リバーシ!

文月

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十九章 「皆が望むハッピーエンド」

7.人もケーキも色々ある(side ナラフィス)

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「ナラフィス先生、マリアンちゃんとのデート楽しかったですか? 」
 街からのお土産をヒジリに渡したら、そんな言葉を掛けられた。
 僕は苦笑いした。
 
 楽しかったって‥遊びに行ったんじゃないんだぞ。
 って思ったけど‥ヒジリの幼馴染のこと調べてた‥とは、言えない。
 言ったら、絶対「俺も行きたかった」とか言うだろう。
 結果、暴走して‥一人でナツミに会いに行ったりするかもしれない。
 僕はヒジリの為を思って、今回の調査の内容を話さないんだぞ!

 だけど‥まあ‥「ついでに」マリアンとデートしたわけだから‥そういう風に思われても仕方がないかな。
 確かに楽しかったしね。
 マリアンと街に出たのは初めてだったから、何もかもが新鮮だった。
 ただ調べ事したり、本屋に行ったり、お茶を飲んだりしただけなのに、一人で行くときなんかと比べようもない程楽しかった。(マリアンも可愛かった! )
 だからまあ‥許そう。っておおらかな気持ちで頷こう‥
「ん~。やっぱ、微妙だね! こっちのケーキより地球のケーキのほうが美味しいね! 」
 と思ったがやめた。
 文句言うなら食うな! 
 ‥まあ確かに、地球のケーキのほうがおいしいけど。
「こっちのお菓子って‥甘さ控えめにするとかっていう気持ちがないよね~。甘いばっかりで素材の良さを消しちゃってるって言うか‥」
 まだ言うか! 
「ってか、そんなにケーキを食べるほうじゃないんだけどね! 」
 ないんかい! 
 (じゃあ)そんな貴様にケーキを語る資格はないんじゃない!? 
 同じ地球人のミチルを見ると苦笑いしながら完食して
「ケーキは甘いもんだろ。そう相場が決まってる。だから、甘い物を食べておいて、「甘い! 」って感想はない」
 ってヒジリに説教した。
 それな!
 って僕がミチルに同意していると、ふっと真顔になったヒジリが‥
「いやいや、そういう決めつけは良くないよ。ミチル君。総てのケーキを一括りにするのは、苦労して「それぞれのケーキを作ってる」職人に失礼だ」
 って言ったんだ。
 ‥まあ、そうだよな? 一括りにするのは良くないよな。‥ってか、さっきヒジリもここのケーキと地球のケーキを一括りにしたけどな。
 僕は苦笑いして、ミチルの反論を待つ。
「ほう? 」
 ミチルは‥でも苦笑いしただけ。反論しなかった。
 ‥きっと、面倒くさいし、馬鹿馬鹿しいからしなかっただけだろう。だけど、ヒジリは
「人にもいろいろあり、ケーキにもいろいろあるんだよ! 」
 「勝った!  」ってドヤ顔してこの「ケーキもいろいろ論争」を締めくくったんだ。
 ‥子供か!

 人にもいろいろある。でも、まあ‥それは確かだ。
 男もいれば女もいて、魔法使いもいればリバーシもいて‥魔力がある人もいれば魔力がない人もいる。
 ‥だけど、それは‥昔は当たり前のことじゃなかった。
 昔、
 この世界も地球と同じ‥「普通の人間」しかいなかった時代があった。

 昔、この世界には魔法はなく、魔法使いも、リバーシもいなかった。
 だけど、愚かな人間が世界の禁忌を犯し、その罰は‥彼らの子どもたちに与えられた。
 以後王家にはその呪いが続き、やがて国中に広がっていくのだろう。

