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「……アイーナ。今すぐ避難の準備を。……いや、迎撃の準備だ」
結婚式を三日後に控えた朝。ギルバート様が、かつてないほど引き攣った笑顔でテラスから外を指差しました。
「まあ、ギルバート様。朝からそんなに血気盛んでいらして。……あら? 地平線の向こうから、何かすごく『不吉な輝き』が迫ってきていますわね」
私は営業用スマイルを維持したまま、望遠鏡を覗き込みました。
そこには、数十頭の巨象に引かれ、ゆっくりとこちらへ進軍してくる「巨大な黄金の物体」がありました。
「……アイーナ様。あれ、レオン殿下がアステリアの国庫を空にして作ったという、『アイーナと僕の永遠の愛・巨大機械式オルゴール像』ではございませんこと?」
マリエル様が、震える手で紅茶をこぼしながら呟きました。
「……オルゴール像? あの巨大な金色の塊が、音を鳴らすのですか?」
その問いに答えるように、地平線の彼方から「ズズズ……」という地響きと共に、爆音のメロディが響き渡りました。
『あぁ~アイーナ~! 君の瞳は~僕の財布を~空にする~(愛の重課税)!』
レオン殿下の歌声を魔導増幅器で数万倍に拡大した、世にも恐ろしい「愛の咆哮」です。
「…………ギルバート様。対空砲火ではなく、今回は『物理的な解体』が必要のようですわね」
私の営業用スマイルから、完全に光が消えました。
「ああ。あの巨大な金ピカ像が我が領地に足を踏み入れた瞬間、騒音被害と重量による地盤沈下で、結婚式どころではなくなる。……全軍、出撃だ!!」
「いいえ、ギルバート様。軍を動かすのはコストの無駄ですわ。……カイルさん! 元・騎士の皆様に、『超高温の溶接魔法』と『解体用ハンマー』を用意させてくださいな!」
「はっ、アイーナ様! すでに『金塊回収班』として、やる気満々で待機しております!」
数時間後。ヴォルフ領の国境付近。
「待て! 壊さないでくれ! これは私の愛の結晶……アイーナへの最高のウェディング・ギフトなんだぞ!!」
麻袋を着たレオン殿下が、巨大な像の足元に縋り付いて叫んでいました。
どうやら、自分の像と一緒に(こっそり)運ばれてきたようです。
「殿下。公務執行妨害で時給をマイナスにされたいのですか? ……皆様、やってくださいまし!」
私が合図を送ると、元・騎士たちが一斉に巨大な黄金像に取り付きました。
「あぁ! 私の顔(黄金)が! アイーナの左腕(黄金)が、バラバラに解体されていく……!」
「殿下、ご安心ください。この金はすべて溶かして、我が領地とアステリアを結ぶ『アイーナ・ギルバート友好記念鉄道』の線路に変えて差し上げますわ。……あなたの愛は、物理的に両国を繋ぐインフラになるのです。光栄でしょう?」
私は泣き叫ぶレオン殿下に、これ以上ないほど輝かしい「無慈悲な笑顔」を向けました。
「……鉄道の、線路……? ……あ。なるほど! 私の愛の上を、君たちが永遠に走り続けるということか! あぁ、なんてロマンチックなんだ、アイーナ!!」
「…………マリエル様。あの方を、今すぐ線路の『バラスト(敷石)』の代わりに地面に埋めてきて差し上げて」
「承知いたしました、アイーナ様。……レオン様、もう本当に黙っていてくださいまし!」
巨大な黄金像が、数千枚の金板へと姿を変えていく中。
私は、その様子を満足げに眺めていました。
「……ふぅ。これで、結婚式の費用がすべて浮きましたわね、ギルバート様」
「アイーナ。……君は、アステリア王国の国宝を解体して、自分の結婚式の祝儀に変えたのか」
ギルバート様が、私の腰を引き寄せ、少しだけ戦慄したように笑いました。
「あら、有効活用ですわ。……さて、ギルバート様。邪魔者は(資源に)なりました。……あとは、式を挙げるだけですわね」
「ああ。……今度は誰にも邪魔させない。……愛しているよ、アイーナ。……営業用ではない、君の本当の笑顔を、一生私だけに見せてくれ」
ギルバート様の熱い視線に、私は言葉を失いました。
「……。……はい、喜んで!!」
私は、今日一番の、そして人生で初めての「本物の笑顔」で答えました。
その背後で、レオン殿下が「アイーナの笑顔は、やはり私の黄金の輝きがあってこそだーー!」と叫んでいましたが。
私たちは、その声を心地よいBGM(雑音)として聞き流し、固く手を繋ぎ合ったのでした。
