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「……さもなくば、なんだ?」
シルベスターの低い声が、王城前広場の空気を凍りつかせる。
彼から溢れ出る魔力は、視覚化できるほどの黒い靄となり、対峙する近衛騎士たちを威圧していた。
騎士たちの馬が怯えて嘶き、数人が恐怖のあまり武器を取り落とす。
カシャン、カシャンという音が、静まり返った広場に虚しく響く。
宰相フランツは、額に脂汗を浮かべながらも、一歩も引かずに立っていた。
「……さもなくば、実力行使により排除します。たとえ相手が『魔王』であろうとも、国家の威信にかけて」
「ほう。国家の威信か」
シルベスターが口角を吊り上げた。
「面白い。そのペラペラの威信とやらが、俺の『極大重力波(グラビティ・ブラスト)』に耐えられるか試してみるか?」
彼の手のひらに、禍々しい赤黒い光が収束していく。
あれは本気だ。
放てば王城の正門どころか、王都の区画が一つ消し飛ぶ。
「待ってください、シルベスター様」
私は扇子で彼の手首を軽く叩いた。
「いきなり吹き飛ばしては、交渉になりません。それに、土煙で私の肌が荒れます」
「……む。それは困るな」
シルベスターは素直に魔力を霧散させた。
「だがカモミール、こいつらは俺たちの安眠を妨げる敵だぞ」
「ええ。ですから、文明的な方法で殴り倒しましょう」
私はフランツに向き直り、優雅に微笑んだ。
「お久しぶりですね、宰相閣下。目の下のクマが以前より濃くなっていますよ? ちゃんと寝ていらっしゃいますか?」
「……誰のせいだと思っているのですか」
フランツがギリリと奥歯を噛み締める。
「貴女が物流を止め、業務マニュアルを暗号化したせいで、私はこの一週間、合計で十時間しか寝ていません」
「それはお気の毒に。ですが、それは『自業自得』というものです」
私は懐から、一枚の書類を取り出した。
「反逆罪とおっしゃいましたが、私はただ『不当解雇に対する抗議活動(ストライキ)』を行っているだけです」
「抗議活動……?」
「ええ。アレック殿下による一方的な婚約破棄、および無賃労働の強要。これに対し、スリープ公爵家は正当な権利として取引を停止しました。これは商法第◯条に基づく合法的措置です」
私は書類をヒラヒラとさせた。
「反逆ではありません。ビジネス上のトラブルです。それを『国家反逆』などと大袈裟な言葉で飾り立てて、武力で解決しようとするのは……いささか野蛮ではありませんか? 『知の巨人』と呼ばれる宰相閣下らしくもない」
「……ぐっ」
フランツが言葉に詰まる。
論理と法律で攻められれば、彼に勝ち目はない。
なぜなら、元凶がアレック王子にあることは明白だからだ。
「それに、私を見て『やつれた』と思いますか?」
私は扇子を閉じ、両手を広げてみせた。
秋の日差しを浴びて、私の肌は白磁のように輝いている(はずだ)。
髪は艶やかで、瞳には力が満ちている。
「監禁? 洗脳? ……見ての通り、私は以前より遥かに健康的で、満ち足りていますわ」
「……確かに」
フランツは眼鏡の位置を直し、まじまじと私を見た。
「王城にいた頃のような、死相が出ていない……。むしろ、若返っている……?」
周囲の騎士たちや、遠巻きに見ている市民たちからも、ざわめきが起こる。
『おい、見たか? カモミール様、めちゃくちゃ綺麗になってないか?』
『あんなに肌ツヤが良かったっけ?』
『魔王城に行くと綺麗になれるのか……?』
私の健康美(睡眠効果)が、洗脳説を根底から覆していく。
「ご理解いただけたようで何よりです。……さて、陛下がお待ちなのでしょう? 案内していただけますか?」
私はフランツに促した。
「……武器を捨てろとは言いませんが、その殺気は収めてください。私のパートナーが『寝不足でイライラしている』ので、暴発しかねません」
「……分かりました」
フランツは溜息をつき、騎士たちに剣を収めるよう合図した。
「謁見の間へ案内します。……ただし」
彼はシルベスターを見た。
「公爵閣下も、その威圧感を消してください。心臓の弱い文官がショック死します」
「善処する。……だが、歩くのは面倒だな」
シルベスターはあくびをした。
「カモミール、疲れていないか?」
「ええ、少し。馬車の揺れも心地よかったですが、やはり地面は固いですから」
「ならば、こうしよう」
シルベスターが指を鳴らした。
パチン!
