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十九章 「皆が望むハッピーエンド」
8.好きな人の傍で目覚める朝。
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「ナラフィス! 次、これ読んでみろ! 面白いぞ! 」
何だこの少年。
誰だか知らんが馴れ馴れしいな。僕の事、呼び捨てするとか‥城の者に見つからないうちにさっさと出て行った方がいいぞ。「不敬だ! 」とか言われるぞ。僕はともかく、周りの者たちはそういうの凄い厳しいぞ。子供だろうが容赦しないぞ。きっと、首根っこ掴まれて連れ出されるぞ。今なら誰にも見つかって無いみたいだし(何故か! ‥どうなってるんだこの城のセキュリティー)、僕は黙っててあげるから‥今のうちにこっそり出て行った方がいい。人に会わない帰り道を教えてあげよう‥。
そんなことを思ってはいるんだけど‥身体が動かない。
‥疲れてるのかな?
ぼんやりとただ見ていると少年はにかっと笑って
「他のおススメの本持ってきてやるからそこに居ろよな! 」
ってドアの向こうに消えていった。
さっき少年が置いて行った本を見ると
「王国史~この国の礎を築いた偉人たち~」
と書いてある。
‥渋いセレクトだな。
あのくらいの少年が読むにしてはちょっと内容がハードじゃないか? まだ児童書を読んでいそうな年恰好に見えたけど‥。
ああ‥そうか、あの子はリバーシか魔法使いなんだな。だから‥ませてるんだよ。「児童書とか‥。そんなガキっぽいのなんて読まない! 」って感じなんだろう。
リバーシや魔法使いの子どもは精神年齢が高い。‥なんせ、他にはない力をもって生まれたわけだから、知能的にも成長が早くないと周りに迷惑をかけるから。
きっと、力が特別に強いとかで城で監視されてる子供なんだろう。
‥そういえば「明らかにただ者じゃない」って顔してた。将来大物になりそうな感じ。
だけど、今の地点では只の子どもだ。
将来大物になるためには、知識と技術だけでなく礼儀作法も教えてもらわないといけない。‥寧ろ、知識を教えるよりそちらの方が重要だろう。城は「子供だから」が通用する場所ではない。
それとも、偉いさんっぽくない僕だから侮ってるってことかな? あの子供が人を選んだって感じ? 偉いさん相手にはちゃんと礼儀正しい態度を取らなきゃマズいけど‥僕みたいなただのオッサンには、別にこれでいいだろ‥って感じか?
僕の立場とかは‥まあ別にどうでもいいけど、年上の者、しかも他人にため口とか絶対にダメだ。勝手に親しみを感じられても僕はぜんぜん彼のことを知らないぞ? 親戚の子でもないと思う。‥僕の親戚であの位の年恰好の子は‥いなかったはずだ。結婚している兄弟はいるが、子供が産まれたって話は聞かない。‥産まれてて知らせてなかったかもしれないが‥あんなに成長していないだろう。
10歳になってるかなってないか位?
弟が結婚したのは2年前だから‥もし彼の子どもだとしたら‥妻の連れ子的な? ‥そんな話聞いてなかった。奥さんは初婚だったし、確か結婚当時18歳だったはずだ。10歳の子どもはいないわな。
それに、あの子供は‥僕ら寄りの顔をしていた。
そうだ。
あの顔は僕ら寄りだ。
僕ら‥というか、王家寄り。
赤よりとはいえ、紫の瞳なんて‥
ってか、あの少年サラージそっくり!?
‥そうか、サラージの息子か~。成程、それならあんな口のきき方するよね~。仕方がないよね~。‥でも、いくら僕だからといって、あれは良くない。きちんと教育した方がいい。
ってか‥サラージ‥どこかに隠し子作ってたのか‥。あいつあんな感じ(←見るからに恋愛に不向きな感じ)なのに‥見かけによらないなあ‥。
‥いや、10歳の子供なら、10年前‥18くらいの時に子供つくらなきゃならんって事だろ?? ‥無理無理。あの頃のアイツは、毎日僕と無茶な研究三昧だった。‥主に僕が人体実験されてた。「地球に何日いけるかな? 」実験もあの時だったっけ?? もしや、僕を地球に行かせてる時に自分は女の子とイチャイチャ??
