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「予算が足りません! これでは騎士団の鎧が新調できません!」
「魔物討伐の遠征費も底をついています! どうするおつもりですか!」
「河川の氾濫対策費、なぜ削減されたのですか! 領民が不安がっています!」
王城の大会議室。
そこは、怒号と悲鳴が飛び交う地獄絵図と化していた。
円卓の上座に座るエドワード殿下の顔色は、死人のように青白い。
本来なら、この「定例予算会議」は、カロリーナが事前に根回しを済ませ、完璧な配分案を作成済みのため、三十分でお茶を飲みながらシャンシャンと終わるはずのものだった。
しかし、今の殿下の目の前にあるのは、数字が合わない資料と、食ってかかる大臣たちの形相だけだ。
「え、ええと……騎士団の鎧は、その、まだ使えるだろう? 古いものを修理して……」
「限界です! ガムテープで補修しろと仰るのですか!?」
「遠征費は……みんなで少しずつ節約して……」
「兵糧を減らせと!? 騎士たちに餓死しろと!?」
殿下のあやふやな答弁に、現場の不満が爆発する。
ガンッ!
財務大臣が机を叩いた。
「殿下! そもそも、カロリーナ嬢が構築した『魔石輸出による外貨獲得スキーム』を、なぜ停止させたのですか!? あれが国家予算の二割を支えていたのですよ!」
「だ、だって……ミミが『石さんを売るなんて可哀想』って言うから……」
「石は可哀想ではありません! 可哀想なのは給料未払いの我々です!」
大臣たちが一斉に詰め寄る。
エドワード殿下が「ひぃっ」と椅子の上で小さくなったその時。
バァァァン!!
会議室の扉が、場違いに明るい音と共に開かれた。
「もうっ! みなさぁーん! 喧嘩はメッ! ですよぉ~☆」
フリフリのドレスを着たミミ嬢が、バスケットを手にスキップで入ってきた。
「み、ミミ……? ここは会議中だぞ……」
「だってぇ、エドワード様が困ってる声が聞こえたからぁ。ミミ、助けに来ちゃいました!」
彼女はウィンクを飛ばし、殺気立つおじ様たち(大臣)の前に進み出た。
「みなさん、カリカリしてるとシワが増えちゃいますよぉ? ほら、深呼吸~! スー、ハー!」
「……」
大臣たちのこめかみに、青筋が浮かぶ。
空気が読めないミミは、バスケットから焦げたクッキーのようなものを取り出した。
「はい、これ! ミミの手作りクッキーですぅ! これを食べれば、みんなニッコリ仲直り! 予算とか難しいことは忘れて、みんなで仲良くしましょう?」
彼女は満面の笑みで、財務大臣の口元に黒い塊を差し出した。
「さあ、あーん!」
財務大臣(五十八歳・糖尿病持ち)の目が、据わった。
パシッ。
大臣はミミの手を払いのけた。
クッキーが床に転がり、ゴトッという鈍い音を立てる(硬度が石レベル)。
「……ふざけるな」
「えっ?」
「我々は国家の存亡について議論しているのだ! クッキーで予算が増えるか! 笑顔で魔物が倒せるか! ふざけるのも大概にしろ!」
大臣の怒声が炸裂した。
ミミはぽかんと口を開け、次の瞬間、瞳に涙を溜めた。
「ひ、ひどい……ミミは、みんなのために……愛の力で解決しようと……」
「愛で腹は膨れん!! 必要なのは金と政策だ!!」
「うわぁぁぁん! エドワード様ぁ! いじめられたぁ!」
ミミが殿下に泣きつく。
いつもなら「ミミになんてことを言うんだ!」と庇うはずのエドワード殿下だが、今はその余裕すらなく、ただただ虚空を見つめていた。
(……カロリーナなら)
