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「敵襲ぅぅぅ!!」
早朝の公爵邸に、けたたましい警鐘が鳴り響いた。
まだパジャマ姿の私は、アレクセイ閣下に手を引かれてバルコニーへと飛び出した。
「何事ですか! まだ始業前ですよ!」
「見ろ、ミーナ。……あれを」
閣下が指差した先。
雪原の向こうから、ボロボロの集団が猛スピードで駆けてくるのが見えた。
先頭に立つのは、金色の鎧(泥まみれ)を着たクラーク王太子。
彼らは「決死隊」と書かれた鉢巻を締め、悲壮な顔で叫びながら突っ込んでくる。
『うおおおお! 魔女ミーナを討ち、世界を救うのだぁぁぁ!!』
「……はい?」
私は目を疑った。
世界を救う?
誰が魔女だ。
「どうやら、昨日起動したポチ(ゴーレム)の魔力を感じ取って、『ミーナが世界征服に乗り出した』と勘違いしたらしい」
閣下が頭を抱えている。
「あいつら、請求書攻撃で精神が限界まで追い詰められて……逆におかしくなったのか」
「いわゆる『背水の陣による火事場の馬鹿力』ですね。厄介なバグです」
私は瞬時に計算した。
今の彼らは正常な判断力を失っている。
「請求書」や「黒歴史」のような精神攻撃は、狂乱状態の彼らには効かない。
物理的に止めるしかない。
「閣下。迎撃します。ただし、殺してはダメです。死なれると国際問題になり、賠償金が取れなくなります」
「分かっている。……だが、あの勢いをどうやって止める?」
「適材適所です」
私はバルコニーから身を乗り出し、中庭に向かって叫んだ。
「ポチ! 業務変更! 『草むしり』から『害虫駆除』へ移行!」
『了解。……対象、多数。駆除ヲ開始シマス』
ズズズズ……。
中庭で大人しく雑草を抜いていた巨体が立ち上がった。
その手には、私が持たせた特注の「超巨大熊手(ミスリル製)」が握られている。
* * *
『ミーナ! 待っていろ! 今、僕がその呪縛を解いてやるからな!』
クラーク王太子は、涙を流しながら馬を走らせていた。
彼の目には、公爵邸が「魔王城」に見えているらしい。
「殿下! 前方に巨大な影が!」
「あれが魔女の兵器か! 怯むな! 愛の力で打ち砕けぇぇ!」
彼らが正門を突破しようとした、その時。
ブォンッ!!
空気を切り裂く音と共に、巨大な「熊手」が横薙ぎに振るわれた。
「ぎゃあぁぁぁ!?」
先頭集団の兵士たちが、まるで落ち葉のようにまとめて掃き飛ばされた。
殺傷能力はない。
ただ、優しく、しかし圧倒的な質量で「どかされた」のだ。
『侵入者ヲ検知。……燃エルゴミトシテ処理シマス』
ポチの無機質な声が響く。
「な、なんだこのデカブツは! 剣が通じないぞ!」
「熊手だ! 熊手で攻撃されている!」
「俺たちはゴミじゃないぞぉぉ!」
兵士たちがパニックに陥る。
そこへ、さらなる罠が発動した。
「今です、アンナ! 放水開始!」
バルコニーからの私の合図で、屋敷の窓からメイド隊が一斉にホースを構えた。
ただし、放たれたのは水ではない。
ビチャビチャビチャッ!!
「ぬわっ!? なんだこのヌルヌルした液体は!」
「『ローション弾』です!」
私が拡声器で解説する。
「魔獣の粘液を加工した潤滑剤です! 摩擦係数を極限までゼロにしました! そこはもう氷の上より滑りますよ!」
「うおっ、足が……滑るっ! 止まらな……あぁぁぁ!」
ツルッ、ステンッ!
