237 / 248
二十章 新世界
5.むかしの思い出は正しいのか。
しおりを挟む
ナツミは‥昔から俺の事嫌ってたわけじゃない。
色々あって、‥変わってしまったんだ。
ホントかな? ほんのちょっとも嫌ってなかったかな?
悪い子って程じゃなくても、子供ってそんなに「いい子」じゃない。
ちりり‥胸の奥が痛くなった。
俺もそう。
俺たちは‥元からあんな友だち関係だったかな?
仲が良かったのは間違いないよ。だって、インテリ眼鏡は‥「お互いにいい影響を与え合ってた‥いわば「いいライバル関係」だった」「ヒジリはナツミが常に一歩前にいるって感じてただろうけど、ナツミはずっとヒジリにがっかりされたくないって焦ってた。
その焦りを先生は‥甘く見ていた」
って言ってた。
純粋な「仲のいい幼馴染」じゃなかった?
大人は子供同士のじゃれ合いだって思ったかもしれない。
いい影響を与え合ったって思ってたかもしれない。
‥だけど、果たして子供同士の感覚は?
俺たちは本当にそう思っただろうか?
子供って大人が思う以上に無自覚に人を傷つけるし、そのことに気付かない(無自覚だからね)。無自覚だから忘れちゃうし、‥それどころか勝手に記憶を捏造する。
自分の都合の良い様に‥捏造するんだ。
氏より育ち。
育ちは‥お互い平民だから変わらないだろう。
だけど、経済状況はどうだったか?
俺の家は俺が一人っ子だったこともあり、そう困窮していなかった。
(といっても)そう裕福でもなかったが、父さんは時の属性持ちだってことで生まれた時に「きちんとした神官」が来た。そして、俺はリバーシだって事が生まれながらに認定され、補助金が出た。
ああそうか。補助金が出たから裕福だったんだ。
ナツミの家は、兄弟が多かった。
補助金のことは分からないが、彼女の口ぶりから察するに(補助金が出ていたとしても)彼女の家族を支えるに足る値段ではなかったのだろう。
彼女の家は、俺の家よりずっと貧しかった。
だけど‥俺はそんな彼女の経済状況を考えたことはない。彼女は一言たりと俺にそんなこと言わなかった。彼女は俺を羨むことも、‥憎むそぶりも見せなかった。
隠してた? 隠して、‥実は俺を憎んでた? それとも侮ってた?
そうかもしれない。
彼女の気持ちは‥あの時の彼女の気持ちは、彼女ももう忘れてしまっているかもしれない。
だから、今更推測することに意味があるのかどうかは分からない。
だけど‥
そうじゃない気がする。
自分の都合のいい風に記憶を改変するのは‥よくない。
俺にとっては「かっこつけたくて」「カッコイイトコ見せたくて」してたことでも、相手には調子に乗って自慢してる風にしか見えなかったかもしれない‥。
俺は‥
「俺は‥ナツミに‥嫌われてたかも‥」
つい呟いた言葉を拾ったのは、
国見だった。
‥いつの間にか会社に来てた。
そして、いつの間にかデスクに座ってた。(← サラリーマンの性)
まだ就業時間前でよかった。流石に無意識に仕事までは出来ない。
「‥そういうこと、気付いたら負けだと思うぞ。
嫌いって態度をあからさまに取ってこないんであったら、それは気が付かない振りしておいていいと思うぞ」
国見が同情? 同感? を俺に向けて来る。
「昼に聞いてやるから」
って、妙に悟ったオッサンみたいな表情で言った彼は、宣言通り、コロコロが付いてる自分の椅子をどかっと俺の席の横に置いて真面目な表情で、「聞いてやる」って言った。
いつもみたいに冷やかして来ない。
そうか、国見はこう言う時‥冷やかさないタイプなんだ。
でも、昼休みに自分の昼食を食べながら‥って辺りが国見だよな。真のオッサンなら「今日飲みに行くか。聞いてやる。お前のおごりだぞ」ってなるだろう(偏見)
イイヤツ‥。
「‥嫌われてたのかもって聖は言ってたけど‥
そういうの気にするのって意味あるか? そういうのって想像の域を出ないわけじゃん? 相手の気持ちなんて相手にしか分からないんだから。
ってか‥今までは嫌われてるとは思ってなかったんだよな? それが何の心境の変化で「嫌われてたのかも」になった? 何か思い当たることでもあったのか?
