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「ミーナ様。……またしても、厄介なお客様です」
セバスチャンが疲労困憊の顔で執務室に入ってきた。
最近、我が家はちょっとした観光名所(トラブルの)と化している気がする。
「今度はどなたですか? アークランド王? それともドラゴンの群れ?」
私が尋ねると、彼は首を振った。
「いえ……リリィ嬢のご両親、男爵夫妻です。『娘が公爵閣下に囲われていると聞いた。慰謝料代わりに支援金をよこせ』と……」
「……たかり屋(ハイエナ)ですね」
私はペンを置いた。
リリィ様の実家は、成金上がりの男爵家で、浪費癖が酷いと聞く。
娘を王太子に近づけたのも、実家の借金返済のためだったはずだ。
「追い返しますか?」
アレクセイ閣下が不快そうに眉を寄せる。
「いいえ。彼らはリリィ様の『保護者』です。法的に、未成年の娘が起こした損害賠償責任の一部を転嫁できる可能性があります」
私は計算機を弾き、ニヤリと笑った。
「ちょうどいい財布(カモ)が来ました。招き入れなさい」
* * *
応接室に通された男爵夫妻は、見るからに品のない派手な服装をしていた。
「オッホッホ! これはこれは公爵閣下! うちの娘が大変お世話になっておりますぅ!」
男爵夫人が、扇子で口元を隠しながら媚びた笑いを浮かべる。
「リリィったら、昔から可愛いだけが取り柄でしてねぇ。閣下もお目が高い! 王太子から奪い取るなんて、よっぽど気に入られたんですのね?」
「……誤解があるようだが」
閣下が訂正しようとするが、男爵が遮る。
「まあまあ! 固いことは抜きにしましょう。それで、手切れ金……じゃなかった、娘の『生活支援金』ですが、月額で金貨一〇〇枚ほど頂ければ、我々は何も言いませんよ? ガレリア公爵家なら、はした金でしょう?」
完全に強請(ゆす)りだ。
娘を売ることに躊躇がない。
ある意味、リリィ様がああなった(善悪の区別がつかない)のも、この環境のせいかもしれない。
「金貨一〇〇枚……。なるほど、リリィ様の価値を高く見積もっておいでですね」
私が口を挟むと、夫妻は私を睨んだ。
「なんだお前は? ああ、噂の『捨てられた元婚約者』か。まだ居座っていたのかね?」
「リリィの世話係をしているのかしら? 惨めねぇ。まあ、うちの子は次期公爵夫人(予定)だから、仲良くしてやって頂戴」
夫人が勝ち誇ったように笑う。
「分かりました。では、まずは『次期公爵夫人(笑)』であるリリィ様に会っていただきましょう。感動の対面です」
私は立ち上がり、二人を案内した。
* * *
案内したのは、もちろん鉱山ではない。
さすがにいきなり現場を見せるとショック死するかもしれないので、屋敷の裏庭にある「トレーニング場(旧・中庭)」へ連れて行った。
そこでは、休憩時間中のクラーク殿下とリリィ様が、自主トレに励んでいた。
「ふんっ! ふんっ! 筋肉は裏切らない!」
「いーち! にーい! 上腕三頭筋に効いてますぅ!」
巨大な岩を持ち上げてスクワットをするクラーク殿下。
丸太を背負ってランニングをするリリィ様。
「……え?」
男爵夫妻が足を止めた。
「な、なんだあれは? ゴリラか?」
「いいえ、お嬢様です」
「は?」
私が指差すと、ちょうどリリィ様がこちらに気づいた。
汗だくのタンクトップ姿で、泥まみれの顔。
しかし、その二の腕は丸太のように太く、腹筋は見事に割れている。
「あ! パパ! ママ!」
リリィ様が満面の笑みで駆け寄ってきた。
ドスドスドスドス!
地響きがする。
「リ、リリィ……なのか? その格好は……!」
「元気ぃ!? 私、元気だよぉ!」
リリィ様は勢いよく両親に抱きついた。
「わぁぁい! 会いたかったぁ!」
バキベキボキッ!!
