空蝉

pAp1Ko

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あのとき、そう言われたけど本当にそうなるとは、小学3年生、いや、もう行っていなかったんだから、8歳の俺は思っていなかったんだよな。

先生に監禁されて、8年。先生はどうやって調べたか知らないけど、俺の誕生日を毎年ささやかに祝ってくれた。一昨日、16歳になって、普通であれば高校1年生だっただろうに。

捜索願が出せれていたとしても、すでに8年経って、失踪宣告ってやつで、死んだ扱いされてるかもしれない。

だが、8歳の時の姿から大して成長せず、身長はきっと140cm代だろう。髪も黒だったのに、気付いたら色が抜けて真っ白になっていた。先生曰く、髪に栄養が行かなくなってしまったんだね。と言っていた。

食事もだんだん喉を通りにくくなって、ここ数年は、軽い食事と点滴と栄養剤で身体を保っている。そのせいもあって、身体は痩せ細って、肋が浮き出ているのが自分でもわかる。栄養不足で免疫も落ちているようで、体調を崩す回数も格段に増えた。

手足に力が入らなくなると言われたが、先に足の力が入らなくなって、ベッドから動けない生活を送るようになった。もともと部屋にはテレビはなかったから、先生が持ってきてくれた絵本やら小説を起きている時間の暇つぶしに読んでいたが、最近はしっかり寝ているはずなのに、隈が酷く、目も霞んできていて字がほとんど見えないので読むことをやめた。


声も出しにくくて、あのときから勉強なんてしていないから、小説に出てきて読めるけど書けない漢字のほうが多いし、先生以外と話す機会もなかったから、口数も少なくなったと思う。きっと普通の同い年の子と比べたら、圧倒的に語彙が少なくて幼い喋り方なんだと思う。



一昨日の誕生日を過ぎたあたりから、先生の様子がおかしかった。採血の量が今までより多くて、酷い貧血感を感じて、それを先生に言ったら曰く、「君はずっと貧血状態だよ。」と少し暗い顔をして苦笑していた。


俺の誕生日は夏の終わりの方で、部屋にたった一つの開閉できない窓の外は、まだ青々しい木々が見えるけど、暦通りだと秋だし、日が落ちるのが早くなっていた。



誕生日から一週間経ったくらいに、先生がいつも通り部屋に来た。でも、俺は先生を視界に入れることも難しかった。

あたまいたい、めがかすむ、こえも、うまくでない、きもちわるい...。

いつも以上に具合が悪くて、ふと悟った。

もうすぐ、死ぬんだと。


「...ごめんね、体調は、かなり優れないだろう。

ちょうど、君の誕生日の日にね。私と君が出会ったあの日と、同じ子がまた事故にあって血を流してしまったようなんだ。」

「...ぇ。」

「あの時より、酷くはないし、血もそこまで減っているわけではないけれど、輸血は必要でね、この一週間多めに採らせて貰ったんだ。」

「...そ、なん、です、ね。...たす、かっ、た?」

「...もちろん、助けたよ。今は眠ってる。

...お見舞い、行こうか。」


先生は俺を車椅子に乗せて、8年ぶりに部屋を出た。

医院長室から出ると、改装でもしたのか、少し雰囲気の変わった廊下や扉が、霞んだ視界に映る。

「...せん、せ、すこし、かわ、ました?」

「...ああ、8年の間に、医療も進捗したりしてね、機材の入れ替えとかと一緒に老朽化したとこを直したりしたんだ。」

「...へ、ぇ。」

「...君のお陰で、この病院も大きくなったんだ。

...感謝しかないよ。」

「...そ、う。」

「...君のお友達。彼は、もう君のこと覚えてないかな?」

「....わす、れて、ても、おか、しくない、ですね。」

「...彼は、彼氏ができたみたいだよ。運ばれてきたとき一緒にいた子が意識が落ちそうになってるときに声をかけ続けてくれたから脳に大きな障害が残らなかったかもって看護師の間で噂なっているみたい。」

「...そ、っか。...そう、なん、だ。」

「...その彼氏くんが毎日お見舞いに来てくれてるんだって。彼氏くんは、この辺で有名な大きい病院の息子らしいよ。...看護師の噂ってすごいよね。」

そんな話を聞いている間に、病室に着いたらしくスライドの扉を開けて、中に入る。

俺のいた部屋より大きい窓から差し込む光は、あの部屋では見られなかった眩しさで、真っ白なベッドに横たわる彼は昔の可愛らしい面影を残しつつ、俺よりもうんと背が大きくなって、体格も良くなっていて、とても、とても、....おれも、一緒に成長したかったと、少し思ってしまうくらい、大きくなっていた。

「...せん、せ。どう、して?...つれて、きた、です?」

「...8年間、君の血を貰ってきた。毎日、毎日。流石に人間から採れる量の域を超えているのはわかっている。

だが、お陰で病院は大きくなったし、機材も増やせた。大きい治療もできるようになったし、腕のいい医師や看護師を雇えるようになった。

...でも、ここ1、2年で、君の血は、こう言ってはなんだけど、質が落ちた。君自身にも食事がうまくできなくなったから栄養が行き渡らなくなった。

...だから、簡潔に言えば、

...もう、用済み、かな。

...それに、気付いているかもしれないけど、そんなに長くは生きられないだろう。

...そうしてしまったのは、私なんだけれどね。」

「...そ、っかぁ。...そ、っか。

...ねえ、せん、せ。」

「...なんだい?」

「...おれ、の、血は...ちゃんと、つか、え、ました?」

「...ああ、ああ、もちろんだ。君の血は、珍しい血液型の子を沢山救ったよ。...本当に、君のお陰で、沢山の子を救えた。」


それを聞いて、もうあんまり動かせなかったけれど、今できる限りで表情筋を動かして、笑った。きっと、微笑んだくらいだろけれど。俺の霞んだ視界には、先生が少し目を見開いた顔が映った。「ありがとう。」と呟いて、俺の座る車椅子を彼の眠るベッドに近づけてくれて、手を振って、病室を出ていった。



俺は、眠る彼を見つめつつ、久々に良く見える外の景色をカーテンの隙間から眺めていた。

静かだった部屋に、扉が開く音が鳴り響いた。足音が2つ。俺は振り向く力もなくて、その人たちが視界に入るのを待った。霞んだ視界には、男が二人。一人はメガネをかけているようで、もう一人は、目を見開いているように見える。

「....氷空そら?」

その名前は、8年ぶりに聞いた。そういえば、先生は俺のことを名前で呼ばなかったな...。なんでだろ。

「...氷空、だろ?」

「...だ、れ?」

「...っ、俺だよ。海莉かいり。お前の兄ちゃんだよ?」

「...にい、さん?....あ、れ?...おれ、いら、ないん、じゃ?」

「...何を言っているんだ?いるに決まっているだろう!」

「...で、も、せん、せい。し、っそー、とどけ、でてな、いって。」

「出したさ!...一年前に失踪宣告されたけどな。

...でも、見つかってよかった。...ほんとに。」


車椅子に座る俺を優しく壊れないように抱きしめてくれる兄さん。その体温がとても暖かかった。

「...あった、かい。」

「...氷空は、冷たいな。顔色も悪い。...それにあの頃からほとんど変わっていないな。」

「...お、れね、いっぱい、いろんな、ひと、すくったんだって。...おれ、えら、い、でしょ。」

「.....ま、さか。」

「...ち、は、へっちゃ、たけど、...ぁ、...やく、そく、やぶって、ごめ、んな、さ、ぃ。」

そこで、俺は兄さんの暖かさと久々に話した疲れで意識が落ちた。

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