そこら辺も含めて喋っちゃえよ。‥一人でうじうじ悩んでる程意味がないことはない」
と、大袈裟にため息をつきながら国見が言う。
‥コイツ、「よくいるタイプのおせっかいなおばちゃん」みたいだな。そうか、国見はオッサンじゃなくて、おばちゃんなのか。
「‥ナツミは幼馴染なんだ。それでさ、この間久し振りに‥ホントに久し振りに会ったんだ。俺は嬉しかったのに、ナツミは‥久し振りに会ったナツミは俺の事嫌ってたんだ。
お互い色んな事があったから、言葉が足りなくて‥誤解させちゃってるんだと思ったんだ。だから、一度会ってちゃんと話したいなって思ってたんだけどなかなか時間が取れなくてさ‥。そうこうしてる間に「嫌われたんじゃなくて‥もしかして子供の頃からナツミは俺のこと嫌ってたんじゃ? 」とか色々考えちゃってさ。
会えば‥会って話せばそんな誤解というか‥モヤモヤはお互い解消するはずって思うんだけど‥なんか会う機会が無くてさ‥」
色々言えないことを端折ったら、何言ってんのか分からない説明になってしまった。
‥だけど、間違ったことは言ってないと思う。
それに、口に出すことによって俺が何にモヤモヤしてるかってのが分かった気がした。
‥そうだ。「会って話せばそんな誤解というか‥モヤモヤはお互い解消する」‥確かにそうじゃない? 悩むことなくない?
だけど国見は「う~ん」って腕を組んで‥ちょっと悩むそぶりを見せて、
「会う機会がないってのは、単純にスケジュールが合わないってこと? 相手が聖と会いたくないって思ってる‥とかではなくて? 」
眉を寄せて聞いて来た。
会いたくない? ‥確かに会いたくはない‥だろうけど、でも会えば‥
「‥確かに会いたがってはいないだろうけど‥それは俺のこと誤解してるからで‥昔はあんなに仲が良かったから‥会って話せば誤解も解けると思うんだよね。
会って話さえすれば‥」
しどろもどろ口にする間に、どんどん国見の表情が「呆れた」って顔になっていく。
「そう思ってんの聖だけじゃない? 」
「はあ!? 」
「うっとおしい、ウザいよ。聖。そういうの、重い」
ムカッと来た。
何言ってんだコイツ。俺たちのこと知りもしない癖に‥!
「ナツミちゃんだっけ? その子にとっては、誤解だろうが、もうどうでもいいんじゃない!? 聖のこと。
ウザいって一度思っちゃったら人間そう変わんないよ? そんなことにいちいち構っての、時間の無駄じゃん。
傷ついて、「もうヤダ! 」って怒って‥そう言う時間をナツミちゃんは会わなかった時間の中で既に済ませて、もう今更私の前に出てこないでって思ってるかもしれないじゃん? なのに、聖が誤解だ! 話せばわかる! って言って来たら‥可愛そうじゃない? それにさ、例えば会って話したとしても「そうなの。分かったわ。‥だけど、今更何? 」ってなったら‥ヤじゃない?
