相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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五章.周辺事情

4.相崎君とのデートの前に

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「あの人は、柊 紅葉。俺の遠い親戚だ。今回、会わせるのはいいけど、俺も一緒に行く」
 四朗が不機嫌な顔のまま言った。
 本当にこんな顔相崎相手にしか四朗がすることは無いだろう。
 だけど、相崎にしてみたら、男がどんな顔をしていようがそれどころか機嫌がよかろうが悪かろうがどうでもいいことなんだけど。
「何? 俺が信用ならないの? 女の子を泣かすようなこと俺がすると思う? 」
 しかし、四朗の言葉には不満だったらしく、思いっきり「不愉快だ」って顔で四朗を見た。
 四朗は
「は? なんで俺がお前を信用すると思ってるんだ?」
 って更に不機嫌な表情で相崎を見て、
「急に、命を狙われるとかあるかもしれないし」
 と、付け加えた。

 ‥顔が、マジだ。

「‥ここ日本だよ? (命とか‥)そんなわけないじゃん」
 本気な四朗に、相崎の疑問はマックスだ。
「いや、あるかもしれないだろ? 逆に、何でないって言い切れるんだ? 」
 自分の言葉に「そうそう、あるな」と妙に納得しながら、四朗はやっぱり本気だ。
 いままで8年ほど、臣霊だの鏡の秘儀だの桜の話だの「日常からかけ離れたこと」にどっぷり接してきたせいか、四朗の想定はちょっとおかしくなってきている。
 それに桜の話だと、自分は「桜の息子」だってだけで命を狙われるらしい。‥つまり、西遠寺の人間は血気盛んな人々の集まりだった事だ。
 だったら‥桜が絶対的に信用する、西遠寺の後継者の最有力候補の紅葉ちゃんとかが狙われないって保証はないだろう。(否、寧ろ俺より狙われてもおかしくない)
「心配しすぎ。ケンカなら、俺だってそこそこ強いから大丈夫だよ。それとも、何、しんちゃんがあの子のこと好きなの? 」
 などと「甘いこと」いう相崎はしかしながら、一般の感覚からすれば普通だ。
 四朗は「は、喧嘩とか‥何言ってんのコイツ。命狙われるレベルって言ってんだろ」と‥心の中でため息をついたが、それは口に出さず、
「それは、違う。しかも、ケンカだってあの子の方が強いかもしれない」
 とだけ言った。
 因みに嘘は言ってない。喧嘩は‥絶対「鏡の秘術」を極めたあの子の方が強い。鏡と戦って、勝てるのは「自分が鏡と戦っている」って初めっから知ってる方だ。
 喧嘩とかもそうなのかどうかは分からないけど‥あの「母さんが認めた」紅葉ちゃんだ。喧嘩だって凄く強くてもおかしくない。否、強くないはずがない。
 剣術の先生も俺に「どうしたんだ? 調子悪いのか?? 」ってずっと言ってたしな。
 まあ‥女性だから男性に比べ体力面では劣るかもしれないけどね‥。だけど、体力使い果たす以前にのしちゃったら問題はないわけだしね。
 そんなことを考える。
「何それ」
 相崎が呆れた顔をする。

 きっと、自分と会わせたくないからそんなこと言っているんだろう。

 そうとしか思えない。

 ‥恐ろしいなあ。みっともない男の嫉妬。俺としんちゃんだったら‥しんちゃんに勝ち目なんてないからそんなこと言ってるんだろうなあ。

 なんて、通常運転で自分本位な相崎。
 そんな相崎に若干呆れながら、四朗はだけど「危ないことはさせられない」って常識とは違った感情もまた感じていた。
「まあ‥確かに俺もいるし‥相崎も(一応)いるし‥敵が来ても‥大丈夫‥かも? 」
 純粋な、好奇心だ。
 ‥見たい。紅葉ちゃんだけじゃなく、俺も一緒に居れば‥絶対に敵は来る。(多分だけど、なんとなくそんな気がする)
 その時、紅葉ちゃんがどう動くか見たい。
 見たいけど、それは思っちゃ駄目でしょ。女の子が戦うの見たい、とか駄目でしょ。(良心)
 でも‥見たい!! (好奇心)
 自分の心の中で激しいバトルを繰り広げる二つのこころ。果たして四朗は自分の良心を守ることができるのか!?
「だから、その設定何? どうして敵が来るとか思うんだよ。どうしちゃったの。しんちゃん」
 呆れを通り越して、珍しく不機嫌になるalways happyなはずの相崎。
 は‥と我に返る四朗。
「‥とにかく、ついて行く」
 照れ隠しにこほん、と咳をして誤魔化す。

 本当のところ、相崎となんか会わせたくないけど、会わせるなら絶対自分も一緒にいるべきだ。
 桜に何を言われるかわからない。
 それより、なんでバレたのか分からないけど‥母さんに「ばれたよ」っていうの嫌だなあ。

 桜の剣幕を想像したら、たらりと冷や汗をかいてきた。

 黙り込む四朗に
「え~何~? 」
 口をとがらせて不満を言う相崎。
 
 コイツは呑気でいいな。ったく、その口縫い付けてしまいたいよ!! 