その瞬間、私たちの足元の影が、ドロドロと盛り上がった。
「な、なんだ!?」
騎士たちが悲鳴を上げて退く。
影は形を変え、巨大な『輿(こし)』……パランキンの形状になった。
漆黒の闇でできた座席には、ふかふかのクッションが敷き詰められ、天蓋からは星屑のような光が垂れ下がっている。
そして、その輿を担ぐのは、影から生まれた四体の『影の巨人(シャドウ・ゴーレム)』たちだ。
「乗れ、カモミール。女王の凱旋だ」
シルベスターが手を差し出す。
「……目立ちすぎませんか?」
「歩いて体力を消耗するよりマシだ。それに、俺たちの格を見せつけてやる必要がある」
「……一理ありますね」
私は彼の手を取り、影の輿に乗り込んだ。
座り心地は最高だ。雲の上に浮いているような浮遊感がある。
シルベスターも隣に座り、私の肩を抱く。
「進め」
ズシン、ズシン……。
影の巨人たちが歩き出す。
その威容は、まさに『魔王と魔女のパレード』だった。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
「道を開けろ! 踏み潰されるぞ!」
騎士たちが慌てて左右に分かれ、道を作る。
私たちは悠々と、王城の正門をくぐり抜けた。
中庭を通り、本城のエントランスへ。
かつて、私はここを毎朝、書類の詰まった重い鞄を持って走っていた。
雨の日も、風の日も、眠い目をこすりながら。
けれど今は違う。
最強の魔王に守られ、魔法の輿に乗り、見下ろす位置から城を眺めている。
(……悪くない気分ね)
私は隣のシルベスターに寄りかかった。
「ありがとう、シルベスター様。最高の移動手段です」
「礼には及ばん。お前の足が浮腫むのを防ぐためだ」
彼はぶっきらぼうに言いながらも、嬉しそうに私の腰を撫でた。
城内に入っても、私たちは輿から降りなかった。
広い廊下も、階段も、影の巨人たちは障害物などないかのように進んでいく。
すれ違うメイドや文官たちが、壁際にへばりついて震えている。
『あ、あれがカモミール様……?』
『魔王を従えている……いや、魔王に守られている……』
『なんて美しいんだ……そしてなんて恐ろしい……』
彼らの視線には、かつての侮蔑はない。
あるのは『畏怖』と、圧倒的な力への『称賛』だ。
そして、ついに『謁見の間』の巨大な扉の前に到着した。
「……着いたな」
シルベスターが指を鳴らすと、影の輿は静かに消滅し、私たちはふわりと地面に降り立った。
「準備はいいか?」
「ええ、いつでも。……書類(請求書)の準備も万端です」
私はドレスのシワを直し、背筋を伸ばした。
ギギギギ……ッ!
