リバーシ!

文月

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二十章 新世界

6.思い出は綺麗なまま箱に入れて置いておけって話らしい。

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 それでその後どうなったって思う?
 生暖かい笑顔で国見が
「大丈夫だ。今は友だちいるだろ。 
 吉川さんとか。
 ‥何なら俺も友だちだと思ってもらって構わないぞ」
 って言って、中川さんが
「‥私も構いませんよ」
 って困り顔で言って、
 吉川は‥なんか微妙な笑顔で俺を見ていた。
 
 気分悪!!

 友だちがいない奴扱い、気分悪!! 
 何!? ここは「ありがとう皆! 」って感激しなきゃならないとこ!? ヤなこったい! 絶対感謝なんかしないぞ!!

「よかったな。児嶋。しかし、児嶋でも女の子に嫌われることあるんだな。顔がいい奴はそれだけで人生勝ち組だって思ってたけど‥やっぱり顔だけじゃな」
 佐藤さん!!(← 聖に意地悪な上司)アンタまで何俺の話盗み聞きしてんだよ!!
 ってか‥ちょっと褒めてんの!? (※ 褒めてはいない)

 け。何嬉しそうな顔してんだよ! 
 アンタみたいな性格悪い奴、絶対友だち出来ないんだからな!!
 
「‥思い出だから美しいだけで、別に幼馴染が一番の友だちで生涯の友ってわけじゃない。
 思い出に囚われてうじうじ悩むより、今を精一杯生きる方がずっと有意義だ。
 ‥そうじゃないか? 聖。」
 ‥国見。
 ‥なんで上からなんだ? 
「そうよ、児嶋さん。児嶋さんはちょっと内に籠り過ぎてるわ。もっと周りを見回せばもっとたくさんの友だちが出来るかもしれないわよ? 」
 中川さん‥。
 また「今はまだ」友だちはいないって言ったね‥。
 そんなにいないの? 君らの中の俺は友だち‥。
 いるよ? 友だち位。学生時代の友だちとか。‥今はちょっとお互い忙しくて連絡とか取ってないけど。
 ああ‥あと、ミチル。
 ミチルもサラージ様も‥あと、マリアンちゃんもナラフィス先生も友だち‥と言えんでもないかな?
 ‥ってか‥ホントに俺って友だちいない‥? 
 はは‥
 がーんってなった俺に、中川さんがコーヒーをくれた。
 ミルクと砂糖たっぷりの自分用のコーヒー‥。
「ええと‥どんな子だったんだ? そのナツミって子」
 国見‥。忘れろってさっき言わなかったっけ? 
 俺はちょっと恨みがましい目で国見を見る。
 国見は首を傾げている。‥全然何も考えてない感じ。俺はため息をついて
「顔が‥凄く可愛かった」
 って言った。
 ってか、顔だけじゃなくて全部。
 俺、今まで生きてきた中であの子よりかわいい子知らないもん。
 髪の毛が長くってフワフワ~で、目が大きくてキラキラしてて、ほっぺがピカピカしてるの。
 話したら声も可愛いいの。
 笑顔も可愛いの。あれ「ふふ」って笑うんじゃなくて、どっちかというと「あはは」って感じで‥ひまわりみたいに笑うの。
 顔はピンクの薔薇みたいに‥ちょっとゴージャスな感じなのに、ひまわりみたいに笑うって最強じゃない??
「ふんふん」
 国見が相槌を打つ。
「あとは? 」
 あと? 後は‥
 ああ
「あと、俺がやることなすこと「凄い! 」って言ってくれるようないい子だった」
 国見がまた相槌を打つ。
 それで? って続きを促されたがすぐに答えることが出来なかった。
 ‥急に言われても答えられんくない? 
 首を傾げる俺に、中川さんは呆れ顔を通り越してなんか怖い顔になっている。
「それだけ? 」
 って‥声も冷たい。
 それだけって‥それだけだけど‥。
 中川さんと国見が大袈裟にため息をついて
「聖のお守りなんてもううんざりって思われたんじゃない?! 」
 って一言、冷たく言い放った。
 国見が中川さんに同調するように頷いて、
「それよ。一緒に居る時はなんか感覚がマヒしちゃって「そうするのが当たり前」みたいな義務感があったけど、離れてみると、「なんであたしがあの子をよいしょしたりしなきゃいけなかたのよ」って思っちゃった‥気付いちゃったってことじゃない? そしたら、今までの時間全部無駄に思えて来て、そんな無駄を作った原因である児嶋さんが憎くて仕方なくなった‥って」
 って付け加える。そして二人で
「きっと、その頃のこと、その子の中で黒歴史になってんじゃない? 」
 ってとどめを刺して来た。
 ええ!?
 そんなことあるわけ‥
 いや‥あるかも。‥あるかもしれない‥。
「‥とにかくすっぱりその子のことは忘れてあげる方が親切じゃない? その子がもう関わりたくないって思ってんだからさ」
 と、今度は同情します‥って目で国見が俺を見た。
 ‥同情された。
 呆れられて最後は「可哀そうな奴」扱い‥俺って‥。
「だ‥だけど、仕事柄‥ああええと‥こっちの仕事じゃなくてええと‥町内の仕事的な? で、会わなきゃならないときもあるんだけど‥」
 俺が言うと、国見と中川さんは
「そんな時はビジネス対応しときなさい。絶対元カレ面ってか‥親しいですオーラ出しちゃダメ。余計にウザがられて嫌われるわよ」
 ってびしっと言って来た。
 元カレ面って‥。そんな顔する気無いけど‥知り合いオーラも出しちゃダメ?? どれ程嫌われてんの俺?? 