「ぐあぁぁぁぁ!?」
「ぎゃあぁぁぁ! 肋骨がぁぁぁ!」
夫妻の悲鳴が響き渡った。
今のリリィ様の抱擁(ベアハグ)は、野生の熊をも絞め落とす威力がある。
貧弱な貴族のボディでは耐えられない。
「あ、ごめんなさいぃ! 力の加減がまだ難しくてぇ☆」
リリィ様がパッと手を離すと、両親は泡を吹いて地面に崩れ落ちていた。
「パパ? ママ? どうしたの? プロテイン不足?」
「……気絶していますね」
私は冷ややかに見下ろした。
娘の成長(物理)を受け入れられなかったようだ。
*
数十分後。
応接室で意識を取り戻した夫妻は、震えながらリリィ様(着替えたが、筋肉は隠せない)を見ていた。
「そ、そんな……。私の可憐なリリィが……。あんな筋肉ダルマに……」
「公爵! これはどういうことだ! 娘を返せ! こんな傷物(マッチョ)にしたら、もうどこにも嫁がせられないじゃないか!」
男爵が喚き散らす。
親としての心配ではなく、「商品価値が下がった」ことへの怒りだ。
「失敬な。彼女は今、我が領で最も優秀な『鉱山技師』ですよ」
アレクセイ閣下が腕を組んで反論する。
「そ、そんなことはどうでもいい! 慰謝料だ! 賠償金だ! 金貨一〇〇〇枚よこせ!」
話が通じない。
私はため息をつき、分厚いファイルをテーブルに叩きつけた。
「……ちょうどよかったです。金貨の話をしましょうか」
「な、なんだこれは」
「『リリィ嬢・債務一覧表』です」
私はページをめくった。
「彼女が王都で買い漁ったドレス、宝石、スイーツ代。さらに我が領で破壊したボイラー、壁、ツルハシの弁償金……締めて金貨五〇〇〇枚になります」
「ご、五〇〇〇……!?」
夫妻の目が飛び出る。
「彼女は未成年。支払い能力はありません。したがって、保護者であるあなた方に請求権が発生します」
「ば、馬鹿な! そんな金あるわけないだろう!」
「でしょうね。ですから、リリィ様は現在、身体で(労働で)返済しているのです」
私は冷酷な笑みを浮かべた。
「お二人にも選択肢を差し上げましょう。一、今すぐ金貨五〇〇〇枚を払ってリリィ様を連れて帰る。二、請求権を放棄し、二度と我々の前に姿を現さない」
「ぐぬぬ……」
男爵が脂汗を流す。
払えるわけがない。
しかし、金のなる木だと思っていた娘は、もはや「借金の塊」でしかない。
「……あ、あの」
そこで、リリィ様がおずおずと口を開いた。
「パパ、ママ。私、帰りたくないよ」
「な、なんだと?」
「だって、お家(実家)だと『王子様を捕まえろ』とか『もっと着飾れ』とかうるさいんだもん。……ここはね、頑張ったらみんなが『すげぇ!』って褒めてくれるの」
リリィ様が自分の力こぶを愛おしそうに撫でた。
「私、初めて自分のことが好きになれたの。だから……邪魔しないで」
その瞳には、かつてのような依存心はない。
自立した(主に物理的に)女性の強さがあった。
男爵夫妻は言葉を失った。
自分たちが育てた操り人形が、意思を持って反逆したのだ。
しかも、今の彼女に殴られたら即死するという恐怖もある。
「……わ、分かった。縁を切る」
男爵が絞り出すように言った。
「こんな筋肉女、うちの娘じゃない! 好きにするがいい!」
「行きますよ! 二度と来るものですか!」
夫妻は捨て台詞を吐いて、逃げるように部屋を出て行った。
親子の縁が、金と共に切れた瞬間だった。
「……行っちゃった」
リリィ様がポツリと呟く。
寂しそうに見えるが、その顔は晴れ晴れとしていた。
「よかったのですか?」
私が尋ねると、彼女はニカッと笑った。
「うん! せいせいしたぁ! さーて、スッキリしたから一掘りしてこよっと! クラーク先輩が待ってるし!」
彼女はスキップ(床が揺れる)をして部屋を出て行った。
強い。
メンタルもフィジカルも、最強かもしれない。
「……一件落着だな」
アレクセイ閣下が紅茶を啜る。
「ええ。これでアークランド側の憂いは全て断ちました。あとは……」
私は手元の手帳を開いた。
そこに記された、最後のタスク。
『結婚式の準備』
そう。
外敵を排除した今、私たちに残されたのは、あの日交わした「終身雇用契約(プロポーズ)」の履行のみである。
「閣下。そろそろ、式の日取りを決めませんか?」
「……! ああ、そうだな」
閣下がカップを置く手が、カチャリと震えた。
