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二章.柊 紅葉
5.誰
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「誰」
千佳が思いっきり睨んできた。大騒ぎされてもおかしくなかったが、この子はこういうところ、いわゆる「普通の子」ではない。
助かった。
見つかったのが母親だったら、こうはいかなかった。(一瞬で警察呼ばれてるね! )
「あ! 」
「え? 」
俺は咄嗟に、反対側を指さして千佳の注意を逸らす。何その古い手! とか‥言ってられない。
千佳が思わず振り向いたすきに、意識を鏡に戻す。
よかった。戻った!
鏡には、いつもの紅葉が映っていた。
「びっくりした~。千佳の後ろに虫が飛んでたからつい叫んじゃったわ」
俺は困り顔で笑った。
「え! 何の虫! 」
千佳が慌てて辺りを見回し、腕を振り回す。千佳は虫が嫌いなんだ。
でも、すぐ我に返ると
「って。え? あれ? くれちゃん。さっき誰かいなかった? 」
って不審そうな顔をする。
「ううん? 」
俺は「なんのこと? 」って顔で‥首を傾げる。
我ながら変な誤魔化し方だ。
「え。そんなはずないよ」
千佳は尚も食い下がり部屋全体を見回す。
一瞬で隠れた‥と思ったんだろう。だけど、この部屋はベッドと机くらいしかない。隠れるとしたら、机の下かベッドの中か下だけだ。その三点を確認すれば足る。
「どんな人? 」
俺は千佳の気が済むまで探させながら聞く。
「にやけ面の男の人」
千佳は探す手を止めずにきっぱりと言う。
‥にやけ面‥言い方‥
確かに、鏡に笑顔は向けてましたけど‥
「私が連れ込むはずないじゃないそんな人」
(ちょっと傷ついたけど)俺は苦笑いして言った。
「そっか‥そうよね。気のせいかな。にやけ面の人とかあり得ないよね」
千佳が肩をすくめる。
「そうそう」
にやけ面‥。あり得ない‥
折れそうになる心をなんとか励まし励まし言う。
しかし、千佳よ! そんなことでごまかされちゃだめだぞ!
‥今は助かったけど。
「それで? 何か用事があったんじゃないの? 」
首を傾げて千佳に聞くと、千佳は「あ」って何か思い出した様な表情をする。
「うん。電話」
そして、「ごめんごめん忘れてた! 」って照れ笑いする。
「え! 先に言ってよ! 誰から? 」
「姫」
姫、だけは機嫌悪げに言う。
相変わらず。‥ホント嫌いなんだな。
そんな千佳に苦笑しながら、俺は階段の下の電話に走る。
この家には、電話が一つしかない。
階段の下に、電話台があってそこに一つあるだけだ。
電話なんて実は姫から俺宛以外そう掛かってこない。
千佳は中学生だが携帯を持っているし、父も母も携帯電話が主だ。
ただ一人、携帯を持っていない紅葉(俺)の為だけにこの電話はあるといっても過言じゃない(あ、あと母は「そんなに重要じゃないところ」に連絡先を教える際にこの番号を使っているようだ)
なんで俺が持たないかって?
煩わしいしいもの。
と表向きは言っているが、実際は持ちたくないというより、持つという選択肢がない。
だって、借り物の体だ。
なるだけなら、誰の心にも残りたくない。残してはいけない。
だけど、連絡を取るのに不便だと友人や姫からは不評なのは確かだ。
「はい。え? 」
俺が電話に出ると、電話の向こうからため息が聞こえた。
‥もうばれだ?
『違う用事で掛けたんだけど、さっき貴方、元に戻ったんじゃなくて? 』
やっぱり‥
俺の心臓がきゅっと縮こまった(気がした)。
「え? 」
‥とにかくごまかそう。
俺は「何のこと? 」って口調で‥しらを切った。(でもバレてるんだろう)
『誰にも見られてないでしょうね? とにかく、一度こちらに来なさい』
「‥わかりました」
電話の向こうの母さんのイラついている様子が声から伝わって来た。
こんな声を出すなんて珍しい。
電話を切ると、千佳に桜がもうすぐ迎えに来ることを告げる。
「ふうん。もうすぐ夕飯だから早く帰らせてもらってね」
と不機嫌な声を出しながらも、あっさりと許可した。こんなことは珍しい。いつもだったら、もう一言二言桜に対する苦情だとかが続くし、俺に対しての不満も言ってくる。
‥さっきのことをまだ疑っていて、後でもう一度部屋を調べてみようとか思っているのかもしれない。
俺でもそうする。
「わかってるよ」
俺は苦笑いして言うと、支度をしに洗面台に行く。髪にブラシをかけて歯磨きをする。
同級生には薄っすら化粧をしている子もいるが、あれはいけない。こんな若いうちから化粧をしていたら、肌に悪い。
それよりも、念入りに日焼け止めをして日焼けを防がなければ。
シャンプーはノンシリコンだとか、ドライヤーで髪を乾かしてから寝るとか‥日々のお手入れの方が重要だ。
髪も日焼けをするから外出には帽子が欠かせない。バランスの良い食事に、適度な運動、気を付けなければいけないのは睡眠不足。勉強に習い事に‥することは多いが、睡眠は大事!
