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「――父上! 聞いてください! こいつらが謀反(むほん)を企てているんです!」
王城の謁見(えっけん)の間。
そこに飛び込んできたのは、泥だらけで息を切らせたエドワード殿下だった。
玉座に座る国王陛下、そして居並ぶ大臣たちが、呆気にとられた表情で殿下を見つめる。
その視線の先には、悠然と佇む私と、その横で剣を帯びたギルバート様。
そして、なぜか特等席でポップコーン(のような菓子)を食べている隣国のヴィクトル皇帝の姿があった。
「謀反だと? エドワードよ、何を言っている」
国王陛下が重々しく口を開く。
殿下は玉座の前に滑り込み、私を指差して叫んだ。
「カロリーナですよ! 彼女が隣国の皇帝と結託して、僕を陥れようとしているんです! しかもギルバートまで誑(たぶら)かして! これは国家反逆罪だ! 今すぐ全員処刑してください!」
殿下の必死の訴えに、ざわめきが広がる。
しかし、私は眉一つ動かさず、優雅に一礼した。
「お久しぶりでございます、国王陛下。……殿下の仰る『謀反』についてですが、定義のすり合わせをさせていただいても?」
「うむ。許す。申してみよ」
「ありがとうございます」
私はスッと立ち上がり、懐からあの一冊の黒い帳簿を取り出した。
「殿下はこれを『謀反』と呼びますが、私の専門用語ではこれを『内部告発(ホイッスル・ブローイング)』と呼びます」
「なっ……!?」
殿下の顔色が、一瞬で土色に変わる。
私は帳簿を高く掲げた。
「陛下。これは殿下が管理されていた『王家特別機密費』および『公共事業予算』の裏帳簿です。離宮の金庫より回収いたしました」
「裏帳簿だと?」
「はい。ここ数ヶ月、城内の予算が枯渇し、給与未払いや設備不良が多発していた原因が、ここに全て記載されております」
私は帳簿を開き、朗々と読み上げ始めた。
「四月五日。項目『北方要塞補修費』。予算金貨三百枚。……全額、王都の宝石店『ルミエール』への支払いに流用。備考:ミミへのバースデープレゼント(特注ダイヤモンド)」
「なっ……!」
騎士団長であるギルバート様の目が吊り上がる。
「要塞の壁が崩れかけていると言ったのは、それが原因か! 兵士たちの命をなんだと思っている!」
「五月十二日。項目『孤児院支援金』。予算金貨五十枚。……全額、洋菓子店への支払いに流用。備考:ミミとの『お菓子の家』建設プロジェクト(食べ残して廃棄)」
「孤児たちのミルク代を……お菓子の家だと……?」
財務大臣がブチ切れてペンをへし折った。
「六月一日。項目『隣国への外交手土産代』。予算金貨百枚。……全額、ミミ嬢のドレス代およびエステ代に消える。備考:やっぱりミミが一番可愛い☆」
「ぶふっ!」
ヴィクトル皇帝が吹き出した。
「なるほど、それで条約書を燃やしたわけか。金がないから手土産も用意できず、証拠隠滅を図ったと。……傑作だな」
会場の空気は、急速に冷え込んでいく。
呆れを通り越し、明確な殺気が殿下に向けられ始めていた。
「ち、違うんだ父上! これはその、必要経費で……! 未来の王妃への投資というか……!」
殿下は必死に言い訳をするが、国王陛下の視線は氷点下だ。
「投資? 国民の税金で『お菓子の家』を作ることがか?」
「そ、それは……ミミが喜ぶと国民も喜ぶかなって……」
「黙れ愚か者!!」
国王陛下の怒号が轟いた。
「お前の『愛』とやらには、一片の責任感もないのか! 私利私欲のために国庫を食い荒らすなど、王族として……いや、人として恥を知れ!」
「ひぃぃぃ!!」
殿下は床にひれ伏した。
しかし、私はまだ攻撃の手を緩めない。
「陛下。不正はこれだけではありません。この帳簿には、さらに重大な『横領』の証拠が記されています」
「まだあるのか?」
「はい。こちらをご覧ください」
私は最後のページを開いた。
そこには、驚くべき金額と、信じられない名目が記されていた。
『七月七日。ミミ男爵令嬢の実家の借金肩代わり。金貨五千枚。……原資:国立銀行の準備金より無断引き出し』
「ご、五千枚……!?」
会場が静まり返る。
それは、小国の国家予算にも匹敵する金額だ。
「銀行の準備金に手を出しただと……? それでは国の信用経済が崩壊するぞ!」