誤解を解くとかさ、そんな自己満足で時間の無駄なこと、止めときなって。
‥お互いにとっていいこと全然ない」
国見の最後の言葉がいやに含蓄のある‥っていうか、重い口調だったから、俺も思わず黙ってしまった。
だけどさ、国見の話だったら俺がまるで未練たらたら別れた彼女と復縁を願ってるって話みたいじゃないか‥。ホントそんな話じゃない。言いたいけど、だけど‥どう言ったらいいんだろ? そもそも‥なんでナツミが怒ってるのか分かんないんだ。
‥国見が言うように、俺が呑気に寝てる間私がどれ程苦労してきたと思ってんのよ! そもそもの原因は私かもしれないけど、アンタは結局何もしてない。ただぬくぬく守られて眠ってただけじゃない。‥って事かも。それを俺に言われてもって思わんでもないけど‥怒る気持ちもわかる‥かも。
う~ん。どうしたもんだろ。
俺が首を捻っていたら、
「男と女はそう単純じゃないのよね。
時間の無駄だから止めとこ、じゃ‥気が済まないわよねえ」
しみじみって口調で中川さんが言った。
‥盗み聞きされた。
でも、まあ‥聞かれて嫌なら場所変えろって話だよね‥。
聞かれて困るほどの話もしてないしね。
「でも、それは‥もうあきらめてあげた方が相手の子の為だと私も思うわよ」
だから!! 俺は未練たらたら男じゃないっての!!
そう反論しようとしたら、中川さんがじっと俺を見て、
「‥少なくとも、今は直接会うのは止めた方がいいと思うの。
どうしても話したいなら、手紙に書くとか‥だけど、手紙を貰うのも嫌って思うかも。
児嶋さんも悩んでる様に、相手さんも悩んでたんだと思うわ。
今は‥そっとしておいた方がいいと思う。
それにね。仲が良かったって思ってたのは児嶋さんだけかもしれない。相手はそうじゃなかったかもしれない。
子供の頃だから遠慮とかないわけじゃない? 自分にそんな気が無くても、相手には凄く傷つくことをしてて、‥でも児嶋さんはそれに気が付かなかったってことがあるかも。
そうじゃなくても‥あの頃は気にならなかったけど、思い出した時に「あれって‥酷くなかった? 」って思って‥一つそう思ったら全部のことが「もしかして、あれも意地悪だったのかも」「あの子ってそういう感じだったかも」って風に全部が嫌になっちゃうこともある‥かもしれない。
そこら辺は分からない。
どんな事情かは分からないけど、大事なのは彼女にとって児嶋さんのことを「好きじゃない」って思ってしまってるってこと。そこは事実として受け入れないといけないって思うの。
‥どうしたって、今彼女は児嶋さんが何を言っても聞き入れられる様な状態じゃないってことを認めないといけなないわ」
って言った。
が~ん!!
中川さんも「諦めろ」っていうの!??
国見が中川さんに「そうだよねそうだよね。やっぱりそう思うよね」ってオーバーに同意して、
「聖にとって、幼馴染さんとの思い出は美しかったんだろ? 楽しかったんだろ? だったら、そのまま美しい思い出として心の奥底にしまっておく方がいいと俺は思うぞ? 」
って言って来た。
そんな話してんじゃないのに!! なんか、未練たらたらストーカー男みたいに思われてる!!
「聖、女々しい」
‥吉川まで‥! 何なんだよ‥。
「たった一人の友だちだったのに‥仲良かったと思ってたのに‥なのに嫌われてたかもとか‥俺は‥っ! 」
ダメだ、なんか涙目になってきちゃった‥。
そんな俺を三人は眉を寄せて‥可哀そうな子を見る目で見つめて来た。
さっきまでの呆れた様な‥軽蔑するような視線じゃない。
大丈夫だ。相手はお前の事嫌っちゃいないよ。お前の考えすぎだよ。なんて言わない。
そんな気休めで俺が「間違った道(ナツミに復縁を迫って? 接触すること)」に進まない様に‥って引き留めてくれてる。
何時もよりちょっとだけ優しい皆の視線は有難いはずなのに‥なんだか物悲しいなって思った。
俺の中で、今まで楽しくてただキラキラしていた子供の頃の思い出が粉々に砕け散っていくのを確かに感じた。
色々あって、‥変わってしまったんだ。
ホントかな? ほんのちょっとも嫌ってなかったかな?