ないだろうな~。アイツはそんなんじゃない。
って言うか‥あれって‥サラージそのものじゃない? サラージに似てるっていうか‥そのものだよ!
(ってことは‥)僕が過去に飛ばされたってこと?? ヒジリもそういうことあったわけだから‥無いことはないんだよね??
あの時たしかヒジリは「一方的に見てただけ」みたいなことを言ってた。話しかけることが出来ないどころか、相手には自分の姿すら認識されてなかったって言ってた。
それは今の僕にも当てはまる。
僕も、あのサラージに‥そういえば認識されてない。サラージが見ているのは今の僕ではなく、当時の僕なんだろう。だから‥あの態度なんだろう。(そういえばあの警戒心の強いサラージが「知らない奴」と親しく話すことなんてないだろう)
過去にあったある一日を、一方的に僕がただ見てるだけ。
一体何を見せられてるんだろう‥。
‥この後何か‥僕が忘れてたことが何かあったっけ? 何か凄い出来事が起こったっけ?
そんな感じでもなさそうだけど‥。そんなことを思いながらただ見ていた。
何か凄い出来事どころか‥その後も、少年はただ僕に本をすすめるだけ。そのうち、別な少年が出てきて
「こら、サラージ、勝手に図書館の本を持ちだしたらいけないよ。ちゃんと司書さんに借りるって伝えないと。司書さんは本の管理を任されているんだ。なのに、管理している本がなくなったなんてことになったら、どうなると思う? 」
ってその少年(推定サラージ)を叱ったんだ。
そして、僕を振り向いて
「ごめんね。ナラフィス。サラージが邪魔をしたね。この本は片付けておくね」
って言った。(やっぱり、僕(昔)に話しかけてた! )
この顔‥間違いなくラルシュだ! そして、さっきのサラージ似の少年はやっぱりサラージ!
「だって、いろんな本読んだらナラフィスはもっともっといっぱい論文書けるだろ? その為に、論文書く参考になりそうな本を持ってきたんだ」
サラージはぷう‥と拗ねたような顔をする。
間違いなく、昔のサラージだ。
あの頃、サラージは「感情を全部表情に出してはいけません」っていつも家庭教師に叱られてた‥。
ラルシュはそんな弟に‥困ったように‥でも、見守るような優しい笑顔を向けた。
今とは違う笑顔‥。
この頃は、今みたいに「隙のない笑顔」じゃなかった。笑顔がテンプレなのは今と変わらないけど、この頃のラルシュはもう少し人間味があった。
懐かしい。
結局、彼らと話すこともなく‥その後も何か彼らが話してたようだけど‥表の世界に戻ってきた瞬間何故か忘れてしまった。‥そんなことは今までなかった。何もかもが可笑しな世界だった。
‥変なの。
って思ったら、ベット脇に椅子を置いて座っているマリアンと目が合った。
マリアン‥。
何故か‥安心して‥ほっとした。
次の瞬間、はっと我に返り‥血の気が引いた。
‥僕の手、冷たかったよね? 死人みたいって思われたよね‥?
慌てて手を引っ込めようとした僕の手を、マリアンがぎゅっと掴んだ。
「よかった‥気が付かれたんですね‥。心配してたんですよ?