「なんと恐ろしいことを……!」
大臣たちが顔面蒼白になる中、私は冷ややかに殿下を見下ろした。
「殿下。この金貨五千枚、本当に借金返済に使われたのですか?」
「あ、当たり前だろ! ミミが『悪い人に追われてるの』って泣くから……!」
「そうですか。では、なぜ男爵家の借金取り立てが止まらないのでしょう?」
「え?」
私は一枚の報告書を取り出した。
「調査したところ、ミミ嬢の実家の借金は、まだ一銭も返済されていませんでした」
「は……?」
「つまり、貴方が横領して渡した金貨五千枚は、どこか別の場所に消えたということです」
「ど、どういうことだ!? 僕は確かにミミに渡したんだぞ! 『これで全部返してくる』って……!」
殿下の顔に、疑惑の色が浮かぶ。
私は眼鏡を押し上げた。
「殿下。貴方は『愛』という名のフィルターで目が曇っていたようですが……そろそろ現実(数字)を見る時です」
私は扉の方を指差した。
「その答えは、彼女が持っているはずです」
タイミングを見計らったように、扉が開いた。
そこには、衛兵に両脇を抱えられ、暴れているミミ嬢の姿があった。
「放してぇ! ミミは聖女なのよぉ! エドワード様ぁ、助けてぇ!」
彼女の手には、パンパンに膨らんだ大きなトランクが握りしめられていた。
「ミミ……?」
殿下が呆然と呟く。
私は冷酷に告げた。
「彼女は先ほど、国外逃亡しようとしていたところを拘束されました。そのトランクの中身……確認してもよろしいですね?」
「い、嫌ぁ! 見ないでぇ!」
衛兵がトランクを無理やりこじ開ける。
ガシャラララ……!
中から溢れ出したのは、目が眩むような金貨の山と、宝石の数々だった。
「……金貨五千枚、全額回収です」
私は殿下に微笑みかけた。
「残念でしたね、殿下。貴方の『真実の愛』の値段は、このトランク一個分だったようです」
「そ、そんな……嘘だ……嘘だろ、ミミ……」
殿下は崩れ落ちた。
愛とお金と、そして信用。
全てを失った王太子の姿は、哀れと呼ぶにはあまりにも滑稽だった。
「さあ、最終決算(グランド・フィナーレ)の時間です」
私は帳簿を閉じ、パタンと音を立てた。
「この罪、きっちりと償っていただきましょう。――利子をつけてね」
王城の謁見(えっけん)の間。
そこに飛び込んできたのは、泥だらけで息を切らせたエドワード殿下だった。
玉座に座る国王陛下、そして居並ぶ大臣たちが、呆気にとられた表情で殿下を見つめる。
その視線の先には、悠然と佇む私と、その横で剣を帯びたギルバート様。
そして、なぜか特等席でポップコーン(のような菓子)を食べている隣国のヴィクトル皇帝の姿があった。
「謀反だと? エドワードよ、何を言っている」
国王陛下が重々しく口を開く。
殿下は玉座の前に滑り込み、私を指差して叫んだ。
「カロリーナですよ! 彼女が隣国の皇帝と結託して、僕を陥れようとしているんです! しかもギルバートまで誑(たぶら)かして! これは国家反逆罪だ! 今すぐ全員処刑してください!」
殿下の必死の訴えに、ざわめきが広がる。
しかし、私は眉一つ動かさず、優雅に一礼した。
「お久しぶりでございます、国王陛下。……殿下の仰る『謀反』についてですが、定義のすり合わせをさせていただいても?」
「うむ。許す。申してみよ」
「ありがとうございます」
私はスッと立ち上がり、懐からあの一冊の黒い帳簿を取り出した。
「殿下はこれを『謀反』と呼びますが、私の専門用語ではこれを『内部告発(ホイッスル・ブローイング)』と呼びます」
「なっ……!?」
殿下の顔色が、一瞬で土色に変わる。
私は帳簿を高く掲げた。
「陛下。これは殿下が管理されていた『王家特別機密費』および『公共事業予算』の裏帳簿です。離宮の金庫より回収いたしました」
「裏帳簿だと?」
「はい。ここ数ヶ月、城内の予算が枯渇し、給与未払いや設備不良が多発していた原因が、ここに全て記載されております」
私は帳簿を開き、朗々と読み上げ始めた。
「四月五日。項目『北方要塞補修費』。予算金貨三百枚。……全額、王都の宝石店『ルミエール』への支払いに流用。備考:ミミへのバースデープレゼント(特注ダイヤモンド)」
「なっ……!」
騎士団長であるギルバート様の目が吊り上がる。
「要塞の壁が崩れかけていると言ったのは、それが原因か! 兵士たちの命をなんだと思っている!」
「五月十二日。項目『孤児院支援金』。予算金貨五十枚。……全額、洋菓子店への支払いに流用。備考:ミミとの『お菓子の家』建設プロジェクト(食べ残して廃棄)」
「孤児たちのミルク代を……お菓子の家だと……?」
財務大臣がブチ切れてペンをへし折った。
「六月一日。項目『隣国への外交手土産代』。予算金貨百枚。……全額、ミミ嬢のドレス代およびエステ代に消える。備考:やっぱりミミが一番可愛い☆」
「ぶふっ!」
ヴィクトル皇帝が吹き出した。
「なるほど、それで条約書を燃やしたわけか。金がないから手土産も用意できず、証拠隠滅を図ったと。……傑作だな」
会場の空気は、急速に冷え込んでいく。
呆れを通り越し、明確な殺気が殿下に向けられ始めていた。
「ち、違うんだ父上! これはその、必要経費で……! 未来の王妃への投資というか……!」
殿下は必死に言い訳をするが、国王陛下の視線は氷点下だ。
「投資? 国民の税金で『お菓子の家』を作ることがか?」
「そ、それは……ミミが喜ぶと国民も喜ぶかなって……」
「黙れ愚か者!!」
国王陛下の怒号が轟いた。
「お前の『愛』とやらには、一片の責任感もないのか! 私利私欲のために国庫を食い荒らすなど、王族として……いや、人として恥を知れ!」
「ひぃぃぃ!!」
殿下は床にひれ伏した。
しかし、私はまだ攻撃の手を緩めない。
「陛下。不正はこれだけではありません。この帳簿には、さらに重大な『横領』の証拠が記されています」
「まだあるのか?」
「はい。こちらをご覧ください」
私は最後のページを開いた。
そこには、驚くべき金額と、信じられない名目が記されていた。
『七月七日。ミミ男爵令嬢の実家の借金肩代わり。金貨五千枚。……原資:国立銀行の準備金より無断引き出し』
「ご、五千枚……!?」
会場が静まり返る。
それは、小国の国家予算にも匹敵する金額だ。
「銀行の準備金に手を出しただと……? それでは国の信用経済が崩壊するぞ!」
「なんと恐ろしいことを……!」
大臣たちが顔面蒼白になる中、私は冷ややかに殿下を見下ろした。
「殿下。この金貨五千枚、本当に借金返済に使われたのですか?」
「あ、当たり前だろ! ミミが『悪い人に追われてるの』って泣くから……!」
「そうですか。では、なぜ男爵家の借金取り立てが止まらないのでしょう?」
「え?」
私は一枚の報告書を取り出した。
「調査したところ、ミミ嬢の実家の借金は、まだ一銭も返済されていませんでした」
「は……?」
「つまり、貴方が横領して渡した金貨五千枚は、どこか別の場所に消えたということです」
「ど、どういうことだ!? 僕は確かにミミに渡したんだぞ! 『これで全部返してくる』って……!」
殿下の顔に、疑惑の色が浮かぶ。
私は眼鏡を押し上げた。
「殿下。貴方は『愛』という名のフィルターで目が曇っていたようですが……そろそろ現実(数字)を見る時です」
私は扉の方を指差した。
「その答えは、彼女が持っているはずです」
タイミングを見計らったように、扉が開いた。
そこには、衛兵に両脇を抱えられ、暴れているミミ嬢の姿があった。
「放してぇ! ミミは聖女なのよぉ! エドワード様ぁ、助けてぇ!」
彼女の手には、パンパンに膨らんだ大きなトランクが握りしめられていた。
「ミミ……?」
殿下が呆然と呟く。
私は冷酷に告げた。
「彼女は先ほど、国外逃亡しようとしていたところを拘束されました。そのトランクの中身……確認してもよろしいですね?」
「い、嫌ぁ! 見ないでぇ!」
衛兵がトランクを無理やりこじ開ける。
ガシャラララ……!
中から溢れ出したのは、目が眩むような金貨の山と、宝石の数々だった。
「……金貨五千枚、全額回収です」
私は殿下に微笑みかけた。
「残念でしたね、殿下。貴方の『真実の愛』の値段は、このトランク一個分だったようです」
「そ、そんな……嘘だ……嘘だろ、ミミ……」
殿下は崩れ落ちた。
愛とお金と、そして信用。
全てを失った王太子の姿は、哀れと呼ぶにはあまりにも滑稽だった。
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