 がーんってなってる俺を吉川が首を傾げて見ていたことを俺はその時気付いていなかった。

(以下吉川の推測)

 ‥町内の仕事って。
 聖がここに元から住んでるなら幼馴染も近くに住んでてもおかしくないだろうけど、聖は元からここに居るわけでは無い。就職後ここに越して来たんだ。それは俺も同じだ。聖の後輩である二人は知らないだろうけど、俺は聖と一緒にこの事務所に移動になったんだ。
 幼馴染って言うからには幼い頃に遊んでた友だちだよな? そんな子も偶然こっちに越して来たってことか? それで再会した‥? 
 そもそも‥聖から中学以前の話なんて一度も聞いたことない。なんだかんだといって、俺と聖は高校からのつきあいだけど、仲間内で昔の話をしてたら聖は何時も「子供の時の事なんて覚えてないよ」って言ってた‥。
 言いたくないのかなって皆何となく気を遣ってたのに‥。
 そんな聖の幼馴染の話。
 幼馴染は聖を嫌っている。
 聖は昔の話を「したくない」
 ‥つまり、その頃の記憶はとんでもない黒歴史(聖的に)で、聖はそれを心の奥底に封印したけど、幼馴染は当たり前に覚えてて、今でも聖を嫌ってるってことじゃないか??

 幼馴染の怒りが、もう顔も見たくない程度で済んだらいいけど‥もしかしたら「いつか復讐してやらなきゃ気が済まないわ‥」クラスだったら?? 
 ‥もしかして、幼馴染は聖に復讐する為にここに越して来たのか!? 知り合いの誰かから聖の引っ越し先を聞き出して‥。もしかして聖のおばさん辺りに聞いたのかも?! 幼馴染なら家族ぐるみの知り合いでもおかしくないだろう‥。

 きっと聖のことだ。調子ばってただけだ。悪気とかそういうのはなかっただろう。だけど、悪意が無かろうと人を気づつけることもある。無意識にだ。
 怒るなとは言わない。言えない。
 だけど‥幼馴染‥もう、時効って忘れてお互い平和に暮らせばいいじゃないか!! その方がお互い平和じゃないか!!