ドミノ倒しのように転倒していく兵士たち。
一度転べば最後、ヌルヌルで立ち上がることすらできない。
そこへ、ポチがやってきて、彼らを熊手で器用に回収し、端っこにまとめていく。
『ゴミ、回収完了』
「くそっ……! なんて卑怯な……!」
クラーク王太子だけは、馬に乗っていたおかげで難を逃れていた。
彼は仲間たちが「ゴミ集積所」に積み上げられていく惨状を見て、怒りに震えた。
「よくも……よくも僕の部下たちを! ミーナ! そこまで堕ちたか!」
『堕ちていません。ゴミ分別です』
「黙れ! 僕が……僕が直々にお前の目を覚まさせてやる!」
彼は馬を捨て、単身でポチの足元をすり抜け、バルコニーの下まで走ってきた。
そして、壁の蔦に手をかけ、驚異的な執念でよじ登ってきた。
「ミーナぁぁぁ!!」
ガバッ!
バルコニーの手すりを乗り越え、クラーク王太子が私の前に現れた。
肩で息をし、泥とローションまみれになりながら、剣を構える。
「……はぁ、はぁ。……ついに追い詰めたぞ、魔女め」
「不法侵入ですよ、殿下」
私は冷ややかに見下ろした。
隣のアレクセイ閣下が、静かに前に出る。
「クラーク殿下。……私の城で狼藉を働くとは、宣戦布告と受け取っていいのだな?」
「どけ、ドラグノフ! お前もミーナに操られているだけなんだろ! 僕が解放してやる!」
「……話が通じんな」
閣下が呆れて剣に手をかけようとした。
だが、クラーク殿下は叫んだ。
「ミーナ! 思い出してくれ! あの頃の君は、厳しかったけど優しかった! 僕が書類をミスしても、徹夜で直してくれたじゃないか!」
「それは私の仕事が増えるのが嫌だったからです」
「僕が野菜嫌いだからって、ハンバーグに細かく刻んで入れてくれただろ!」
「栄養バランスが崩れて病気になられたら、看病の手間がかかるからです」
「……そ、それが愛じゃないのか!?」
「効率化(マネジメント)です」
私はきっぱりと言い放った。
「殿下。あなたは勘違いしています。私はあなたを愛していたのではありません。あなたという『手のかかるプロジェクト』を、なんとか成功させようと努力していただけです」
「プロジェクト……?」
「はい。ですが、そのプロジェクトは失敗(破綻)しました。損切りしたのです。……今の私は、アレクセイ閣下という『優良案件』の元で、幸せに暮らしています」
私はアレクセイ閣下の腕に手を回し、見せつけるように寄り添った。
「邪魔しないでいただけますか? 私たちは今、忙しいのです」
「そ、そんな……」
クラーク殿下の膝がガクガクと震え出した。
世界の真実(ただ振られただけ)を突きつけられ、勇者モードが解除されかかっている。
だが、彼は最後の悪あがきをした。
「う、嘘だ! 洗脳されているんだ! そうだ、キスだ! 『真実の愛のキス』をすれば、君は元に戻るはずだ!」
彼は狂気じみた目で、私に向かって飛びかかってきた。
唇を突き出して。
「ミーナぁぁぁ! ちゅ~っ!」
「……気持ち悪い」
私が反射的にスタンガンを取り出そうとした、その時。
『ママヲ、イジメルナ!!』
ドシーン!!
