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33.再会(side 俊哉)

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「俊哉~! こっちこっち! 」
 あの子が手を振る。
 この前の草原だ。
 王子様の夢にお邪魔してたり、逆だったりが殆ど。そうじゃないとき‥女の子が僕にだけ用事がある時はこの草原って感じかな? 間違ってるかも。
 (そんなわけで)女の子だけって思ってたのに‥気が付くと、横に誰かいる。
 王子とは違う、小さな人。
 だけど‥凄く見覚えがある‥懐かしい人。
「‥兄さん? 」
 僕が呟くと、あの子の横に立ってた子が僕に気付いて、振り向いた。
「俊哉」
 ふんわり優しい笑顔。
 兄さんの‥笑顔だ。
 兄さんの良くする「営業用スマイル」は‥なんていうかな「100点満点な笑顔」なんだ。人に媚び過ぎず、だけど「敵意は無いですよ」って感じの笑顔。見た人が「ほっこりするような」そんな笑顔。
 だけどね。僕に向ける笑顔だけは違うんだ。
 ふんわり優しい笑顔。‥安心する笑顔。
 兄弟限定とかじゃない。‥啓史兄さんに笑顔を向けてる修斗兄さん、見たことない。
 修斗兄さんはきっと「気持ち悪いわ‥兄さんに笑いかけるとか‥‥」とか言うだろうし‥きっと啓史兄さんも「俺こそそんなもん見たくない‥キモチワルイ‥」って言いそう。
 あの二人は別に仲は悪くないって思うけど‥完全に良くはない。(でも、兄弟ってそんなもんじゃない? 僕のことは末っ子だから可愛がってたって感じだね)
 可愛がられてるのは勿論嬉しいんだけど‥啓史兄さんと修斗兄さんの「切磋琢磨するライバル関係」みたいなのが羨ましかったな。
 ‥そんなことを久し振りに思い出して苦笑いした。
 ホントに‥久し振りに思い出した。

 久し振りに会えて、嬉しいというより‥懐かしいい。

 こっちに来たときは兄さんたちのことばかり思い出して、その度に泣いてたのに‥って思う。‥人間は案外薄情だ。
 修斗兄さんは大きくて綺麗な目から涙をボロボロこぼして
「俊哉だ‥ホントに俊哉がいた‥夢でも‥嬉しい」
 って何度も何度も呟いて‥ぎゅうぎゅう僕を抱きしめた。
「‥夢なのに質感がある‥。俊哉の質感だ‥」
 って呟きながら。
 ‥どんな質感だ。僕は質感を感じられるほどデブじゃないぞ。‥まあ‥「小骨が刺さる‥」って程痩せてはいないけど。
「兄さんは‥痩せたね。ちゃんと食べてる? 」
 それこそ‥兄さんの小骨が刺さって僕が指摘すると、
「‥食べてるよ。適当に」
 苦笑いして兄さんが言った。
 全く‥
 心配だけど‥僕にはもう何も出来ない。
 そう思ったら‥凄く泣けて来た。
「兄さん‥僕に心配させないでよ」
 口に出したら‥ホントに涙があふれて来た。
 二人で抱き合ってボロボロボロボロ大泣きしてたら、
「俊哉? 修斗? 」
 王子が来た。
 ‥ホント、夢って何でもありだ。
 王子は
「大丈夫? 」
 心配そうに僕たちを見る。
 ホントに優しい人。そして‥美しい人。
 ‥花の様に美しい人っ表現がぴったるくる様な‥美しい人。
 花っていっても薔薇みたいなゴージャスな花じゃない。‥名前とかは浮かばないけど‥棘とか無くて‥白い清楚な感じの花? ‥そんな感じ。
 周りに美しさをアピールするんじゃない。いただけで周りがぱっと明るくなるわけでもない。
 ただ‥美しい花を道端や山登りの途中見掛けたらはっとするよね。はっとして、ほっとする。‥そんな感じの人。
 この世界はこの人にこれでもかっていう程冷たいのに‥この人はこんなに優しい。
 ‥悲しい。
 この世界に対する不満に僕が眉を寄せていると、修斗兄さんが僕をチラッと見て‥小声で
「この間会ったんだけど‥あの人、俊哉のこと友達って言ってた。‥あの人の名前は何て言うの? 俺は自己紹介したのに、あの人は名前を教えてくれなかったんだ」
 って聞いて来た。
 修斗兄さんはこそっと小声で言ったつもりだったんだろうけど‥ここは思た以上に静かな場所だから、ばっちり王子に聞こえてたみたい。
 王子が
「‥ごめんね」
 って苦笑いしたもんだから‥僕と修斗兄さんは恥ずかしくって、もう‥両手で顔を隠して、その場で崩れ落ち‥両膝ついてしまいそうになった。
 王子はくすくすって優しく微笑むと‥
「僕は、アルシア。アルシア・メイベルフ。メイベルフ王国の第一王子です」
 まるで‥王子様がするみたいに(ってホントに王子なんだけど)上品な所作で右手を左胸に当ててお辞儀した。

