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序章
僕と相生君
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「相生君‥? 」
僕が床に散らかしたままの、新しいクラスの集合写真を拾いながら、じいちゃんが「懐かしそうに」呟いた。
そのしみじみとした口調に何か違和感を感じて、僕は読んでいた漫画雑誌から頭をあげた。
「相生君のこと、知っているの? 」
「彼も相生君なのか。‥やっぱりねえ。もしかして相生 信濃君っていうんじゃないかい? 」
夢から現実に戻されたような顔。‥一瞬浮かべたちょっと驚いたような顔をいつもの穏やかな微笑みにゆっくりと戻しながら、じいちゃんが妙に納得したような口調で言葉を続けた。
「いいや? 相生 四朗君だよ? 信濃って名前よくあるの? 同じ学年の相崎君も三年の相馬先輩も信濃って名前だけど」
僕は実は前々から、やたら目立つ同級生「相崎君」と同じく目立つ先輩が同じ名前だということが気になっていたのだ。そこに来て同じく目立つ「相生君」も「信濃か? 」だ。
信濃ってもしかして、特別な名前なの??
いくらここが長野だからといって‥
って思う。
「あの一族の決まりらしいね。相崎、相模、相馬、相生。その四家は遠い親戚‥なのかどうかは知らないけれど、昔から四家セットで扱われてきたんだ。まあ、旧家のことだから何かあるんだろうけど、私は知らないよ」
なんと、あの三人(いや、相馬先輩も合わせたら四人か)は親戚(?)なのか! ちっとも似ていないが。まあ、親戚だからと言っても似てるとは限らないしな。
「詳しく教えてよ」
僕は身体ごとじいちゃんの席の前に移動する。
クラスの誰も知らない、あの「やたら目立つ」「人気者たち」の極秘情報に僕は思わず身を乗り出した。(自分では勿論見えないんだけど、きっと目が「ギラギラ」している‥という自覚はある)
何が目立つって、この三人はやたら顔がよくってそのせいか(そのせいが八割)、やたらモテる。しかも、相崎君はそうでもないが、相生君や相馬先輩はそれに加えて頭もいいし、運動もできるらしい。運動部に入っているとは聞かないけれど。相生君と相馬先輩はなんでも、剣道の道場に通っていて、その腕前は相当なものだとか。相馬先輩は同級生の相馬 武生君のお兄さんで、道場にも三人で通っている幼馴染ならしい。(相馬 武生君は、その三人の中では、だけどそれ程目立たない顔をしている。どちらかというと親しみが持てる顔ってやつだ)
まあ、でもスポーツ万能っていったら相崎君が一番なんだろう。それも、テニスだとかスキーだとかサッカーだとかやたら女の子受けのするチャラい(失礼! 失言だ☆ )のばっかりだけど。
いつも女の子侍らせて、チャラ男全開の相崎君には、「昔から」だの「伝統」だのって言われてもピンとこない。相馬兄弟は落ち着いてて、武士っぽいから伝統って言葉が似あうけど。相生君は物静かだけど、伝統感はない。普通の人って感じ。だけど、古風ぽいって言ったら‥そうかも??
急に孫が食いついて来たことに、少々戸惑いを見せながらもじいちゃんの話は続く。
「跡取りは、跡取りと認められるまで、みんな信濃という仮の名前で呼ばれるらしい。そして、一族から跡取りと認められたらそれぞれ、相崎 総一郎、相模 藤二郎、相馬 三郎、相生 四朗という名前を襲名するらしい。‥ははあ。武の同級生はその若さでもう襲名しているんだね」
へえ、と僕は感心して頷いた。
襲名とかって、歌舞伎や落語でしか聞かないぞ。今でもそんなのあるんだなあ。
だけど、じいちゃんはなんでそんなこと知っているんだろ。「じいちゃんの友達の相生君」に聞いたのかな。それとも、昔はもっと一族の勢いが強くって、皆が知ることとかだったのかな。気になるようなならないような。
「襲名かぁ。なんかすごいけど、親が死んだらとかなのかな? いや、四朗君のお父さんは見たことがあるよ。四朗君にそっくりで、凄い若かった。父ちゃんよりだいぶ若かったし、だいぶかっこよかった」
父ちゃんはじいちゃんの息子だ。じいちゃんそっくりの平凡な顔をしている。そして、僕もまた然り、だ。
じいちゃんが苦笑する。
「それは、まあ‥顔ばっかりわな‥。‥相生君の父さんっていうと、じいちゃんの同級生の息子かな? 」
「かなあ? 知らないけど、そうだろうね。‥そっかあ、そんなに似てるんだ」
相生君のおじいちゃんが僕のおじいちゃんと友達だったのかぁ。へへ、なんか自慢できそう。相生君、ファン多いしな。
自然と微笑を浮かべてしまう。
じいちゃんがまた懐かしそうな顔をする。
「遠足の時に、私が持って行ったミカンを一つあげたんだ。‥そんなに普段から話したこともなかったんだけどね。そしたら、いい笑顔で「ミカンは好きなんです」って言ってね。男同士の友情なんてそんなもんだよ。それで通じ合えるんだ」
しみじみと言ったじいちゃん。
‥友達って程じゃあないな!