またしても、脳裏によぎる元婚約者の姿。
『大臣。ご指摘の件については、こちらのB案をご用意しております。代替財源として、王族の交際費を三割カットし、それを充当します』
『騎士団長の要求ももっともですが、まずは装備の調達ルートを見直しましょう。中間マージンをカットすれば、同予算で一・二割多く購入可能です』
彼女は決して感情論に流されず、常に「具体的な数字」と「代替案」を用意していた。
クッキーではなく、完璧な資料を配っていた。
「……ミミ。下がっていなさい」
「えっ? で、でもぉ……」
「下がれと言っているんだ!!」
殿下が初めて、ミミに向かって声を荒らげた。
ミミはびくりと震え、信じられないものを見る目で殿下を見た後、「嫌い! エドワード様なんて知らない!」と叫んで走り去っていった。
会議室に、気まずい沈黙が流れる。
「……殿下。結論を」
財務大臣が冷たく告げた。
「カロリーナ嬢を呼び戻してください。でなければ、我々全員、辞表を提出させていただきます」
「なっ……!?」
「これは脅しではありません。彼女なしで、この国の行政は回りません。それが証明されました」
大臣たちは一斉に立ち上がり、一礼もせずに部屋を出て行った。
残されたのは、エドワード殿下ただ一人。
そして、床に転がる硬いクッキー。
「……呼び戻せと言われても……」
殿下は頭を抱えた。
今さら、どの面を下げて。
しかも、相手はあの鉄壁のカロリーナだ。
「……そうだ。ギルバートだ」
殿下は藁にもすがる思いで呟いた。
「ギルバートなら、彼女と仲が良かったはず。彼に説得させよう。そうだ、それがいい」
その頃。
頼みの綱であるギルバート騎士団長は、公爵領の門前で、門前払いを食らい続けていた。
「お帰りください。お嬢様は『現在、堆肥(たいひ)の配合実験中で手が離せません』とのことです」
「た、堆肥!? 国の危機より肥料が大事なのか!?」
「はい。『国は滅びても土は残りますから』と」
「カロリーナァァァァァ!!」
王都の混乱は、まだ始まったばかりである。
「魔物討伐の遠征費も底をついています! どうするおつもりですか!」
「河川の氾濫対策費、なぜ削減されたのですか! 領民が不安がっています!」
王城の大会議室。
そこは、怒号と悲鳴が飛び交う地獄絵図と化していた。
円卓の上座に座るエドワード殿下の顔色は、死人のように青白い。
本来なら、この「定例予算会議」は、カロリーナが事前に根回しを済ませ、完璧な配分案を作成済みのため、三十分でお茶を飲みながらシャンシャンと終わるはずのものだった。
しかし、今の殿下の目の前にあるのは、数字が合わない資料と、食ってかかる大臣たちの形相だけだ。
「え、ええと……騎士団の鎧は、その、まだ使えるだろう? 古いものを修理して……」
「限界です! ガムテープで補修しろと仰るのですか!?」
「遠征費は……みんなで少しずつ節約して……」
「兵糧を減らせと!? 騎士たちに餓死しろと!?」
殿下のあやふやな答弁に、現場の不満が爆発する。
ガンッ!
財務大臣が机を叩いた。
「殿下! そもそも、カロリーナ嬢が構築した『魔石輸出による外貨獲得スキーム』を、なぜ停止させたのですか!? あれが国家予算の二割を支えていたのですよ!」
「だ、だって……ミミが『石さんを売るなんて可哀想』って言うから……」
「石は可哀想ではありません! 可哀想なのは給料未払いの我々です!」
大臣たちが一斉に詰め寄る。
エドワード殿下が「ひぃっ」と椅子の上で小さくなったその時。
バァァァン!!
