リバーシ!

文月

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二十章 新世界

4.初心に帰る。(side ヒジリ)

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 だけど、まあ‥あながち間違ってもないかも?

 子供の頃は何の苦も無く出来てたことが今は出来なくなってること‥そういうことは沢山ある。
 常識的なところで「体力がなくなった」と「羞恥心」だ。
 子供の頃は、恥ずかしげもなく「大人になったらヒーローになって世界を救う」とか言ってた‥かどうかわからないけど、そういうところもちょっとはあった。
 魔法は純粋な気持ちが無いと出来ないものなのかも。
 地球風に言うと「夢みたいな力」だから。
 その意味は「夢みたいな非現実的な力」だから、「不可能」って意味だ。

 非現実的だから「やれない」んじゃなくて、「やらない」。
 今の俺の状況はまさにそれだったんじゃないかな。
 どうせ、出来ない。
 俺がやらなくてもよくない? 何で俺がやらなきゃダメなの? 
 ‥俺が悪いんじゃなくない?
 運が悪いよな。‥普通に産まれてたらこんなことなかったのに‥。
 正直、やりたくない。
 面倒くさい。
 それに。怖い。
 でも、やらなければ皆俺のことを恨むだろう。‥それも嫌だ。
 俺はともかく、父さんと母さんはどうなる? ‥二人に嫌な思いさせたくない。
 やっても出来なかったらどうしよう。
 やっぱり死んじゃうのかな? 
 死ぬのも怖いけど、誰かを殺してしまうのはもっと嫌だ。

 だけど、正直言うとね、‥現実感がないんだ。 
 お話しの話なんじゃない? 
 夢を見てるんじゃない? って‥やっぱり心のどこかで思ってしまってる自分が居る。
 「そんなことより」現実(地球での暮らし)の方が大事だ‥って。

 いい年こいた大人が魔法とか‥世界を救うとか‥馬鹿みたい。

 だけど、その気持ちを認めちゃいけない。
 「どうでもいいよ」「仕方ないよね~」って言っちゃいけない。状況を見ろ。俺はそんなこと言ってられる人間じゃない。ありのままを認めないといけない。周りの人間がどう、とか関係ない。理不尽とか言っちゃダメだ。運命は受け入れろ。
 その気持ちだけでギリギリ今までやって来てた。
 今、投げちゃダメだ。

 だけど‥時々不安になってた。
 何から手を付けていいのか分からないし、何をすればいいか分からないし‥

 自分に何かが出来るとか思えない。

「カッコイイとこ見せたい、かあ」
 声に出して言ってみた。
 不思議とその言葉が‥腑に落ちたって言うか‥今までで一番「理解できた」。
 将来こういうことをするのが目標‥そういうのは昔からなかった。目標を立てるのって頭がいるよ。例えばさ、
「ホームランを量産する野球選手になりたいです」
 って言おうと思ったら、少なくとも野球のこと知って無きゃいけないし、ホームランとは何ぞやってことを知って無きゃいけない。
 俺はね。そんな「大それた」夢すら口に出来ない程何も知らないんだ。

 俺は
「カッコイイトコ見せてやるから、待ってろ! 」
 としか言わない。(言えない)
 そしたら、普通の子は聞く。
「何を見せてくれるの? 大金持ちなるの? 有名な学者さんになる? それとも、有名な俳優さんになっていっぱい映画に出る? 」
 俺は首を傾げる。
「わからん! でも、カッコイイ人間になる。それは確かだ! 」
 そこで普通の人間だったら、「何の分野で成功すればいいかな」って考えるだろう「俺には何が出来るかな」「何をすれば成功できるだろう? 」って。だけど、俺は考えない。考えられない。なぜって、馬鹿だから。そして‥「あの子」も普通の子じゃなかった。
「そっか。カッコイイ人間なら、特訓しなきゃだよね! 」
 俺の特訓と言いながらナツミは俺を相手に魔法の練習をした。彼女にとって俺は金蔓ならぬ「丈夫なサンドバッグ」だった。だけど、ナツミは俺の扱い方を心得ていた。
「カッコイイ!! 」
「凄い! 」
 煽ててその気にさせた。
 そして時々、俺が疲れた顔をしたら、
「‥ヒジリはまだまだ出来ると思うけど‥。でも、‥私が期待しすぎたのかな‥。ごめんね? 」
 ってちょっぴり不安そうな顔をする。
 そしたら、単純な俺は
「そんなわけないだろ! 」
 ってまた張り切る。

 カッコつけで、馬鹿で。それこそ、馬鹿みたいに丈夫。タフで、スーパーポジティブなお調子者で‥
 何よりもナツミが大好き。

 そっかあ~。
 俺は‥昔から全然変わってなかったんだ。
 そっか~。

「ナツミにカッコイイとこ見せる」
 もう一度、ボソリ‥と声に出して呟いた。
 作戦とか馬鹿な俺に考えられるわけないかったんだ。
 責任感も、使命感も理解できる。大事だって思う。だけど、きっとそれは‥俺にとって「当たり前」でわざわざ義務感として‥意識しないでもいいことだったんだ。そういうことを意識する「言葉にする作業」ってのが、俺に向いてなかったんだ。

 だって、「カッコイイ」俺にとって敵前逃走とかカッコ悪いことだから。

「そうだ。ヒジリ。君はカッコイイところ‥この頃見せられてるか? ‥僕は、カッコイイヒジリが見たいんだ」
 ナラフィス先生が真っすぐ俺を見る。
「そうだな。このままじゃオマエ「爆弾ゴリラ」の名が泣くぞ」
 は、サラージ様。
 なんじゃその爆弾ゴリラ。そんな名前で呼ばれたことないわ。
 ‥もしかして、俺影でそんな呼ばれ方してるのか? 
「見せてくれ。俺にそのカッコイイトコを。
 まあ‥
 俺には負けるだろうけど」
 は? なにそのドヤ顔。
 俺のが魔力多いですけど? そりゃ魔法は使えませんが、それはサラージ様も一緒でしょう? 
 今はちょっとスランプですけど、スキルの帝王ですし?! 
「負けねーし」
 俺はサラージ様を睨み返す。
「私も、カッコイイヒジリ様みたいです」
 ふふって優しく微笑むマリアンちゃん。
 うん。可愛い。
 可愛い子に言われたらやらないわけにはいかないよね。だけど‥考えてみたら、別にナツミに対しては‥「可愛いからやりたくなっちゃう」って感じじゃなかった。ただ‥そうねえ‥負けたくない相手って感じだった。そんな負けたくない相手がライバルである俺に「凄い! 」って褒めてくれるから‥嬉しかった。「カッコイイ! 」って言われたら、有頂天になった。

 ああそうか‥
 俺は‥
 ナツミに憧れてたんだ‥。
 俺にとってナツミは「可愛い女の子」でも「好きな子」でもなかったんだ。

 ナツミを初恋の子だと思ってた「俺の中の男の子としての記憶」は‥消えていた。そして、その代わりに俺の頭には鮮やかに子供の頃の「リアルな」記憶がよみがえってきた。
 
 ああ、俺の記憶を阻害していたのは「俺の中の男の子としての記憶」だったんだ。
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