女王蜂

宮成 亜枇

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おまけのSS

とある家族のひととき

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 珍しく、鷲尾が定時で仕事を切り上げてきた日。
「きゃーっ! パパーっ!!」
「うわっ! ……爽太っ! 頼むから飛びつくなって言ってるだろ?」
「あっ! ……ゴメン……、しゃい」
 リビングに入ってきた父親に、嬉しくて飛びついた爽太は、怒られたことにシュン、となって謝罪する。
「ん、ちゃんと謝れたな。偉いぞ。……次からはしないようにな?」
 謝ることのできた爽太を褒めて、鷲尾は注意する。……と、言っても所詮子供。また、同じ事を繰り返すのは目に見えてるが。
「あははっ! 爽太はパパと一緒が嬉しいんだよねぇ♪」
「うんっ! えっと、ね。んっ、とー。……ちゃくや!」
「ん?」
「ちゃくやもいっちょ!!」
「ああ……」
 爽太の言葉に、鷲尾は視線を佐々木に送る。受け止めた彼は、苦笑を見せるばかり。
「まだ、ダメみたいよ?」
 受けた鷲尾も彼に苦笑を返し、
「爽太。ママの所行って騒がないって、約束できるか?」
 子供に告げる。騒がないは無理だと思うが、一応。
「うんっ!」
 爽太はすぐに答える。
「わかった。じゃあ……、いくか」
 どこにいるかはわかっている。状況的に辛いだろうが、会いたがってる子供をこのままって言うのも忍びない。そう思い、鷲尾は爽太と一緒にリビングを出た。

「朔夜、ただいまぁ……」
 向かった先は、寝室。寝てるかもしれない、と思って、小声で。しかし。
「あ。……おかえり。……ゴメン、こんな」
 入江は、横になっていただけで目は覚めていたようだ。
「いいって。やっぱり辛い?」
「あ、うん。……でも、休んでれば大丈夫。爽太の時ほどじゃないよ」
 はは……、と苦笑を見せながら、無理矢理起き上がろうとする入江を「あ、そのままでいいっ!顔見たかっただけだから」と、すぐに告げ、爽太と二人で側に向かう。
 二人目を身ごもった入江は、こんな調子が続いている。本人が言うように、爽太がおなかにいたときには悪阻が酷く、入院までしたほど。そこから比べるとマシではあるが、それでも顔色が悪いことには変わりない、起き上がった途端に貧血でも起こされたら、こっちの心の方が持たない。
 個人差はあるが。いくら産むことができるからとは言え、男性であることには変わりがない。そのため、どうしても無理が生じるらしく、悪阻は、男性オメガの方が症状が強く出るようだ、と、入江自身が語っていた。
「ちゃくやぁ……」
「ふはっ。ごめんね。爽太」
「んーんー。だーじょーぶぅ……」
『大丈夫』と言っても。爽太が寂しそうであることには変わりない
「とにかく、早く動けるようにならないとね……」
「ん?」
「うん……。爽太や家の事、仕事のこともあるんだけどさ……。蒼くんにね、こんな姿、見せられないじゃん……」
 ポソポソと呟く入江に、鷲尾はああ、と納得がいった。

『なあ、もういいじゃん。俺、子供欲しいんだよ』
『はぁ?何言ってんの? 大変な思いするのオレなんだし、いらねーわっ。どうしても欲しかったら、養子でも何でも連れてくれば?』
『違うって! 俺はお前との子供が欲しいんだよっ!!』
『だからぁ。オレは辛いのも苦しいのも嫌なんだよ。それに、まともに育てられてないから、いざ産まれたって子育てなんてまともにできるわけないし。それだと無責任にも程がある。少し考えたらわかるだろっ、このバカっ!!』
 つい先日も、ここで痴話ゲンカを繰り返していた二人が目に浮かぶ。事あるごとによくもまあ、そんなに言い争うことができるな、と今では感心するくらいだが。
「でもさ、いざ生まれたら蒼くんの方が子煩悩になりそうな気がするけどね」
 鷲尾は、ふと。思ったことを口にする。
「そこ、なんだよねー」
 入江も同じ事を思ったようで。
「なんかさ、子供に蒼くん取られた! って、秀くんの方が大騒ぎしそうな気がするんだよねぇ」
 と言って、クスクス笑う。それに、爽太も一緒に笑い出す。意味はわからないが、『ママ』が笑っているのが嬉しかったようだ。
「ま。辛い苦しいは確かに多いんだけど」
 ふんわりと、入江は笑みを浮かべて。
「楽しいことや嬉しいことも多いから、……ね?」
「ああ。そうだな」
 入江の悪阻が終わり。少しでも早く、古城に子供がいることの楽しさ、喜びを伝えられたらと。
 
 そんなことを思い。鷲尾は、愛しき人と息子の頬に、優しくキスを落とした。
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