悪い子って程じゃなくても、子供ってそんなに「いい子」じゃない。
ちりり‥胸の奥が痛くなった。
俺もそう。
俺たちは‥元からあんな友だち関係だったかな?
仲が良かったのは間違いないよ。だって、インテリ眼鏡は‥「お互いにいい影響を与え合ってた‥いわば「いいライバル関係」だった」「ヒジリはナツミが常に一歩前にいるって感じてただろうけど、ナツミはずっとヒジリにがっかりされたくないって焦ってた。
その焦りを先生は‥甘く見ていた」
って言ってた。
純粋な「仲のいい幼馴染」じゃなかった?
大人は子供同士のじゃれ合いだって思ったかもしれない。
いい影響を与え合ったって思ってたかもしれない。
‥だけど、果たして子供同士の感覚は?
俺たちは本当にそう思っただろうか?
子供って大人が思う以上に無自覚に人を傷つけるし、そのことに気付かない(無自覚だからね)。無自覚だから忘れちゃうし、‥それどころか勝手に記憶を捏造する。
自分の都合の良い様に‥捏造するんだ。
氏より育ち。
育ちは‥お互い平民だから変わらないだろう。
だけど、経済状況はどうだったか?
俺の家は俺が一人っ子だったこともあり、そう困窮していなかった。
(といっても)そう裕福でもなかったが、父さんは時の属性持ちだってことで生まれた時に「きちんとした神官」が来た。そして、俺はリバーシだって事が生まれながらに認定され、補助金が出た。
ああそうか。補助金が出たから裕福だったんだ。
ナツミの家は、兄弟が多かった。
補助金のことは分からないが、彼女の口ぶりから察するに(補助金が出ていたとしても)彼女の家族を支えるに足る値段ではなかったのだろう。
彼女の家は、俺の家よりずっと貧しかった。
だけど‥俺はそんな彼女の経済状況を考えたことはない。彼女は一言たりと俺にそんなこと言わなかった。彼女は俺を羨むことも、‥憎むそぶりも見せなかった。
隠してた? 隠して、‥実は俺を憎んでた? それとも侮ってた?
そうかもしれない。
彼女の気持ちは‥あの時の彼女の気持ちは、彼女ももう忘れてしまっているかもしれない。
だから、今更推測することに意味があるのかどうかは分からない。
だけど‥
そうじゃない気がする。
自分の都合のいい風に記憶を改変するのは‥よくない。
俺にとっては「かっこつけたくて」「カッコイイトコ見せたくて」してたことでも、相手には調子に乗って自慢してる風にしか見えなかったかもしれない‥。
俺は‥
「俺は‥ナツミに‥嫌われてたかも‥」
つい呟いた言葉を拾ったのは、
国見だった。
‥いつの間にか会社に来てた。
そして、いつの間にかデスクに座ってた。(← サラリーマンの性)
まだ就業時間前でよかった。流石に無意識に仕事までは出来ない。
「‥そういうこと、気付いたら負けだと思うぞ。
嫌いって態度をあからさまに取ってこないんであったら、それは気が付かない振りしておいていいと思うぞ」
国見が同情? 同感? を俺に向けて来る。
「昼に聞いてやるから」
って、妙に悟ったオッサンみたいな表情で言った彼は、宣言通り、コロコロが付いてる自分の椅子をどかっと俺の席の横に置いて真面目な表情で、「聞いてやる」って言った。
いつもみたいに冷やかして来ない。
そうか、国見はこう言う時‥冷やかさないタイプなんだ。
でも、昼休みに自分の昼食を食べながら‥って辺りが国見だよな。真のオッサンなら「今日飲みに行くか。聞いてやる。お前のおごりだぞ」ってなるだろう(偏見)
イイヤツ‥。
「‥嫌われてたのかもって聖は言ってたけど‥
そういうの気にするのって意味あるか? そういうのって想像の域を出ないわけじゃん? 相手の気持ちなんて相手にしか分からないんだから。
ってか‥今までは嫌われてるとは思ってなかったんだよな? それが何の心境の変化で「嫌われてたのかも」になった? 何か思い当たることでもあったのか?
