相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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二章.柊 紅葉

8.俺が俺である故に

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 相生の力は、とにかく自分を消して相手に合わせる感のある西遠寺の力とは、根本的に違う。
 相生は、外に対して自分をアピールするところから始まる。

「こんにちは。初めまして、相生四朗です」
 ってにっこり。
 相手が「つられて」名前を言ってしまった瞬間、もう相手は「相生四朗」の術にかかっている。
 相生四朗ってのは、個人名なんだけど、同時に職業名なんだ。
 代々の相生四朗は皆同じように同じ仕事をするんだ。

 言語系能力者

 相生の研究者はそう呼んでいるらしい。
 まず、自分を認識させて、相手を自分のテリトリーに引き込む。相手は「気が付かないうちに」相生四朗に脳の言語に関する部分にアクセスされる。そして、言語に関する知識を相手(つまり相生四朗だ)の脳内にハッキングされる‥って訳だ。
 ハッキングした知識(俺は原語シートって呼んでる)は、自由に自分の言葉の様に使える。
 日本語や英語を話してる時、別に50音表やアルファベット表を意識してるわけじゃないけど、それが基本なわけじゃない? ‥そういうのが頭にすっと入ってきて、初めから自分の中にあったかのように使えるわけ。
 そして、その中でも何が相手の母国語かってのが「分かる」。
 分かるし、言ってることも理解できるし、言いたいことをその言葉で表現できるけど、発音ばっかりは何ともならない。俺が普段語学を学んでいるのは、その為なんだ。
 だけど、それはホントに一時的なもので、相手との会話が終わった時には、きれいさっぱり消えてしまう。(逆に忘れてしまわないと、次の情報を処理するときに面倒だしね)
 ダウンロードするというよりソフトなんかを起動させるって感じなのかな。それで、相手との会話が終わったら、相手がソフトを持って帰って行ってしまうって感じ。
 一緒のゲームを二人で遊んでて、だけどそのソフトは相手の物で、相手が持って帰るって言ったら分かりやすいかな。
 違法コピー禁止というか不可能なソフト。だから、遊んでいる(会話している)間に出来る限り、情報を「覚えなければ」いけない。相手に気付かれない様にひっそりと。
 相手の言語に関する記憶を探り、自分の記憶として自分の脳に残さなければいけない‥ってわけだ。
 簡単に言ったけど、これって、凄く難しいことだ。
 相手の記憶に入っていけたら、情報とかもっと簡単に盗めるんだろうけど、そこまで便利なことは出来ない様だ。相生の能力について何年にもわたって研究している、研究者が言うんだから、まあ間違いはないだろう。(なんだその研究者、とは思うけど確かに研究したくもなるかも‥。ただ、世間一般に対しての研究価値はない。相生の能力を世間に発表するわけにはいかないからね)

 たかが言語データ。されど言語データ。
 その人が持っている、言語データからだって分かることは多い。
 何枚かの原語シートの内、母国語が何かを判断することから始める。(これが分かるのも訓練の代物だ! )
 これだけでも分かることは多い。
 英語なんかは、誰でも使ってるんだけど、「使ってる」と「母国語として話している」では違う。
 普段は英語を話しているけど、出身地はヨーロッパで母国語はイタリア語‥だとかそんな人はざらだ。
 記憶は読めないけど、そういうことから考察できることも‥ある。
 もっとも、俺たち相生がするのはそこ‥情報収集までだ。情報分析なんかは別に専門の人がいる。その人から「こういうことを聞いて」って指示なんかもくる。無茶振りも多いけど、指示してくれると助かることも多い。
 これは、家業のスタイルだ。たけど‥俺はまだそういう仕事はしたことない。
 そういうのを全部引き継がないと真の後継者とは言えない‥らしい。
 高校を卒業した‥って言われてた。
 ホントだったら「そろそろそういう時期」なわけだ。
 ここでこんな長い時間入れ替わりしてるなんて‥あの時(入れ替わった10歳の時)は思ってもなかったな。

 俺が‥俺たち後継者たちが引き継いでいく仕事。
 一族が全て関わっているチーム。

 仕事になりそうなものを持ってくる「提案者」 相模
 情報を探り対象者との円満な関係を保つ「ホスト役」 相生
 情報を分析したり、相生に指示したりする「ブレイン」 相馬
 それを仕事にする「商人」 相崎

 昔からこの分担で仕事をして来たらしい。
 そして、それは才能ではなく‥受け継がれていく能力が関係している‥らしい。
 相模と相生なんかはまさに、超能力‥って感じなんだ。
 相模の御当主は、なんか‥仙人って感じだよ。超越者って感じする。野生の勘っていうより、変な話「神のお告げ」って言われた方がぴったりくる様な感じ。(容姿も超越した麗人だしね! )
 人とは違うものや景色が「見えて」るんだろうなって思う。
 今代の御当主は盲目でいらっしゃるから、余計にそんな感じがする。なんか、俗っぽくない‥綺麗で神聖な雰囲気の方なんだ。
 相生は代々ホストって雰囲気だな。魔性の‥って感じのあんまり健全じゃない色気満載な仕事スタイル‥。だけど別に枕営業してるわけじゃない。「おさわり」すらゼロだ。だけど、仕事してるっていうより、恋愛してるっていう方がぴったりくるという仕事スタイル‥。(会話が終わったら相手は「さっきの何だったんだ?? 」になるんだけど)
 ‥催眠状態って感じなのかな?? まさに魔性だね! 
 相馬は頭が兎に角いい。あと‥凄い勘が鋭い。相生とセットで動いてるけど、どちらかというと相模とこころでつながってる‥って感じする。
「言わなくてもわかるぜ? こういうことだろ? 」
 って感じで‥
 相模が漠然と描いたものを、相馬が文字にするって感じかな? その資料集めの為に下僕・相生を動かしてます‥って感じ。
 下僕っていったら、相崎か。
 相模が描いて相馬が文字にした計画を実現する。そりゃ、実現するのは難しいよ。才能なきゃできない。だけど‥命令通り動くわけだから、下僕感はぬぐえないよね。
 相生が相馬の下僕なら、相崎は相模の下僕って感じかな☆
 
 相馬と相崎は、才能よりも経験や知識が優先され、相生と相模は「能力がいる」。それは、どんなに頑張ったところで何ともならない。
 当主の家で一番初めに生まれた子ども(男女に関わらずだ。だけど、相生本家は異常な位男しか生まれない)に受け継がれることが殆どなんだけど、父さんみたいに双子で産まれた場合、その能力が二分割されることが稀にある。だからどちらかが跡を継ぐんだけど、その子どもの内、能力を持っている方が次の後継者になる。その際は、その子に能力の全部が出て来るんだ。双子兄(半分)双子弟(半分)だけど双子兄の子(全部)双子弟の子(なし)ってことだね。勿論、双子弟の子に能力が出たらその子が後継者になるね。
 俺たちの場合、俺と叔父さんの息子・悠希くんが対象者に当たる。だけど、悠希くんが生まれる前に爺さんが俺を後継者に指名しちゃった‥ってわけだ。
 父さんは能力が少なかったから、俺は通常より早く後継者になったって感じかな。
 
 血筋が大事っていうより、能力の有無が重要。
 そして、能力は永久不滅ではなく、加齢により減るし、いずれは枯渇する。まあ‥相生の場合だと美貌に陰りが見られたらもう終わり‥的なことも関係あるかも。だから、後継者を早く決めて教育しておくことが大事。
 相生の結婚が特に早いのはそういうのも関係あるのかもしれない。
 ‥まあ、相生は女好きが多いし惚れっぽいからそこら辺は何とも言えない。あと面食い。‥これは結婚が早いとは関係ないが。
 あ、女好きって言って、別に遊び人ってわけじゃないよ。
 いつだって本気。
 単純なんだろうね。
「本気にならなきゃ、ホントの言葉は出てこないよ」
 って爺さんは言ってた。
 あの人は‥だけど、ホントに粋な遊び人って感じする。
 その時々の「恋」をホントだって自分をも騙し、いつだってホンキで「楽しんで」る。(ホントは「ホント」じゃないんだけど、ホンキで「ホント」かのように‥楽しんでるって感じ? )

 常に自分を見つめて、自分の能力と向き合いながら暮らす。
 相生の人間は、自分の仕事に誇りを持っている。そして、自分の仕事は自分しかできないことを自負している。
 ‥そういう風にいうとなんかカッコいいけど、なんてことはない「自分に落ちない人間はいない! 」って変なプライド持っちゃってるってこと。
 つまり‥ナルシストなのね。
 俺は‥まだその気持ち分からないなあ。爺さんはそんな感じするけど‥父さんはどうなんだろ。やっぱり能力がMAXじゃないからそこまでじゃない‥とかなのかなあ。

 ‥こんなに長々と、何が言いたかったのかというと。

 相生四郎としての自覚なしで、相生の力は発揮できない、ということだ。

 しかし、相生四朗を自覚すれば、その力に引っ張られて鏡の秘儀は解ける。だから、強く自覚してはいけない。自覚する力をコントロールすれば‥と今まで実験しながら稽古に励んできた。
 だけど、何かをセーブしたままというのは、常に気が散っている状態だ。
 だから、自分の頭にある「相生四朗像」を「柊紅葉像」に変えれば、相生四朗の力を使いながらも柊紅葉でいられるのではないか? って一度は思った。
 自分の顔って本来は自分では見えない。鏡で見て初めて「自分の顔はこういう顔だ」って分かる。じゃあ‥自分で思い込んでいる自分の顔を柊紅葉のそれに置き換えれば‥
 って思ったけど、それって‥かなり気持ち悪くない?? 
 他人に自分の顔をそれ程意識されるとか‥恐怖だよ。
 あの人の顔が頭から離れない‥って奴? (違う)
 恋してるみたいじゃん(違う)
 なんか‥紅葉ちゃんに失礼だわ~。
 
 結局、相生四朗の力の応用は無理ってことだ。
 そして、相生四朗の力が強いがゆえに、新たに他の力の習熟が妨げられる。

 俺は今日もため息をつき、母さんからもため息をつかれるのであった。
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