結婚式を三日後に控えた朝。ギルバート様が、かつてないほど引き攣った笑顔でテラスから外を指差しました。
「まあ、ギルバート様。朝からそんなに血気盛んでいらして。……あら? 地平線の向こうから、何かすごく『不吉な輝き』が迫ってきていますわね」
私は営業用スマイルを維持したまま、望遠鏡を覗き込みました。
そこには、数十頭の巨象に引かれ、ゆっくりとこちらへ進軍してくる「巨大な黄金の物体」がありました。
「……アイーナ様。あれ、レオン殿下がアステリアの国庫を空にして作ったという、『アイーナと僕の永遠の愛・巨大機械式オルゴール像』ではございませんこと?」
マリエル様が、震える手で紅茶をこぼしながら呟きました。
「……オルゴール像? あの巨大な金色の塊が、音を鳴らすのですか?」
その問いに答えるように、地平線の彼方から「ズズズ……」という地響きと共に、爆音のメロディが響き渡りました。
『あぁ~アイーナ~! 君の瞳は~僕の財布を~空にする~(愛の重課税)!』
レオン殿下の歌声を魔導増幅器で数万倍に拡大した、世にも恐ろしい「愛の咆哮」です。
「…………ギルバート様。対空砲火ではなく、今回は『物理的な解体』が必要のようですわね」
私の営業用スマイルから、完全に光が消えました。
「ああ。あの巨大な金ピカ像が我が領地に足を踏み入れた瞬間、騒音被害と重量による地盤沈下で、結婚式どころではなくなる。……全軍、出撃だ!!」
「いいえ、ギルバート様。軍を動かすのはコストの無駄ですわ。……カイルさん! 元・騎士の皆様に、『超高温の溶接魔法』と『解体用ハンマー』を用意させてくださいな!」
「はっ、アイーナ様! すでに『金塊回収班』として、やる気満々で待機しております!」
数時間後。ヴォルフ領の国境付近。
「待て! 壊さないでくれ! これは私の愛の結晶……アイーナへの最高のウェディング・ギフトなんだぞ!!」
麻袋を着たレオン殿下が、巨大な像の足元に縋り付いて叫んでいました。
どうやら、自分の像と一緒に(こっそり)運ばれてきたようです。
「殿下。公務執行妨害で時給をマイナスにされたいのですか? ……皆様、やってくださいまし!」
私が合図を送ると、元・騎士たちが一斉に巨大な黄金像に取り付きました。
「あぁ! 私の顔(黄金)が! アイーナの左腕(黄金)が、バラバラに解体されていく……!」
「殿下、ご安心ください。この金はすべて溶かして、我が領地とアステリアを結ぶ『アイーナ・ギルバート友好記念鉄道』の線路に変えて差し上げますわ。……あなたの愛は、物理的に両国を繋ぐインフラになるのです。光栄でしょう?」
私は泣き叫ぶレオン殿下に、これ以上ないほど輝かしい「無慈悲な笑顔」を向けました。
「……鉄道の、線路……? ……あ。なるほど! 私の愛の上を、君たちが永遠に走り続けるということか! あぁ、なんてロマンチックなんだ、アイーナ!!」
「…………マリエル様。あの方を、今すぐ線路の『バラスト(敷石)』の代わりに地面に埋めてきて差し上げて」
「承知いたしました、アイーナ様。……レオン様、もう本当に黙っていてくださいまし!」
巨大な黄金像が、数千枚の金板へと姿を変えていく中。
私は、その様子を満足げに眺めていました。
「……ふぅ。これで、結婚式の費用がすべて浮きましたわね、ギルバート様」
「アイーナ。……君は、アステリア王国の国宝を解体して、自分の結婚式の祝儀に変えたのか」
ギルバート様が、私の腰を引き寄せ、少しだけ戦慄したように笑いました。
「あら、有効活用ですわ。……さて、ギルバート様。邪魔者は(資源に)なりました。……あとは、式を挙げるだけですわね」
「ああ。……今度は誰にも邪魔させない。……愛しているよ、アイーナ。……営業用ではない、君の本当の笑顔を、一生私だけに見せてくれ」
ギルバート様の熱い視線に、私は言葉を失いました。
「……。……はい、喜んで!!」
私は、今日一番の、そして人生で初めての「本物の笑顔」で答えました。
その背後で、レオン殿下が「アイーナの笑顔は、やはり私の黄金の輝きがあってこそだーー!」と叫んでいましたが。
私たちは、その声を心地よいBGM(雑音)として聞き流し、固く手を繋ぎ合ったのでした。
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