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ノイシュタット王国の王都は、まさに「黄金の都」と呼ぶにふさわしい活気に満ちていました。
「まあ……! ヴィクトール様、あちらの露店で売られているのは、もしや南方の海でしか採れない『星砂の貝殻』ではありませんこと?」
私は馬車の窓から身を乗り出し、街中に溢れる宝物の気配に胸を躍らせていました。
「その通り。だがリーナ、あんなものはまだ序の口だ。今日は王宮主催のチャリティー・バザーがある。君にぜひ見てもらいたいものがあるんだ」
ヴィクトール様にエスコートされ、私たちは白亜の広場で開催されている豪華なバザー会場へと足を踏み入れました。
そこには、貴族たちが寄贈した一級品から、商人たちが持ち込んだ珍品まで、数えきれないほどの品々が並んでいます。
「あら……? ヴィクトール様、あそこの人だかりは何かしら」
広場の一角で、一人の商人が大声を張り上げ、多くの貴族女性に囲まれていました。
「さあさあ、ご覧ください! これぞ幻の聖域で織り上げられた『天使の羽衣』! これを身に纏えば、どんな女性も女神のような輝きを手に入れられます。今なら特別に、金貨百枚でお譲りしましょう!」
商人が掲げていたのは、虹色に光る薄い絹のドレスでした。
集まった令嬢たちは「まあ、素敵!」「なんて神々しい輝きなの!」と、次々に財布を開こうとしています。
私は無言でその集団に割り込み、商人の手元にあるドレスをジロリと睨みつけました。
「……ちょっと、あなた」
「おや、美しいお嬢さん。あなたもこの『天使の羽衣』に魅了されましたかな?」
商人が下卑た笑みを浮かべましたが、私は鼻で笑ってルーペを取り出しました。
「……これ、火に強い『サラマンダーの糸』の端材を、化学染料で無理やりコーティングしたものじゃありませんの」
会場が、一瞬で静まり返りました。
「な、何を馬鹿なことを! これは聖域の……」
「嘘をおっしゃい。サラマンダーの糸は確かに高価ですけれど、これはその『残りカス』ですわ。光沢にムラがありますし、何よりこの独特の薬品臭……。本物の羽衣なら、もっと清涼な風のような香りがするはずですわよ」
私はドレスの端を指先でつまみ、冷ややかに言い放ちました。
「金貨百枚? 冗談も休み休みおっしゃい。これ、市場価格なら銀貨五枚が妥当な『まがい物』ですわ」
「き、貴様! 営業妨害だぞ! どこの馬の骨か知らんが、私の目利きを疑うのか!」
商人が逆上して掴みかかろうとした瞬間、私の背後に立っていたヴィクトール様が、その手首を無造作に掴みました。
「私のパートナーに対して、随分と無作法だな」
ヴィクトール様の冷徹な声に、商人は蛇に睨まれた蛙のように硬直しました。
「ヴィ、ヴィクトール殿下……!? な、なぜここに……」
「彼女の言う通りだ。この商人は偽造品を流通させた罪で即座に連行しろ」
ヴィクトール様が合図を出すと、控えていた衛兵たちが一斉に商人を捕らえました。
周囲の令嬢たちは「偽物だったの!?」「危うく騙されるところだったわ!」と、私を見て感謝の眼差しを向けてきます。
「……リーナ様、ありがとうございました! あんな偽物を買わずに済んだのは、あなたの正義感のおかげですわ!」
一人の令嬢が感動したように私の手を取りましたが、私は首を横に振りました。
「あら、勘違いしないでくださいませ。私は別に、あなた方を助けたかったわけではありませんのよ」
「え……?」
「偽物がこれほど高値で市場に出回ると、私が持っている『本物のコレクション』の市場価値が下がってしまうではありませんか。そんなこと、コレクターとして絶対に許せませんの!」
私は扇をバサリと広げ、高らかに言い放ちました。
「私がこの世で一番嫌いなのは、価値のないものを高く売る詐欺師。そして二番目に嫌いなのは、偽物を持って満足しているセンスのない人間ですわ!」
周囲の令嬢たちは呆然としていましたが、ヴィクトール様だけは、くっくと楽しげに喉を鳴らしました。
「ハハハ! 最高だ、リーナ。君はやはり、どこまでも自分の欲望に誠実だね」
「当たり前ですわ。私の『欲しい』という気持ちは、世界で一番純粋なエネルギーなんですもの」
私は没収されたドレスを一瞥し、「あんなゴミ、見ているだけで目が腐りますわ」と毒づきながら、ヴィクトール様の腕に手を添えました。
婚約破棄をされた「欲しがりリーナ」の噂は、いつの間にか「偽物を見抜く冷徹な審美眼の持ち主」として、ノイシュタットの社交界を駆け巡ることになったのです。
「さて、ヴィクトール様。口直しに、もっと『本物』が詰まった場所へ連れて行ってくださいませ」
「ああ、約束しよう。これから向かうのは、私の商会が百年かけて集めた、世界最高の宝物庫だ」