どうやら冷徹公爵様も、自分の結婚式となると冷静ではいられないらしい。
「場所は屋敷のガーデンで。ドレスはあの『武装ドレス』でいいですか?」
「……できれば、武器は外してほしいが」
「却下です。ケーキ入刀に使いますから」
「……君らしいな」
私たちは笑い合った。
長い冬が終わり、ガレリアにも遅い春が来ようとしていた。
しかし、私のことだ。
ただの結婚式で終わらせるつもりはない。
どうせやるなら、世界一効率的で、世界一記憶に残る(騒がしい)式にしてやるつもりだ。
セバスチャンが疲労困憊の顔で執務室に入ってきた。
最近、我が家はちょっとした観光名所(トラブルの)と化している気がする。
「今度はどなたですか? アークランド王? それともドラゴンの群れ?」
私が尋ねると、彼は首を振った。
「いえ……リリィ嬢のご両親、男爵夫妻です。『娘が公爵閣下に囲われていると聞いた。慰謝料代わりに支援金をよこせ』と……」
「……たかり屋(ハイエナ)ですね」
私はペンを置いた。
リリィ様の実家は、成金上がりの男爵家で、浪費癖が酷いと聞く。
娘を王太子に近づけたのも、実家の借金返済のためだったはずだ。
「追い返しますか?」
アレクセイ閣下が不快そうに眉を寄せる。
「いいえ。彼らはリリィ様の『保護者』です。法的に、未成年の娘が起こした損害賠償責任の一部を転嫁できる可能性があります」
私は計算機を弾き、ニヤリと笑った。
「ちょうどいい財布(カモ)が来ました。招き入れなさい」
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応接室に通された男爵夫妻は、見るからに品のない派手な服装をしていた。
「オッホッホ! これはこれは公爵閣下! うちの娘が大変お世話になっておりますぅ!」
男爵夫人が、扇子で口元を隠しながら媚びた笑いを浮かべる。
「リリィったら、昔から可愛いだけが取り柄でしてねぇ。閣下もお目が高い! 王太子から奪い取るなんて、よっぽど気に入られたんですのね?」
「……誤解があるようだが」
閣下が訂正しようとするが、男爵が遮る。
「まあまあ! 固いことは抜きにしましょう。それで、手切れ金……じゃなかった、娘の『生活支援金』ですが、月額で金貨一〇〇枚ほど頂ければ、我々は何も言いませんよ? ガレリア公爵家なら、はした金でしょう?」
完全に強請(ゆす)りだ。
娘を売ることに躊躇がない。
ある意味、リリィ様がああなった(善悪の区別がつかない)のも、この環境のせいかもしれない。
「金貨一〇〇枚……。なるほど、リリィ様の価値を高く見積もっておいでですね」
私が口を挟むと、夫妻は私を睨んだ。
「なんだお前は? ああ、噂の『捨てられた元婚約者』か。まだ居座っていたのかね?」
「リリィの世話係をしているのかしら? 惨めねぇ。まあ、うちの子は次期公爵夫人(予定)だから、仲良くしてやって頂戴」
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「分かりました。では、まずは『次期公爵夫人(笑)』であるリリィ様に会っていただきましょう。感動の対面です」
私は立ち上がり、二人を案内した。
* * *
案内したのは、もちろん鉱山ではない。
さすがにいきなり現場を見せるとショック死するかもしれないので、屋敷の裏庭にある「トレーニング場(旧・中庭)」へ連れて行った。
そこでは、休憩時間中のクラーク殿下とリリィ様が、自主トレに励んでいた。
「ふんっ! ふんっ! 筋肉は裏切らない!」
「いーち! にーい! 上腕三頭筋に効いてますぅ!」
巨大な岩を持ち上げてスクワットをするクラーク殿下。
丸太を背負ってランニングをするリリィ様。
「……え?」
男爵夫妻が足を止めた。
「な、なんだあれは? ゴリラか?」
「いいえ、お嬢様です」
「は?」
私が指差すと、ちょうどリリィ様がこちらに気づいた。
汗だくのタンクトップ姿で、泥まみれの顔。
しかし、その二の腕は丸太のように太く、腹筋は見事に割れている。
「あ! パパ! ママ!」
リリィ様が満面の笑みで駆け寄ってきた。
ドスドスドスドス!
地響きがする。
「リ、リリィ……なのか? その格好は……!」
「元気ぃ!? 私、元気だよぉ!」
リリィ様は勢いよく両親に抱きついた。
「わぁぁい! 会いたかったぁ!」
バキベキボキッ!!
