相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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二章.柊 紅葉

7.応用力

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「紅葉。この頃調子がいいな」
 剣術の師匠である境田が機嫌のよい声を掛けてきた。

 この頃は、相手に意識を合わせることができるようになってきた。
 初めはひどいものだったが。

 水の流れに身を任せるように相手の動きを意識する。これって凄く集中力がいる。集中力と‥精神力? ちょっとの動揺で一気にバランスを崩す、丁度溺れるみたいにあっという間にガタガタだ。
 ちょっとでも自分を出してはいけない。勝とう勝とうと焦れば、相手のリズムを見誤る。相手のリズムに乗れないと振り回される。
 精神力を鍛えようと思って、この頃寺で座禅なんて組んでる。‥どんどん普通の「女子高生」から離れてきて、‥千佳に文句言われる。
「くれちゃんは! 」
 って‥多分なんて怒っていいのかすら分からないって感じだ。
 普通の女子高生らしくしろ? 
 ‥違うな
 もっと、普通に楽しんで! 
 だろうな。あと‥「もっと構って欲しい」かな。ホントに千佳ちゃんはお姉ちゃんっ子だ。

 悪いって‥思う。だから、何とか早く会得して‥って気持ちが焦る。

「鏡の様に‥人に合わせる‥かあ‥」
 自分を完全に消して、相手に「なり切る」? 
 相生のように自己主張の激しい一族にはこんな戦いは本来向かない。自分が相手より強くあればいい。自分の強さを見せつければいい。相手が自分より強ければ負ける。‥当たり前のことだ。
 だけど、
 西遠寺の力には、たぶんそれを埋める物がある。

「鏡の「自分」と戦っても負けない‥勝てもしないけど」
 勝つには一瞬、相手の隙をついて‥鏡の擬態を解いて‥反撃だ。
 想像すると‥怖い。今までずっと当たり前に鏡に映っていた「自分」がかっと目を見開いて、自分に拳をあげるんだ。‥そりゃ、負ける。だって‥怖いじゃん。

 技を見せるのはその一瞬だけでいい。
 そして、その一撃ができるだけの技を鍛える。
 隙をつけたとしても、その一撃がしょぼくては話にならない。
 一撃の練習は今まで散々して来た。だから、四朗は「相手に合わせる練習」(鏡になる練習)を重点的に行うことにした。
 毎日毎日、それこそ休みなく。
 自分にも「あるであろう西遠寺の力」を信じて。
 そうこうしていると‥ある日なんとなくその感覚が見えてきた。

 そして、やっぱりその感覚が相生の相手の頭の中と直接シンクロする力に似たところがあると確信した。
 ただ、頭の中に入って来る情報を処理するのと違って、身体で処理しなければいけないから‥なかなか感覚がつかめなかったんだ。
 あと‥「似てるけど全く違うものとして」会得しなければいけない。‥それがきつかった。
 だって相生の感覚でやると、やっぱり紅葉の姿は維持できなかったから。

 「鏡の動作」に慣れる前に、自分の得意分野である語学の方で鏡の能力を練習することにしたのは正解だったって思う。
 外国人講師の頭の中の「言語脳」にシンクロする感覚を紅葉の姿のままで獲得する。まるで、昔っからその言語体系で過ごしていたかのような感覚‥はだけど、相生の時と同じだから別に発見はない。「調子を取り戻せて」楽になった‥ってだけ。だけど、「紅葉の姿のまま」発音なんかを学んでいたのは、今後無駄にはならないと思う。

 だから、今は取り敢えず語学の習い事は休学して、剣術やらの格闘技に絞って練習していこうと思う。


「でも、まだまだですね」
 師匠の容赦ない一撃を受けて後ろに飛ばされる。

 しまった。勝負の途中でまた気がそれた。

「すいません! もう一回お願いします! 」
 それで、結局今日も汗だく痣だらけで帰るのだった。だけど、痣は‥きっと本体にはついてるんだろうけど、今周りに見えている紅葉は‥問題ないようだ。傷一つない。
 所詮俺の身体にコーティングされた立体映像的なものだから?
 だけど、‥どういう仕組みかよくわからないけど、汗はかくし、雨が降れば水にも濡れる。
 こういう時にはこういう現象、みたいな感じでプログラムが組まれてるのかな?? そして、そのプログラムにはきっと「あざだらけ」「傷だらけ」っていうのはないんだろう(そりゃな)。‥表情は「俺の感情」とシンクロしてるみたいだ。
 ‥表情もプログラムで「紅葉はこういう時こういう顔する」ってなってたら楽だったのにな。‥結構難しいよ「紅葉ちゃんはこんな時こんな表情するんじゃないかな? 」って想像しながら表情作るのって。
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