私は勝利の微笑みを浮かべ、さらなるお宝を求めて、都の深部へと歩みを進めるのでした。
「まあ……! ヴィクトール様、あちらの露店で売られているのは、もしや南方の海でしか採れない『星砂の貝殻』ではありませんこと?」
私は馬車の窓から身を乗り出し、街中に溢れる宝物の気配に胸を躍らせていました。
「その通り。だがリーナ、あんなものはまだ序の口だ。今日は王宮主催のチャリティー・バザーがある。君にぜひ見てもらいたいものがあるんだ」
ヴィクトール様にエスコートされ、私たちは白亜の広場で開催されている豪華なバザー会場へと足を踏み入れました。
そこには、貴族たちが寄贈した一級品から、商人たちが持ち込んだ珍品まで、数えきれないほどの品々が並んでいます。
「あら……? ヴィクトール様、あそこの人だかりは何かしら」
広場の一角で、一人の商人が大声を張り上げ、多くの貴族女性に囲まれていました。
「さあさあ、ご覧ください! これぞ幻の聖域で織り上げられた『天使の羽衣』! これを身に纏えば、どんな女性も女神のような輝きを手に入れられます。今なら特別に、金貨百枚でお譲りしましょう!」
商人が掲げていたのは、虹色に光る薄い絹のドレスでした。
集まった令嬢たちは「まあ、素敵!」「なんて神々しい輝きなの!」と、次々に財布を開こうとしています。
私は無言でその集団に割り込み、商人の手元にあるドレスをジロリと睨みつけました。
「……ちょっと、あなた」
「おや、美しいお嬢さん。あなたもこの『天使の羽衣』に魅了されましたかな?」
商人が下卑た笑みを浮かべましたが、私は鼻で笑ってルーペを取り出しました。
「……これ、火に強い『サラマンダーの糸』の端材を、化学染料で無理やりコーティングしたものじゃありませんの」
会場が、一瞬で静まり返りました。
「な、何を馬鹿なことを! これは聖域の……」
「嘘をおっしゃい。サラマンダーの糸は確かに高価ですけれど、これはその『残りカス』ですわ。光沢にムラがありますし、何よりこの独特の薬品臭……。本物の羽衣なら、もっと清涼な風のような香りがするはずですわよ」
私はドレスの端を指先でつまみ、冷ややかに言い放ちました。
「金貨百枚? 冗談も休み休みおっしゃい。これ、市場価格なら銀貨五枚が妥当な『まがい物』ですわ」
「き、貴様! 営業妨害だぞ! どこの馬の骨か知らんが、私の目利きを疑うのか!」
商人が逆上して掴みかかろうとした瞬間、私の背後に立っていたヴィクトール様が、その手首を無造作に掴みました。
「私のパートナーに対して、随分と無作法だな」
ヴィクトール様の冷徹な声に、商人は蛇に睨まれた蛙のように硬直しました。
「ヴィ、ヴィクトール殿下……!? な、なぜここに……」
「彼女の言う通りだ。この商人は偽造品を流通させた罪で即座に連行しろ」
ヴィクトール様が合図を出すと、控えていた衛兵たちが一斉に商人を捕らえました。
周囲の令嬢たちは「偽物だったの!?」「危うく騙されるところだったわ!」と、私を見て感謝の眼差しを向けてきます。
「……リーナ様、ありがとうございました! あんな偽物を買わずに済んだのは、あなたの正義感のおかげですわ!」
一人の令嬢が感動したように私の手を取りましたが、私は首を横に振りました。
「あら、勘違いしないでくださいませ。私は別に、あなた方を助けたかったわけではありませんのよ」
「え……?」
「偽物がこれほど高値で市場に出回ると、私が持っている『本物のコレクション』の市場価値が下がってしまうではありませんか。そんなこと、コレクターとして絶対に許せませんの!」
私は扇をバサリと広げ、高らかに言い放ちました。
「私がこの世で一番嫌いなのは、価値のないものを高く売る詐欺師。そして二番目に嫌いなのは、偽物を持って満足しているセンスのない人間ですわ!」
周囲の令嬢たちは呆然としていましたが、ヴィクトール様だけは、くっくと楽しげに喉を鳴らしました。
「ハハハ! 最高だ、リーナ。君はやはり、どこまでも自分の欲望に誠実だね」
「当たり前ですわ。私の『欲しい』という気持ちは、世界で一番純粋なエネルギーなんですもの」
私は没収されたドレスを一瞥し、「あんなゴミ、見ているだけで目が腐りますわ」と毒づきながら、ヴィクトール様の腕に手を添えました。
婚約破棄をされた「欲しがりリーナ」の噂は、いつの間にか「偽物を見抜く冷徹な審美眼の持ち主」として、ノイシュタットの社交界を駆け巡ることになったのです。
「さて、ヴィクトール様。口直しに、もっと『本物』が詰まった場所へ連れて行ってくださいませ」
「ああ、約束しよう。これから向かうのは、私の商会が百年かけて集めた、世界最高の宝物庫だ」
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