タツキ様‥ずっとうなされておられたから‥」
涙をほろほろ流しながら言った。
握られた僕の手に、温かなマリアンの涙がぽつぽつと落ちて来る。
「ミチル様がタツキ様をここまで連れてこられたとき、ホントに驚いたんですからね」
聞くと、僕はミチルに運ばれてここに連れてこられて‥今まで一度も目覚めることがなかったらしい。そんなことは今までにはなかったって驚くマリアンにミチルは
「たぶん、過労だって思う。ヒジリも一度こうやって倒れたことがあった」
って説明したらしい。(いらんことを! )
「タツキ様は‥! 」
で、そのことで今、マリアンに叱られ中。
体調管理をしろ、無理をするな‥
まるで先生やら「母親」のように‥叱られた。
‥でもまあ‥
言われてもなかなか出来ないのよね~。
マリアンが僕を叱るのは心配してくれてるから。それが分かるから‥素直にごめんねって思える。
さっき母親のように‥って言ったけど、僕の‥僕らの母親はそんな「優しいおふくろさん」じゃなかった。パワフル母さんって感じの人。そんなここぞってタイミングで優しく‥でも厳しく僕らのことを思って叱る‥とかいう「出来た母親」じゃなかった。結構いつも叱ってたイメージがある。で、僕らの方ももう慣れちゃって「はいはい」って話半分に聞き流すって感じ。でも、別に「うるさいな! 」って無視するとか、腹が立つ‥とかはなかったよ。母親の言うことはいつも「もっともだ」ってことだったから。でも、言い方があれだったんだ。長いし、くどい。そして、感情的。おおよそ、「言い聞かせる」とかいう感じじゃなかった。うちの母親は「ここぞ」って時まで我慢できるタイプじゃなかったんだ。もう、気付いたらその都度ばっと言っちゃう。だから、言い過ぎちゃう。
‥でも、マリアンはそんな感じじゃない。
多分それは‥マリアンが僕に遠慮してるから。
思うところはあるけど‥でも‥って遠慮する。
僕がいっぱいいっぱいでまともに挨拶すらしなかったり、まともに家に帰らなくても「忙しいんだから仕方がない‥」って我慢して、文句ひとつ言わない。(母親ならここで「あんた何様なの! 」ってぶち切れてた)
母親が叱るのは主に「(自分が)腹が立ったから」だけど、マリアンが叱るのは「僕が心配だから」。(いや母親も僕らの事心配してるんだろうけどね)
まあ‥ぶっちゃけ、マリアンに叱られた方がこころに刺さるってだけのことだろうね! (かたや母ちゃんでかたや愛妻だからそれは仕方ないよね! )
にしても‥うなされてた?
「うなされてた‥? 」
‥そんなこと‥あるのか?
僕が怪訝な顔をしていると、マリアンも頷いた。
「いつもは、静かに‥深く眠っておられるから‥珍しいって思ったんです」
いつもは、違う。うなされてたのは、珍しいこと‥。
「だから、私‥心配になって思わず手を‥お嫌だったんですよね? すみません」
僕がさっき手を引っ込めようとしてしまったから‥マリアンは僕が嫌だから振り払ったって思って気にしたんだろう。慌てて手を放そうとするマリアンの手を‥今度は僕が慌てて握りしめた。
ごめんね。
‥嫌だったんじゃないんだ。
「そうじゃないんだ。‥僕の手、冷たくなかった? いつもそうなんだ。体力温存って意味かよく分からないんだけど‥スリープ状態‥つまり、精神が違う場所に飛ばされてる時は、身体の方は最低限度の生命活動しかしてないんだ。
心臓が動いてるだけのただの器。そういう状態。
‥キモチワルイでしょ? 死んでるみたいでしょ? ‥マリアンにそう思われるかもって思って‥思わず手を引っ込めてしまったんだ。
僕がマリアンと一緒のベッドで眠ることがないのもそれが理由」
そういうと、マリアンはコテンと首を傾げた。
「そんなことは‥事前に教わってたから、別に怖いと思わないですよ? 」
聞けば、リバーシと結婚する者には、事前に国から役員が来て「リバーシとは」っていう説明を受けるらしい。マリアンもその説明を受けてたってわけだ。
「先生(※ 役員)にも、「リバーシのスリープ状態は仮死状態以上に‥死んでる状態に近い。精神が完全に身体から抜けているから、身体に危害を与えても気付かない。寝言を言うこともないし、寝返りを打つこともない。体温も低く呼吸も浅い‥知らない者からしたら死んでいると勘違いするかもしれない。だけど、それはリバーシが身体を休める為の状態だから大丈夫だ」って聞いていましたから。‥だから、うなされてるのを見て「おかしいな」って思ったんです」
確かに‥おかしい。
でも‥僕にもどういうことか分からない。
黙り込んだ僕に、マリアンは
「おかしいとは思ったけど‥でも、怖くはなかったです。まるで‥普通に眠って‥夢を見て‥うなされているようでした。目が覚めてほっとした顔をされたのを見て‥まるで子供みたいだなって‥ほっこりしてしまったんです」
って微笑んだんだ。そして、小さく肩をすくめると‥「って、不謹慎ですよね」って呟く。
怖い夢を見て、うなされて‥目が覚めたら愛する人がいて‥心配してくれてる。それを見て「夢でよかった」って思う。
「‥それは、それこそ夢のような世界だね。まるで普通の人のようだね」
思わずそんなこと言ってしまったけど‥別に嫌味とか僻みじゃない。
僕の‥正直な気持ちなんだ。
何だこの少年。
誰だか知らんが馴れ馴れしいな。僕の事、呼び捨てするとか‥城の者に見つからないうちにさっさと出て行った方がいいぞ。「不敬だ! 」とか言われるぞ。僕はともかく、周りの者たちはそういうの凄い厳しいぞ。子供だろうが容赦しないぞ。きっと、首根っこ掴まれて連れ出されるぞ。今なら誰にも見つかって無いみたいだし(何故か! ‥どうなってるんだこの城のセキュリティー)、僕は黙っててあげるから‥今のうちにこっそり出て行った方がいい。人に会わない帰り道を教えてあげよう‥。
そんなことを思ってはいるんだけど‥身体が動かない。
‥疲れてるのかな?