「くれちゃんの肌ってホントに綺麗だよね。友達のお姉さんもくれちゃんがなんの化粧水使ってるのか知りたがってた。でも、使ってないみたいですとしか言えないんだけど」
後ろで鏡を覗き込みながら、千佳が言った。
「そういうの、わからないんだよね。何を使えばいいとか。だから、健康に気をつける。これが一番」
俺は支度の手を止めずに言った。
だって、そうとしか言えない。
「くれちゃんのアドバイスに従って、朝の散歩も一緒にしてるからかな。私もつやつやだよ! 」
千佳が、ふふ、と笑う。
そして、ふ‥と寂し気な表情をすると
「‥いつまでも、一緒にいれたらいいのに。くれちゃんに彼氏ができて、結婚して、くれちゃんがこの家から出て行ったりしたら、‥寂しいな」
って呟いた。
‥さっきの、彼氏だとか思われたかな。(やっぱり、千佳は胡麻化されてくれてない?? )
まあ‥ね。そりゃあ‥ね。胡麻化されないけど、でもいないから仕方ないって感じ? 凄くモヤモヤしてるんだろう。
さっきは確かにいた。でも、今は何故かいない謎の男。
友好的な見方をすれば、姉の部屋にいる見知らぬ男は彼氏だな。友好的でない見方をすると、変質者だが。
それは、不本意だ。紅葉にも、俺にも。
「なあに、急に」
仕上げに襟を直しながら苦笑いする。
出来るなら「何でもない」って言って欲しい‥
だけど
「さっきの‥」
千佳は続けようとする。
俺は、にわかに焦る。‥台所には確か母親がいたはずだ。
「さっき? 」
心臓が、早鐘を打っている。うるさい。
だけど、俺はこういう時感情を表面に出さない自信がある。
いつものように穏やかに微笑んで千佳を見た。
「‥何でもない」
鏡越しに、千佳の微妙な笑い顔を見た。
「変な、千佳」
俺は、なるだけ自然に笑う。
‥誤魔化せたかな? 本当に、これからは気を付けよう!
千佳が思いっきり睨んできた。大騒ぎされてもおかしくなかったが、この子はこういうところ、いわゆる「普通の子」ではない。
助かった。
見つかったのが母親だったら、こうはいかなかった。(一瞬で警察呼ばれてるね! )
「あ! 」
「え? 」
俺は咄嗟に、反対側を指さして千佳の注意を逸らす。何その古い手! とか‥言ってられない。
千佳が思わず振り向いたすきに、意識を鏡に戻す。
よかった。戻った!
鏡には、いつもの紅葉が映っていた。
「びっくりした~。千佳の後ろに虫が飛んでたからつい叫んじゃったわ」
俺は困り顔で笑った。
「え! 何の虫! 」
千佳が慌てて辺りを見回し、腕を振り回す。千佳は虫が嫌いなんだ。
でも、すぐ我に返ると
「って。え? あれ? くれちゃん。さっき誰かいなかった? 」
って不審そうな顔をする。
「ううん? 」
俺は「なんのこと? 」って顔で‥首を傾げる。
我ながら変な誤魔化し方だ。
「え。そんなはずないよ」
千佳は尚も食い下がり部屋全体を見回す。
一瞬で隠れた‥と思ったんだろう。だけど、この部屋はベッドと机くらいしかない。隠れるとしたら、机の下かベッドの中か下だけだ。その三点を確認すれば足る。
「どんな人? 」
俺は千佳の気が済むまで探させながら聞く。
「にやけ面の男の人」
千佳は探す手を止めずにきっぱりと言う。
‥にやけ面‥言い方‥
確かに、鏡に笑顔は向けてましたけど‥
「私が連れ込むはずないじゃないそんな人」
(ちょっと傷ついたけど)俺は苦笑いして言った。
「そっか‥そうよね。気のせいかな。にやけ面の人とかあり得ないよね」
千佳が肩をすくめる。
「そうそう」
にやけ面‥。あり得ない‥
折れそうになる心をなんとか励まし励まし言う。
しかし、千佳よ! そんなことでごまかされちゃだめだぞ!