「ぐあぁぁぁぁ!?」
「ぎゃあぁぁぁ! 肋骨がぁぁぁ!」
夫妻の悲鳴が響き渡った。
今のリリィ様の抱擁(ベアハグ)は、野生の熊をも絞め落とす威力がある。
貧弱な貴族のボディでは耐えられない。
「あ、ごめんなさいぃ! 力の加減がまだ難しくてぇ☆」
リリィ様がパッと手を離すと、両親は泡を吹いて地面に崩れ落ちていた。
「パパ? ママ? どうしたの? プロテイン不足?」
「……気絶していますね」
私は冷ややかに見下ろした。
娘の成長(物理)を受け入れられなかったようだ。
*
数十分後。
応接室で意識を取り戻した夫妻は、震えながらリリィ様(着替えたが、筋肉は隠せない)を見ていた。
「そ、そんな……。私の可憐なリリィが……。あんな筋肉ダルマに……」
「公爵! これはどういうことだ! 娘を返せ! こんな傷物(マッチョ)にしたら、もうどこにも嫁がせられないじゃないか!」
男爵が喚き散らす。
親としての心配ではなく、「商品価値が下がった」ことへの怒りだ。
「失敬な。彼女は今、我が領で最も優秀な『鉱山技師』ですよ」
アレクセイ閣下が腕を組んで反論する。
「そ、そんなことはどうでもいい! 慰謝料だ! 賠償金だ! 金貨一〇〇〇枚よこせ!」
話が通じない。
私はため息をつき、分厚いファイルをテーブルに叩きつけた。
「……ちょうどよかったです。金貨の話をしましょうか」
「な、なんだこれは」
「『リリィ嬢・債務一覧表』です」
私はページをめくった。
「彼女が王都で買い漁ったドレス、宝石、スイーツ代。さらに我が領で破壊したボイラー、壁、ツルハシの弁償金……締めて金貨五〇〇〇枚になります」
「ご、五〇〇〇……!?」
夫妻の目が飛び出る。
「彼女は未成年。支払い能力はありません。したがって、保護者であるあなた方に請求権が発生します」
「ば、馬鹿な! そんな金あるわけないだろう!」
「でしょうね。ですから、リリィ様は現在、身体で(労働で)返済しているのです」
私は冷酷な笑みを浮かべた。
「お二人にも選択肢を差し上げましょう。一、今すぐ金貨五〇〇〇枚を払ってリリィ様を連れて帰る。二、請求権を放棄し、二度と我々の前に姿を現さない」
「ぐぬぬ……」
男爵が脂汗を流す。
払えるわけがない。
しかし、金のなる木だと思っていた娘は、もはや「借金の塊」でしかない。
「……あ、あの」
そこで、リリィ様がおずおずと口を開いた。
「パパ、ママ。私、帰りたくないよ」
「な、なんだと?」
「だって、お家(実家)だと『王子様を捕まえろ』とか『もっと着飾れ』とかうるさいんだもん。……ここはね、頑張ったらみんなが『すげぇ!』って褒めてくれるの」
リリィ様が自分の力こぶを愛おしそうに撫でた。
「私、初めて自分のことが好きになれたの。だから……邪魔しないで」
その瞳には、かつてのような依存心はない。
自立した(主に物理的に)女性の強さがあった。
男爵夫妻は言葉を失った。
自分たちが育てた操り人形が、意思を持って反逆したのだ。
しかも、今の彼女に殴られたら即死するという恐怖もある。
「……わ、分かった。縁を切る」
男爵が絞り出すように言った。
「こんな筋肉女、うちの娘じゃない! 好きにするがいい!」
「行きますよ! 二度と来るものですか!」
夫妻は捨て台詞を吐いて、逃げるように部屋を出て行った。
親子の縁が、金と共に切れた瞬間だった。
「……行っちゃった」
リリィ様がポツリと呟く。
寂しそうに見えるが、その顔は晴れ晴れとしていた。
「よかったのですか?」
私が尋ねると、彼女はニカッと笑った。
「うん! せいせいしたぁ! さーて、スッキリしたから一掘りしてこよっと! クラーク先輩が待ってるし!」
彼女はスキップ(床が揺れる)をして部屋を出て行った。
強い。
メンタルもフィジカルも、最強かもしれない。
「……一件落着だな」
アレクセイ閣下が紅茶を啜る。
「ええ。これでアークランド側の憂いは全て断ちました。あとは……」
私は手元の手帳を開いた。
そこに記された、最後のタスク。
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そう。
外敵を排除した今、私たちに残されたのは、あの日交わした「終身雇用契約(プロポーズ)」の履行のみである。
「閣下。そろそろ、式の日取りを決めませんか?」
「……! ああ、そうだな」
閣下がカップを置く手が、カチャリと震えた。
どうやら冷徹公爵様も、自分の結婚式となると冷静ではいられないらしい。
「場所は屋敷のガーデンで。ドレスはあの『武装ドレス』でいいですか?」
「……できれば、武器は外してほしいが」
「却下です。ケーキ入刀に使いますから」
「……君らしいな」
私たちは笑い合った。
長い冬が終わり、ガレリアにも遅い春が来ようとしていた。
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