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「……アイーナ、見てくれ。この黄金色に輝く線路を。……まさか、あの忌まわしい巨大像が、これほど美しく機能的な交通網に生まれ変わるとはな」
青く澄み渡った空の下、ヴォルフ公爵領とアステリア王国を結ぶ新路線の始発駅。
ギルバート様が感慨深げに、足元に伸びるレールを眺めて呟きました。
「ええ、ギルバート様。不純物を取り除き、最新の魔導技術で補強した『レオン・ピュアゴールド合金』の耐久性は抜群ですわ。……見てください、あの輝き。一キロ走るごとに、我が家の資産が跳ね上がる音が聞こえますわね」
私は数年前と変わらぬ、いえ、さらに磨きのかかった「経済女帝モード」の営業用スマイルを浮かべました。
今の私はヴォルフ公爵夫人でありながら、両国の経済を掌握する「大陸経済連合」の議長。
もはや私の一言で、翌日のパンの価格から隣国の軍事予算までが左右される存在です。
「アイーナ様! 式典の準備、すべて完了いたしましたわ! ……あ、あと、アステリア側から届いた祝辞の束の中に、また変な押し花が混じっていましたので、シュレッダーにかけておきましたわよ」
テキパキと指示を飛ばしながら現れたのは、私の第一秘書へと成長したマリエル様です。
かつての「悲劇のヒロイン志望」の面影はなく、今や「効率こそ正義」と断言する、冷徹にして有能なキャリアウーマンへと変貌を遂げました。
「素晴らしい判断ですわ、マリエル様。……ところで、今日の式典の『マスコット』の調子はどうかしら?」
「ええ、相変わらずですわ。……ほら、あそこで駅員帽を斜めに被って、乗客に投げキッスを振りまいているのが……」
マリエル様が指差した先。
そこには、金糸で縁取られた豪華な駅長制服に身を包んだレオン殿下の姿がありました。
「皆様! アステリア・ヴォルフ親善大使兼、初代名誉駅長のレオナルドです! この黄金のレールは私の愛そのもの! さあ、私のブロマイド付き特急券を買いなさい! 幸せになれますぞ!!」
「……レオン様、うるさいですわ。……アイーナ様、あの方、案の定、街の婦人方に『愛すべき残念な王子様』として大人気です。……ブロマイドの売上だけで、今月の駅の維持費が賄えてしまいますわ」
マリエル様が呆れたように帳簿を叩きました。
そう、レオン殿下はあの日以来、アステリア国王陛下からの多額の「更生維持費」に加え、自身のマスコット的な人気で自活(?)するまでに至ったのです。
「アイーナァァァ!! 見てくれ、私はついに鉄の馬(蒸気機関車)を操る騎士になったぞ! これで君をどこまでも、地獄の果てまでエスコートしてやろう!」
「殿下。地獄の果てではなく、隣の駅まで安全に客車を届けてくださいな。……あ、脱線したら、その制服の金ボタンをすべて没収しますわよ?」
私が営業用スマイルで釘を刺すと、レオン殿下は「ヒィッ! 厳しい、だがそこが痺れる!」と身悶えしながら運転席へと消えていきました。
「……ふぅ。……本当に、退屈しないな、私の妻は」
ギルバート様が背後から私を抱き寄せ、耳元で優しく囁きました。
「ギルバート様。……私はただ、皆様が幸せに、そして効率的に暮らせる世界を作りたいだけですわ。……それが結果として、私の財布を潤すことになるだけですの」
「……ああ。……だが、君が一番大切にしている『利益』は、私の愛だろう?」
ギルバート様の銀色の瞳が、甘く私を捕らえました。
「……。……その通りですわ。……ギルバート様との時間は、どんな黄金のレールよりも価値がありますもの」
私が少しだけ赤くなって答えると、式典の開始を告げる汽笛の音が響き渡りました。
『ポォォォーーー!!(アイーナァァァ!!)』
……気のせいか、汽笛の音までレオン殿下の叫び声に聞こえましたが、私は気にしないことにしました。
「さあ、出発進行ですわ! ……ギルバート様、マリエル様、カイルさん! 新しい時代の幕開けですわよ!」
「「「「はっ! 喜んで!!」」」」
かつての敵も、味方も、そして元婚約者さえも。
アイーナが敷いた「幸福と利益」という名のレールの上を、列車は力強く走り出しました。
彼女の自由は、もはや誰にも邪魔されることはありません。
なぜなら、彼女を邪魔しようとする者は、その瞬間に「経済的な死」を迎えることを、全大陸の人間が知っているのですから。
アイーナ・ヴォルフの快進撃は、まだ始まったばかり。