空から巨大な影が降ってきた。
ポチの手だ。
バルコニーごと揺らす衝撃と共に、クラーク殿下の身体が巨大な金属の指によって摘み上げられた。
「ぎゃあっ!?」
宙ぶらりんになる王太子。
『害虫、捕獲。……コイツ、処分シマスカ?』
ポチの赤い目が、至近距離で殿下を睨む。
握り潰す気満々だ。
「ひぃぃぃ! 助けてぇぇ! 食べないでぇぇ!」
殿下の手足がバタバタと空を掻く。
あまりに情けない姿に、涙すら引っ込んだ。
「……ポチ。殺してはいけません」
私が命じると、ポチは不満げに『グルル……』と唸ったが、握る力を緩めた。
「ミーナ! た、助けてくれ! 反省する! もうしません! 帰ります!」
「帰すわけないでしょう」
私はニッコリと、悪魔の笑みを浮かべた。
「不法侵入、器物破損、殺人未遂、精神的苦痛への加担……。罪状は山ほどあります」
「えっ」
「殿下。あなたには、リリィ様と一緒に『強制労働』に従事していただきます」
「ろ、労働!?」
「はい。我が領の鉱山で、借金を返すまで働いてもらいます。大丈夫、リリィ様も一緒ですよ。二人で仲良くツルハシを振るってください」
「いやだぁぁぁ! 僕は王太子だぞぉぉぉ!」
「ここではただの『債務者その1』です。ポチ、連れて行きなさい。地下牢へ」
『了解』
ポチは殿下を掴んだまま、ズシンズシンと歩き出した。
遠ざかる殿下の「ママぁぁぁーっ!」という絶叫が、朝の空に吸い込まれていく。
バルコニーに残された私とアレクセイ閣下は、顔を見合わせた。
「……終わったな」
「ええ。あっけない幕切れでした」
「しかし、一国の王太子を鉱山送りにするとは……後でアークランド王から苦情が来ないか?」
「来たら、あの『ポエム集』を国王に送りつけます。『ご子息の教育方針について議論しましょう』と」
「……君は本当に、敵に回したくない女だ」
アレクセイ閣下は苦笑し、私の肩を抱いた。
「さあ、部屋に戻ろう。冷えた身体をコタツで温めないとな」
「はい。あ、みかんの補充を忘れずに」
こうして、勘違い勇者の聖戦は、ゴミ分別と労働という現実に敗北して幕を閉じた。
地下牢では、久しぶりに再会したクラーク殿下とリリィ様が、「ここ暗いよぉ」「お腹すいたよぉ」と慰め合う(傷を舐め合う)ことになるのだが、それはまた別の話である。
私の平穏な日常(とコタツライフ)は、ようやく守られたのだ。
早朝の公爵邸に、けたたましい警鐘が鳴り響いた。
まだパジャマ姿の私は、アレクセイ閣下に手を引かれてバルコニーへと飛び出した。
「何事ですか! まだ始業前ですよ!」
「見ろ、ミーナ。……あれを」
閣下が指差した先。
雪原の向こうから、ボロボロの集団が猛スピードで駆けてくるのが見えた。
先頭に立つのは、金色の鎧(泥まみれ)を着たクラーク王太子。
彼らは「決死隊」と書かれた鉢巻を締め、悲壮な顔で叫びながら突っ込んでくる。
『うおおおお! 魔女ミーナを討ち、世界を救うのだぁぁぁ!!』
「……はい?」
私は目を疑った。
世界を救う?
誰が魔女だ。
「どうやら、昨日起動したポチ(ゴーレム)の魔力を感じ取って、『ミーナが世界征服に乗り出した』と勘違いしたらしい」
閣下が頭を抱えている。
「あいつら、請求書攻撃で精神が限界まで追い詰められて……逆におかしくなったのか」
「いわゆる『背水の陣による火事場の馬鹿力』ですね。厄介なバグです」
私は瞬時に計算した。
今の彼らは正常な判断力を失っている。
「請求書」や「黒歴史」のような精神攻撃は、狂乱状態の彼らには効かない。
物理的に止めるしかない。
「閣下。迎撃します。ただし、殺してはダメです。死なれると国際問題になり、賠償金が取れなくなります」
「分かっている。……だが、あの勢いをどうやって止める?」
「適材適所です」
私はバルコニーから身を乗り出し、中庭に向かって叫んだ。
「ポチ! 業務変更! 『草むしり』から『害虫駆除』へ移行!」
『了解。……対象、多数。駆除ヲ開始シマス』
ズズズズ……。
中庭で大人しく雑草を抜いていた巨体が立ち上がった。
その手には、私が持たせた特注の「超巨大熊手(ミスリル製)」が握られている。
* * *
『ミーナ! 待っていろ! 今、僕がその呪縛を解いてやるからな!』
クラーク王太子は、涙を流しながら馬を走らせていた。
彼の目には、公爵邸が「魔王城」に見えているらしい。
「殿下! 前方に巨大な影が!」
「あれが魔女の兵器か! 怯むな! 愛の力で打ち砕けぇぇ!」
彼らが正門を突破しようとした、その時。
ブォンッ!!
