19 / 54
三章.意識と無意識
2.不本意な疑惑
しおりを挟む
「そもそもなんで、女の子が俺の身代わりになってるんですか? 男にはいなかったんですか? 」
紅葉のふりをする四朗は、本当に今更な質問を桜にした。
今回は桜のほうに四朗から連絡をして会いに来ている。こういうことは初めてで、桜は少し不機嫌そうな顔をしていた。きっと忙しかったのだろう。
だけど、四朗にしてもいつまた鏡の秘儀が解けるかわからない状態は不安だ。
もちろん、修業が思うようにうまくいかなくって、何度か解けかけたから言うんだけど。
「急に呼び出したと思ったら、そんなこと」
桜がため息をつく。
「そんなことって‥」
男同士だったら、そういえば、こんなに気を遣わなくてもよかったかもしれない。
剣を打ち込まれて、大きくバランスを崩す度に対戦相手から気遣われるのも煩わしい。
起き上がらせようと手を差し出されるのをやんわり断るのも心苦しい。
身体を見ない様に暮らすのも大変だし、告白してくる男子を「傷つけないように」断るのも大変だ。
とにかく、生活の全てが大変で、
この頃ではもう我慢の限界が来ているといってもいい。
ああ! 誰にも気兼ねすることなく、男扱いが普通の生活に戻りたい!!
相生四朗に戻りたい!
「西遠寺の力は、男子には出にくい‥。いえ、別に出ないわけではないの。だけど、出にくいの。せいぜい一族に一人くらい‥。そして、それは貴方が持っていると‥奴らは思っているの。
だから、奴らは貴方を手に入れるか、それが叶わないなら消してしまいたいと思っている。
確かめもせずに「きっと」だけで‥まったく馬鹿な奴らだわ」
桜がため息をついた。
つまり、鏡の力は男には出にくくって、適任者がいなかったから鏡の力保持者の紅葉が選ばれたってわけだ。
「顔も似てるしこれ以上ない人選だわ。私は今でも間違ってないって思ってるわ」
ってけろりとした顔をしてるけど‥あんた、それ自分の姉(紅葉の母親)にも言える??
四朗は呆れて物も言えない。
そもそも、さっきの話‥ツッコミどころが多すぎる。
俺が力を持っているって「奴ら」が思ってる‥ってところは‥まあ分かる。
俺が歴代最高の能力者桜の一人息子だからだろう。
で、奴らってのは‥俺の命を狙ってるらしい奴のことだろう。誰ってことではなく「狙ってる奴全般」って感じなんだろう。
なんか‥頭痛がして来た。
あんまりに荒唐無稽過ぎて‥
「男で能力者が少ないことは分かりました。だけど、そのレアケースは俺を手に入れなければ殺した方がいいって程のことなんですか? 」
四朗は頭痛を堪えて単調な口調を心掛けていった。
‥あまり大きな声を出して、外に聞かれたら良くないから。
「あら、男子であの力を持つというのは、大変なことよ? 元々の力が女子とは違うわけだから、それこそ喧嘩しても負けなしよ」
こともなげにいう桜に、四朗は呆気にとられた。
なんだろう。命を狙われているっていうから、どんな特異事項かと思ったら、喧嘩に負けないだけの力?
母さんには悪いけどないけど、しょぼいよ!
って思ったけど‥まあ‥そうかも。
鏡の力って言って全く同じ動きが出来ても、最終的に勝つのは「バランスを崩した時の一手」だ。それを外せば‥負ける。それに、体力だって男と女だったら男の方があるわけだしな。
だけど‥それだけ??
喧嘩すること前提??