彼女の完璧な営業用スマイルは、これからも世界を豊かに(そして私腹を肥やしに)変えていくのでした。
青く澄み渡った空の下、ヴォルフ公爵領とアステリア王国を結ぶ新路線の始発駅。
ギルバート様が感慨深げに、足元に伸びるレールを眺めて呟きました。
「ええ、ギルバート様。不純物を取り除き、最新の魔導技術で補強した『レオン・ピュアゴールド合金』の耐久性は抜群ですわ。……見てください、あの輝き。一キロ走るごとに、我が家の資産が跳ね上がる音が聞こえますわね」
私は数年前と変わらぬ、いえ、さらに磨きのかかった「経済女帝モード」の営業用スマイルを浮かべました。
今の私はヴォルフ公爵夫人でありながら、両国の経済を掌握する「大陸経済連合」の議長。
もはや私の一言で、翌日のパンの価格から隣国の軍事予算までが左右される存在です。
「アイーナ様! 式典の準備、すべて完了いたしましたわ! ……あ、あと、アステリア側から届いた祝辞の束の中に、また変な押し花が混じっていましたので、シュレッダーにかけておきましたわよ」
テキパキと指示を飛ばしながら現れたのは、私の第一秘書へと成長したマリエル様です。
かつての「悲劇のヒロイン志望」の面影はなく、今や「効率こそ正義」と断言する、冷徹にして有能なキャリアウーマンへと変貌を遂げました。
「素晴らしい判断ですわ、マリエル様。……ところで、今日の式典の『マスコット』の調子はどうかしら?」
「ええ、相変わらずですわ。……ほら、あそこで駅員帽を斜めに被って、乗客に投げキッスを振りまいているのが……」
マリエル様が指差した先。
そこには、金糸で縁取られた豪華な駅長制服に身を包んだレオン殿下の姿がありました。
「皆様! アステリア・ヴォルフ親善大使兼、初代名誉駅長のレオナルドです! この黄金のレールは私の愛そのもの! さあ、私のブロマイド付き特急券を買いなさい! 幸せになれますぞ!!」
「……レオン様、うるさいですわ。……アイーナ様、あの方、案の定、街の婦人方に『愛すべき残念な王子様』として大人気です。……ブロマイドの売上だけで、今月の駅の維持費が賄えてしまいますわ」
マリエル様が呆れたように帳簿を叩きました。
そう、レオン殿下はあの日以来、アステリア国王陛下からの多額の「更生維持費」に加え、自身のマスコット的な人気で自活(?)するまでに至ったのです。
「アイーナァァァ!! 見てくれ、私はついに鉄の馬(蒸気機関車)を操る騎士になったぞ! これで君をどこまでも、地獄の果てまでエスコートしてやろう!」
「殿下。地獄の果てではなく、隣の駅まで安全に客車を届けてくださいな。……あ、脱線したら、その制服の金ボタンをすべて没収しますわよ?」
私が営業用スマイルで釘を刺すと、レオン殿下は「ヒィッ! 厳しい、だがそこが痺れる!」と身悶えしながら運転席へと消えていきました。
「……ふぅ。……本当に、退屈しないな、私の妻は」
ギルバート様が背後から私を抱き寄せ、耳元で優しく囁きました。
「ギルバート様。……私はただ、皆様が幸せに、そして効率的に暮らせる世界を作りたいだけですわ。……それが結果として、私の財布を潤すことになるだけですの」
「……ああ。……だが、君が一番大切にしている『利益』は、私の愛だろう?」
ギルバート様の銀色の瞳が、甘く私を捕らえました。
「……。……その通りですわ。……ギルバート様との時間は、どんな黄金のレールよりも価値がありますもの」
私が少しだけ赤くなって答えると、式典の開始を告げる汽笛の音が響き渡りました。
『ポォォォーーー!!(アイーナァァァ!!)』
……気のせいか、汽笛の音までレオン殿下の叫び声に聞こえましたが、私は気にしないことにしました。
「さあ、出発進行ですわ! ……ギルバート様、マリエル様、カイルさん! 新しい時代の幕開けですわよ!」
「「「「はっ! 喜んで!!」」」」
かつての敵も、味方も、そして元婚約者さえも。
アイーナが敷いた「幸福と利益」という名のレールの上を、列車は力強く走り出しました。
彼女の自由は、もはや誰にも邪魔されることはありません。
なぜなら、彼女を邪魔しようとする者は、その瞬間に「経済的な死」を迎えることを、全大陸の人間が知っているのですから。
アイーナ・ヴォルフの快進撃は、まだ始まったばかり。
彼女の完璧な営業用スマイルは、これからも世界を豊かに(そして私腹を肥やしに)変えていくのでした。
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