「やっぱり好きなの? 」
 ほんっと! 黙れ。
「そういうのは、絶対に、ない」
 四朗は今すぐにでも相崎をグーで殴りたい気持ちを我慢して、だけど漏れ出る不機嫌オーラは隠さないまま言った。
「ないの? 」
 その四朗の表情が不思議な相崎。こてん、と首を傾げて聞いた。(コイツのメンタルはミスリルより強い)
 四朗は「言っても無駄」とばかりにため息をつく。
「ないよ。そもそも、俺は誰も好きじゃない。そういうの、よくわからない」
 まあ‥これはホントだ。
「何それ」
 相崎が、宇宙人でも見るような顔で四朗を見る。
 相生の男子といえば、女ったらしでみんなやたら結婚が早くって、みんな面食い。それが四家の共通認識だ。
 
 ‥相生の男子がそんな草食な発言でどうする。現に、お前の親父なんぞ高校卒業後大学に行く前にもう結婚してたじゃないか。
 俺は、そんなに早く結婚したくはないけどね!

「何なの。しんちゃん、ホントおかしい。なんか」
 もしかして、また偽物? っていう顔だ。
 だけど、俺には分かる。
 これは‥ただの本物の男だ。
「そう? 」
 眉を寄せて、自分の発言の何がおかしかったか考える四朗。


「と、まあ。何故だか相崎にばれまして。紅葉ちゃんに会わせろと交換条件を出されました」

「‥‥」

 電話口、明らかに不機嫌な桜。隣にいるらしい紅葉も呆然としているだろう。さっき「え! 」って聞こえたし。

 ‥ああ、気が重い。

 きっと紅葉ちゃんも怒ってるんだろうな~。当然だよ。俺のせいじゃないとは思うけど、入れ替わりの事実がバレて、しかも‥相崎とデートとか‥ぼこぼこにされても文句言えないよね‥。
 だけど、電話口から聞こえて来たのは、

「私の、せいですね‥」
 紅葉の弱弱しい声だった。

 ‥いや‥紅葉ちゃんのせいじゃないよ‥。でも、俺のせいでもない。‥どう考えてもこんな「とんでも計画」考えた桜のせいだよ。いや、そうだよね!? よく考えたら、それしかないよね!?
 桜もそれは(言わなかったけど)自覚があったらしく、小さくため息をついた。

「それで、その相崎の小倅はどんな子なの」
 
「相崎をご存じなのですか? 」

 紅葉の驚いた声が電話口から聞こえてくる。

「相崎君のお父様には会ったことがあるわ。牡丹の花の様に艶やかな方だったわ」

「相崎は、牡丹というよりハイビスカスみたいです」

 ‥ハイビスカスってなかなかない例えだよな。‥でも、なんとなく納得。紅葉ちゃんの分析能力最高。
 ってか、女の子には絶対好かれると豪語してた相崎。ダメだったみたいよ? 紅葉ちゃんに「ハイビスカスみたいにチャラチャラした男」って思われてるよ?? いや、そんなこと言ったらハイビスカスにわるいか。
 いやいや、これは人格のことを言ってるんじゃない。
 牡丹ほどの華やかさはない、どっちかというと‥ハイビスカスって感じだって言ってるんだよね。

「性格は、単純で、頭脳明晰とは言い難い‥ですし、人格者かと言われると、そうでもないですが‥、まあ、そんなに悪い人間ではありません」

 人としての魅力もイマイチって評価だな。哀れだ、相崎。

「分かったわ。くれぐれも四朗。紅葉を守りなさい。そのハイビスカスの魔の手からも、予期がちょっとできる敵からも」
 もう一度盛大にため息をついてから、桜が言った。
「はい‥」
 四朗はため息交じりに頷いた。
 いや、携帯で頷いても仕方ないってわかってるんだけど、ついね。
 そうそう、ここに来て今まで紅葉ちゃんが使ってた携帯を使い始め‥はじめて携帯ユーザーになりました。紅葉ちゃんはさっそく携帯を買ったらしく、直ぐに連絡をくれました。
 そして、これはその携帯からの初めての電話です。桜の母さんも携帯を持ってるからね☆
 それはそうと‥
 予期がちょっとできる敵からも
 かあ‥。

 ‥つまり、桜の母さんも敵を予測しているってこと。
 それは‥絶対出るってことだよな‥。

 四朗はそっと、ため息をついて通話を終了させた。
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