「まあ、女子でも、そこそこの相手とだったら負けはしないだろうけど」
まだ言うか。
「喧嘩に負けないための能力って、何なんだろ‥」
四朗はつい、口に出して言ってしまった。
桜が首を傾げる。質問に対する答えではなく、質問してくる意味が分からないといった顔だ。
‥まあいいや。
「それに。本当によく、入れ替わりを承諾してくれましたね。紅葉さん」
四朗がため息をつく。
「だから。あの子は優しい子だから」
にっこり笑って桜が言う。
‥何を隠しているんだろう。このタヌキは。
「リスクが大きすぎますよね」
四朗がため息をつくと、
「月桂がついているわ」
と、ここだけは自信たっぷりに言う。
「月桂って? この間も聞きましたけど。その名前」
「月に住む伝説の「桂男」の名前に相応しい男の臣霊よ。頭がいいの。そこそこ喧嘩も強いしね。それに何より、洗脳の力を持っているわ」
‥危ないやつだな。
四朗が少し眉をよせる。
「そして、男ばかりの中に紅葉を入れるわけだから、そのフォローには女の子の臣霊の鮮花を。こっちは、完全にパワー系。決断力もある頼もしい子だけど、ちょっと突っ走るところがあるのが欠点よね。だから、月桂と組み合わせて使うことで、暴走は防げるわね。そして何より、女同士だから何かしら助けてくれるわ」
ふふっと桜が笑った。
‥臣霊に丸投げ。
信用していると言っていいのか、無責任と言っていいのか。
あ‥また頭痛が‥。(落ち着けオチツケ‥)
「臣霊にも性格があるんですね。名前も」
桜に今更常識云々を説いて聞かせても意味がないとあきらめた四朗がそうとだけ、言った。
見たこともない臣霊には同情を感じてやまない。
人でさえこき使う桜だ。自分が使う臣霊に対する扱いはひどいものだろう。
桜はにっこりと微笑む。‥機嫌が直ったのだろう。
「貴方についてもらってる臣霊にも勿論あるわよ。華鳥って名前なの。オールラウンダーな女の臣霊よ」
はは、と四朗が乾いた笑いを返す。
‥知ってます。見たことは勿論ないですが、いろいろ助けてもらっています。頭の回転も速くって、常に冷静で、想定外の時にも対処してくれる彼女がいなかったら困ることも多かった。
でも、そういえば名前は今初めて聞いた。
「一人でいいんですかね」
四朗はふと、さっき聞いたことを思い出し、聞いてみる。
たしか、同性の臣霊がついていたほうが、何かといいと。
だけど、桜は何が疑問なのか分からん、みたいな顔をして
「まあ、私もいるしね」
あっさりと言った。
「なるほど? 」
四朗があっさりと承諾する。
なぜって‥「桜に今更常識云々を説いて聞かせても意味がない」から。
それに、確かに現実世界のフォローは桜たちがしてくれるから、問題はないんだから間違いではない。
と、そのとき桜の表情がピクリと動いた。
おもむろに、部屋の端で覆いがかっていた姿見(鏡)の覆いを外す。
桜が前に立っているというのに桜の姿はその鏡には映っていない。鏡ではないのだろうか? と見ていると。徐々に人影が浮き出てきた。
表情はわからないし顔もわからないが、髪の黒い(そして、はっきりと映ってはいないがきっと目も黒い)若い男の様に見える。
「あら? 月桂‥? 」
桜が鏡に映った見知らぬ男に話しかけた。
月桂。これが、紅葉ちゃんに付いている臣霊‥。
四朗が鏡を覗き込む。
だけど、相変わらず鏡はぼんやりとしかその姿を映していない。
「どうしたの? 」
桜が少し強い口調で返答を促す。
ポツリと
『‥タイムリミットです』
鏡に映った男‥月桂が答えた。
声がした‥と言うより、何故か聞こえたって感じ。凄く変な感じだ。
『紅葉様の力が強くなってきて、我ら二人がかりでも抑えきれなくなってきました』
月桂は悲壮な「声」を出す。(まあ‥変な感じはするけど聞こえてるんだから、声でいいか)
申し訳ない、そして情けないといった声だった。
しかし、
「まあ! 思った通り、いい修行になったようね! 」
桜は突如、嬉しそうな表情になって月桂を見た。
ん? もしかしてこれが今回の入れ替わりの一番の目的か?!
後継者の修行‥。そのためには、実の息子まで使うとは!
