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永遠の絶望を描いて
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そのニュースに映し出された二人を、さゆは良く、本当に良く知っていた。
数え切れない程の憎しみと、ほんの一匙の思慕と共に。
「・・・お母さん・・・・お父さん・・・・・」
さゆは力なくソファに崩れ落ちた。タキがさゆを支えながらニュースに眼をやる。容疑は詐欺と窃盗など。さゆを利用出来なかった事で、金に困って詐欺グループに所属したのか。押収された物品が最後にちらりと映り、その端の方に、昔さゆが使っていたキャリーケースとカメラとおぼしきものがあった。
不意にさゆが、声を上げて泣き出した。何が悲しいのかも分からない。親の逮捕が悲しいのか、そのせいでまた被るだろう迷惑が悲しいのか、こんな人生しかないのが悲しいのか。タキはさゆを抱き締めながら、これからに思案を巡らす。
この逮捕が、また二人の運命を大きく狂わせてゆく。そんな予感がしていた。
ルークが、スリングの中で寝息を立てている。時々、ゴロゴロいっているのに気付いて、さゆはふっと、微笑んだ。以前より少し狭くなった二階の部屋の、日当たりの良い窓から、隣家の満開の桜が見えた。
「新しい部屋には慣れた、さゆ?」
朝食の目玉焼きをテーブルに置きながら、タキが語りかけた。
「うん、桜が見えるって素敵」
「前より鎌倉駅から大分遠くなったけど、ここら辺も閑静で良いよね」
「うん」
テーブルに座りながらさゆは答える。両親の逮捕から半年以上が経ち、それでもさゆは一人だと上手く外出出来ない事がままある。仕事はタキと共同で古本屋をなんとか続けている。さゆには両親の件では結局どこからも何も連絡は無く、上辺は平穏な日々を取り戻していた。裁判の傍聴は、悩んだ末に控えた。タキを知っている者がいる可能性もあるし、犯罪組織に顔を覚えられると大変だ。
結局借金もまだあるけれど、どうにかこうにか二人と一匹で暮らしている。
「タキ、卵焼くのも器用だね。半熟で美味しい」
「ふふ。昨日のさゆのうどんも美味しかったよ。たけのこが入っててさ」
「この前、外に出られた時に買ったんだ。あれ、れんばいで安かったし。ねえ、今日はずっと家にいても良い?」
「勿論」
桜がハラハラと散る中で二人、他愛ない会話を交わした。こんな時さゆは、タキが好きだなと感じる。それでももう何も、どうしようもなく、この人生は救われないけれど。自分はもう、その救われなさと、その奥底の、あるかも分からないような光を、それでも描いてゆくしかないのだ、と今は思う。
何色かの絵の具をパレットに広げる。もう何枚目かになるのか分からない桜を絵を描く為に、さゆはまた、絵筆を手に取った。
数え切れない程の憎しみと、ほんの一匙の思慕と共に。
「・・・お母さん・・・・お父さん・・・・・」
さゆは力なくソファに崩れ落ちた。タキがさゆを支えながらニュースに眼をやる。容疑は詐欺と窃盗など。さゆを利用出来なかった事で、金に困って詐欺グループに所属したのか。押収された物品が最後にちらりと映り、その端の方に、昔さゆが使っていたキャリーケースとカメラとおぼしきものがあった。
不意にさゆが、声を上げて泣き出した。何が悲しいのかも分からない。親の逮捕が悲しいのか、そのせいでまた被るだろう迷惑が悲しいのか、こんな人生しかないのが悲しいのか。タキはさゆを抱き締めながら、これからに思案を巡らす。
この逮捕が、また二人の運命を大きく狂わせてゆく。そんな予感がしていた。
ルークが、スリングの中で寝息を立てている。時々、ゴロゴロいっているのに気付いて、さゆはふっと、微笑んだ。以前より少し狭くなった二階の部屋の、日当たりの良い窓から、隣家の満開の桜が見えた。
「新しい部屋には慣れた、さゆ?」
朝食の目玉焼きをテーブルに置きながら、タキが語りかけた。
「うん、桜が見えるって素敵」
「前より鎌倉駅から大分遠くなったけど、ここら辺も閑静で良いよね」
「うん」
テーブルに座りながらさゆは答える。両親の逮捕から半年以上が経ち、それでもさゆは一人だと上手く外出出来ない事がままある。仕事はタキと共同で古本屋をなんとか続けている。さゆには両親の件では結局どこからも何も連絡は無く、上辺は平穏な日々を取り戻していた。裁判の傍聴は、悩んだ末に控えた。タキを知っている者がいる可能性もあるし、犯罪組織に顔を覚えられると大変だ。
結局借金もまだあるけれど、どうにかこうにか二人と一匹で暮らしている。
「タキ、卵焼くのも器用だね。半熟で美味しい」
「ふふ。昨日のさゆのうどんも美味しかったよ。たけのこが入っててさ」
「この前、外に出られた時に買ったんだ。あれ、れんばいで安かったし。ねえ、今日はずっと家にいても良い?」
「勿論」
桜がハラハラと散る中で二人、他愛ない会話を交わした。こんな時さゆは、タキが好きだなと感じる。それでももう何も、どうしようもなく、この人生は救われないけれど。自分はもう、その救われなさと、その奥底の、あるかも分からないような光を、それでも描いてゆくしかないのだ、と今は思う。
何色かの絵の具をパレットに広げる。もう何枚目かになるのか分からない桜を絵を描く為に、さゆはまた、絵筆を手に取った。
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