相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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四章.入れ替わり

9.三人の臣霊 主に紅葉side

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 臣霊‥かぁ。
 ‥今まで、影ながらフォローしてくれてたってことだよね‥。

 思えば、変な存在だった。

 ‥そりゃ、気が付いたときは驚いたし、正直ちょっと怖いって思ったけど‥だけど、そんなのきっと‥神様にあったとしてもそう思うだろう。
 人ならぬものにあえば、そりゃ驚く。それだけのことだ。
 私に害を成す者ではない。見た目も、全然怖くない(寧ろ、鮮花は可愛かった。月桂‥は別に何の印象もない。‥ただ、好青年って感じ)
 ‥なら、怖がる理由もない。

 まあ、ちょっと人間じゃないから‥勝手が違うってのは‥あるな。
 人の常識では計れない感じ。
 どっちかというと、動物に近い‥のかな? 知能が発達した動物って感じ。
 本能に忠実。
 そして、忠誠心が凄い。マスターが一番って感じ。(そういうとこ、犬っぽい)
 正直嫌じゃない。‥でもちょっと、慣れない。
 犬がじゃれてくるなら、無条件に「可愛い! 」ってかまい倒せるけど、‥人型してるからなあ。
 お母さん大好きな乳幼児ってあんな感じかな?? (いや、だけど、子供に懐かれるのと大人に懐かれるのは‥違うでしょ)
 
「心強い。そう思うだけでいいわ。あの子たちは見返りを求めたりなんてしないから」
 桜様は以前、私に臣霊を貸し出してくれるときにそう言ってた。
「向けられた愛情に答えようとか‥そんな恩義を感じる必要はないわ」
 とも。
 だけど‥してもらいっぱなしとか‥ねえ。
 
 そんなことをポツリ‥と隣に座ってた女中さんに相談する。女中さんは、「成程」と一度頷いてから、
「私は‥そんなに臣霊の特性には詳しくはないんです。‥ですが、桜様がおっしゃるならそうなんだろうと思いますよ」
 そう言った。
 桜様の女中さんならそういうだろうっていう返事に、心の中で苦笑いしていると(ちょっとがっかりしたのは‥でも内緒だ)
「ですが‥私個人の意見として‥」
 と女中さんがこそっと耳打ちした。
 私はビクッとして、女中さんを見た。
 女中さんは、にっと‥ちょっといたずらっ子みたいに微笑むと
「紅葉様。そんなこと気になさる必要はありませんわ。
 愛って言うのは必ずしもギブ&テイクじゃないんです。見返りを期待しない‥下心のない人間はいませんけど、だけど、見返りを得られなくても尽くしたいって気持ちになる‥それが愛ってものじゃないですか! 
 この先、紅葉様に懸想なさる男性は沢山おられるでしょう。その一人一人に対してそんな‥「悪いな」なんて気持ち持ってたら‥」
 そこで女中さんは言葉を切り、ふふっと笑って
「‥殺人事件に発展しかねませんよ? 」
 少し低いトーンでそう言った。
 女中さんが例えとして持ち出した「私に懸想する男性」とかはピンとこないが‥「殺人事件」は物騒だ。
「殺人事件? 」
 私が反芻すると、女中さんが重々しく頷き、
「紅葉様の行動が、懸想する男性にとっては‥思わせぶりな態度って見られるかもしれないってことです。
 その結果、紅葉様は俺のことが好きなんだ! は? 俺だ! って‥勘違いした男性同士が大喧嘩する事態にまで発展しかねなくて‥更には「誰かの者になる位なら俺が‥」って思い詰めた男に紅葉様が殺さるかもしれない未来もあるって話。
 ‥いいんです。どっしりと構えてたら」
 って言った。
 