僕は心の中で突っ込みながら、まあ、そんなもんだろう、とやけに納得した。
‥ミカンかあ。相生君も好きかなあ。
そんなことも、思った。
僕が床に散らかしたままの、新しいクラスの集合写真を拾いながら、じいちゃんが「懐かしそうに」呟いた。
そのしみじみとした口調に何か違和感を感じて、僕は読んでいた漫画雑誌から頭をあげた。
「相生君のこと、知っているの? 」
「彼も相生君なのか。‥やっぱりねえ。もしかして相生 信濃君っていうんじゃないかい? 」
夢から現実に戻されたような顔。‥一瞬浮かべたちょっと驚いたような顔をいつもの穏やかな微笑みにゆっくりと戻しながら、じいちゃんが妙に納得したような口調で言葉を続けた。
「いいや? 相生 四朗君だよ? 信濃って名前よくあるの? 同じ学年の相崎君も三年の相馬先輩も信濃って名前だけど」
僕は実は前々から、やたら目立つ同級生「相崎君」と同じく目立つ先輩が同じ名前だということが気になっていたのだ。そこに来て同じく目立つ「相生君」も「信濃か? 」だ。
信濃ってもしかして、特別な名前なの??
いくらここが長野だからといって‥
って思う。
「あの一族の決まりらしいね。相崎、相模、相馬、相生。その四家は遠い親戚‥なのかどうかは知らないけれど、昔から四家セットで扱われてきたんだ。まあ、旧家のことだから何かあるんだろうけど、私は知らないよ」
なんと、あの三人(いや、相馬先輩も合わせたら四人か)は親戚(?)なのか! ちっとも似ていないが。まあ、親戚だからと言っても似てるとは限らないしな。
「詳しく教えてよ」
僕は身体ごとじいちゃんの席の前に移動する。
クラスの誰も知らない、あの「やたら目立つ」「人気者たち」の極秘情報に僕は思わず身を乗り出した。(自分では勿論見えないんだけど、きっと目が「ギラギラ」している‥という自覚はある)
何が目立つって、この三人はやたら顔がよくってそのせいか(そのせいが八割)、やたらモテる。しかも、相崎君はそうでもないが、相生君や相馬先輩はそれに加えて頭もいいし、運動もできるらしい。運動部に入っているとは聞かないけれど。相生君と相馬先輩はなんでも、剣道の道場に通っていて、その腕前は相当なものだとか。相馬先輩は同級生の相馬 武生君のお兄さんで、道場にも三人で通っている幼馴染ならしい。(相馬 武生君は、その三人の中では、だけどそれ程目立たない顔をしている。どちらかというと親しみが持てる顔ってやつだ)
まあ、でもスポーツ万能っていったら相崎君が一番なんだろう。それも、テニスだとかスキーだとかサッカーだとかやたら女の子受けのするチャラい(失礼! 失言だ☆ )のばっかりだけど。
いつも女の子侍らせて、チャラ男全開の相崎君には、「昔から」だの「伝統」だのって言われてもピンとこない。相馬兄弟は落ち着いてて、武士っぽいから伝統って言葉が似あうけど。相生君は物静かだけど、伝統感はない。普通の人って感じ。だけど、古風ぽいって言ったら‥そうかも??
急に孫が食いついて来たことに、少々戸惑いを見せながらもじいちゃんの話は続く。
「跡取りは、跡取りと認められるまで、みんな信濃という仮の名前で呼ばれるらしい。そして、一族から跡取りと認められたらそれぞれ、相崎 総一郎、相模 藤二郎、相馬 三郎、相生 四朗という名前を襲名するらしい。‥ははあ。武の同級生はその若さでもう襲名しているんだね」
へえ、と僕は感心して頷いた。
襲名とかって、歌舞伎や落語でしか聞かないぞ。今でもそんなのあるんだなあ。
だけど、じいちゃんはなんでそんなこと知っているんだろ。「じいちゃんの友達の相生君」に聞いたのかな。それとも、昔はもっと一族の勢いが強くって、皆が知ることとかだったのかな。気になるようなならないような。
「襲名かぁ。なんかすごいけど、親が死んだらとかなのかな? いや、四朗君のお父さんは見たことがあるよ。四朗君にそっくりで、凄い若かった。父ちゃんよりだいぶ若かったし、だいぶかっこよかった」
父ちゃんはじいちゃんの息子だ。じいちゃんそっくりの平凡な顔をしている。そして、僕もまた然り、だ。
じいちゃんが苦笑する。
「それは、まあ‥顔ばっかりわな‥。‥相生君の父さんっていうと、じいちゃんの同級生の息子かな? 」
「かなあ? 知らないけど、そうだろうね。‥そっかあ、そんなに似てるんだ」
相生君のおじいちゃんが僕のおじいちゃんと友達だったのかぁ。へへ、なんか自慢できそう。相生君、ファン多いしな。
自然と微笑を浮かべてしまう。
じいちゃんがまた懐かしそうな顔をする。
「遠足の時に、私が持って行ったミカンを一つあげたんだ。‥そんなに普段から話したこともなかったんだけどね。そしたら、いい笑顔で「ミカンは好きなんです」って言ってね。男同士の友情なんてそんなもんだよ。それで通じ合えるんだ」
しみじみと言ったじいちゃん。
‥友達って程じゃあないな!
僕は心の中で突っ込みながら、まあ、そんなもんだろう、とやけに納得した。
‥ミカンかあ。相生君も好きかなあ。
そんなことも、思った。
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