悪役令嬢の契約解除(婚約破棄)、所定の違約金を請求します!

黒猫かの

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「……目が覚めたかい、眠り姫」

瞼を開けると、そこは豪奢な天蓋付きのベッドだった。

視界に入ってきたのは、満足げな笑みを浮かべたエドワード殿下の顔。

そして、窓の外に見える景色は、見覚えのある王家の離宮(別荘)の庭園だった。

「……おはようございます、殿下。随分と乱暴な『モーニングコール』でしたね」

私は上半身を起こし、冷静に周囲を見渡した。

扉には重厚な鍵。

窓には鉄格子(後付けされたようだ)。

そして部屋の中には、なぜか大量のぬいぐるみと、ピンク色のクッションが置かれている。

「気に入ったかい? ここは僕たちの『愛の巣』だ。ミミが『カロリーナ様も可愛いお部屋なら素直になれるはず☆』ってコーディネートしてくれたんだ」

「……吐き気がしますね。色彩暴力です」

私は即座に枕元のピンクのウサギを掴み、床に投げ捨てた。

「ひどいな。でも、そんな強気なところも可愛いよ」

殿下は全くめげずに微笑んでいる。

どうやら、彼の脳内補正は「私を監禁した」という事実によって、さらに強化されてしまったらしい。

「さて、僕はこれから少し出かけてくる。隣国の皇帝とか、ギルバートとか、うるさい連中が追いかけてきているからね。少し『迷子』になってもらうよう、偽の痕跡を撒いてくるよ」

「……ご苦労なことですね。そんな時間稼ぎ、半日も持ちませんよ」

「半日あれば十分さ。その間に、ここで君と既成事実を……」

殿下が私の肩に手を伸ばそうとする。

私はスッと眼鏡を外し、冷徹な視線を突き刺した。

「殿下。私に指一本でも触れてご覧なさい。貴方が過去に『王家の隠し資産』を使って購入した、怪しい絵画コレクションのリストを、王都の新聞社にリークします」

「えっ!? な、なんでそれを……!?」

「私が貴方の資産管理を何年やっていたと思っているのですか? 脅迫材料(ネタ)なら、あと百個はありますよ?」

「うっ……」

殿下は手を引っ込めた。

監禁してもなお、私の情報支配力には勝てないことを本能的に悟ったようだ。

「……ま、まあいい。お楽しみは後だ。大人しく待っているんだよ、僕の可愛い囚人さん」

殿下は引きつった笑みを残し、部屋を出て行った。

ガチャリ、と重い鍵がかかる音がする。

「……さて」

私は一人残された部屋で、大きく息を吐いた。

「暇ですね」

監禁生活。

普通の令嬢なら「出して!」と泣き叫ぶところだが、私はそんな非生産的なことはしない。

まずは状況確認だ。

部屋の広さは約二十畳。

家具は高級品だが、趣味が悪い。

そして、部屋の隅には、場違いなほど頑丈そうな金庫が一つ置かれている。

「……ほう?」

私の眼鏡がキラリと光った。

「あれは……王家御用達の魔導金庫、『鉄壁くん3号』ですね。耐火、耐水、防犯機能付きの最高級品」

なぜ、愛の巣(笑)に金庫が?

私はベッドを降り、金庫の前へ移動した。

「殿下の性格からして、ここに『一番大切なもの』を隠しているはずです。ミミ嬢へのプレゼントか、それとも……」

私はダイヤルに手をかけた。

「暗証番号は四桁。……先ほどの執務室の件から推測するに、ミミ嬢関連の数字でしょう」

私は試行を開始した。

『0303(ミミ)』。

ブブーッ。

「違いますか。では、彼女の誕生日」

ブブーッ。

「単純すぎましたか。では、二人が初めて出会った記念日」

ブブーッ。

「……意外とガードが堅いですね」

私は腕を組んだ。

殿下が絶対に忘れない、かつミミ嬢に関連する数字。

「……まさか」

私はある仮説を立て、ダイヤルを回した。

『8888』。

カチャリ。

開いた。

「……やはり。ミミ嬢が口癖のように言っている『パチパチパチ~(拍手)』の語呂合わせですか。セキュリティ意識が低すぎて涙が出ます」

重い扉を開けると、中には宝石でもラブレターでもなく、一冊の黒い革表紙の帳簿が入っていた。

「……ビンゴ」

私は帳簿を取り出し、パラパラとめくった。

その瞬間、私の表情から感情が消え、完全に『監査モード』へと切り替わった。

「……なるほど。これは酷い」

そこには、王家の裏金(機密費)の使い込み記録が、詳細に記されていた。

『×月×日 ミミへのプレゼント代(ドレス) 金貨50枚 ※治水工事費より流用』

『×月×日 ミミとのデート代(遊園地貸切) 金貨100枚 ※孤児院への寄付金より流用』

『×月×日 ミミのご機嫌取り用スイーツ代 金貨10枚 ※研究開発費より流用』

ページをめくるたびに、私のこめかみに青筋が増えていく。

「公的資金の私的流用。使途不明金の隠蔽。そして、福祉予算への着服……」

これは、単なる浪費ではない。

犯罪だ。

しかも、国民の血税を食い物にしている。

「……エドワード殿下。貴方は超えてはいけない一線(ライン)を超えましたね」

私は静かに帳簿を閉じた。

私の心の中で、何かが完全に冷え切った。

これまで、呆れや軽蔑はあっても、どこかで「幼馴染の馬鹿な男」という温情があったかもしれない。

だが、今は違う。

これは「排除すべき害悪」だ。

「……ふふっ」

私は笑った。

楽しくなってきた。

この帳簿があれば、殿下を社会的に抹殺し、二度と再起不能に追い込める。

監禁された?

いいえ、これは『敵の急所(アジト)』に招かれたようなものだ。

「ありがとうございます、殿下。おかげで最高の『暇つぶし』が見つかりました」

私は帳簿を懐にしまい(ドレスの内側には四次元ポケット並みの収納がある)、再び部屋の中を見渡した。

「さて、証拠は確保しました。次は……脱出ルートの確保、ではなく」

私は優雅にソファに腰掛け、紅茶(自分で淹れた)を啜った。

「『お出迎え』の準備をしましょうか」

救助隊が来るのは時間の問題だ。

ギルバート様なら、きっと私の居場所を特定して駆けつけてくる。

その時、この部屋を『断罪の法廷』に変えるための舞台装置(セッティング)が必要だ。

「まずは、この趣味の悪いぬいぐるみをバリケード代わりに……そして、窓の鉄格子は『テコの原理』で外せそうですね……」

悪役令嬢は、転んでもただでは起きない。

起き上がる時は、相手の首根っこを掴んでからだ。

数時間後。

部屋の外から、怒号と剣劇の音が聞こえ始めた。

「そこを退けぇぇぇ!! カロリーナはどこだぁぁぁ!!」

ギルバート様の声だ。

「おや、もう来ましたか。予定より早いですね」

私は眼鏡の位置を直し、手元の帳簿をポンと叩いた。

「さあ、殿下。精算(チェックアウト)の時間ですよ」

扉が爆音と共に吹き飛ぶまで、あと五秒。
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