 そんな極端な話はないだろうけど‥確かに、「悪いかも」ってすべてに対応してたら‥そういうこともあるかも。
 眉を寄せて考え込む私に女中さんはちょっと微笑んで、
「向けられた好意が嫌じゃなかったら「嬉しいわ」‥それでいいと思いますよ。勿論嫌なら「嫌! 」ってちゃんと言わなきゃですしね」
 優しく言った。
「まともな相手なら、それだけで喜んでくださいます。‥逆に「こんなに好きなのに‥僕がこんなに愛情を送っているのに君は‥」とか言うやつは‥切った方がいいですよ。そんな奴、自分本位のクズですからね」
 おかっぱ頭をちょっと揺らして、楽しそうにコロコロと笑う。
 その笑顔を見てたら、何か「そっか。そうだよね」って気持ちになった。
 ‥切るは怖いけど。縁を切るってことですよね?? 物理的に斬ったりとかしませんよね??
「そんな人、いませんよ~」
 ははって笑ったら
「何言ってるんですか。鏡、見られたことあります? ‥あ(そういや今まで「自分の」顔を見てなかったな)、これからはちゃんと鏡見て、日焼けに気をつけた方がいいですよ。坊ちゃま(← 四朗)じゃないけど、‥私も気になりました」
 女中さんが真剣な顔で私に念を押した。
 また日焼けの話‥。
 私は苦笑いして頷いた。
 そうだよね。女子の人たちは休み時間に日焼け止め塗り直ししてた。
 ‥他人事だと思ってたけど、これからは気をつけよう。
 だけど‥面白いな。お姉さんがいたら、こんな感じなのかな? 
 この女中さん。今まで桜様の元で会いすることもあったけど、こんな風に話したの初めてだ。
 ‥こういうの、なんか、いいな。
 って思った。

 こっち(長野)に来たのが10歳の時だった。
 ‥それまで、母さんと恋愛の話なんてしたことなかった。
 そもそも恋愛に興味なんかなかったし(正直、今もよくわからない)

 中学生とか高校生とか‥普通の子は母親とそんな話するのかな??

 ‥でも、私はそういう話、母さんと‥しない気もする。
 なんか‥ね。‥しない気がする。
 お母さんって‥そんなタイプじゃないし、お母さんも私のことそういうタイプだって思ってないと思う。
 そういう感じの親子じゃない。
 別に信頼してないとかじゃなくって、「そういうのじゃない」そういうのってあるでしょ? 
 それに不満はない。
 そう思ってたけど‥
 ‥普通の女子高生みたいに「お姉さん」とそんな話する‥そんな時間も‥悪くないかなって今初めて思った。


 しばらく無言だった。
 途中、ポツリ
「坊ちゃま、大きくおなりでしたね~。四歳の時お見受けして以来だからそれは当たり前なんですけどね」
 女中さんが「思わず」って風に呟いた。
 坊ちゃま‥四朗さんのことだろう。
 その顔はちょっと寂しそうで、‥嬉しそうだった。
 色々あるわな。
 私はそれ以上聞くのは止めて、女中さんの方を見ない様にした。
 そして前を向いて座っていると、自然とさっきあった色々なことがことを想い出された。
 さっきまで‥正直流されてたって感じで‥一体何があったかよくわかってなかったから‥。


 入れ替わり当日。

 ‥ここはどこだろう。
 目を開けたら見覚えのない場所。
 誘拐された。ってすぐ思ったけど‥すぐ動くのは得策じゃないって判断した。
 こういう時は、まず状況確認だ。

 薄目を開けて、周りを見た。
 見覚えのない部屋だ。自分が寝かされている部屋は畳の間なんだけど‥窓際の一室だけがフローリングになっており、そこにテーブルセットが置いてある。なんかテレビとかで見る「よくある」旅館の一室の様な感じ。
 テーブルセットで二人の男女がゆったりと座ってコーヒーを飲んでいる。

 誘拐犯‥?

 旅館の仲居さんの様な柄のない桃色の着物を着た若いおかっぱ頭の女性と、高校生くらいの男の子。
 その顔を見て、はっとした。

 ええ?!
 俺?! 

 だけど、その瞬間、いやいや‥俺なわけじゃない。
 あれは‥本物の「相生 四朗」だって思った。思ったというか‥わかった。
 ふーん?
 意外なことに、そんなに驚いたとか‥ショックだ‥とか思わなかった。(多分、理解はできるけど、それ程実感が出来てなかったんだろう)

 と、その視界を遮るように四つの目が私を覗き込んだ。
「わああ?! 」
 驚いて、思わず飛び起きた。

 二人の『人間の様ななにか』が枕もとにちょこんと座ている。
 薄っすらと後ろの景色が透けて見える状況から、二人が人間ではないことはすぐわかった。
 ‥が、それでもそれ程驚きもしなかったのは(※せいぜい飛び起きたくらいにしか驚かなかった。もし、枕元に座ってたのが恐ろしい顔した幽霊だったら、この程度の驚きでは済まなかっただろう)女の子の方に見覚えがあったからだ。

 あの時‥師匠の家で見た女の子! 

