相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

文字の大きさ
35 / 54
四章.入れ替わり

8.無事に入れ替わっても分からないことはいっぱいあるんです。(side 紅葉)

しおりを挟む
 ※ ちょっと、重複部分があります。主に、紅葉目線です。

 初めて会ったと思ったら、慌ただしく‥もうさよならだ。
 お礼もお詫びも、もう勘弁してくださいって程聞いた。それで私も「いいですよ~」って‥もう飽きるほど言った。その後大笑いして‥ちょっと打ち解けた。
 四朗さんは思ったよりも、気さくな人だった。普通の高校生かどうかって言われると‥よくわからなくなるのは、彼の常人並外れた容姿のせいだろうけど‥そもそも普通が良く分からない。だって、今まで男子高生として暮らしたって言っても、周りにいたのは美意識高い系の都会派(?)高校生・相崎とか、武士みたいな武生さん位だ。
 あの二人は‥絶対世間一般の「普通の男子高生」じゃない。
 ‥そういえば‥そんなに他の学生と接してこなかった。
 四朗さんがどんな人なのか‥はこの短時間じゃ分からなかってけど‥
 四朗さんに会って、今までの「私の中での」違和感の理由が分かった。

 やっぱり、この身体は自分のモノじゃなかった。

 それと‥「ああ、この人があの「硬筆のお手本みたいな手紙」書いた四朗さんかあ。納得」って思った。
 ‥書きそう。几帳面そう。 
 鉛筆並べる時、背の高い順に並べそう‥(※ あくまで紅葉の予想です)
 真面目そう。賢そう。
 だけど、「付き合いにくそう」って感じじゃない。
 真面目ばっかり‥じゃなくって、多分小学生の頃とか「親に言われて習い事にいやいや行ってます。いやいやだけど‥せっかく来たから‥(真面目にやってくか‥)あ、でも‥いやいや来たんだからね? 別に進んでやってるんじゃないからね? 」って感じだったんだろうな~って想像がつく子(※ えらく具体的な想像)
 すっごいイケメンなんだけど、武生さん同様、異性関係なく家族みたいな付き合いが出来そうな男子って感じ。武生さんが兄で四朗さんは弟って感じ。
 顔も似てるし‥兄弟って感じするのは、四朗さんの方が強いな。

 ‥え? 従兄妹なんだ? ‥納得。

「それじゃあ。帰りましょうか」
 って桜様の女中さんに促されて腰を上げる。
 ちょっと名残惜しいかな‥って思ってもう一度四朗さんを見た私に、四朗さんはキラッキラの笑顔で、
「これからは、日焼けにも気をつけてね」 
 って言った。
 嫌味っぽさとかない。ただ、「今までは男として暮らしてたんだけどこれからは‥」ってだけの‥普通の言い方だったんだけど、ちょっと‥恥ずかしかった。
 お別れの言葉が、元気で! じゃなくて、これなのが、ね~。
 ってか‥ほんっとに気になったんだろうな~。私の日焼け。さっきも、「日焼けの炎症止め、洗面所に置いてますから」とか「洗顔料と化粧水も使ってくださいね」とか言ってたしね‥。(絶対、私より女子力高そう)
 ‥そうだね‥女として‥これからは気をつけないとね‥
 苦笑いすると、女の子の臣霊・鮮花は、「そりゃそうよね」大きく頷き、男の臣霊・月桂は、「男のくせに女々しい」「細かい! 小姑か! 」と顔をしかめた。
「人間、元気が一番です。紅葉様はそのままでいいんです。健康的で。まだ若いんだから今は日焼けしていても、冬になったら戻ります」
 月桂がそう言って四朗さんを睨むと、鮮花は呆れたような顔で月桂を睨んだ。
「何言ってるのよ。油断は大敵。将来、シミにでもなったらどうするの」
 ‥らしい。
 これから鮮花に美容のことを教えてもらわなきゃねって思った。

 男の臣霊・月桂と女の臣霊・鮮花
 布団の横に二人がぼ~とした姿(存在感がぼ~っとしてるってことね)で座ってるのを見て‥驚いた。
 鮮花は、二度目だけど、月桂は初めましてだった。
 ‥今日は初めましてがいっぱいで頭がパンクしてしまいそうだ。
 入れ替わりのフォローの為、月桂は四朗さんに、そして、四朗さんについてる臣霊・華鳥が私に(月桂の代わりに)暫くつくことになったので、月桂とは暫くお別れだ。月桂は「すぐに! すぐに戻ってきますから! 」と何度も念を押していて‥鮮花に呆れられてたのが面白かった。