ぼんやりとただ見ていると少年はにかっと笑って
「他のおススメの本持ってきてやるからそこに居ろよな! 」
ってドアの向こうに消えていった。
さっき少年が置いて行った本を見ると
「王国史~この国の礎を築いた偉人たち~」
と書いてある。
‥渋いセレクトだな。
あのくらいの少年が読むにしてはちょっと内容がハードじゃないか? まだ児童書を読んでいそうな年恰好に見えたけど‥。
ああ‥そうか、あの子はリバーシか魔法使いなんだな。だから‥ませてるんだよ。「児童書とか‥。そんなガキっぽいのなんて読まない! 」って感じなんだろう。
リバーシや魔法使いの子どもは精神年齢が高い。‥なんせ、他にはない力をもって生まれたわけだから、知能的にも成長が早くないと周りに迷惑をかけるから。
きっと、力が特別に強いとかで城で監視されてる子供なんだろう。
‥そういえば「明らかにただ者じゃない」って顔してた。将来大物になりそうな感じ。
だけど、今の地点では只の子どもだ。
将来大物になるためには、知識と技術だけでなく礼儀作法も教えてもらわないといけない。‥寧ろ、知識を教えるよりそちらの方が重要だろう。城は「子供だから」が通用する場所ではない。
それとも、偉いさんっぽくない僕だから侮ってるってことかな? あの子供が人を選んだって感じ? 偉いさん相手にはちゃんと礼儀正しい態度を取らなきゃマズいけど‥僕みたいなただのオッサンには、別にこれでいいだろ‥って感じか?
僕の立場とかは‥まあ別にどうでもいいけど、年上の者、しかも他人にため口とか絶対にダメだ。勝手に親しみを感じられても僕はぜんぜん彼のことを知らないぞ? 親戚の子でもないと思う。‥僕の親戚であの位の年恰好の子は‥いなかったはずだ。結婚している兄弟はいるが、子供が産まれたって話は聞かない。‥産まれてて知らせてなかったかもしれないが‥あんなに成長していないだろう。
10歳になってるかなってないか位?
弟が結婚したのは2年前だから‥もし彼の子どもだとしたら‥妻の連れ子的な? ‥そんな話聞いてなかった。奥さんは初婚だったし、確か結婚当時18歳だったはずだ。10歳の子どもはいないわな。
それに、あの子供は‥僕ら寄りの顔をしていた。
そうだ。
あの顔は僕ら寄りだ。
僕ら‥というか、王家寄り。
赤よりとはいえ、紫の瞳なんて‥
ってか、あの少年サラージそっくり!?
‥そうか、サラージの息子か~。成程、それならあんな口のきき方するよね~。仕方がないよね~。‥でも、いくら僕だからといって、あれは良くない。きちんと教育した方がいい。
ってか‥サラージ‥どこかに隠し子作ってたのか‥。あいつあんな感じ(←見るからに恋愛に不向きな感じ)なのに‥見かけによらないなあ‥。
‥いや、10歳の子供なら、10年前‥18くらいの時に子供つくらなきゃならんって事だろ?? ‥無理無理。あの頃のアイツは、毎日僕と無茶な研究三昧だった。‥主に僕が人体実験されてた。「地球に何日いけるかな? 」実験もあの時だったっけ?? もしや、僕を地球に行かせてる時に自分は女の子とイチャイチャ??
ないだろうな~。アイツはそんなんじゃない。
って言うか‥あれって‥サラージそのものじゃない? サラージに似てるっていうか‥そのものだよ!