 愚かな人間の犯した世界の禁忌‥これは、デュカとリゼリアの近親婚のことだろう。
 そして、その結果‥それまでにはなかった子供たちが生まれた。
 魔法使いとリバーシだ。
 城を出たリバーシや魔法使いが「普通の人」と結婚した結果、魔力を持つ子供が産まれ‥次第に王族以外にも魔法使いやリバーシが生まれるようになった。
 城がリバーシや魔法使いを城で管理するのは「城の不始末(っていう言い方はどうかと思うけど)」を城でつける為。
 「もともと私たちの不手際だから、私たちが責任取ります」的な考えがあったんだろう。
 ‥昔は。
 リバーシや魔法使いは今以上に恐れられてただろうしね。

 まあ‥そんな感じで国中に広がっていった呪いなわけだけど、城ではそうではなく「当たり前」のこととして受け入れられてきた。

 王家に生まれる子供の内、一人だけは「普通の子」。この子が次の王にならねばならない。
 もう一人は魔法使い、そして、もう一人はリバーシ。
 二人が異能を持って「普通の子」を支えれば、国家の安寧は保たれるだろ。

 王家のみに生まれる「普通の子」。
 これが王家が王家である所以‥。
 「普通の子」は一般的な普通の人とは違う。一般的な普通の人って言うのは魔力が無くて(だから当たり前に)魔法が使えなくて、リバーシでもない。‥そういう人。だけど、「普通の子は」リバーシ並みに魔力が強くて、魔法使いのように他から魔力を得ることが出来る(だけど)魔法は使えなくてリバーシでもない‥そういう人。
 一見それは「意味がない」っていう風に見える。
 使い方が分からなければ確かに「意味がない」で間違いないだろう。‥実際、歴代の王たちも「何となく」それに従って来た。そして、そのせいか、国は安定していた。‥逆にそれを守らない年は国が荒れたってことが過去に会ったらしい。
 だけど、「それ」が分かるのは王家だけ。「普通の子」が王にならないといけないことを知っている王家だけ。
 ‥国民には王は選べない。
 
 王のことは‥実は王家にだってよくわかっていない。
 いくら僕だって好奇心で王のことをあれこれ探ることなんて出来ないから‥。

「‥呪い‥かあ」
 ポツリと呟くと、
「え。怖い何急に。お‥私はケーキの話をしてただけなんだけど‥なんで急にそんな恐ろしい話に‥」 
 ドン引きしたヒジリが怯えたような顔(勿論冗談で作ってるだけだ)で僕を見た。

 もし、自分が普通の人間だったら、どんな人生を送ってただろう。
 初めてそんなことを思った。
 今までだったら、「一日24時間どころじゃ足りないよ! 」って言ってたのに‥。
 僕は‥変わった。
 変わるわけないのに‥リバーシであるのに‥。
 
「‥ナラフィス先生? 顔色が悪いですよ? 今日はもう横になられた方がいいですよ? 」
 心配そうな顔でヒジリとミチルが僕を見ている。
 寝た方がいい、じゃなくて横になったほうがいい。
 リバーシなら当たり前の言い方。
 だって‥寝れないんだもん。
「確かに顔色が悪いな。誰かお医者さんを呼んでくれ」
 サラージの焦ったような声。
 ‥サラージがこんな表情で僕を見るなんて珍しい。
 こんな顔で僕を見るのはいつもだったらラルシュだ。‥なんだ? そんなに顔色悪いのか? 
 よくわかんない‥。
 だけど、快調とはいいがたい‥こんな気持ちの悪さ初めてだ。
 身体が言うことを聞かない‥。
 
 身体の調子が悪くって気持ちが悪いじゃない。
 僕って奴は‥こんな時でさえ、自分の状態をあれこれ観察している。
 観察できるんなら平気かな、って思えない。
 どんどん、思考が停止していく。
 瞼が‥重い。
 瞼一つ自分の思い通りに動かせない‥。
 まるで誰かが僕の身体を押さえつけてるみたいに‥重くなっていく。

 そうして‥僕はその「何ものか分からない力」に抗えず‥無様にも意識を手放したのだった。
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