空気を切り裂く音と共に、巨大な「熊手」が横薙ぎに振るわれた。
「ぎゃあぁぁぁ!?」
先頭集団の兵士たちが、まるで落ち葉のようにまとめて掃き飛ばされた。
殺傷能力はない。
ただ、優しく、しかし圧倒的な質量で「どかされた」のだ。
『侵入者ヲ検知。……燃エルゴミトシテ処理シマス』
ポチの無機質な声が響く。
「な、なんだこのデカブツは! 剣が通じないぞ!」
「熊手だ! 熊手で攻撃されている!」
「俺たちはゴミじゃないぞぉぉ!」
兵士たちがパニックに陥る。
そこへ、さらなる罠が発動した。
「今です、アンナ! 放水開始!」
バルコニーからの私の合図で、屋敷の窓からメイド隊が一斉にホースを構えた。
ただし、放たれたのは水ではない。
ビチャビチャビチャッ!!
「ぬわっ!? なんだこのヌルヌルした液体は!」
「『ローション弾』です!」
私が拡声器で解説する。
「魔獣の粘液を加工した潤滑剤です! 摩擦係数を極限までゼロにしました! そこはもう氷の上より滑りますよ!」
「うおっ、足が……滑るっ! 止まらな……あぁぁぁ!」
ツルッ、ステンッ!
ドミノ倒しのように転倒していく兵士たち。
一度転べば最後、ヌルヌルで立ち上がることすらできない。
そこへ、ポチがやってきて、彼らを熊手で器用に回収し、端っこにまとめていく。
『ゴミ、回収完了』
「くそっ……! なんて卑怯な……!」
クラーク王太子だけは、馬に乗っていたおかげで難を逃れていた。
彼は仲間たちが「ゴミ集積所」に積み上げられていく惨状を見て、怒りに震えた。
「よくも……よくも僕の部下たちを! ミーナ! そこまで堕ちたか!」
『堕ちていません。ゴミ分別です』
「黙れ! 僕が……僕が直々にお前の目を覚まさせてやる!」
彼は馬を捨て、単身でポチの足元をすり抜け、バルコニーの下まで走ってきた。
そして、壁の蔦に手をかけ、驚異的な執念でよじ登ってきた。
「ミーナぁぁぁ!!」
ガバッ!