(ってことは‥)僕が過去に飛ばされたってこと?? ヒジリもそういうことあったわけだから‥無いことはないんだよね??
あの時たしかヒジリは「一方的に見てただけ」みたいなことを言ってた。話しかけることが出来ないどころか、相手には自分の姿すら認識されてなかったって言ってた。
それは今の僕にも当てはまる。
僕も、あのサラージに‥そういえば認識されてない。サラージが見ているのは今の僕ではなく、当時の僕なんだろう。だから‥あの態度なんだろう。(そういえばあの警戒心の強いサラージが「知らない奴」と親しく話すことなんてないだろう)
過去にあったある一日を、一方的に僕がただ見てるだけ。
一体何を見せられてるんだろう‥。
‥この後何か‥僕が忘れてたことが何かあったっけ? 何か凄い出来事が起こったっけ?
そんな感じでもなさそうだけど‥。そんなことを思いながらただ見ていた。
何か凄い出来事どころか‥その後も、少年はただ僕に本をすすめるだけ。そのうち、別な少年が出てきて
「こら、サラージ、勝手に図書館の本を持ちだしたらいけないよ。ちゃんと司書さんに借りるって伝えないと。司書さんは本の管理を任されているんだ。なのに、管理している本がなくなったなんてことになったら、どうなると思う? 」
ってその少年(推定サラージ)を叱ったんだ。
そして、僕を振り向いて
「ごめんね。ナラフィス。サラージが邪魔をしたね。この本は片付けておくね」
って言った。(やっぱり、僕(昔)に話しかけてた! )
この顔‥間違いなくラルシュだ! そして、さっきのサラージ似の少年はやっぱりサラージ!
「だって、いろんな本読んだらナラフィスはもっともっといっぱい論文書けるだろ? その為に、論文書く参考になりそうな本を持ってきたんだ」
サラージはぷう‥と拗ねたような顔をする。
間違いなく、昔のサラージだ。
あの頃、サラージは「感情を全部表情に出してはいけません」っていつも家庭教師に叱られてた‥。
ラルシュはそんな弟に‥困ったように‥でも、見守るような優しい笑顔を向けた。
今とは違う笑顔‥。
この頃は、今みたいに「隙のない笑顔」じゃなかった。笑顔がテンプレなのは今と変わらないけど、この頃のラルシュはもう少し人間味があった。
懐かしい。
結局、彼らと話すこともなく‥その後も何か彼らが話してたようだけど‥表の世界に戻ってきた瞬間何故か忘れてしまった。‥そんなことは今までなかった。何もかもが可笑しな世界だった。
‥変なの。
って思ったら、ベット脇に椅子を置いて座っているマリアンと目が合った。
マリアン‥。
何故か‥安心して‥ほっとした。
次の瞬間、はっと我に返り‥血の気が引いた。
‥僕の手、冷たかったよね? 死人みたいって思われたよね‥?
慌てて手を引っ込めようとした僕の手を、マリアンがぎゅっと掴んだ。
「よかった‥気が付かれたんですね‥。心配してたんですよ?