重厚な扉が、左右から開かれる。
広大な謁見の間。
赤い絨毯の先、玉座には、初老の国王が座っていた。
その顔色は悪く、心労で一気に老け込んだように見える。
そして、その横には。
全身を包帯で巻かれ、松葉杖をついた痛々しい姿の男――アレック王子と。
彼を支えるように立っている(が、実際には腕を爪が食い込むほど強く掴んでいる)、ピンク色のドレスの女――ミナがいた。
「……来たか、国の反逆者どもめ」
アレック王子が、掠れた声で唸った。
「よくも……よくも私を馬糞溜めに……! この屈辱、万死に値するぞ!」
「あら、ごきげんよう殿下。随分と個性的なファッションですね。ミイラのコスプレですか?」
私は涼しい顔で挨拶した。
「貴様ぁぁぁ……!」
「静まれ、アレック」
玉座の国王が、重々しく声を上げた。
「……よく来た、ナイトメア公爵。そしてカモミール嬢よ」
国王の視線が、私たちを射抜く。
「其方らの行いは、我が国の秩序を著しく乱した。……弁明はあるか?」
場の空気が張り詰める。
数百人の貴族たちが見守る中、公開裁判のような雰囲気だ。
ここで下手なことを言えば、即座に処刑命令が下るかもしれない。
私は一歩前に出ようとした。
だが、シルベスターがそれを制し、自ら前に出た。
「弁明? 必要ない」
彼は傲然と言い放った。
「俺たちがここに来たのは、謝罪するためではない。……最後通常告をするためだ」
「……通告だと?」
「ああ。俺のカモミールを、これ以上お前らの薄汚い政治の道具にするな」
シルベスターの声が、雷鳴のように広間に響き渡る。
「こいつは俺の『安眠』の鍵だ。こいつを傷つける者、こいつを奪おうとする者、そしてこいつに無駄な残業をさせる者……。例外なく、俺が滅ぼす」
彼は国王を真っ直ぐに見据えた。
「国か、安眠か。……選ぶのはお前たちだ」
宣戦布告。
あまりにも堂々とした、魔王の脅迫。
広間中が凍りつく中、私は思わず噴き出しそうになった。
(……本当に、ブレない人)
私はクスクスと笑い、彼の隣に並んだ。
「そういうことです、陛下。……さて、ここからは『損害賠償』と『慰謝料』、そして『今後の労働条件』についての交渉を始めさせていただきます」
私は分厚いファイルを取り出し、バンッ! と叩いた。
「長くなりますので、お茶とお菓子のご用意を。……あ、キュウリサンド以外でお願いしますね」
私の言葉に、アレック王子が「まだ言うか!」と叫び、ミナが「キーッ!」と歯軋りをする。
王都決戦。
剣ではなく、言葉と契約書による殴り合いが、今幕を開けた。
シルベスターの低い声が、王城前広場の空気を凍りつかせる。
彼から溢れ出る魔力は、視覚化できるほどの黒い靄となり、対峙する近衛騎士たちを威圧していた。
騎士たちの馬が怯えて嘶き、数人が恐怖のあまり武器を取り落とす。
カシャン、カシャンという音が、静まり返った広場に虚しく響く。
宰相フランツは、額に脂汗を浮かべながらも、一歩も引かずに立っていた。
「……さもなくば、実力行使により排除します。たとえ相手が『魔王』であろうとも、国家の威信にかけて」
「ほう。国家の威信か」
シルベスターが口角を吊り上げた。
「面白い。そのペラペラの威信とやらが、俺の『極大重力波(グラビティ・ブラスト)』に耐えられるか試してみるか?」
彼の手のひらに、禍々しい赤黒い光が収束していく。
あれは本気だ。
放てば王城の正門どころか、王都の区画が一つ消し飛ぶ。
「待ってください、シルベスター様」
私は扇子で彼の手首を軽く叩いた。
「いきなり吹き飛ばしては、交渉になりません。それに、土煙で私の肌が荒れます」
「……む。それは困るな」
シルベスターは素直に魔力を霧散させた。
「だがカモミール、こいつらは俺たちの安眠を妨げる敵だぞ」
「ええ。ですから、文明的な方法で殴り倒しましょう」
私はフランツに向き直り、優雅に微笑んだ。
「お久しぶりですね、宰相閣下。目の下のクマが以前より濃くなっていますよ? ちゃんと寝ていらっしゃいますか?」