「では、四朗と一緒にそちらに向かって入れ替わりを行いましょうか」
四朗の衝撃など気にもしない様子で、桜がうきうきと、楽しそうに笑った。
『それが‥』
反対に、月桂は更に言いにくそうに言葉を濁す。
「なに? 」
不機嫌そうに桜が月桂を睨む。
しばらく黙った後、月桂は
『紅葉様は記憶喪失になっておいでなのです』
重い口を開いた。
「‥なんですって? 」
桜が叫んだ。
目が‥怖い。視線で人が殺せそうってこういうのを言うんだろう。
見た目動く日本人形だのに‥怖い。
夢に出てきそう‥
四朗はちょっと震えあがってしまった。
「何てこと! じゃあ、紅葉の学校生活のフォローは誰がしたのよ」
その間も月桂と桜の話は続いている。
話しというか‥一方的に桜が怒っているだけだ。
『鮮花と‥学校では、武生さんが』
おずおず‥という感じで月桂が言葉を返す。
「武生!? 」
今度は四朗が叫んで、月桂を睨む。
武生がどうしたって?!
「どういうこと?! 」
四朗が鏡に詰め寄る。月桂が四朗を見た‥気がした。
『学校生活を送るうえで、どうしても男性の協力者がいりましたものですから』
全然恐れる様子など感じてない口調で、あっさり言った。
「どうやって承諾させたの? まさか‥」
四朗が恐る恐る聞く。
まさか‥洗脳?
桜に聞いていた月桂の特技は確か洗脳だったはずだ。
月桂がなんてこともないかのように、頷く。
『勿論です』
『常に、紅葉さんに触る物がいないように見張らせました。そして、勿論常時張り付かせて警護させました。そして、紅葉さんにも、誰にも触れさせないように暗示をかけました。紅葉さんが触った時にも「何の違和感も感じない」という暗示をかけました。自分は男だって思ってるのに、身体を触って「あれ? これ男の身体としておかしくないか? 」って思ってはいけないから‥』
そこらへんも洗脳か? 恐るべし‥
それにしても‥
「常に‥武生が俺にべったり‥」
四朗は呻いて、さっきの月桂の言葉を反復した。
『ちょっと学校では、一部の方に要らぬ誤解を与えてしまいましたが』
と、月桂。相変わらず何の感情も籠ってない口調だ。
「武生と俺が‥」
‥どんな誤解だって?
流行り(?)のBL疑惑??
情けなくって、なんだか泣きたくなってきた。
「まあ、それはいいわ」
本当にどうでもいいように言って、桜は考え事を始めた。
よくない。全然良くない!
今日気が付いたんだけど、母さんの俺に対する扱いってひどくないか?
色んな意味で情けなくって、泣きたくなる四朗だった。
紅葉のふりをする四朗は、本当に今更な質問を桜にした。
今回は桜のほうに四朗から連絡をして会いに来ている。こういうことは初めてで、桜は少し不機嫌そうな顔をしていた。きっと忙しかったのだろう。
だけど、四朗にしてもいつまた鏡の秘儀が解けるかわからない状態は不安だ。
もちろん、修業が思うようにうまくいかなくって、何度か解けかけたから言うんだけど。
「急に呼び出したと思ったら、そんなこと」
桜がため息をつく。
「そんなことって‥」
男同士だったら、そういえば、こんなに気を遣わなくてもよかったかもしれない。
剣を打ち込まれて、大きくバランスを崩す度に対戦相手から気遣われるのも煩わしい。
起き上がらせようと手を差し出されるのをやんわり断るのも心苦しい。
身体を見ない様に暮らすのも大変だし、告白してくる男子を「傷つけないように」断るのも大変だ。
とにかく、生活の全てが大変で、
この頃ではもう我慢の限界が来ているといってもいい。
ああ! 誰にも気兼ねすることなく、男扱いが普通の生活に戻りたい!!
相生四朗に戻りたい!
「西遠寺の力は、男子には出にくい‥。いえ、別に出ないわけではないの。だけど、出にくいの。せいぜい一族に一人くらい‥。そして、それは貴方が持っていると‥奴らは思っているの。
だから、奴らは貴方を手に入れるか、それが叶わないなら消してしまいたいと思っている。
確かめもせずに「きっと」だけで‥まったく馬鹿な奴らだわ」
桜がため息をついた。
つまり、鏡の力は男には出にくくって、適任者がいなかったから鏡の力保持者の紅葉が選ばれたってわけだ。
「顔も似てるしこれ以上ない人選だわ。私は今でも間違ってないって思ってるわ」
ってけろりとした顔をしてるけど‥あんた、それ自分の姉(紅葉の母親)にも言える??