 って、すぐに分かった。
 ‥あの子、師匠の家の座敷童とかじゃなかったのか。やっぱり‥私の‥守護霊的なものだったってこと??
 急な出現には驚いたものの、

 ‥ああ、今まで私の中でなにやらごちゃごちゃ言っていたのは、この二人だったか。

 と、それも一瞬で理解した。
 私が起きたらしいことに気付いたコーヒーを飲んでいた男女が私の元に来た。
 と、それと交代するように二人の影も消えた。

「ええと。貴方は‥? 」

 着物の女の人が私に上着を掛けてくれた。
 気が付くと、浴衣を着ている。‥制服を着たまま眠るとしわになるからそれは仕方がないだろう。
 着替えはきっと女中さんがしてくれただろうからそこら辺は問題ないだろう‥だが、問題はそれだけじゃない‥。
 私は、反射的に四朗さんに背を向けた。

 ‥四朗さん(多分)に寝顔を見られてたってことか‥。

 そのことに気付くと、真っ赤になった。四朗さんは恥ずかしがらせたことを謝り、自己紹介をした。
「相生 四朗‥」
 やっぱり。‥そう思っただけだった。

 ってか‥すっごい綺麗な男の子! 。この人が桜様の息子さんなんだよね‥。私は今までこの人の代わりに暮らして来たんだよね。すっかり、忘れてたけど。
 ちょっと待って‥じゃあ、この人が私の代わりに‥。

 動揺はしたものの、それは隠して
「ああ、貴方が桜様の息子さんだったんですね」
 と、言った。たぶん、変な感じにはなっていなかっただろう。
 しかし、顔が時々熱くなるのは、止められなかった。
 (自分では隠せてるつもりだったんだけど)それが顔色に出ていたのだろう。四朗さんが慌てて弁明しようとしたときに、あきれたような声が二人の間を割って入った。
「何考えてるのよ。四朗様はそんな変態ではないし、別に女には飢えてませんわ」
 ぼ~と人影が現れ、そう言った。
 その人影が華鳥、四朗さん付きの臣霊だった。(と、彼女自身が自己紹介した)
「姿を見せるのは初めてですわね、四朗様」
 と言った華鳥に、四朗さんは
「ああ。君が‥」
  と言ったっきりだった。

 ‥初めて見たのに驚かないものなのかしら。

 と驚いたけど、自分も案外あっさり受け入れたから「そういうものなのかも」とも思った。
 華鳥は私の方をゆらりと向いて
「貴方、四朗様がいやらしい感情でもって貴方の体を見ただとか、触っただとか、そんなこと考えてません? そんな考え、四朗様に失礼だからちょっっとも持たないで下さいませ! 」
 びしっと言った。
 急にそんなこと言われて赤面したのは四朗さんだった。

 ‥いやらしい感情でって‥

「‥やめてくれ‥」
 赤面したまま顔を伏せた四朗さん。‥本当に、気の毒になった。

 ‥これは、絶対面白がっている。私を非難するふりして‥四朗さんを揶揄ってるんだ‥。

 あんまり四朗君が気の毒だったので、
「すみません、そこまでは‥思ってません。大丈夫です」
 と、フォローを入れたつもりだったのだけど、四朗さんの顔はますます真っ赤になっていた。
「あら、ごめんなさいね」
 ふふっと華鳥が笑った。
 ふわり‥と枕元にもう一人の人影が現れる。
 鮮花だ。
 可愛らしい顔でキッと華鳥を睨む。
「まったく、華鳥ったら。紅葉様を困らせないで下さる? 」

 あれ? なにかこの二人、違和感がある。
 鮮花の方は顔が分かるのに、華鳥の顔が分からない? 

 私は首を傾げたが、その時はそれ以上は気にならなかった。(いろいろとあったからね)
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