬉しい気持ちになるだけ。
‥それが凄く嬉しいんだ。
「ナラフィスさんいいな~。俺も‥マリアンちゃんと一緒に住みたいなあ。一生‥」
あ、タツキ様だっけ? 慣れないわ~。ナラフィスさんはナラフィスさんだもんな。‥同じ人間だのに、「自分はナラフィスだ」って思ってるのに、別の名前とか‥なんか間違ってるよな~。俺の名前を「これからはヒジリって呼ぶように」って言われた時、母さんはどう思ったのかな。
「仕方が無いな」
って思った?
「‥嫌だな」
って思った?
‥俺はどう思ったんだろう。
自分の気持ちなのに、覚えてない。
「マリアンちゃんはやらんぞ。‥ヒジリ、その顔でじーとマリアンちゃんを見るんじゃない。マリアンちゃんが減り‥はしないが、マリアンちゃんが溶ける。ヒジリと話してたら忘れちゃうけど、(← ナラフィスはあんまり人の顔を見て話さない)ヒジリは凄い美人だからな~」
いつの間に来たのか、ナラフィス先生がマリアンちゃんを背中に隠しながらため息をついた。
「あら、私もヒジリ様と一生一緒に居たいわ? 毎日この顔を見られるなんて、幸せですわ~! 」
「三日で飽きるかもしれないぞ? 美人は三日で飽きるって地球では言われてるらしい」
「今日でまだ二日目ですが、まだまだ飽きる気はしませんわよ? 明日になって急に飽きる‥とかあるものなのかしら? 」
‥夫婦漫才始まったよ。
この二人、なんかいいな~。
「ヒジリ見てて、乙女ゲームの新しいインスピレーションわいてきた? 」
「‥幸せ過ぎて、美しすぎて‥今までそんな考えすら浮かんでいませんでしたわ。‥そうですよね。ヒジリ様が目の前におられるんですよね。私たちの「ヒロイン・ヒジリ」様が‥」
‥何それ。乙女ゲームのインスピレーション? 俺で遊んでるの? 俺を観察して何か書こうとしてるの??
怖いよ?
「ヒジリ様は素敵な方です。
ヒロインにありがちな「攻略対象の愛に気付かない鈍感さ」も、気付かない振りしてる狡さ、とか、かわい子ぶりっ子してるとかじゃなくて、「一生懸命過ぎてそれどころじゃない」って分かったし、
皆を振り回して、結局誰に決めるか決めかねてる‥って葛藤なんて、微塵も感じさせない‥むしろ、そんなこと普通に気付きもしてない「男気溢れる性格」も素敵。
きっと、皆そんなことどうでもいいんでしょうね。
寧ろ、ヒジリ様と一緒に居られたらそれでいいんでしょうね。
だけど‥
ラルシュ様にとって、ヒジリ様と結婚することは、「特別な相手」を手にする‥って意味があり、ミチル様にとって、ヒジリ様をあきらめるってことは、「住む世界(文字通り世界が違う)が違ってしまう」ってことを意味する。
サラージ様にとっては‥「兄の為、ヒジリをこの世界に留めておかないといけない。ミチルに奪われるくらいなら俺が‥」って感じかしら。‥はじめはそう思ってたけれども、今は「兄にも渡したくない」‥
ああ!
愛と葛藤の大スペクタル巨編‥っ!
素敵すぎる‥! 」
‥もしもし? マリアンちゃん?? どうしちゃったの??
ナラフィス先生はくすくす笑ってる。
そっか~。ありのままを愛する‥
素敵だね。
俺は、誰かをありのまま愛せるんだろうか。‥愛されるんだろうか。
それ以前に、‥誰かにありのままを見せられるんだろうか‥。
好きになった人の「ありのまま」を見ることが出来るんだろうか?
恋は盲目で、変に美化しちゃったり、好きだから自分の嫌いなところ見せたくなかったり‥人は演技したり「見ない振り」したり‥
三人での夕食後、ナラフィス先生が研究室に戻ってから女二人でお茶を飲みながらポツリ、と漏らすと、マリアンちゃんがふふ、と笑った。
「大丈夫ですよ。考えすぎなくって。人と人の付き合いですもの。
ヒジリ様が出来ないことは、きっとお相手の方にもできませんよ。
ヒジリ様が「見ない振り」するのと同じように、お相手の方も、ヒジリ様のこと美化して、嫌なところを「見ない振り」します。それでも、ヒジリ様が隠されてる「隠したいところ」に気付いて「可愛いな」って思われたりする‥そういうものでは無いですか?
どうしたい、こうしたい、こうなりたい‥
悩んだり、悶絶したり、泣いたり、笑ったり‥
人は‥恋愛は自由でしょ? 」
恋愛なんて難しい。
俺には無理、って思ってたけど‥
悩んだり、笑ったり、泣いたり‥恥ずかしかったり、カッコ悪かったり‥
あれら全部が既に恋愛だった‥ってわけか~。
でも‥
はっきり答えを出せなくて、迷ってばかりいる俺をマリアンちゃんは抱きしめて、「無理しなくても大丈夫ですよ」って言ってくれた。
そして‥言ってくれたんだ。
「ヒジリ様が自分の立場や能力のことで「自分はどうするべきか」ってお考えになってる。
タツキ様は、それはヒジリ様の意思を尊重すべきだっておっしゃってる。
‥そんなこと言われても、いえ、寧ろ‥そんなことを言われたら余計に「でも‥」って思っちゃいますよね。
だから、今はそのことを考えるのは少し止めてみましょ? 」
って。
黙ってうなずいた俺は‥ズルい。
分かってるけど‥今は、少し疲れたんだ。
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