会議室の扉が、場違いに明るい音と共に開かれた。
「もうっ! みなさぁーん! 喧嘩はメッ! ですよぉ~☆」
フリフリのドレスを着たミミ嬢が、バスケットを手にスキップで入ってきた。
「み、ミミ……? ここは会議中だぞ……」
「だってぇ、エドワード様が困ってる声が聞こえたからぁ。ミミ、助けに来ちゃいました!」
彼女はウィンクを飛ばし、殺気立つおじ様たち(大臣)の前に進み出た。
「みなさん、カリカリしてるとシワが増えちゃいますよぉ? ほら、深呼吸~! スー、ハー!」
「……」
大臣たちのこめかみに、青筋が浮かぶ。
空気が読めないミミは、バスケットから焦げたクッキーのようなものを取り出した。
「はい、これ! ミミの手作りクッキーですぅ! これを食べれば、みんなニッコリ仲直り! 予算とか難しいことは忘れて、みんなで仲良くしましょう?」
彼女は満面の笑みで、財務大臣の口元に黒い塊を差し出した。
「さあ、あーん!」
財務大臣(五十八歳・糖尿病持ち)の目が、据わった。
パシッ。
大臣はミミの手を払いのけた。
クッキーが床に転がり、ゴトッという鈍い音を立てる(硬度が石レベル)。
「……ふざけるな」
「えっ?」
「我々は国家の存亡について議論しているのだ! クッキーで予算が増えるか! 笑顔で魔物が倒せるか! ふざけるのも大概にしろ!」
大臣の怒声が炸裂した。
ミミはぽかんと口を開け、次の瞬間、瞳に涙を溜めた。
「ひ、ひどい……ミミは、みんなのために……愛の力で解決しようと……」
「愛で腹は膨れん!! 必要なのは金と政策だ!!」
「うわぁぁぁん! エドワード様ぁ! いじめられたぁ!」
ミミが殿下に泣きつく。
いつもなら「ミミになんてことを言うんだ!」と庇うはずのエドワード殿下だが、今はその余裕すらなく、ただただ虚空を見つめていた。
(……カロリーナなら)
またしても、脳裏によぎる元婚約者の姿。
『大臣。ご指摘の件については、こちらのB案をご用意しております。代替財源として、王族の交際費を三割カットし、それを充当します』
『騎士団長の要求ももっともですが、まずは装備の調達ルートを見直しましょう。中間マージンをカットすれば、同予算で一・二割多く購入可能です』
彼女は決して感情論に流されず、常に「具体的な数字」と「代替案」を用意していた。
クッキーではなく、完璧な資料を配っていた。
「……ミミ。下がっていなさい」
「えっ? で、でもぉ……」
「下がれと言っているんだ!!」
殿下が初めて、ミミに向かって声を荒らげた。
ミミはびくりと震え、信じられないものを見る目で殿下を見た後、「嫌い! エドワード様なんて知らない!」と叫んで走り去っていった。
会議室に、気まずい沈黙が流れる。
「……殿下。結論を」
財務大臣が冷たく告げた。
「カロリーナ嬢を呼び戻してください。でなければ、我々全員、辞表を提出させていただきます」
「なっ……!?」
「これは脅しではありません。彼女なしで、この国の行政は回りません。それが証明されました」
大臣たちは一斉に立ち上がり、一礼もせずに部屋を出て行った。
残されたのは、エドワード殿下ただ一人。
そして、床に転がる硬いクッキー。
「……呼び戻せと言われても……」
殿下は頭を抱えた。
今さら、どの面を下げて。
しかも、相手はあの鉄壁のカロリーナだ。
「……そうだ。ギルバートだ」
殿下は藁にもすがる思いで呟いた。
「ギルバートなら、彼女と仲が良かったはず。彼に説得させよう。そうだ、それがいい」
その頃。
頼みの綱であるギルバート騎士団長は、公爵領の門前で、門前払いを食らい続けていた。
「お帰りください。お嬢様は『現在、堆肥(たいひ)の配合実験中で手が離せません』とのことです」
「た、堆肥!? 国の危機より肥料が大事なのか!?」
「はい。『国は滅びても土は残りますから』と」
「カロリーナァァァァァ!!」
王都の混乱は、まだ始まったばかりである。
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