そこら辺も含めて喋っちゃえよ。‥一人でうじうじ悩んでる程意味がないことはない」
と、大袈裟にため息をつきながら国見が言う。
‥コイツ、「よくいるタイプのおせっかいなおばちゃん」みたいだな。そうか、国見はオッサンじゃなくて、おばちゃんなのか。
「‥ナツミは幼馴染なんだ。それでさ、この間久し振りに‥ホントに久し振りに会ったんだ。俺は嬉しかったのに、ナツミは‥久し振りに会ったナツミは俺の事嫌ってたんだ。
お互い色んな事があったから、言葉が足りなくて‥誤解させちゃってるんだと思ったんだ。だから、一度会ってちゃんと話したいなって思ってたんだけどなかなか時間が取れなくてさ‥。そうこうしてる間に「嫌われたんじゃなくて‥もしかして子供の頃からナツミは俺のこと嫌ってたんじゃ? 」とか色々考えちゃってさ。
会えば‥会って話せばそんな誤解というか‥モヤモヤはお互い解消するはずって思うんだけど‥なんか会う機会が無くてさ‥」
色々言えないことを端折ったら、何言ってんのか分からない説明になってしまった。
‥だけど、間違ったことは言ってないと思う。
それに、口に出すことによって俺が何にモヤモヤしてるかってのが分かった気がした。
‥そうだ。「会って話せばそんな誤解というか‥モヤモヤはお互い解消する」‥確かにそうじゃない? 悩むことなくない?
だけど国見は「う~ん」って腕を組んで‥ちょっと悩むそぶりを見せて、
「会う機会がないってのは、単純にスケジュールが合わないってこと? 相手が聖と会いたくないって思ってる‥とかではなくて? 」
眉を寄せて聞いて来た。
会いたくない? ‥確かに会いたくはない‥だろうけど、でも会えば‥
「‥確かに会いたがってはいないだろうけど‥それは俺のこと誤解してるからで‥昔はあんなに仲が良かったから‥会って話せば誤解も解けると思うんだよね。
会って話さえすれば‥」
しどろもどろ口にする間に、どんどん国見の表情が「呆れた」って顔になっていく。
「そう思ってんの聖だけじゃない? 」
「はあ!? 」
「うっとおしい、ウザいよ。聖。そういうの、重い」
ムカッと来た。
何言ってんだコイツ。俺たちのこと知りもしない癖に‥!
「ナツミちゃんだっけ? その子にとっては、誤解だろうが、もうどうでもいいんじゃない!? 聖のこと。
ウザいって一度思っちゃったら人間そう変わんないよ? そんなことにいちいち構っての、時間の無駄じゃん。
傷ついて、「もうヤダ! 」って怒って‥そう言う時間をナツミちゃんは会わなかった時間の中で既に済ませて、もう今更私の前に出てこないでって思ってるかもしれないじゃん? なのに、聖が誤解だ! 話せばわかる! って言って来たら‥可愛そうじゃない? それにさ、例えば会って話したとしても「そうなの。分かったわ。‥だけど、今更何? 」ってなったら‥ヤじゃない?
誤解を解くとかさ、そんな自己満足で時間の無駄なこと、止めときなって。
‥お互いにとっていいこと全然ない」
国見の最後の言葉がいやに含蓄のある‥っていうか、重い口調だったから、俺も思わず黙ってしまった。
だけどさ、国見の話だったら俺がまるで未練たらたら別れた彼女と復縁を願ってるって話みたいじゃないか‥。ホントそんな話じゃない。言いたいけど、だけど‥どう言ったらいいんだろ? そもそも‥なんでナツミが怒ってるのか分かんないんだ。
‥国見が言うように、俺が呑気に寝てる間私がどれ程苦労してきたと思ってんのよ! そもそもの原因は私かもしれないけど、アンタは結局何もしてない。ただぬくぬく守られて眠ってただけじゃない。‥って事かも。それを俺に言われてもって思わんでもないけど‥怒る気持ちもわかる‥かも。
う~ん。どうしたもんだろ。
俺が首を捻っていたら、
「男と女はそう単純じゃないのよね。
時間の無駄だから止めとこ、じゃ‥気が済まないわよねえ」
しみじみって口調で中川さんが言った。
‥盗み聞きされた。
でも、まあ‥聞かれて嫌なら場所変えろって話だよね‥。
聞かれて困るほどの話もしてないしね。
「でも、それは‥もうあきらめてあげた方が相手の子の為だと私も思うわよ」
だから!! 俺は未練たらたら男じゃないっての!!
そう反論しようとしたら、中川さんがじっと俺を見て、
「‥少なくとも、今は直接会うのは止めた方がいいと思うの。
どうしても話したいなら、手紙に書くとか‥だけど、手紙を貰うのも嫌って思うかも。
児嶋さんも悩んでる様に、相手さんも悩んでたんだと思うわ。
今は‥そっとしておいた方がいいと思う。
それにね。仲が良かったって思ってたのは児嶋さんだけかもしれない。相手はそうじゃなかったかもしれない。
子供の頃だから遠慮とかないわけじゃない? 自分にそんな気が無くても、相手には凄く傷つくことをしてて、‥でも児嶋さんはそれに気が付かなかったってことがあるかも。
そうじゃなくても‥あの頃は気にならなかったけど、思い出した時に「あれって‥酷くなかった? 」って思って‥一つそう思ったら全部のことが「もしかして、あれも意地悪だったのかも」「あの子ってそういう感じだったかも」って風に全部が嫌になっちゃうこともある‥かもしれない。
そこら辺は分からない。
どんな事情かは分からないけど、大事なのは彼女にとって児嶋さんのことを「好きじゃない」って思ってしまってるってこと。そこは事実として受け入れないといけないって思うの。
‥どうしたって、今彼女は児嶋さんが何を言っても聞き入れられる様な状態じゃないってことを認めないといけなないわ」
って言った。
が~ん!!
中川さんも「諦めろ」っていうの!??
国見が中川さんに「そうだよねそうだよね。やっぱりそう思うよね」ってオーバーに同意して、
「聖にとって、幼馴染さんとの思い出は美しかったんだろ? 楽しかったんだろ? だったら、そのまま美しい思い出として心の奥底にしまっておく方がいいと俺は思うぞ? 」
って言って来た。
そんな話してんじゃないのに!! なんか、未練たらたらストーカー男みたいに思われてる!!
「聖、女々しい」
‥吉川まで‥! 何なんだよ‥。
「たった一人の友だちだったのに‥仲良かったと思ってたのに‥なのに嫌われてたかもとか‥俺は‥っ! 」
ダメだ、なんか涙目になってきちゃった‥。
そんな俺を三人は眉を寄せて‥可哀そうな子を見る目で見つめて来た。
さっきまでの呆れた様な‥軽蔑するような視線じゃない。
大丈夫だ。相手はお前の事嫌っちゃいないよ。お前の考えすぎだよ。なんて言わない。
そんな気休めで俺が「間違った道(ナツミに復縁を迫って? 接触すること)」に進まない様に‥って引き留めてくれてる。
何時もよりちょっとだけ優しい皆の視線は有難いはずなのに‥なんだか物悲しいなって思った。
俺の中で、今まで楽しくてただキラキラしていた子供の頃の思い出が粉々に砕け散っていくのを確かに感じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる