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過ぎ行く秋
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それからは、月に何回か会う度に、二人はキスをしたり抱き合ったりするようになった。最初はぎこちなかったさゆも、タキのぬくもりや優しさに触れて、タキの腕の中で段々と安心した表情を浮かべるようになっていった。
そして、二〇十九年十一月がやって来た。
秋の気配が色濃くなってゆく中でさゆは、吉祥寺での大規模な数日間のイベントを終えて、タキと新宿で休みを満喫した。都庁の無料展望台に上り、今まで二人で行った池袋、六本木、上野などの名所を眺めて、出会って一年の思い出を語った。二人で語れる思い出が沢山ある事が、なによりさゆは嬉しかった。
(いままでこんな事なかったなあ)
夢中で外を眺めていたら、タキがゆるく後ろからさゆを抱き締めた。
(わわわわは、はずかしい)
「タ、タキ………」
「ふふ。見て、中野サンプラザもみえるよ」
十代でも無いのに、バカップルに見えたらどうしようと気が気ではなかったけれど、振り返ったタキがあまりに幸せそうな顔をしているので、さゆは何も言えなくなった。喫茶店でコーヒーを飲み、初めて作ったロカボクッキーを手渡すとタキは嬉しそうに礼を言った。ピアノのゆったりとした演奏が響いていた。
その後は、二人手を繋いで新宿の街を散策した。ミロード、ルミネ、小田急で雑貨を見て回る。タワーレコードと紀伊国屋でCDや本も見ると、新宿のあまりの狂騒にさゆは眼が回りそうだった。
「ちょっと、どこか静かなところに行こうか」
さゆが自分に寄り掛かり気味になったのを見かねて、タキは辺りを見回した。
「あ」
ちょうどカラオケ店の大きな看板が眼に入った。
「さゆ、カラオケとか大丈夫?」
「えと、学生時代になら行った事ある………」
「俺も、年に数回会社の人と行くくらいかな」
少し迷ったけれど、二人とも歩き過ぎて足が棒だ。受付で良く分からないままに勧められた機種を選択し、平日という事もあって広めの部屋に通された。ドリンクバーを付けたので、タキはさゆにホットウーロン茶を持って来てくれた。
「あ、ありがとう……」
ゆっくりちびちび飲むと、温かさが染み渡って一息つけた。
「さゆ、見て。壁に星座が書いてある」
壁を軽く触りながら、タキが感心したように言う。
(ち、近い………)
アイスコーヒーを持ちながら振り返ったタキがあまりに近くて、さゆは今更ながらドキドキした。気付けば密室にふたりきりだ。
「大丈夫?気分悪い?」
タキが心配するので、さゆはぶんぶん首を振った。タキがディズニーの曲があるのを見つけ、BGM代わりに音量を控えめにしてかけてくれる。カラオケが流れると星座がキラキラ瞬いて、夢の世界にいるようだった。時々言葉を交わしながら、さゆはタキに寄り掛かってうつらうつらしながらしばらく休んだ。メロンソーダにオレンジジュースと二杯もおかわりした頃には、大分疲れも取れ、礼を言ってタキから離れようとした。
が。
「いいよ。もう少しこのままでいよう」
タキはコーンポタージュを飲みながらさゆの頭を引き寄せ、ゆっくり髪を撫でた。さゆの髪に吸い付くようなキスをした後、「しあわせ」とつぶやいた。
薄暗いカラオケBOXの部屋で、二人しばらく寄り添っていると、タキが「嫌だったら言って」と顔を寄せて来た。さゆが眼を閉じると、やわらかいタキの唇が触れた。しばらく唇を重ねた後、熱い、うねうねした何かが口の中に入って来て、さゆの歯列をゆっくり撫でた。さゆがキツく瞳を閉じると、それは器用に歯列を開いて、さゆの舌に絡んで来た。
「んんんんんんっ!!」
深すぎるキスにびっくりして、声を上げながら両手でタキの胸を突っ張ると、タキは慌ててキスを止めた。
「ごめん、ごめんね!歯止めが効かなくなっちゃって……ホントにごめんね」
タキはさゆの頭を抱き込んで何度もごめんと謝りながら、また髪を撫でた。さゆはタキの腕の中で震えながらかぶりを振った。
「大丈夫……嫌じゃないんだけど……ちょっと……怖かっただけ」
普段は穏やかなタキの欲望を見せ付けられるのは恐怖だった。
(でも、本当はそんなの、あって「当たり前」なんだよね)
タキは男で、自分達は付き合っていて、ずっと軽いキス止まりなんて、きっとおかしい。
(わたし、いつまで自分勝手に怖がってるんだろうな)
「わたしこそ、ごめんね、タキ」
「さゆは何にも悪くないから。正直、こういう身体の触れ合いが出来ると、俺はすごく嬉しいけど、でも、それが目的でさゆと付き合ってるわけじゃないから。自分の事責めないで、ね?」
僅かに強めの語調でそう言うと、タキは腕に込める力を強めた。さゆは身体の力が抜けて、また、タキの胸を涙で濡らした。
しばらくそうして抱き合うと、さゆは落ち着きを取り戻し、やがてタキに向き合って微笑んだ。もう一度だけ軽いキスを交わすと、手を繋いで店を出た。
「………さゆ、今度、熱海に行こう?冬に」
新宿駅で別れる際、タキがいきなりそう言い出した。
「う、うん」
「俺、レンタカー借りるよ。美術館とか温泉行って、ゆっくりしよう?」
さゆは一も二も無く頷いた。そのまま「また、次会った時に計画立てよう」と手を振って別れた。
別れて、中央線に乗って、さゆはふと気付いて息を止めた。
(熱海って……)
それはもしや。
(泊まり………!?)
タキの舌の感触が蘇った。
そして、二〇十九年十一月がやって来た。
秋の気配が色濃くなってゆく中でさゆは、吉祥寺での大規模な数日間のイベントを終えて、タキと新宿で休みを満喫した。都庁の無料展望台に上り、今まで二人で行った池袋、六本木、上野などの名所を眺めて、出会って一年の思い出を語った。二人で語れる思い出が沢山ある事が、なによりさゆは嬉しかった。
(いままでこんな事なかったなあ)
夢中で外を眺めていたら、タキがゆるく後ろからさゆを抱き締めた。
(わわわわは、はずかしい)
「タ、タキ………」
「ふふ。見て、中野サンプラザもみえるよ」
十代でも無いのに、バカップルに見えたらどうしようと気が気ではなかったけれど、振り返ったタキがあまりに幸せそうな顔をしているので、さゆは何も言えなくなった。喫茶店でコーヒーを飲み、初めて作ったロカボクッキーを手渡すとタキは嬉しそうに礼を言った。ピアノのゆったりとした演奏が響いていた。
その後は、二人手を繋いで新宿の街を散策した。ミロード、ルミネ、小田急で雑貨を見て回る。タワーレコードと紀伊国屋でCDや本も見ると、新宿のあまりの狂騒にさゆは眼が回りそうだった。
「ちょっと、どこか静かなところに行こうか」
さゆが自分に寄り掛かり気味になったのを見かねて、タキは辺りを見回した。
「あ」
ちょうどカラオケ店の大きな看板が眼に入った。
「さゆ、カラオケとか大丈夫?」
「えと、学生時代になら行った事ある………」
「俺も、年に数回会社の人と行くくらいかな」
少し迷ったけれど、二人とも歩き過ぎて足が棒だ。受付で良く分からないままに勧められた機種を選択し、平日という事もあって広めの部屋に通された。ドリンクバーを付けたので、タキはさゆにホットウーロン茶を持って来てくれた。
「あ、ありがとう……」
ゆっくりちびちび飲むと、温かさが染み渡って一息つけた。
「さゆ、見て。壁に星座が書いてある」
壁を軽く触りながら、タキが感心したように言う。
(ち、近い………)
アイスコーヒーを持ちながら振り返ったタキがあまりに近くて、さゆは今更ながらドキドキした。気付けば密室にふたりきりだ。
「大丈夫?気分悪い?」
タキが心配するので、さゆはぶんぶん首を振った。タキがディズニーの曲があるのを見つけ、BGM代わりに音量を控えめにしてかけてくれる。カラオケが流れると星座がキラキラ瞬いて、夢の世界にいるようだった。時々言葉を交わしながら、さゆはタキに寄り掛かってうつらうつらしながらしばらく休んだ。メロンソーダにオレンジジュースと二杯もおかわりした頃には、大分疲れも取れ、礼を言ってタキから離れようとした。
が。
「いいよ。もう少しこのままでいよう」
タキはコーンポタージュを飲みながらさゆの頭を引き寄せ、ゆっくり髪を撫でた。さゆの髪に吸い付くようなキスをした後、「しあわせ」とつぶやいた。
薄暗いカラオケBOXの部屋で、二人しばらく寄り添っていると、タキが「嫌だったら言って」と顔を寄せて来た。さゆが眼を閉じると、やわらかいタキの唇が触れた。しばらく唇を重ねた後、熱い、うねうねした何かが口の中に入って来て、さゆの歯列をゆっくり撫でた。さゆがキツく瞳を閉じると、それは器用に歯列を開いて、さゆの舌に絡んで来た。
「んんんんんんっ!!」
深すぎるキスにびっくりして、声を上げながら両手でタキの胸を突っ張ると、タキは慌ててキスを止めた。
「ごめん、ごめんね!歯止めが効かなくなっちゃって……ホントにごめんね」
タキはさゆの頭を抱き込んで何度もごめんと謝りながら、また髪を撫でた。さゆはタキの腕の中で震えながらかぶりを振った。
「大丈夫……嫌じゃないんだけど……ちょっと……怖かっただけ」
普段は穏やかなタキの欲望を見せ付けられるのは恐怖だった。
(でも、本当はそんなの、あって「当たり前」なんだよね)
タキは男で、自分達は付き合っていて、ずっと軽いキス止まりなんて、きっとおかしい。
(わたし、いつまで自分勝手に怖がってるんだろうな)
「わたしこそ、ごめんね、タキ」
「さゆは何にも悪くないから。正直、こういう身体の触れ合いが出来ると、俺はすごく嬉しいけど、でも、それが目的でさゆと付き合ってるわけじゃないから。自分の事責めないで、ね?」
僅かに強めの語調でそう言うと、タキは腕に込める力を強めた。さゆは身体の力が抜けて、また、タキの胸を涙で濡らした。
しばらくそうして抱き合うと、さゆは落ち着きを取り戻し、やがてタキに向き合って微笑んだ。もう一度だけ軽いキスを交わすと、手を繋いで店を出た。
「………さゆ、今度、熱海に行こう?冬に」
新宿駅で別れる際、タキがいきなりそう言い出した。
「う、うん」
「俺、レンタカー借りるよ。美術館とか温泉行って、ゆっくりしよう?」
さゆは一も二も無く頷いた。そのまま「また、次会った時に計画立てよう」と手を振って別れた。
別れて、中央線に乗って、さゆはふと気付いて息を止めた。
(熱海って……)
それはもしや。
(泊まり………!?)
タキの舌の感触が蘇った。
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