今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月

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担当者さんが途中経過を見て、ダメだししてきました。

12.今世はいっぱい考えるんです3。(もうちょっと8回目)

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 クリスさんとのお付き合いは楽しかった。
 全然、ドキドキはしなかった。
 それはでも、クリスさんも同じだと思う。
 ただただ、楽しかっただけ。
 幼い子供たちのように手を繋いで走ったり、湖にお弁当を持って行ってピクニックして、熱くなったら飛び込んだり。
 そこにワクワクはあったけど、ドキドキはなかった。
 だけどね、それをあたしたちは不思議だとも不満だとも思わなかったんだ。
「恋なんてのをして、絵になるのは美男美女だけだ」
「そうそ、凡人がそんなことするの誰も見たくない」
 そう笑いあった。
 そうだ、美人になりたかったのは‥「美人になったらキラキラする恋愛物語の登場人物の資格」を得ることが出来るから。 
 あたしは‥
 キラキラした恋愛物語の登場人物になりたかったんだ。
 できれば‥キラキラ美しいヒロインになって見たかった。
 だけど、それは夢物語。
 あたしたち凡人は、凡人らしい楽しみ方をすればいい。
 キラキラした美人は、水浸しになって湖で遊んだり、「ドキドキなし」で手を繋いで走り回ったり出来ない。
 美人は美人だってだけで「自分で暮らしていく術」を考えないでいいから(← 偏見)裁縫とか覚えなかっただろうしね。
 そうそう‥
 今世では活躍の場がなかったけど‥
 あたしは裁縫が得意なんだ‥。

「実は裁縫が得意なんだ」 
 ってクリスさんに言ったら
「妹に服を作ってあげて! 」
 って頼まれて、妹さんを採寸してエプロンドレスを作ったり。
 妹さんも「ハヅキちゃんハヅキちゃん」って懐いてくれて‥
 すっごく楽しい毎日を送った。

 クリスさんは「付き合おう」とは言ったけど、「結婚しよう」とか「両親に会って」って言うことはなかった。どころか‥あたしのこと「好き」って言うことすらなかった。それは妹のムツミも同じで、あたしに凄くなついていたし「ハヅキちゃんがホントのあたしのお姉ちゃんだったらよかったのに」って言うことはあったが「お姉ちゃんになってくれたら嬉しいな」って言うことはなかった。
 二人は、初めっから一貫してたんだ。
 この付き合いは恋ではあっても、愛にはならないって‥。
 ‥そして、それはあたしも同じだったのかもしれない。

 将来結婚するわけじゃないから、今が楽しければいい。
 この恋が唯一の恋でも、ましては最後の恋でもないって‥。
 特にね、あたしの人生は「もしダメでも」やり直しがきくんだ。
 だって、まだ8回目だ。
 終わっちゃうまであと2回もある。

 ただ、今は‥
 この楽しさを失うのは嫌だって思った。
 この楽しい時間を「無駄なことしてる」って思うことだけは嫌だった。
 どうせ、死んで新しい人生が始まった時には忘れてしまう記憶だとしても‥
 あたしはこの楽しい気持ちだけは忘れないって思った。
 恋することを初めて楽しいって思えた。この気持ちだけは忘れない‥。

 楽しいまま、
 この時間は終わった。
 クリスさんの
「ハヅキちゃん、今まで楽しかった! やっと結婚する覚悟が出来た」
 一言で。
 クリスさんは彼の婚約者と結婚した。 
 クリスさんは実は貴族で、彼には生まれつき婚約者がいたのだってことを後でムツミちゃんから聞いた。
 結婚式の前、クリスさんは最後にあたしと会って
「碌に会ったこともない人と結婚して、自由に恋も出来ずに‥楽しいって思える時間もないまま年を取るのを強いられた人生が嫌で嫌で家を出たんだ。
 5年だけって約束で家族はそれを容認してくれた。
 ムツミはホントは妹じゃなくて、ボディーガード兼監視役だったんだ」
「ハヅキちゃんにはホント感謝している。
 僕のこと好きになることもなく、何も聞かずに僕の相手をしてくれてありがとう。
 ‥君は、これからも一番僕の大事な友だちだ」
 って言った。
 キラキラの笑顔‥「もう遊びきった」「満足した」って顔で。
 これからも、でも、あたしと「今まで通り友だちでいられる」って少しも疑ってない顔で。
 遊びきって満足して、これからは既婚者‥一人前の貴族として暮らしていく。今まで楽しい時間を共有した友だちであるあたしとはこれからもいい友だちとして続けていきたい。
 そして、いずれあたしが誰か他の人と結婚して子供が産まれたら、お互いの子供も含めて家族ぐるみで付き合っていこう。それはきっと楽しいだろう。
 そう語るクリスの目は、いつも通りキラキラしてたけど‥
 あたしは「そうだね」っていつものように言うことはなかった。

 好きになることもなく‥って、何でアンタが言うんだ?
 ‥決めつけるんだ?

 あたしが「ホントは好きだったんだよ。あたしの時間を返して! 」って泣きわめいて、婚約者に食って掛かったらどうするつもりだったんだ?
 ‥しないけど。
 そんなことしようとしたら、そこのムツミちゃん(ボディーガード兼監視役)に消されちゃうんでしょ?
 今は笑顔だけど‥あたしに殺意を向けて‥その顔が変わっちゃったら‥きっと、ホントに悲しいだろう。
 何より 
 今までの楽しい時間を無駄なものに変えちゃうのはホントに嫌だったから‥
 あたしは苦笑いして、無言で頷いた。
 「そうだね」って言葉は‥どうしても出なかったんだ。
 喉が張り付いたみたいに‥声が出なかった。
 あたしは、慌てて‥持ってた水を喉に流し込んだ。 
 あんまり慌てて飲んだから、むせ返りそうになったあたしにクリスさんは
「どうした? ハヅキちゃんはあわてんぼうだなあ」
 って笑った。
 優しい手つきであたしの背中をさする。
 相変わらず、恋愛の「レ」の感情もない行為。
「大丈夫」
 あたしはするり、とクリスさんの手を躱す。

 あたしの方こそ、今まで‥楽しかった。今まで生きてきた中で一番楽しかった。
 楽しかった。けど‥
 けどね。

「今まで楽しかったね。
 だけど‥
 これから先も友だち、は御免だ。
 楽しかったね、こんなこともあったね、
 で、終わりだ。
 もう、友だちだと思わないで欲しい」
 あたしは精一杯の笑顔で言って、振り返りもせずクリスさんと別れた。
 
 クリスさんは最後に傷付いたみたいに「ハヅキ‥? 」って一言呟いたが、でもそれ以上何も言わず席を立った。
 お互い、別の方向に向かって歩き出す。

 あたしたちの人生がその後交差することはなかった。
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