「……誰のせいだと思っているのですか」
フランツがギリリと奥歯を噛み締める。
「貴女が物流を止め、業務マニュアルを暗号化したせいで、私はこの一週間、合計で十時間しか寝ていません」
「それはお気の毒に。ですが、それは『自業自得』というものです」
私は懐から、一枚の書類を取り出した。
「反逆罪とおっしゃいましたが、私はただ『不当解雇に対する抗議活動(ストライキ)』を行っているだけです」
「抗議活動……?」
「ええ。アレック殿下による一方的な婚約破棄、および無賃労働の強要。これに対し、スリープ公爵家は正当な権利として取引を停止しました。これは商法第◯条に基づく合法的措置です」
私は書類をヒラヒラとさせた。
「反逆ではありません。ビジネス上のトラブルです。それを『国家反逆』などと大袈裟な言葉で飾り立てて、武力で解決しようとするのは……いささか野蛮ではありませんか? 『知の巨人』と呼ばれる宰相閣下らしくもない」
「……ぐっ」
フランツが言葉に詰まる。
論理と法律で攻められれば、彼に勝ち目はない。
なぜなら、元凶がアレック王子にあることは明白だからだ。
「それに、私を見て『やつれた』と思いますか?」
私は扇子を閉じ、両手を広げてみせた。
秋の日差しを浴びて、私の肌は白磁のように輝いている(はずだ)。
髪は艶やかで、瞳には力が満ちている。
「監禁? 洗脳? ……見ての通り、私は以前より遥かに健康的で、満ち足りていますわ」
「……確かに」
フランツは眼鏡の位置を直し、まじまじと私を見た。
「王城にいた頃のような、死相が出ていない……。むしろ、若返っている……?」
周囲の騎士たちや、遠巻きに見ている市民たちからも、ざわめきが起こる。
『おい、見たか? カモミール様、めちゃくちゃ綺麗になってないか?』
『あんなに肌ツヤが良かったっけ?』
『魔王城に行くと綺麗になれるのか……?』
私の健康美(睡眠効果)が、洗脳説を根底から覆していく。
「ご理解いただけたようで何よりです。……さて、陛下がお待ちなのでしょう? 案内していただけますか?」
私はフランツに促した。
「……武器を捨てろとは言いませんが、その殺気は収めてください。私のパートナーが『寝不足でイライラしている』ので、暴発しかねません」
「……分かりました」
フランツは溜息をつき、騎士たちに剣を収めるよう合図した。
「謁見の間へ案内します。……ただし」
彼はシルベスターを見た。
「公爵閣下も、その威圧感を消してください。心臓の弱い文官がショック死します」
「善処する。……だが、歩くのは面倒だな」
シルベスターはあくびをした。
「カモミール、疲れていないか?」
「ええ、少し。馬車の揺れも心地よかったですが、やはり地面は固いですから」
「ならば、こうしよう」
シルベスターが指を鳴らした。
パチン!
その瞬間、私たちの足元の影が、ドロドロと盛り上がった。
「な、なんだ!?」
騎士たちが悲鳴を上げて退く。
影は形を変え、巨大な『輿(こし)』……パランキンの形状になった。
漆黒の闇でできた座席には、ふかふかのクッションが敷き詰められ、天蓋からは星屑のような光が垂れ下がっている。
そして、その輿を担ぐのは、影から生まれた四体の『影の巨人(シャドウ・ゴーレム)』たちだ。
「乗れ、カモミール。女王の凱旋だ」
シルベスターが手を差し出す。
「……目立ちすぎませんか?」
「歩いて体力を消耗するよりマシだ。それに、俺たちの格を見せつけてやる必要がある」
「……一理ありますね」
私は彼の手を取り、影の輿に乗り込んだ。
座り心地は最高だ。雲の上に浮いているような浮遊感がある。
シルベスターも隣に座り、私の肩を抱く。
「進め」
ズシン、ズシン……。
影の巨人たちが歩き出す。
その威容は、まさに『魔王と魔女のパレード』だった。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
「道を開けろ! 踏み潰されるぞ!」
騎士たちが慌てて左右に分かれ、道を作る。