 綺麗‥っ! ホンモノや。ホンモノってこういうのを言うんやで‥。

 驚きすぎて、なんか偽関西人が降臨した。
 ってか‥この国メイベルフ王国って言うんだ。知らなかったな~。
 なんとなくちらっと修斗兄さんを見ると
「‥王子‥? 」 
 って固まってた。
 あ。そこ。でも‥分かる。驚くよね~。王子様とか、ザ・異世界って感じするよね~。いや、地球では今でも王政の国ってあるけど‥これとは違うじゃない? なんか‥ね?
 そんなことを思って、勝手にうんうん頷いていると‥
「なんで‥」
 ボソリ‥と修斗兄さんが呟いた。
 なんで? 
 何が「なんで? 」って‥気になったけど‥それっきり兄さんはそれ以上何も言わなかった。何か聞けない様な‥そんな雰囲気だったんだ。
 そのまま遠くで電子音がして、兄さんはふ‥とまるでテレビかなんかを消したかのように消えた。
 元の世界に帰ったんだな‥って何故か分かった。
 よかった‥兄さんと再会したもんだから、兄さんが死んだのかと思った。

 ってか‥そういうことか。この前あの子は言ってた。
 お試しで何度か来てもらって‥あれだったらこっちに永住してもらうって。‥そういうようなこと言ってた。
 ってことは‥(やっぱり)修斗兄さんはあっちの世界では死んでもらうってこと??
 ‥こっちで住んでもらうために‥。

「‥何回? 」
 僕はあの子を睨みつけた。
「え? 」
 あの子が首を傾げる。
「‥お試しは何回? 」
 あの子が「ああ、そのこと」って合点がいったって表情で頷くと、指を三本立てた。
「三回?! 」
 さっき、兄さんはこの前王子に会ったって言った。今回が二回目? いや、もしかしてそれ以外にも会ってる? いや‥消えたってことは‥二回目で間違いがないだろう。
 ってことは‥もう一回ここに来たら、待ったなしで永住!?
 青ざめて‥あの子を見るといつものごとく僕の考えを読んでいるらしいあの子は苦笑いして
「いくら何でもそんな騙しみたいなことはしないわ。‥ちゃんと、修斗の意見を尊重するわ? それと‥ね」
 それと‥王子の意見もね。
 って言葉は僕の頭に直接聞こえて来た。
 きっと‥
 このことは王子様には内緒なんだ。
 だって、優しいあの王子様がそのことを知ったらきっと、反対するに決まってる。

 修斗が好き? 一生一緒に居たい?

 これだけ。唯一あの子が王子様に聞く「王子の意見」。
 王子様が兄さんのことを好きだったら‥一緒に居たいって思うだろう。
 王子様が頷けば‥あっちの世界の兄さんは死ぬ。
 ‥そんなこと王子様は知らない。
 王子様には、兄さんがどこか別の世界の人間だって事は言わない。兄さんが‥あっちの世界で生きていて、こっちに来るためにはあっちの世界では死ななければならないってことは‥絶対言わない。
「そんなこ‥」
 言おうとした僕は‥あの子の世界‥草原から跳ね飛ばされた。
 
 そんなこと、しないで! 兄さんを‥殺さないでっ! 

 僕の言葉は‥言葉にならなかった。
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