‥今は助かったけど。
「それで? 何か用事があったんじゃないの? 」
首を傾げて千佳に聞くと、千佳は「あ」って何か思い出した様な表情をする。
「うん。電話」
そして、「ごめんごめん忘れてた! 」って照れ笑いする。
「え! 先に言ってよ! 誰から? 」
「姫」
姫、だけは機嫌悪げに言う。
相変わらず。‥ホント嫌いなんだな。
そんな千佳に苦笑しながら、俺は階段の下の電話に走る。
この家には、電話が一つしかない。
階段の下に、電話台があってそこに一つあるだけだ。
電話なんて実は姫から俺宛以外そう掛かってこない。
千佳は中学生だが携帯を持っているし、父も母も携帯電話が主だ。
ただ一人、携帯を持っていない紅葉(俺)の為だけにこの電話はあるといっても過言じゃない(あ、あと母は「そんなに重要じゃないところ」に連絡先を教える際にこの番号を使っているようだ)
なんで俺が持たないかって?
煩わしいしいもの。
と表向きは言っているが、実際は持ちたくないというより、持つという選択肢がない。
だって、借り物の体だ。
なるだけなら、誰の心にも残りたくない。残してはいけない。
だけど、連絡を取るのに不便だと友人や姫からは不評なのは確かだ。
「はい。え? 」
俺が電話に出ると、電話の向こうからため息が聞こえた。
‥もうばれだ?
『違う用事で掛けたんだけど、さっき貴方、元に戻ったんじゃなくて? 』
やっぱり‥
俺の心臓がきゅっと縮こまった(気がした)。
「え? 」
‥とにかくごまかそう。
俺は「何のこと? 」って口調で‥しらを切った。(でもバレてるんだろう)
『誰にも見られてないでしょうね? とにかく、一度こちらに来なさい』
「‥わかりました」
電話の向こうの母さんのイラついている様子が声から伝わって来た。
こんな声を出すなんて珍しい。
電話を切ると、千佳に桜がもうすぐ迎えに来ることを告げる。
「ふうん。もうすぐ夕飯だから早く帰らせてもらってね」
と不機嫌な声を出しながらも、あっさりと許可した。こんなことは珍しい。いつもだったら、もう一言二言桜に対する苦情だとかが続くし、俺に対しての不満も言ってくる。
‥さっきのことをまだ疑っていて、後でもう一度部屋を調べてみようとか思っているのかもしれない。
俺でもそうする。
「わかってるよ」
俺は苦笑いして言うと、支度をしに洗面台に行く。髪にブラシをかけて歯磨きをする。
同級生には薄っすら化粧をしている子もいるが、あれはいけない。こんな若いうちから化粧をしていたら、肌に悪い。
それよりも、念入りに日焼け止めをして日焼けを防がなければ。
シャンプーはノンシリコンだとか、ドライヤーで髪を乾かしてから寝るとか‥日々のお手入れの方が重要だ。
髪も日焼けをするから外出には帽子が欠かせない。バランスの良い食事に、適度な運動、気を付けなければいけないのは睡眠不足。勉強に習い事に‥することは多いが、睡眠は大事!
「くれちゃんの肌ってホントに綺麗だよね。友達のお姉さんもくれちゃんがなんの化粧水使ってるのか知りたがってた。でも、使ってないみたいですとしか言えないんだけど」
後ろで鏡を覗き込みながら、千佳が言った。
「そういうの、わからないんだよね。何を使えばいいとか。だから、健康に気をつける。これが一番」
俺は支度の手を止めずに言った。
だって、そうとしか言えない。
「くれちゃんのアドバイスに従って、朝の散歩も一緒にしてるからかな。私もつやつやだよ! 」
千佳が、ふふ、と笑う。
そして、ふ‥と寂し気な表情をすると
「‥いつまでも、一緒にいれたらいいのに。くれちゃんに彼氏ができて、結婚して、くれちゃんがこの家から出て行ったりしたら、‥寂しいな」
って呟いた。
‥さっきの、彼氏だとか思われたかな。(やっぱり、千佳は胡麻化されてくれてない?? )
まあ‥ね。そりゃあ‥ね。胡麻化されないけど、でもいないから仕方ないって感じ? 凄くモヤモヤしてるんだろう。
さっきは確かにいた。でも、今は何故かいない謎の男。
友好的な見方をすれば、姉の部屋にいる見知らぬ男は彼氏だな。友好的でない見方をすると、変質者だが。
それは、不本意だ。紅葉にも、俺にも。
「なあに、急に」
仕上げに襟を直しながら苦笑いする。
出来るなら「何でもない」って言って欲しい‥
だけど
「さっきの‥」
千佳は続けようとする。
俺は、にわかに焦る。‥台所には確か母親がいたはずだ。
「さっき? 」
心臓が、早鐘を打っている。うるさい。
だけど、俺はこういう時感情を表面に出さない自信がある。
いつものように穏やかに微笑んで千佳を見た。
「‥何でもない」
鏡越しに、千佳の微妙な笑い顔を見た。
「変な、千佳」
俺は、なるだけ自然に笑う。
‥誤魔化せたかな? 本当に、これからは気を付けよう!
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