婚約破棄?悪役令嬢は、貢がれすぎて幸せを掴む

黒猫かの

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ヴィクトール様から十万ゴールドの「万色のプリズム」を贈られてから、私は悩んでいました。


公爵家の自室で、私は山積みになったカタログや宝飾品を前に、うーんと唸り声を上げます。


「お嬢様、まだ悩んでいらっしゃるのですか? ヴィクトール様へのお返しについて」


メイドが心配そうに覗き込んできますが、私は真剣そのものです。


「当たり前ですわ。あのような国宝級の品をいただいて、適当な物をお返しするなど、コレクターの矜持が許しませんもの。……でも、困りましたわ」


私は手元のリストを放り投げました。


「ヴィクトール様は、世界最大の商会の主。私が買えるような物は、すでにお持ちか、あるいは彼自身が仕入れられる物ばかりなんですもの」


お金を持っている人に、お金で買える物を贈る。これほどセンスのない行為はありません。


そこで私は、三日三晩考え抜き、一つの結論に達しました。


「……これしかありませんわね。私の『資産価値』を最大限に高めた、究極の現物支給ですわ」


数日後。私はヴィクトール様を、我が公爵家の離宮にあるプライベートサロンへと招待しました。


「やあ、リーナ嬢。招待ありがとう。君から『最高のお返しを用意した』と言われては、商会の商談をすべてキャンセルしてでも来ないわけにはいかないからね」


ヴィクトール様は、今日も今日とて歩く財宝のような装いで現れました。


「ようこそ、ヴィクトール様。……今日お返しするのは、こちらの『一品』ですわ」


私は合図を出し、大きな布がかけられたワゴンを運ばせました。


「ほう? サイズからすると絵画か、あるいは彫像かな?」


ヴィクトール様が興味深そうに目を細めます。私が勢いよく布を剥ぎ取ると、そこにあったのは……。


「……オイルと、筆、それから美容液の瓶……かな?」


ワゴンに乗っていたのは、金箔が散りばめられた容器に入った、最高級のボディケア用品一式でした。


「いいえ、ヴィクトール様。お返しするのは、それらを使って磨き上げられた『私自身』ですわ」


私は扇を広げ、自信満々に微笑みました。


「……自分、を贈るということかい? それはまた、随分と情熱的なプロポーズに聞こえるが」


ヴィクトール様が驚いたように、けれどどこか楽しげに眉を上げました。


「勘違いしないでくださいませ。これは精神的な話ではなく、極めて物理的な投資の話ですの」


私は一歩前に出て、自分の肌を指し示しました。


「このオイルは北国の氷結花から抽出した一滴一万ゴールドの品。この美容液は深海の真珠を粉末にして配合した特注品。これらを使って、私は三日間かけて自分という『商品』を最高級の状態にメンテナンスいたしましたわ」


私はくるりと回って、ドレスの裾をなびかせました。


「ヴィクトール様のアドバイザーとして、私は常に完璧な状態で隣に立たねばなりません。劣化の激しい資産(おんな)など、あなたの隣に置くわけにはいきませんでしょう? ですから、私は『あなたのために自分を最高額で維持する手間と費用』を、お返しとして捧げますわ」


ヴィクトール様は一瞬、呆然としたように私を見つめました。


やがて、彼は肩を震わせ、そして。


「……クックッ、ハハハハハ! 素晴らしい! これほど清々しい『自分への投資』をお返しだと言い張る令嬢は、世界中探しても君だけだ!」


ヴィクトール様は声を上げて笑い、私の手を取ってその甲に深く、熱い口づけを落としました。


「愛だの恋だのという言葉で飾るより、よほど説得力がある。君という『最高級の資産』の維持費を、君自身が手間をかけて負担してくれたというわけだね」


「ええ。これからは、あなたの隣で私が輝くたびに、『ああ、あのお返しが効いているな』と思い出してくださいませ」


「いいだろう、受け取らせてもらうよ。……だがリーナ嬢。君が自分を磨けば磨くほど、私としてはさらに高価な額縁(宝石)を贈りたくなってしまうのだが、それはどうすればいいかな?」


ヴィクトール様の瞳に、共犯者のような妖しい光が宿ります。


「あら、それは嬉しい悩みですわね。贈られた分だけ、私はさらに自分を磨き、またお返しとして磨かれた私を見せつける……」


「無限ループだね。……最高じゃないか」


私たちは、普通の恋人同士が見せる甘い雰囲気とは程遠い、けれど「欲望」という強い絆で結ばれた笑顔を交わしました。


エリオット殿下なら「女の化粧にそんな金をかけるなんて」と顔を顰めたことでしょう。


けれど、ヴィクトール様は私の「価値を高めるための執念」を、最高のエンターテインメントとして楽しんでくださる。


「さて、リーナ。最高に磨かれた君を連れて、次はどこへ行こうか? 実は隣国で、私の商会が管理する『宝物庫』が一杯になって困っているんだ。整理を手伝ってくれないかい?」


「まあ! それは素敵なお誘いですわ! ……整理した際に出た『不用品』は、いただいてもよろしくて?」


「もちろんだ。君が選ぶものなら、どんなゴミでもダイヤに変わるだろうからね」


私は勝利の確信を抱きながら、彼の腕に手を添えました。


プレゼント。それは自分を高めるための燃料。


私という「資産」は、ヴィクトール様という「最強の投資家」を得て、どこまでもその価値を上げていくのでした。
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