タツキ様‥ずっとうなされておられたから‥」
涙をほろほろ流しながら言った。
握られた僕の手に、温かなマリアンの涙がぽつぽつと落ちて来る。
「ミチル様がタツキ様をここまで連れてこられたとき、ホントに驚いたんですからね」
聞くと、僕はミチルに運ばれてここに連れてこられて‥今まで一度も目覚めることがなかったらしい。そんなことは今までにはなかったって驚くマリアンにミチルは
「たぶん、過労だって思う。ヒジリも一度こうやって倒れたことがあった」
って説明したらしい。(いらんことを! )
「タツキ様は‥! 」
で、そのことで今、マリアンに叱られ中。
体調管理をしろ、無理をするな‥
まるで先生やら「母親」のように‥叱られた。
‥でもまあ‥
言われてもなかなか出来ないのよね~。
マリアンが僕を叱るのは心配してくれてるから。それが分かるから‥素直にごめんねって思える。
さっき母親のように‥って言ったけど、僕の‥僕らの母親はそんな「優しいおふくろさん」じゃなかった。パワフル母さんって感じの人。そんなここぞってタイミングで優しく‥でも厳しく僕らのことを思って叱る‥とかいう「出来た母親」じゃなかった。結構いつも叱ってたイメージがある。で、僕らの方ももう慣れちゃって「はいはい」って話半分に聞き流すって感じ。でも、別に「うるさいな! 」って無視するとか、腹が立つ‥とかはなかったよ。母親の言うことはいつも「もっともだ」ってことだったから。でも、言い方があれだったんだ。長いし、くどい。そして、感情的。おおよそ、「言い聞かせる」とかいう感じじゃなかった。うちの母親は「ここぞ」って時まで我慢できるタイプじゃなかったんだ。もう、気付いたらその都度ばっと言っちゃう。だから、言い過ぎちゃう。
‥でも、マリアンはそんな感じじゃない。
多分それは‥マリアンが僕に遠慮してるから。
思うところはあるけど‥でも‥って遠慮する。
僕がいっぱいいっぱいでまともに挨拶すらしなかったり、まともに家に帰らなくても「忙しいんだから仕方がない‥」って我慢して、文句ひとつ言わない。(母親ならここで「あんた何様なの! 」ってぶち切れてた)
母親が叱るのは主に「(自分が)腹が立ったから」だけど、マリアンが叱るのは「僕が心配だから」。(いや母親も僕らの事心配してるんだろうけどね)
まあ‥ぶっちゃけ、マリアンに叱られた方がこころに刺さるってだけのことだろうね! (かたや母ちゃんでかたや愛妻だからそれは仕方ないよね! )
にしても‥うなされてた?
「うなされてた‥? 」
‥そんなこと‥あるのか?
僕が怪訝な顔をしていると、マリアンも頷いた。
「いつもは、静かに‥深く眠っておられるから‥珍しいって思ったんです」
いつもは、違う。うなされてたのは、珍しいこと‥。
「だから、私‥心配になって思わず手を‥お嫌だったんですよね? すみません」
僕がさっき手を引っ込めようとしてしまったから‥マリアンは僕が嫌だから振り払ったって思って気にしたんだろう。慌てて手を放そうとするマリアンの手を‥今度は僕が慌てて握りしめた。
ごめんね。
‥嫌だったんじゃないんだ。
「そうじゃないんだ。‥僕の手、冷たくなかった? いつもそうなんだ。体力温存って意味かよく分からないんだけど‥スリープ状態‥つまり、精神が違う場所に飛ばされてる時は、身体の方は最低限度の生命活動しかしてないんだ。
心臓が動いてるだけのただの器。そういう状態。
‥キモチワルイでしょ? 死んでるみたいでしょ? ‥マリアンにそう思われるかもって思って‥思わず手を引っ込めてしまったんだ。
僕がマリアンと一緒のベッドで眠ることがないのもそれが理由」
そういうと、マリアンはコテンと首を傾げた。
「そんなことは‥事前に教わってたから、別に怖いと思わないですよ? 」
聞けば、リバーシと結婚する者には、事前に国から役員が来て「リバーシとは」っていう説明を受けるらしい。マリアンもその説明を受けてたってわけだ。
「先生(※ 役員)にも、「リバーシのスリープ状態は仮死状態以上に‥死んでる状態に近い。精神が完全に身体から抜けているから、身体に危害を与えても気付かない。寝言を言うこともないし、寝返りを打つこともない。体温も低く呼吸も浅い‥知らない者からしたら死んでいると勘違いするかもしれない。だけど、それはリバーシが身体を休める為の状態だから大丈夫だ」って聞いていましたから。‥だから、うなされてるのを見て「おかしいな」って思ったんです」
確かに‥おかしい。
でも‥僕にもどういうことか分からない。
黙り込んだ僕に、マリアンは
「おかしいとは思ったけど‥でも、怖くはなかったです。まるで‥普通に眠って‥夢を見て‥うなされているようでした。目が覚めてほっとした顔をされたのを見て‥まるで子供みたいだなって‥ほっこりしてしまったんです」
って微笑んだんだ。そして、小さく肩をすくめると‥「って、不謹慎ですよね」って呟く。
怖い夢を見て、うなされて‥目が覚めたら愛する人がいて‥心配してくれてる。それを見て「夢でよかった」って思う。
「‥それは、それこそ夢のような世界だね。まるで普通の人のようだね」
思わずそんなこと言ってしまったけど‥別に嫌味とか僻みじゃない。
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