「臣霊ってどういう存在なのですか? 」
 京都に帰る車の中で、桜様の女中さんに聞いてみる。
 四朗さんから聞いたんだけど‥昨日の夜京都から来て、色々用意とか作戦会議とかしたりして昨日から一睡もしてないらしい。‥ホントにご迷惑をお掛けしました。申し訳なくって顔すら合わせられない気まずい私に女中さんは「いいんですよ」「特別ボーナス出ますから」って笑ってくれた。
 徹夜明けだからだろう。少し眠そうになさっていたのが気になったけど‥ここじゃないと聞けない気がしたんだ。

 因みに、臣霊とは‥という質問の答えなんだけど‥
 女中さんは、軽く頷いて嫌な顔ひとつせずに説明してくれた。
「私もよくは知らないのです。臣霊を作れる方はホントに限られてますから。
 桜様が以前「見えないけどいる‥式神みたいなもの」っておっしゃっておられました」
 そう語る女中さんの目がキラッキラしてる。この人はホントに桜様のことを尊敬されてるんだ。だから、説明しながらも「そんなことできる、桜様って凄くない? 」ってオーラ(?)みたいなのがめちゃめちゃ感じられる。
 うん、凄いと思います。
 ‥と言うか‥?
 見えない? だってさっき‥
 って私が首を傾げていると
「そうですよね。私も初めて拝見して‥ホントに驚きました」
 って女中さんが苦笑いした。
 そして、小さく肩をすくめると
「だけど、桜様は時々鏡で交信なさってるから‥条件があえば見える‥的な物なのかもしれないですね」
 私にはそういうことは分かりません。情けないことですが‥って小声で呟いた。


 因みに臣霊とは、さっき女中さんが説明した通り、「見えないけどいる‥式神みたいなもの」のことである。
 マスターが作ったものでありながら、マスターとは全く違う別人格を所有する。
 といっても、マスターの望まない行動をすることはない。
 マスターに変わって「マスターの求める仕事」をするのは普通の式神と同様。
 だけど、その性格は全て「マスター至上主義」である。
 
 もともとは、桜の命令で紅葉のフォローにつけられた月桂と鮮花であったが今ではすっかり紅葉に懐いているわけだけど‥
 紅葉様が私を信用して紅葉を任せておられるわけですから(月桂)
 ‥何言ってんのよ。あんたはただのフォロー要員。桜様が本当に信用しているのは私(鮮花)
 って二人は思ってる。
 これから先もそれは変わらないんだろうけど‥
 桜様のご命令に従って「心配な紅葉」は私たちがお守りしますよ! って感じで‥嬉々としてお世話してるって感じ。
 普通に二人は今では、すっかり紅葉至上主義なんだ。感覚としては手のかかる妹を見るように‥溺愛している。そして‥月桂に至っては‥忠誠心が凄い。しかも人間ではないので、常識とかはあんまり関係ない。一に紅葉、二に紅葉だ。
 紅葉の為なら殺人すら厭わないぞ! って勢いだ。(危険だ)
 今回入れ替わりの件で姿を現して以来‥その行動はもうとどまることを知らない‥。(遠慮がなくなったって感じだね)

 桜はそれについて
「臣霊がマスターと認めてしまったようね。仕方がないわ、いいわ」
 って苦笑いして‥容認して、更に臣霊二体の所有権を譲渡してくれた。
 二体は大喜びしてるんだけど‥紅葉は勿論そんなに単純に喜べない。
 だけど、桜は
「臣霊ってそういうもんだから」
 ってけろりとしている。

 普通だったら、自分の式神が自分より他人を尊重する‥とか在り得ない。そもそも、「心を持たない」式神ならそんなこと‥在り得ない。だけど、臣霊は違う。臣霊は自分の意志というのをはっきり持っている。
 術者が技術でもって臣霊を作れたとしても、臣霊と心を通わすことが出来なければ、その臣霊を使役することはできない。そして、臣霊にマスターだと認められなければ、暫くして臣霊は自然消滅してしまうってわけ。
 だから、術者は臣霊を作ることより、信頼関係構築に苦労する。

「技術だけじゃないって訳よ」
 鮮花がまるで自分の事の様に‥誇らしそうに言った。
 鮮花曰く「一番大好きで大事なのは紅葉だけど、やっぱり桜様のことは尊敬している」らしい。そして、それは月桂も同じだった。
「桜様は凄いのよ」
 鮮花が続ける。
 その話によると‥桜には臣霊が、月桂と、鮮花、華鳥とあともう一人いるらしいが、紅葉は会ったことがない。
 月桂や鮮花も会ったことがないらしい。
 古さでいえば、月桂や鮮花より華鳥の方が古いらしいが、その華鳥もあまりよくは知らないと言っていた。(※ 入れ替わりのフォローの為に今華鳥は紅葉の元にいる)

 ‥消えちゃったってことかな? 
 首を傾げた紅葉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...