四朗は呆れて物も言えない。
そもそも、さっきの話‥ツッコミどころが多すぎる。
俺が力を持っているって「奴ら」が思ってる‥ってところは‥まあ分かる。
俺が歴代最高の能力者桜の一人息子だからだろう。
で、奴らってのは‥俺の命を狙ってるらしい奴のことだろう。誰ってことではなく「狙ってる奴全般」って感じなんだろう。
なんか‥頭痛がして来た。
あんまりに荒唐無稽過ぎて‥
「男で能力者が少ないことは分かりました。だけど、そのレアケースは俺を手に入れなければ殺した方がいいって程のことなんですか? 」
四朗は頭痛を堪えて単調な口調を心掛けていった。
‥あまり大きな声を出して、外に聞かれたら良くないから。
「あら、男子であの力を持つというのは、大変なことよ? 元々の力が女子とは違うわけだから、それこそ喧嘩しても負けなしよ」
こともなげにいう桜に、四朗は呆気にとられた。
なんだろう。命を狙われているっていうから、どんな特異事項かと思ったら、喧嘩に負けないだけの力?
母さんには悪いけどないけど、しょぼいよ!
って思ったけど‥まあ‥そうかも。
鏡の力って言って全く同じ動きが出来ても、最終的に勝つのは「バランスを崩した時の一手」だ。それを外せば‥負ける。それに、体力だって男と女だったら男の方があるわけだしな。
だけど‥それだけ??
喧嘩すること前提??
「まあ、女子でも、そこそこの相手とだったら負けはしないだろうけど」
まだ言うか。
「喧嘩に負けないための能力って、何なんだろ‥」
四朗はつい、口に出して言ってしまった。
桜が首を傾げる。質問に対する答えではなく、質問してくる意味が分からないといった顔だ。
‥まあいいや。
「それに。本当によく、入れ替わりを承諾してくれましたね。紅葉さん」
四朗がため息をつく。
「だから。あの子は優しい子だから」
にっこり笑って桜が言う。
‥何を隠しているんだろう。このタヌキは。
「リスクが大きすぎますよね」
四朗がため息をつくと、
「月桂がついているわ」
と、ここだけは自信たっぷりに言う。
「月桂って? この間も聞きましたけど。その名前」
「月に住む伝説の「桂男」の名前に相応しい男の臣霊よ。頭がいいの。そこそこ喧嘩も強いしね。それに何より、洗脳の力を持っているわ」
‥危ないやつだな。
四朗が少し眉をよせる。
「そして、男ばかりの中に紅葉を入れるわけだから、そのフォローには女の子の臣霊の鮮花を。こっちは、完全にパワー系。決断力もある頼もしい子だけど、ちょっと突っ走るところがあるのが欠点よね。だから、月桂と組み合わせて使うことで、暴走は防げるわね。そして何より、女同士だから何かしら助けてくれるわ」
ふふっと桜が笑った。
‥臣霊に丸投げ。
信用していると言っていいのか、無責任と言っていいのか。
あ‥また頭痛が‥。(落ち着けオチツケ‥)
「臣霊にも性格があるんですね。名前も」
桜に今更常識云々を説いて聞かせても意味がないとあきらめた四朗がそうとだけ、言った。
見たこともない臣霊には同情を感じてやまない。
人でさえこき使う桜だ。自分が使う臣霊に対する扱いはひどいものだろう。
桜はにっこりと微笑む。‥機嫌が直ったのだろう。
「貴方についてもらってる臣霊にも勿論あるわよ。華鳥って名前なの。オールラウンダーな女の臣霊よ」
はは、と四朗が乾いた笑いを返す。
‥知ってます。見たことは勿論ないですが、いろいろ助けてもらっています。頭の回転も速くって、常に冷静で、想定外の時にも対処してくれる彼女がいなかったら困ることも多かった。
でも、そういえば名前は今初めて聞いた。
「一人でいいんですかね」
四朗はふと、さっき聞いたことを思い出し、聞いてみる。
たしか、同性の臣霊がついていたほうが、何かといいと。
だけど、桜は何が疑問なのか分からん、みたいな顔をして
「まあ、私もいるしね」
あっさりと言った。
「なるほど? 」
四朗があっさりと承諾する。
なぜって‥「桜に今更常識云々を説いて聞かせても意味がない」から。
それに、確かに現実世界のフォローは桜たちがしてくれるから、問題はないんだから間違いではない。