バルコニーの手すりを乗り越え、クラーク王太子が私の前に現れた。
肩で息をし、泥とローションまみれになりながら、剣を構える。
「……はぁ、はぁ。……ついに追い詰めたぞ、魔女め」
「不法侵入ですよ、殿下」
私は冷ややかに見下ろした。
隣のアレクセイ閣下が、静かに前に出る。
「クラーク殿下。……私の城で狼藉を働くとは、宣戦布告と受け取っていいのだな?」
「どけ、ドラグノフ! お前もミーナに操られているだけなんだろ! 僕が解放してやる!」
「……話が通じんな」
閣下が呆れて剣に手をかけようとした。
だが、クラーク殿下は叫んだ。
「ミーナ! 思い出してくれ! あの頃の君は、厳しかったけど優しかった! 僕が書類をミスしても、徹夜で直してくれたじゃないか!」
「それは私の仕事が増えるのが嫌だったからです」
「僕が野菜嫌いだからって、ハンバーグに細かく刻んで入れてくれただろ!」
「栄養バランスが崩れて病気になられたら、看病の手間がかかるからです」
「……そ、それが愛じゃないのか!?」
「効率化(マネジメント)です」
私はきっぱりと言い放った。
「殿下。あなたは勘違いしています。私はあなたを愛していたのではありません。あなたという『手のかかるプロジェクト』を、なんとか成功させようと努力していただけです」
「プロジェクト……?」
「はい。ですが、そのプロジェクトは失敗(破綻)しました。損切りしたのです。……今の私は、アレクセイ閣下という『優良案件』の元で、幸せに暮らしています」
私はアレクセイ閣下の腕に手を回し、見せつけるように寄り添った。
「邪魔しないでいただけますか? 私たちは今、忙しいのです」
「そ、そんな……」
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世界の真実(ただ振られただけ)を突きつけられ、勇者モードが解除されかかっている。
だが、彼は最後の悪あがきをした。
「う、嘘だ! 洗脳されているんだ! そうだ、キスだ! 『真実の愛のキス』をすれば、君は元に戻るはずだ!」
彼は狂気じみた目で、私に向かって飛びかかってきた。
唇を突き出して。
「ミーナぁぁぁ! ちゅ~っ!」
「……気持ち悪い」
私が反射的にスタンガンを取り出そうとした、その時。
『ママヲ、イジメルナ!!』
ドシーン!!
空から巨大な影が降ってきた。
ポチの手だ。
バルコニーごと揺らす衝撃と共に、クラーク殿下の身体が巨大な金属の指によって摘み上げられた。
「ぎゃあっ!?」
宙ぶらりんになる王太子。
『害虫、捕獲。……コイツ、処分シマスカ?』
ポチの赤い目が、至近距離で殿下を睨む。
握り潰す気満々だ。
「ひぃぃぃ! 助けてぇぇ! 食べないでぇぇ!」
殿下の手足がバタバタと空を掻く。
あまりに情けない姿に、涙すら引っ込んだ。
「……ポチ。殺してはいけません」
私が命じると、ポチは不満げに『グルル……』と唸ったが、握る力を緩めた。
「ミーナ! た、助けてくれ! 反省する! もうしません! 帰ります!」
「帰すわけないでしょう」
私はニッコリと、悪魔の笑みを浮かべた。
「不法侵入、器物破損、殺人未遂、精神的苦痛への加担……。罪状は山ほどあります」
「えっ」
「殿下。あなたには、リリィ様と一緒に『強制労働』に従事していただきます」
「ろ、労働!?」
「はい。我が領の鉱山で、借金を返すまで働いてもらいます。大丈夫、リリィ様も一緒ですよ。二人で仲良くツルハシを振るってください」
「いやだぁぁぁ! 僕は王太子だぞぉぉぉ!」
「ここではただの『債務者その1』です。ポチ、連れて行きなさい。地下牢へ」
『了解』
ポチは殿下を掴んだまま、ズシンズシンと歩き出した。
遠ざかる殿下の「ママぁぁぁーっ!」という絶叫が、朝の空に吸い込まれていく。
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「……終わったな」
「ええ。あっけない幕切れでした」
「しかし、一国の王太子を鉱山送りにするとは……後でアークランド王から苦情が来ないか?」
「来たら、あの『ポエム集』を国王に送りつけます。『ご子息の教育方針について議論しましょう』と」
「……君は本当に、敵に回したくない女だ」
アレクセイ閣下は苦笑し、私の肩を抱いた。
「さあ、部屋に戻ろう。冷えた身体をコタツで温めないとな」
「はい。あ、みかんの補充を忘れずに」
こうして、勘違い勇者の聖戦は、ゴミ分別と労働という現実に敗北して幕を閉じた。
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