私たちは悠々と、王城の正門をくぐり抜けた。
中庭を通り、本城のエントランスへ。
かつて、私はここを毎朝、書類の詰まった重い鞄を持って走っていた。
雨の日も、風の日も、眠い目をこすりながら。
けれど今は違う。
最強の魔王に守られ、魔法の輿に乗り、見下ろす位置から城を眺めている。
(……悪くない気分ね)
私は隣のシルベスターに寄りかかった。
「ありがとう、シルベスター様。最高の移動手段です」
「礼には及ばん。お前の足が浮腫むのを防ぐためだ」
彼はぶっきらぼうに言いながらも、嬉しそうに私の腰を撫でた。
城内に入っても、私たちは輿から降りなかった。
広い廊下も、階段も、影の巨人たちは障害物などないかのように進んでいく。
すれ違うメイドや文官たちが、壁際にへばりついて震えている。
『あ、あれがカモミール様……?』
『魔王を従えている……いや、魔王に守られている……』
『なんて美しいんだ……そしてなんて恐ろしい……』
彼らの視線には、かつての侮蔑はない。
あるのは『畏怖』と、圧倒的な力への『称賛』だ。
そして、ついに『謁見の間』の巨大な扉の前に到着した。
「……着いたな」
シルベスターが指を鳴らすと、影の輿は静かに消滅し、私たちはふわりと地面に降り立った。
「準備はいいか?」
「ええ、いつでも。……書類(請求書)の準備も万端です」
私はドレスのシワを直し、背筋を伸ばした。
ギギギギ……ッ!
重厚な扉が、左右から開かれる。
広大な謁見の間。
赤い絨毯の先、玉座には、初老の国王が座っていた。
その顔色は悪く、心労で一気に老け込んだように見える。
そして、その横には。
全身を包帯で巻かれ、松葉杖をついた痛々しい姿の男――アレック王子と。
彼を支えるように立っている(が、実際には腕を爪が食い込むほど強く掴んでいる)、ピンク色のドレスの女――ミナがいた。
「……来たか、国の反逆者どもめ」
アレック王子が、掠れた声で唸った。
「よくも……よくも私を馬糞溜めに……! この屈辱、万死に値するぞ!」
「あら、ごきげんよう殿下。随分と個性的なファッションですね。ミイラのコスプレですか?」
私は涼しい顔で挨拶した。
「貴様ぁぁぁ……!」
「静まれ、アレック」
玉座の国王が、重々しく声を上げた。
「……よく来た、ナイトメア公爵。そしてカモミール嬢よ」
国王の視線が、私たちを射抜く。
「其方らの行いは、我が国の秩序を著しく乱した。……弁明はあるか?」
場の空気が張り詰める。
数百人の貴族たちが見守る中、公開裁判のような雰囲気だ。
ここで下手なことを言えば、即座に処刑命令が下るかもしれない。
私は一歩前に出ようとした。
だが、シルベスターがそれを制し、自ら前に出た。
「弁明? 必要ない」
彼は傲然と言い放った。
「俺たちがここに来たのは、謝罪するためではない。……最後通常告をするためだ」
「……通告だと?」
「ああ。俺のカモミールを、これ以上お前らの薄汚い政治の道具にするな」
シルベスターの声が、雷鳴のように広間に響き渡る。
「こいつは俺の『安眠』の鍵だ。こいつを傷つける者、こいつを奪おうとする者、そしてこいつに無駄な残業をさせる者……。例外なく、俺が滅ぼす」
彼は国王を真っ直ぐに見据えた。
「国か、安眠か。……選ぶのはお前たちだ」
宣戦布告。
あまりにも堂々とした、魔王の脅迫。
広間中が凍りつく中、私は思わず噴き出しそうになった。
(……本当に、ブレない人)
私はクスクスと笑い、彼の隣に並んだ。
「そういうことです、陛下。……さて、ここからは『損害賠償』と『慰謝料』、そして『今後の労働条件』についての交渉を始めさせていただきます」
私は分厚いファイルを取り出し、バンッ! と叩いた。
「長くなりますので、お茶とお菓子のご用意を。……あ、キュウリサンド以外でお願いしますね」
私の言葉に、アレック王子が「まだ言うか!」と叫び、ミナが「キーッ!」と歯軋りをする。
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