「聖。お前もうその幼馴染に近づくな。
 間違いなく断言する。その子はお前に恨みがある。それも‥(追ってきちゃうほど)半端ない恨みだ。
 じゃなかったら、嫌いだって言いながらお前と会おうと思うか? 
 わざわざお前に会いに来るほど恨みがある‥嫌われてる女に近づくなんて馬鹿な真似はよせ。
 話せばわかる? 世の中そんな人間ばかりだと思うな。
 だけど、関わらなければいけないなら、‥お前じゃなきゃ出来ないこと以外お袋さんに変わってもらったりして、出来るだけ避けろ」
 ため息をついて、吉川が俺に言った。

 えええ!?
 吉川の中でナツミえらいことになってない!?
 別にわざわざ恨み言いうために俺を探して追ってきたわけじゃないよ!?
 俺が居るとこは常にナツミは知ってたわけだし‥。
 でも‥まあ、いつでも会えるって場所でもなかったけど。
 恨まれてる‥
 う~ん。嫌われてたってことは自覚してたけど‥俺としては恨まれてる‥とまでは思いたくないんだけど??
 でも‥まあ‥俺が甘ちゃんだってことは認めざるを得ないかなあ‥とは思ってる。

 昔からの知り合いだから、一緒に遊んだ記憶があるから‥
 俺に悪気なんかなかった。調子に乗ってなんか要らん事言ったかもしれないけど‥それは悪気があって言ったわけではないから。
 会って話したら‥案外「若気の至りだから仕方ないか」ってなるかも

 ‥っていう甘い考えは捨てた方がいいってこと‥なんだよね。皆が言ってくれてるのは。
 夢を持つな。
 自己満足で「誤解が解きたい」とか‥思わない方がいい。
 御伽噺の続編とか、ない。
 退治された鬼が復讐を誓って数年後桃太郎を襲撃しに来たり、幸せな結婚をしたシンデレラがお城の暮らしに慣れなくて泣き暮らしたり‥とか誰も知りたくない。
 綺麗な思い出は箱に入れて、時々取り出して眺めるだけのものなんだ。
 ‥って言ってるの? だけど‥俺は前に進むために‥ナツミに関わらないわけにはいかないんだ‥。

「児嶋さん。
 あのね。人間だから、一貫性なんてないかもしれない。
 そのときは一時の感情に任せて、積年の恨みみたいなものがばっと出てきたかもしれない。
 だけど‥それって一生そのままってこともないと思う。
 だって、‥そんなの自分が苦しいから。
 そのうち‥「馬鹿馬鹿しい」って思える‥自分の中で整理がつくまで‥どうしようもない時ってある。
 言いたいこと言ってスッキリして、さあ、過去は忘れて前向いていこう! なんて強い人はそういない。
 言いたいこと言ったら言ったで「なんであんなこと言っちゃったんだろう」って落ち込んで、言わなかったら言わなかったでずっとモヤモヤして‥
 少なくとも幼馴染さんにとって児嶋さんはそんな存在ってことなんでしょうね」
 中川さんが優しい表情で言った。
 俺は中川さんの目を真っすぐ見る。
「じゃあ‥どうすればいいの? ‥時はホントにすべてを解決してくれるの? 」
 シンプルに‥人間関係が良くなればすべての問題が解決するわけでは無い。
 俺とナツミの関係が良くなれば、反政府組織と政府の仲も改善するとかじゃ、全然ない。
 ナツミに嫌われて苦しいってのは、俺の問題で、ナツミも反政府組織のメンバーだってことを考慮しても全体的に見て些細なことでしかない。
 だけど‥ホントにそうなんだろうか? 
 今までの歴史を振り返って、この国の転機の切っ掛けとなったのは‥
 デュカとリゼリア然り、桔梗とメレディア王然り
 ‥ホントに「些細なこと」だ。

 だけど、一本、線の通った‥「些細なこと」
 

 今この状態の中で、歴史の転機となるような‥線の通った「些細なこと」は何だろう? 
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