と、そのとき桜の表情がピクリと動いた。
おもむろに、部屋の端で覆いがかっていた姿見(鏡)の覆いを外す。
桜が前に立っているというのに桜の姿はその鏡には映っていない。鏡ではないのだろうか? と見ていると。徐々に人影が浮き出てきた。
表情はわからないし顔もわからないが、髪の黒い(そして、はっきりと映ってはいないがきっと目も黒い)若い男の様に見える。
「あら? 月桂‥? 」
桜が鏡に映った見知らぬ男に話しかけた。
月桂。これが、紅葉ちゃんに付いている臣霊‥。
四朗が鏡を覗き込む。
だけど、相変わらず鏡はぼんやりとしかその姿を映していない。
「どうしたの? 」
桜が少し強い口調で返答を促す。
ポツリと
『‥タイムリミットです』
鏡に映った男‥月桂が答えた。
声がした‥と言うより、何故か聞こえたって感じ。凄く変な感じだ。
『紅葉様の力が強くなってきて、我ら二人がかりでも抑えきれなくなってきました』
月桂は悲壮な「声」を出す。(まあ‥変な感じはするけど聞こえてるんだから、声でいいか)
申し訳ない、そして情けないといった声だった。
しかし、
「まあ! 思った通り、いい修行になったようね! 」
桜は突如、嬉しそうな表情になって月桂を見た。
ん? もしかしてこれが今回の入れ替わりの一番の目的か?!
後継者の修行‥。そのためには、実の息子まで使うとは!
「では、四朗と一緒にそちらに向かって入れ替わりを行いましょうか」
四朗の衝撃など気にもしない様子で、桜がうきうきと、楽しそうに笑った。
『それが‥』
反対に、月桂は更に言いにくそうに言葉を濁す。
「なに? 」
不機嫌そうに桜が月桂を睨む。
しばらく黙った後、月桂は
『紅葉様は記憶喪失になっておいでなのです』
重い口を開いた。
「‥なんですって? 」
桜が叫んだ。
目が‥怖い。視線で人が殺せそうってこういうのを言うんだろう。
見た目動く日本人形だのに‥怖い。
夢に出てきそう‥
四朗はちょっと震えあがってしまった。
「何てこと! じゃあ、紅葉の学校生活のフォローは誰がしたのよ」
その間も月桂と桜の話は続いている。
話しというか‥一方的に桜が怒っているだけだ。
『鮮花と‥学校では、武生さんが』
おずおず‥という感じで月桂が言葉を返す。
「武生!? 」
今度は四朗が叫んで、月桂を睨む。
武生がどうしたって?!
「どういうこと?! 」
四朗が鏡に詰め寄る。月桂が四朗を見た‥気がした。
『学校生活を送るうえで、どうしても男性の協力者がいりましたものですから』
全然恐れる様子など感じてない口調で、あっさり言った。
「どうやって承諾させたの? まさか‥」
四朗が恐る恐る聞く。
まさか‥洗脳?
桜に聞いていた月桂の特技は確か洗脳だったはずだ。
月桂がなんてこともないかのように、頷く。
『勿論です』
『常に、紅葉さんに触る物がいないように見張らせました。そして、勿論常時張り付かせて警護させました。そして、紅葉さんにも、誰にも触れさせないように暗示をかけました。紅葉さんが触った時にも「何の違和感も感じない」という暗示をかけました。自分は男だって思ってるのに、身体を触って「あれ? これ男の身体としておかしくないか? 」って思ってはいけないから‥』
そこらへんも洗脳か? 恐るべし‥
それにしても‥
「常に‥武生が俺にべったり‥」
四朗は呻いて、さっきの月桂の言葉を反復した。
『ちょっと学校では、一部の方に要らぬ誤解を与えてしまいましたが』
と、月桂。相変わらず何の感情も籠ってない口調だ。
「武生と俺が‥」
‥どんな誤解だって?
流行り(?)のBL疑惑??
情けなくって、なんだか泣きたくなってきた。
「まあ、それはいいわ」
本当にどうでもいいように言って、桜は考え事を始めた。
よくない。全然良くない!
今日気が付いたんだけど、母さんの俺に対する扱いってひどくないか?
色んな意味で情けなくって、泣きたくなる四朗だった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる